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ログアウトブレイバーズ  作者: 阿古しのぶ
エピソード4
100/128

100.終わりの始まり


 ※



 俺は原っぱに立っていた。途方も無く広くて、周りには丈の高い金色の草が生えていて、それがとっても柔らかくて、輝いていた。気持ちの休まる光と、風も無いのに草は揺れていて、不思議な場所。

 初めて見たはずなのに、何処か懐かしい安らぎの感覚もあった。


 目の前に長い白髪の美しい女性が現れ、語りかけてくる。


[――知りたいですか――]


「なにを?」


[――それがどんな不幸だとしても、貴方は知りたいですか――]


「この戦いを終わらせる方法を知ってるのか?」


[――理から外れし者よ――いずれ――絆で結ばれた貴方達は、私と相見える事でしょう――]


(まさかキミが現れるとはね。なるほど。ならば我らはきっと巡り会う)


 こんな事を聞いた事がある。

 人は命に関わるショックを受けた時、痛みを感じなくさせるために脳内麻薬を分泌する。昏睡状態に入る際も作用し、それが出た状態で見える幻覚があると。



 ※



『三途の川は見えたかい』

 と、下村(しもむら)レイは聞いてきた。


「いや、無かった気がする」

『真面目に答えるなよ。冗談さ』

「おい」

『ふふ。やはりそっちも、あの結界を見つけたんだね』

「そっちも?」

『ジーさんが巻き込まれ……正当防衛だったらしいよ』

「そうなるよな。こっちも襲われた。あいつらは俺の事をキングと言っていたけど……訳が分からない」

『ジーさんはナイトと言われたらしい。ポイントが美味いとも』

「ポイント?」

『キミも含め、キミが召喚したブレイバーは、軒並みゲームでは賞金首になっているのではないかな』

「賞金首って……何の為に?」

『この場合、特別な力を持ったキミたちを、あわよくば始末する為と考えられるよね」

「とにかく、俺はブレイバー達に人を殺めて欲しくない」

『だから国外へ逃げたと? 国外でもプロジェクトゼノビアのプレイヤーは確認されてる』

「問題はそれだけじゃないんだ。日本は狭すぎる」

『そうゆうことね。それで、今何処に?』

「それは……」



 二〇三五年十二月。

 アメリカ合衆国ミシガン州クロスビレッジ。


 ミシガン州は、アメリカ中西部に位置する州。五大湖地域に含まれる。州の北と東はスペリオル湖・ヒューロン湖を挟んでカナダ国境に接し、西はミシガン湖越しにウィスコンシン州に、南はインディアナ州とオハイオ州に接している。

 美しい湖畔、深い森林、驚異的な崖、砂丘が至る所にある大自然に恵まれたミシガン州には、さまざまな個性を持つ複数の都市があり、自動車産業で栄えた州だ。


 異なる文化、異なる言葉、見た事もない景色。このアメリカという地は、俺にとって非日常に溢れていた。

 日本を出てからもう四つ目の州になるけど、ここまで受けたカルチャーショックは計り知れない。


 季節は冬。日本とは比べ物にならない厳しい寒さと、真っ白に染まった街並みや自然がそこにあった。

 俺とサイカは、何重にも重ねた防寒着で寒さを和らげながら、白い息を口から吐いて、目的地に向かっていた。


 繁華街から外れ、人気の無い通りをひたすら真っ直ぐ進む。闇夜と降り続ける雪の中、浮かぶ僅かな外灯の明かりを頼りに、その足を進めた。

 手足の指先は感覚が無く、いったいどれほど歩けば目的地が見えてくるのだろうと心配にもなる。何処かで休むべきなんだろうけど、隣を歩くサイカに話し掛ける余裕も無い。


 すると、前方から歩いてくる人影が見えた。


 体格からして男。フェイスマスクの隙間から見える青い眼は、俺の方を見ている。手にはスマートフォン。

 ここ数ヶ月の間に、何度も経験してしまったせいか、俺はこの男がZプレイヤーである事はすぐに分かってしまった。


 俺は足を止めて、横にいるサイカに声を掛ける。


「サイカ、頼む」

「分かった」


 サイカは防寒着のまま、右手にキクイチモンジを召喚する。

 それと同時、目の前の男のスマートフォンが光り、周囲に結界が展開された。俺達はこれを、ゲームフィールドと呼ぶ様にしている。


 分かっている事は、このゲームフィールドは、彼らにとっての対戦方法。この中でしか変身する事は出来ず、ここでの戦闘は、最終的には無かったことになる。

 Zプレイヤーがこの中で殺されると、人間としても消滅。勝てば相手の強さに応じたポイントが貰え、逆に敗北を認め降参をするとポイントが減るらしい。


 そして俺やサイカは、かなりのポイントが貰える様で、血眼になって俺達を探してるZプレイヤーも少なくない。

 今、このプロジェクトゼノビアについて分かっている事はこのくらいだ。



 ※――※――※――※――※



 ゲームフィールドが展開されると、戦闘を仕掛けて来たまずZプレイヤーの容姿が変化する。

 それこそ特撮ヒーローの変身シーンでも見てるかの様に、男はブレイバーへと変身。


 赤いローブでフードを被った姿になり、それは魔法使い系のブレイバーに見える。

 そしてどんな能力を使ってくるのかと思えば、半透明で青白く、細長く腕の長い守護霊の様な何かを召喚。鎧の様なモノを身に付けていて、腕だけじゃ無く指も異常に長い。いや、むしろ、指なのか爪なのか判断できない。


 彼は今まで見た事のない能力使いだった。


 赤ローブの男が、俺の方を指差すと、青白守護霊は動いた。

 サイカが前に走り迎撃。夜中の降雪の中、防寒着の少女は刀を片手に幽霊と戦っている。そんな構図だ。


 あの俺が学校で初めてZプレイヤーと遭遇して以来、ここに至るまで、幾度と無く彼らに襲われる機会があった。

 その過程で分かったのは、彼らZプレイヤーには何かしら叶えたい願いがあって、選ばれて戦士となった人間達。その能力はプロジェクトゼノビアというアプリによって与えられ、強さや戦闘能力に個人差がある。

 課金システムもある様で、課金アイテムで装備の効果や様々な加護が受けられる様になってる様だ。


 そして一番厄介なのは、あのゲームでは俺達が倒すべき標的とされてしまってるということ。


 何度か守護霊と交差したサイカは、夢世界スキル《分身の術》を用いて、三人のサイカが守護霊に斬り掛かる。

 サイカが分身を使うとなると、守護霊はそれほどの手練れなのだろう。


 赤ローブの男は課金アイテムを使用して、守護霊を強化する事で対抗して来た。

 三人のサイカが苦戦する中、赤ローブの男が次の手に出てくる。ローブの中から取り出したのはハンドガン。その銃口を俺に向け、遠距離から発砲して来た。


 銃弾が俺の足元に続け様に着弾、雪の絨毯に穴が空いた。赤ローブの男と俺の距離は、ハンドガンの射程距離では無い。

 赤ローブの男がハンドガンの弾倉を空にした時、彼の背後に四人目のサイカが現れる。夢世界スキル《ハイディング》で透明化したサイカは、悟られぬ様に回り込んで背後を取っていた。


 サイカに背後からハンドレールガンを突き付けられ、男は両手を挙げる。

 それを見て、男に向けてサイカは一言。


「You are beaten. Give in(君の負けだ、降参しろ)」

「Screw it !!(ちくしょー!)」


 赤ローブの男がスマホを取り出し操作をすると、ゲームフィールドが解かれた。



 ※――※――※――※――※



 結界の消失と共に、守護霊も消えて男は元の姿に戻っていた。

 彼らが降参という選択をする事で、どんなデメリットがあるのか詳しい情報は無いけど、大体のZプレイヤーは力を失った事で尻尾を巻いて逃げ出してしまう。


 どうやらゲームの情報を吐く事にもペナルティがあるらしいので、逃げるプレイヤーを捕まえて洗いざらい情報を聞き出すなんて事もしない様にしてる。

 極力殺さず降参させる方針で、来る者は拒まず応戦して、去る者は追わずに見逃す。そうやって俺達はここまで戦って来た。


 何事も無かったかの様に、俺の所まで戻ってきた防寒着のサイカ。

 俺はその頭を少し撫でて、言った。


「よくやった。行こう」


 サイカは少し照れ臭そうにしながら頷く。




 やがて俺とサイカは、ノーススタートロード沿いに面した一軒家へと辿り着く。ここまで半日は歩いたと思えるくらいの長距離移動だったので、目的の建物が見えた時は感動すら覚えた。

 日本ではちょっとした豪邸にも見えるその建物で、まだかまだかと俺達の到着を待っていて、外にまで出迎えに来てくれたのは栗部(くりべ)蒼羽(あおば)


「ハイ、ミスタータクマ、ミスサイカ。久しぶり」

 と蒼羽はそれぞれにバグをして挨拶をして来た。


 俺は蒼羽に言う。


「早く中に入れてくれ。寒くて死にそうだ」

「ようこそ天国へ。まさかここまで歩いて来たのか?」


 そう言い、玄関の扉を開けて中に招き入れてくれる蒼羽。

 中に入ると、ゴールデンレトリバーが待っていて、蒼羽がよしよしと両手で頭を撫でた。


「足がなくて、仕方なかった」

 と、俺。


 蒼羽が住むこの家は、コンクリートスラブ、木造二階建て、五つのベッドルームと、三つのバスルーム。親子二世帯でも余裕の広さ。さすがアメリカ、日本とは家の規模も違う。

 床暖房や古き良き暖炉まで完備されていて、中は驚くほど暖かさに満ちていた。


「クロエ、琢磨(たくま)が来た」

 と、蒼羽。


 キッチンで歓迎の料理を用意してくれてるクロエが、顔を出してニッコリと笑う。


「いらっしゃい。ゆっくりして行って」


 まるで新婚夫婦みたいは二人を見て、俺は蒼羽に聞いた。


「いつからそんな関係に?」

「一緒に暮らし始めたのは、日本から帰って来てからさ。クロエは気が強いから、俺はいつも尻に敷かれてるよ。琢磨はアメリカに来てどれくらいだ? いつミシガンに?」

「日本を出てすぐだから、三ヶ月くらいになるかな。ここに来たのは今日だよ。こんなに寒いとは思わなかった」

「ミシガンは良い所さ。何より自然に溢れてて空気が綺麗。今度、ランシングに行ってみるといい。車を貸すよ」


 俺とサイカは防寒着を脱いで、俺はリビングの大きなソファに蒼羽と腰掛け、サイカは窓際に立って外を見ている。

 そんなボディガードみたいな行動をするサイカを見て、蒼羽は聞いてきた。


「Zプレイヤーを警戒してるのか?」

「うん。何処にいても安心できないからね。さっきも襲われたばかりさ」

「俺もこっちで何度か襲われた。どちらかと言えばブランが目当てで、ブランはルークと呼ばれてたな。チェスかっての」

「そのブランは?」

「ここにはいない。一緒にいると危険だからって、サムとコンビを組んでプロジェクトゼノビアを調査中」

「危険じゃないか?」

「そんな事、言って聞く様な男じゃないさ。まぁ、何かあればいつでもリンクできる。ウチにはアパレイタスが完備されてるからね」


 確かに、リビングにはブレイバーリンク装置であるアパレイタスが設置されていた。

 夢主とブレイバーの意識がリンクされる装置。レクスとの戦い以降、俺とサイカはこれに頼る事は無くなっていた。


 蒼羽はとある事に気付き、俺に質問してくる。


「二人だけか? もっと大人数で来るのかと思ってたよ」

「……こっちには来てる。ちょっと訳有りで別行動中だけど、明日には合流予定。大丈夫、みんな無事だ」

「なるほどね。今夜くらいはここで寛いで行けよ。サイカもさ」


 急に名を呼ばれたサイカだったが、サイカは真剣な眼差しで答えた。


「私は大丈夫。琢磨は私が守る」


 そんな事を言って警戒態勢を崩さないサイカを見た蒼羽は、

「なんかあった?」

 と、俺に聞いてきた。


「……数ヶ月前、IPFの連中に俺が撃たれてね」

「それで責任感じてるって訳か」

「そういう事なんだと思う」


 クロエがトレーに料理を乗せて、運んできた。

 これからクリスマスパーティでも始まるのかと思えるくらい、豪勢な料理の数々をテーブルに置きながらクロエは言う。


「今日はみんな来ると思ってたから、食材を買いすぎましたね。食べ切れないのは残してしまって良いですよ」


 美味しそうな匂いが部屋を漂い、サイカのお腹が大きな音を立てた。

 ぐうううと鳴る空気を読まない腹の虫に、サイカは顔を赤らめる。俺は呆れ顔になり、蒼羽とクロエは笑った。




 よく見ると、クロエはお腹が少し大きくなっていて、子供を授かってる事が分かった。それを知って、賞金首にされてるブランが気を使って離れるのも納得。

 俺達が旅をしている間にも、見えないところで人は思い出を紡いでいる。そう考えたら、少し心も温まった様な気がした。


 クロエの手料理を食べながら、俺達は世間話に花を咲かせ、日本での平穏な旅の事や、みんなで野球をした事などを蒼羽に語った。

 蒼羽やクロエは俺の話を大袈裟に笑いながら楽しそうに聞いてくれて、俺の横ではサイカが黙々と料理に手を伸ばしていた。


 四人に対して七人分はあった料理を、サイカが残さず完食してくれ、満足そうな緩んだ表情で窓際の定位置に戻るサイカ。

 俺の昔話にひと段落付いた所で、クロエは食器の片付けを始め、蒼羽が真剣な表情で今後の事を話してきた。


「ブランとサムの調査と、中央情報局によれば、今回のプロジェクトゼノビアと呼ばれるゲームは日本産で、管理運営も日本で行われてる」

「なぜそんな事が分かる?」

「Zプレイヤーに情報を吐かせ、持っていたプロジェクトゼノビアの入った端末を解析したらしい」

「そんな危ない事を……そのZプレイヤーは、どうなった?」

「気になるか?」

「とても」


 蒼羽はマグカップに入ったホットコーヒーを一口飲み、しばらく何か悩んだ末に、口を開いた。


「……消えたらしい」

「消えた?」

「バグやブレイバーが、コアを壊された時、煙の様に消えるだろ。あれによく似た消滅だったと聞いてる」

「つまりゲームについて何かしらの情報を漏らすと、消される……?」

「最悪そうなるというだけで、人によっては精神崩壊で発狂したりと、症状は様々。ただ、共通して言えるのは、そのゲームが入っていた携帯端末は全員同じ物を持っていて、他の人が触れると消えてしまう。証拠隠滅はそうやってされていた」

「そんな魔法みたいな事……」

「それをお前が言うか。バグにブレイバー、これだけの異常事態が起きて、もうこの世界は何が起きてもおかしくないだろうさ」


 全ての元凶が俺にある様な気がして、俺は俯いてしまった。

 すると蒼羽は続けて言う。


「ミスタータクマは、こんな所にいていいのか?」

「え?」

「プロジェクトゼノビアは、その目的が定かでは無いけど、水面下で確実に犠牲者を出してる。しかも存在そのものを消されるという胸糞悪い方法でだ。これがもし、プレイバーが存在する限り続けられる事だと仮定したとして、それを解決できるのはいったい誰か」

「俺達に戦えと?」

「気が進まないか?」

「レクスはいなくなった。相手はバグでも無ければブレイバーでも無い。それに……俺も追われてる身だ。人間は殺したくない」


 そう言って、俺もカップに入ってるコーヒーを一口飲む。体の芯に染み渡る様な暖かさを感じた。

 正直言って、この世界各地で行われてる謎のゲームは、俺達を誘き出す為の罠とも思えてる。


 蒼羽はしばらく言葉を考え、言った。


「仮にレクスが死んでいなかったとしたら? ゲームそのものが次の戦争を起こす為の準備だったらどうする?」

「それは有り得ない。悪い冗談はよしてくれ」

「よく考えてみろ。なあサイカ、あんたはどう思う」


 またも突然話を振られたサイカは、今の会話を聞いて考えていた様で、すぐに答えた。


「ここまで戦ってきた何人かのゲームプレイヤーは皆、何か掛け替えの無い夢を実現しようと戦っていた。中には金の為と言う人もいたけど、大切な家族や恋人の為、自身の病を治す為、そういう事の為に必死になってる者ばかりだ」

「私利私欲を叶える為に命を賭けるのか……こんな話、映画であったな」

 と、蒼羽。


「本当に何でも願いを叶える事が出来るのなら、それはもはやレクスすらも超えたチカラを手に入れた奴の仕業だ。そんな奴が存在してるのだとしたら、止める事が私の役目だと思ってる」


 サイカはそんな事を言いながら俺に近づいて来て、俺の顔を触りながら続けた。


「だけどそれ以上に、今私の目の前には、絶対に失いたくない存在がある。もし琢磨に何かあれば、私は怒りで何をするか分からない。それが私も怖いんだ」


 それを聞いた蒼羽は笑った。


「まったく、次元を超えた愛を見せつけてくれるなよ。今夜はダブルベッドの部屋を用意してやるからさ」

「茶化すなよ」

 と、俺。


「まあ何にしても、大事だと思うなら常に最悪の事態を想定して行動しろ。現状維持は退化にしかならないからな」


 そう言って蒼羽は立ち上がり、キッチンの方へ歩いて行って、片付けをするクロエの手伝いを始めた。

 俺は何気なくサイカを見ると、サイカはほんの少しだけ微笑み、こう言った。


「安心してくれ。何があっても、私が琢磨を守る」

 と。




 その日の夜は結局、蒼羽の計らいでサイカと同じ部屋で過ごす事になった。

 相変わらずサイカは、部屋の窓から外を監視していて、安らぎを得ようとはしていない。ほとんど毎日、サイカはこうやって不眠不休で俺を守ろうとしてくれてる。


「サイカ、少し休め」


 俺がそう言っても、聞く耳を持ってくれないのだ。

 ふかふかなダブルベッドの上に寝転がり、俺はスマートフォンを使って何気なく情報を調べ始める。


 するとSNSの日本人を中心に、騒ぎが起きてる事が分かった。


【何かが空を飛んでる】


 皆が口を揃えて、そんな情報を流してる。

 ミシガン州と日本の時差は十四時間ほど、向こうは今、夕方くらいの時間帯になる。


 いくつか写真画像も出回っているけど、まずは撮影された動画を再生して、噂の元凶となっているモノを確認した。

 動画では、確かに空を飛ぶ無数な何かが見える。


 人の形をしていて、色は白。

 機械的で白く丸いフォルム、口は無く、目を含む各パーツの接続部分が光を放っている等、まるで空飛ぶアンドロイドの様だ。


 俺は、何処かでこれを見た事があった。


「サイカ、これを見てくれ」

 と、俺はその映像をサイカに見せる。


「……ゲームマスター?」


 サイカに言われて思い出す。これはワールドオブアドベンチャーのゲームマスター達が操作していたキャラデザインそのものだ。

 なぜ、どうしてと考える暇も無く、次の情報が舞い込んでくる。


【空飛ぶ戦艦だ! すげー!】


 次の映像には、数百はいるであろうゲームマスターに囲まれて、空に浮かぶ巨大な戦艦。

 SF映画からそのまま持ってきた様な空中戦艦もまた、ワールドオブアドベンチャーであったバグとの戦いでゲームマスター達が使っていた物だ。


 そんなものが現実に現れた!?


 まさかの情報に驚き、頭が真っ白になった所へ、今度は蒼羽が部屋の扉を開け飛び込んできた。


「琢磨! ニュースを見ろ! 日本が大変な事になってる!」


 俺は立ち上がり、蒼羽に何か返事をしようと口を開い――$B=*$o$j$N;O$^$j!#(B


 ※ ✳︎ ✳︎


 ✳︎ ※


 サ、サ、渡ホ、シヲ、ヌ、「サ?ヨ、ャサ゜、シ、テ、雜、キ、ク、ピ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――………ザ、ザザザザザザザザ……ピ――――――――――――――――――――――――――――error……――――――――――――――――――――――――危―――――――――――――転――――――――――――――――――――――――――




 ✳︎ ✳︎


 ※




「サイカ!!」


 思わず、俺はサイカの名を叫んでいた。

 今、この現実世界において最大級のノイズが走った。時が止まり、動ける様になるまでにどれ程掛かったか分からない。


「琢磨! 無事か!」


 サイカも動けている様だ。


 部屋の入り口に立ってる蒼羽は完全に固まってしまっていて、今、この場で動けているのは俺とサイカだけ。

 部屋の内部は表面のテクスチャが剥がれ落ちたかの様になっていて、窓の外の降雪もピタッと止まってしまってる。


 まずは俺とサイカは抱きしめ合い、無事である事を分かち合った。

 サイカが俺に言う。


「前にも、こんな事があった」

「そうだね。確かこれは……次元の修正」

「日本で何かがあったんだ」

「やっぱり行くしか無いのか、日本に」


 俺はサイカから離れ、ピタリと固まってしまってる蒼羽の元へ行き、恐る恐る触って見た。

 触った箇所にノイズが走り、触った感触も変だ。指先にピリピリとした電気を感じる。


 すると、異常な出来事がもう一つ発生する。


 俺とサイカの視界にシステムウィンドウの様なものが突如浮かび上がって来たのだ。


【転送を開始します】

【YES】

【NO】


 まるでゲームの中の世界みたいに、俺達に何処かへ転送する事の承認を求めて来ている。しかも三十秒のカウント付きでだ。


「これは……なんだ?」

 と、俺はサイカを見るが、サイカも知らない様子で首を横に振った。


 何か知らないか管理者。


(キミの目の前にあるのは、世界の真実だよ)


 真実?


(知る覚悟があるのであれば、行くといい)


 俺はサイカを再び見ると、彼女は俺に真剣な眼差しを向け、言った。


「私は戦う。貴方の現実(リアル)を守る為に」


 俺は頷き、

「行こう」

 と、【YES】のボタンを選択した。


 こちらの意思を読み取ったかの様に、選択肢は勝手に選ばれ、直ちに転送が開始される。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■



 身体がふわっと浮かび上がる感覚に襲われた。

 重力の概念が無くなって、宇宙空間に放り出された様な、そんな感覚。


 そして現実世界の全ての歴史を垣間見るかの様に、古い映像が数億と流れ、広大で奥深い人類の歴史が川に流れる水の如く過ぎていく。

 一部はサイカの記憶や、俺の記憶が流れていた。


 これは……なんだ?



 ■ ■ ■ ■ ■ ■



 目の前が真っ白になったと思えば、そこは空の上だった。宙に浮いてる……いや、立ってる。見えない透明な足場が広がってる感じだ。

 足元の雲は夕日で橙色に染まっていて、上を見ると大きな惑星が宇宙を覆っている。まるで地球のすぐ近くに迫るもう一つの惑星があるみたいだ。


 それどころか、先ほど動画で観たゲームマスターアンドロイド達が、数えきれないほど集まっていて、遠くで俺達を包囲している。


 急展開に脳の処理が追いつかない。

 ここはなんだ。あの上にある惑星はなんだ。


 身の周りを見ると、サイカ、ワタアメ、アヤノ、朱里(しゅり)の姿があって、更に少し離れた所に意外な人物が三人が立ってる。

 皆、俺たちと同じくここに転送されて来たのだろう。千枝(ちえ)やオリガミ、BCU所属ブレイバーの姿は無い。


 意外な三人とは……ブレイバーシャークと、黒ドレスを着たキャシー、そして異世界でテロ騒動を起こしたスウェンという男。

 なんでこの三人がいるんだ?


 シャークとキャシーだけは楽しそうに微笑んでいるが、他の者は緊張した面持ちで、前だけを見ていた。

 俺が改めて前を見ると、男が一人。こちらに背中を向けて立っている。


 あの後ろ姿は……見覚えがある。


 男はこちらを振り向く事無く、話を始めた。


明月(あかつき)琢磨(たくま)くん。前に私がした質問を覚えているかい?」


 この声、間違い無い。


「高枝さん……」


 名前を呼ばれて、こちらに振り向いた高枝(たかえだ)左之助(さのすけ)は、見慣れた眼鏡の似合う顔で和やかな表情をしていた。


「私達の敵は誰か真実を見極めろと、私は君に言った」

「高枝さん、あんたいったい今まで何してたんだ!」


 声を荒げてしまった俺を前にしても、全てを見透かした様な顔で、彼は口を開く。


「どうやら、君は……いや、君達は、この期に及んでも尚、自分達の愚かさに気付いていない様だね」

「なにを……」

「私達の敵は君達だ。明月くん、そしてサイカ。君達の様な異次元を超越した者達が、世界に不幸をもたらした」

「な、何を言ってるんだ高枝さん!」

「何も知らなければ幸せだった。何も無ければ、私は妻と子を失う結果にはなっていなかった。今も家族の為にゲーム会社で働いていただろう。だけどね、全ては君達ブレイバーが現れ、君が人間でありながら狭間へと足を踏み入れ真理に触れた事で変わってしまった。そうやってこの現実世界の在り方を根底から覆してしまった事が、終わりの始まりだった」


 この人は本当に、あの高枝左之助なのだろうか。

 雰囲気が何処となく変わった。あの大人で、堅実で、気の利いて、尊敬できる上司だった彼の面影が無い。


 どちらかと言えば、この世のものとは思えない、得体の知れない邪悪な気配がある。

 邪悪……そう、例えるなら、レクスや逢坂(おうさか)吾妻(あずま)に似た雰囲気がある。


(あの人間、サマエルの気配がある)


 サマエルって……狭間で消えたはずだろ。


(我らと同じ様に、人間と融合したのだろう。きっとレクスがあの男を惑わせた)


 それにサイカも気付いてる様子で、

「琢磨、気を付けろ」

 と、声を掛けて来た。


 高枝左之助は薄らと笑みを浮かべ、顔にかけていた眼鏡を投げ捨てながら言う。


逢坂(おうさか)くんは言っていただろう。新世界の上に立つのはどちらかと。彼はアレでも本気だった。本気で私に勝てる存在になろうとしていた。それを君は倒したというのに、その後は逃げてばかり。お陰で全ての準備は整った」

「まさか、プロジェクトゼノビアもあんたの仕業だったのか?」

「その通り。王様気取りのレクスが倒されたのは私にとって嬉しい誤算だったよ。レクスとサイカの衝突で、世界中に拡散された異次元粒子が、私の計画を省略してくれ、あのゲームを実現可能としてくれた」

「何の為にそんな事を!」


 思い浮かぶのは消えて行ったZプレイヤー達。

 彼らは、自らの願いを叶えるという甘い蜜の為、命を張って戦い、そして散っていた。絶対勝てる見込みも無い本物のブレイバーをターゲットにされて、偽物の力で命を賭けていた。


「器に相応しいプレイヤーを探していてね。戦いを勝ち抜き、器に耐えうる人物を選別していた」

「器? 器ってなんの事だよ!」


 あのゲームが、こんな男一人の策略だったなんて、そんな虚しい事があるか。

 大人しく聞いていたワタアメが、弓を手に召喚しながら一歩前に出て、サイカに話しかけた。


「サイカ」


 サイカは頷き、キクイチモンジを召喚する。

 するとキャシーもサイカの横に並んで、氷の剣を手に持った。


「協力させて貰うわ」


 なぜこの場にキャシーがいるのか、なぜ協力してくれるのか、それを悠長に確認してる場合じゃない。

 まずは目の前にいる新たな巨悪を倒す事こそが最優先で、協力してくれるのであればこの際何だっていい。


 利害の一致。サイカやワタアメも、同じ考えの様だった。


 アヤノも俺を守る様に前に立ち、短剣を手に持って構える。

 シャークは楽しそうに笑みを浮かべながら、武器を手に取る事なく傍観すると決め込んでいる様子だ。


 すぐにサイカとキャシーが前に走り出し、左之助に斬り掛かる。ワタアメも後ろから弓矢を放って援護射撃。

 だが、左之助の周りには見えない壁があり、弓は弾かれ、サイカとキャシーも弾き返された。


 それはまるで、彼の周りが絶対不可侵領域かの様で、システム的に侵入を拒まれたといった弾かれ方。

 その後も、サイカとキャシーが協力して何度も斬ろうとするが、何度やっても同じだった。


 左之助は左手を天に向けて掲げながら言った。


「ブレイバーは、本当に武力と破壊でしか物を語れない悲しい生き物だ」


 ワタアメがサテライトアローを放つが、それも弾かれてしまった時、左之助は光の輪っかを三つ召喚して、それを指先一つで飛ばした。

 あの輪っかは前にも見た事がある。ゲームマスターが使用していたバグ用の拘束アイテム。操られたアヤノに使用されていた。

 避けようとする、サイカ、キャシー、ワタアメに装着され、彼女達は身動きが取れずに転倒する事となる。


「これは、あの時の!」

 と、サイカ。


 左之助は構わず話を続ける。


「見せてあげよう。新世界を」



 眩い光りと、ゴォーンと頭に響く鐘の音が天空から降り注ぐ。

 そこに現れたのは、白き巨大な女性の様な何か。五十メートルはあろうその大きさは、まるでサマエルの再来。神の降臨をも思わせる圧倒的な存在感。それでいて真っ白な色のない動く女神像みたいだ。


 そして女神の周りには、金色の光に囚われた四人の人間。三人は見知らぬ男性。一人は女性で、行方不明となっていた笹野(ささの)栄子(えいこ)だ。


「まさか人間か!」

 と、俺が問う。


「見事プロジェクトゼノビアを勝ち抜き、最速で目標を達成した強き者達だ。笹野くんは……私に尽くしてくれた事への対価として、そこにいて貰ってる。彼らは今、自らの願いが叶った夢を見ているのだよ」

「それが……それが人のやる事か!」

「夢は醒めなければ、それは現実になる。私達もまた醒めない夢を見て、生を感じていただけ」

「そんな下らない妄想で……あんたが、あんたが全部仕組んだってのかよ! 吾妻も、笹野さんの裏切りも、全部! 笹野さんは優しい人で! あんたを慕っていたのに!」


 左之助は、今度は何か魂の様な物を四つ召喚。赤、白、青、緑とカラフルなその冥魂を解き放つと、それらは空に浮かび拘束され意識の無い人間に向かっていき、彼らの胸の中に吸い込まれる様に入って行った。

 そして、そこから起きるのは変身。人の形が見る見る変化して、まるでバグ化したシノビセブンの様な姿へとなっていく。


 更に、中央にある女神が、祝福でもするかの様に、指先から滴を垂らし、四人の身体にそれが入り込んだと思えば、更に形態変化。

 一度は色が黒に染まった身体が、白くなり、化け物みたいな見た目から人型となった。白を基調としながら、それぞれの色のラインが入っていて形も異なる。神々しい光を放ってくるその姿は、神使とでも言うべきか。レクスとの対決で、サイカが見せたあの姿によく似ていた。


 左之助は両手を掲げ、

「見るがいい! 異なる冥魂(めいこん)と冥魂が融合し、女神の慈悲を受けし神聖(しんせい)ブレイバー! ここに誕生する我らの救世主は、五神聖(ごしんせい)として降臨する!」

 と謳った。


 空から見下ろしてくる神聖は、特に何かをしてくる様子も無く傍観している。彼らがいったい何者なのか分からないが、これだけは言える。

 絶対に勝てない相手だ。


 でも、サイカ達は諦めてなかった。

 それぞれバグ化して、拘束アイテムを内側から強制的に破壊。猫の姿をしたワタアメバグとキャシーバグ、そして女武者の姿をしたサイカバグとなり、戦闘態勢へ。


 左之助は言った。


「そんなチカラがあるから、世界は変わってしまった」


 俺は言い返す。


「変わってしまったのはあんただよ! 高枝さん!」

「もう人の名は捨てた。今日から私は……マスターディメンション。この次元を支配する新たな管理者と成り代わろう。明月くん、そしてブレイバーの諸君、君達は邪魔だ。ここで消えて貰う」


 マスターディメンションと名乗った男の身体に、プロジェクトサイカスーツによく似た何かが装着されていく。色は白と金色で、後光の様な光輪が背中にあり、上にいる神聖ブレイバーと同じような姿。

 その見た目から放たれる眩い光は、その存在そのものが世界を司る者を表しているかの様だった。


「私も五人目の神聖ブレイバーとなれる存在か、忌まわしきバグを消滅させる事で証明するとしようか」

 と、マスターディメンションがサイカバグ達に向かい手の人差し指で挑発する。


 サイカバグ、ワタアメバグ、キャシーバグが再び攻撃を仕掛けた。

 マスターディメンションは空に浮かび、サイカ達も空を飛び、空中で激しくぶつかり合う。が、強大な力を持つバグブレイバーが三人掛かりでも、マスターディメイションは全て止まって見えてるかの様に、するりするりとその身を翻し、避けている。


 全身が黒くなった三人が、白い男に襲い掛かる様は、悪魔が天使を襲ってるかの様だ。


 素手で何も持っていないマスターディメンションが手を動かすと、サイカバグ達があっちへこっちへと吹き飛ばされる。見えない手で叩かれてる様な飛ばされ方だった。

 あの敵無しの戦闘力を持つサイカバグ達が、まるで赤子同然。攻撃を一度も当てる事すらできず、一方的に攻撃を喰らっている。


 空中で行われる戦闘を前に、スウェンが俺の横まで移動してきて、こんな状況だというのに俺に話しかけてきた。


「お前がサイカの夢主、タクマだな?」

「貴方がなぜここに?」

「その様子だと、俺の事は分かってるって事だな。まあいい。今は詳しく話してる時間がないから、手短に話そう。今のままでは奴らに勝てない。だから一つの仕掛けを用意してある」

「仕掛け?」

「それで一旦はこの場を切り抜ける事ができるだろう。問題はそれからだ。サイカにはゼノビアとの対話が必要になる。それだけ覚えておいてくれ」

「どういうことだ?」

「そろそろだ。おいシュレンダー」


 俺の質問は無視して、後ろにいる朱里に話しかけるスウェン。


「なんだ」

 と朱里。


「後の説明は、頼んだぞ」

「言われなくなって分かっとるわ!」


 この二人、そもそもこうなる事を予想していたかの様な口ぶりだ。


 ワタアメバグが鋭い爪で引っ掻き、サイカバグが神速の一刀で斬るも、マスターディメンションはそれを完全防御。次に、キャシーバグが超至近距離で口から光線を放つが、軌道を逸らされてしまった。

 そしてついに反撃の行動に出たマスターディメイションは、両手に光の剣を発生させ、次の瞬間……サイカバグ、ワタアメバグ、キャシーバグは体を切断されていた。


「次元を駆けたブレイバーがこの程度とは」

 と、マスターディメンションはまずはサイカバグにトドメを刺そうと光の剣を向ける。


 その瞬間、上半身だけのキャシーバグがニヤッと笑って、右手で空間に転送ゲートを召喚。それはマスターディメンションの真上に位置する場所。

 ゲートの中から何かが出てきた。


 緑髪で白のローブを着て両手に大きな杖を持った少年が、背中に白髪の少女を背負って現れた。


「ノア! しっかり捕まってて!」

 と、少年は背中の少女に声を掛ける。


「うん!」


 そのままマスターディメンションに向かって真っ直ぐ落下して、少年は叫んだ。


「そこまでだああああああああッ!!!」


 マスターディメンションは急に現れたブレイバーに驚き、防御体制に入るが、少年の杖が光り輝いて絶対不可侵領域をぶち破る。


「ナンダァァァ――――――――――ッ!?」


 少年がマスターディメンションを杖で殴った衝撃波が周囲を震わせ、音よりも速くマスターディメンションが遠くへ吹き飛ばされた。

 その突然現れた少年を見て、下半身の無いサイカバグは名を叫んだ。


「エム!?」


 そう、この少年ブレイバーの名は……ドエム。

 サイカがエムと呼び、面倒を見てきた泣き虫の魔法使いブレイバー。


 何処か大人びた顔付きになったエムが、突如キャシーによってこの場に呼ばれ、そして不意打ちでマスターディメンションを杖で殴ったのだ。


 エムは、サイカバグに名前を呼ばれてちらりと視線を送ったが、反応はせずに背中に背負っている少女の名に話しかけた。


「ノア、お願い!」

「分かったわ!」


 マスターディメンションが叩き飛ばされた事で、周囲を包囲していたゲームマスター達が一斉に戦闘態勢に入る中、エムの背中にいるノアと呼ばれた少女は目を瞑り、何かの能力を発動させた様に見えた。

 エムとノアを中心に、真っ白な光が広がって、周囲の者達がそれに成す術なく巻き込まれていく。それはマスターディメンションや、上空で高みの見物をしている四人の神と女神も同様だ。


 俺の視界は真っ白になった。



 ※ ✳︎ ※



(人間がサマエルと融合し自ら管理者となって、そして彼女までも現れるとは……面白い事になってきたじゃないか)



 ✳︎ ※ ✳︎



 ジジジジジジ……カチッカチッカチッ……ピピッ……


 何か故障した機械を修理して再起動させたみたいな音が鳴り、そしていつの日か見えた金色の草に囲まれた原っぱが見え、そして女性の手によって包まれる。

 不思議で、暖かい、そんな感覚に全身が包まれていく。


 いったい何が起きてるのか、考える事が馬鹿らしくなるような、気持ち良さ。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■



 気がつけば、俺は蒼羽の家の部屋に戻っていた。

 振り向くとそこにサイカも立っていて、無傷で周りを見渡している。


「帰ってきた……?」

 と、俺。


 すると固まっていた蒼羽が動き出して、一時停止から再生がされた押された映像の様に、話の続きを始めた。


「日本で戦争が始まった! とにかくテレビを……って、どうした?」


 蒼羽は俺とサイカの様子がおかしい事に気づいて、言葉が止まった。

 とにかく、今さっき起きた事を俺は頭で整理するので精一杯で、これからすぐに何か行動に移ろうなんて思いつかなかった。


 俺は腰の力が抜けて、よろよろと近くのベッドに座り込む。サイカがさっと近付いて来て、俺が倒れない様に支えてくれた。

 動揺によって震える手で、ポケットから電子タバコを取り出し、俺は半年振りにそれを口に加える。




 突然突き付けられた真実。今起きた事を、蒼羽に説明する前に、全世界に向けてマスターディメンションから声明映像が配信された。




『私はマスターディメンション。空を見ろ。地球の真上に、異世界の星が呼び出された。次元繋ぎは成されたのだ。私には星と星を衝突させ、宇宙にビックバンを起こす準備が出来ている。これが何を意味しているか、君たちに理解できるか。これから訪れるのは世紀末。そして神々による次元征服と、それによりもたらされる新世界が来る。生き残りたければ我らに従え。抵抗する人間は、新世界の生贄とする。その小さい脳みそでよく考えろ。もうこの世界は、後戻りの出来ないところまで来ている。こうなってしまったのは……全てブレイバーという異次元生物が原因である事を忘れるな』



 マスターディメンションが言う通り、あの亜空間で見た景色が現実となって、地球と月の間に謎の惑星が 突如出現。世界中の人々に恐怖を植え付ける事となるそれは、後に『ディファレントプラネット(異星)』と呼ばれる事となる。


 そんな中でも尚、管理されながら継続されるプロジェクトゼノビアによる殺し合い。

 更に……マスターディメンションによって量産された意思無きゲームマスターの軍隊と、現代のテクノロジーを完全に無視した巨大空中戦艦が数百隻が、日本の東京を中心に世界侵略を開始した。

 現実世界で、これから始まる出来事の数々は……正に『地獄』だ。




 二年前、俺は「貴方は人間ではなくなりました」と大学病院の副病院長に宣告された。

 それから俺は管理者の力を使って、バグの魔の手から現実世界を守る為に戦って来た。BCU設立に尽力し、ブレイバー達を召喚して、ワタアメを救い、アヤノを救い、サイカを仲間に入れて、オリガミや千枝も救って、巨悪を倒したはずだった。


 なのに、これは何だ。

 まるで俺が……俺達がやって来た事が、全て嘲笑われてるみたいじゃないか。


 なあ教えてくれ。俺の選択は、何処で間違ってしまったんだ。




 <三章 終>






【作者のあとがき】

 ログアウトブレイバーズをお読み頂き、ありがとうございます。

 長かった三章が終わりを迎えました事、今回の投稿を持ってご報告とさせて頂きます。


 まず初めに、三章の執筆を進める間にも沢山の誤字脱字報告や、読んだよと報告して頂いた読者の皆様、本当にありがとうございます。

 若輩ながら、最近気付かされたのが「言う」と「いう」の使い分けの難しさでした。普段何気なく書いて読んでいた部分ですけど、改めて考えてみると難しい日本語だと思いましたね。

 さて、今回読んで頂いた三章は現実世界サイドのお話がメインで、主人公・琢磨が語り部となって物語が進行されました。

 現実世界で敵となる登場人物は本当に多く、そして仲間となるブレイバーも多かったと思います。そんな中で、アヤノの復活、サイカとの和解、千枝の兄の死、レクスの消滅、野球回など本当に多くの出来事がありました。

 最後には真の黒幕が登場となり、三章は劇的な終わりを迎えました。


 次回の四章は、また新たな書き方に挑戦して、スポットライトは異世界側へと移ります。

 今回分からなかった異世界の何故、エムの何故、キャシーの何故、窮地を救った謎の少女は誰なのか、そう言った謎を書いて行きます。


 長くなりましたが、今回はこの辺で失礼させて頂きます。また四章でも、ブレイバー達の活躍に期待して頂ければと思います。

 ログアウトブレイバーズの読者の皆様へ。

 ここまで読んで頂けた事に、心からの感謝を込めて。


 阿古しのぶ より


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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