土曜日
やっと土曜日になり、しばらく多美子と暮らすために、大家さんに部屋の相談をします。叔母にも連絡をしなければいけません。社畜の叔父さんは土日しか自由に行動できないのです。多美子とおじさんの淡い恋みたいなものを描いていこうと思っています。読んでいただけるとうれしいです。
和夫は土曜日日曜日は完全に休日だった。金曜日まで和夫は残業続きで多美子のことをあまり構ってあげられなかった。多美子はずっとセーラー服で過ごし、朝はコンビニ弁当、お昼はカップラーメン、そして遅い夕食をファミレスでとった。多美子は生理のせいもあって、ずっと家にいてどこにも出かけなかった。
このアパートは単身で借りたものだった。多美子と暮らすとなれば引っ越さなければならない。大家さんの家はアパートの裏手にあった。日本家屋で古いものだが、庭も縁側もある。歩いて5分もかからない。土曜日の朝、和夫は多美子を連れて、大家さんの家を訪れた。和夫がインターフォンを押すと、大家さんが出てきた。名前を山田誠一という。年齢は70ぐらい。妻と二人で年金暮らしらしい。
「どちらさまですか?」
「城田です。スカイコーポ101の」
「ああ、お久しぶりですね。城田さん。ところでどうしました?」
「姪が突然、転がり込んできたんですよ。当分の間は二人で暮らす予定です」
「当分ってどれくらいの間?」
「それがわからないんです。ここは単身用のアパートで借りているから引っ越さないといけないかなと思って相談にきたんです」
大家さんは、和夫の後ろに隠れているセーラー服の女の子をみた。
「お嬢さんは、城田さんの姪っ子さんなの?」
「姪の今井多美子です。これから叔父さんと一緒に暮らしていきます。言っておきますけれど当分じゃなくてずっとです」
「学校はどうするの?転校するの?」
「学校はいきません。叔父さんのお世話をします」
「学校は行かせますよ。もちろん」
和夫は困った顔をした。大家さんはそんな和夫の顔を見た。
「城田さんも大変だね。私にいう資格はないけれど、お嬢さんはご両親の元に戻ったほうがいいよ」
「両親ともに亡くなって、叔母の世話になっているんですよ。そこから逃げてきたんです。このまま送り返すわけにはいかないし、このまま、狭いアパートに置いておくわけにもいかない。幸い、お金はあるので引っ越そうかと」
「あのアパート、202が空いているよ。あそこは夫婦向けの物件だ。値段は2万ほど高くなるけれど。一人になればもし、101か201が空いていれば戻ってこられるよ」
「叔父さんは一人になんかならない。ずっと私と一緒」
多美子がぷんぷん怒っている。
「分かりました。引っ越します。いつまでがいいですか?」
「2週間ぐらいの間に越してくれると助かるよ。ずっと開けて置くわけにもいかないからね。書類は準備しちゃうけれどいい?」
「ええ、お願いします」
「部屋は見ておく?」
「ええ、見ます」
大家さんは家から鍵を取ってくると、202の部屋を見せてくれた。ダイニングにキッチン、リビング、部屋は2部屋ある。ワンルームの和夫の部屋とはだいぶ違う。
「これで、別々の部屋でゆっくり眠れるね」
「寝室は一緒」
多美子が強く主張した。
「城田さんのことは信用しているけど、変な問題は起こさないでくださいよ」
大家さんがニコニコして言った。
「もちろんですよ。そんなことになったら、私自身職を失いますからね」
和夫もニコニコして返す。
「変な問題って何?私、叔父さんに迷惑なんてかけないわよ」
多美子は叔父さんの腕に腕を絡ませ、ちょっと怒ってそう言った。和夫は困った顔をした。大家さんは帰り、和夫と多美子は部屋に戻った。和夫は部屋を見回した。
「洗濯機とか冷蔵庫とか自分たちで運べそうもないね。引越し屋さんを呼ぶしかないね」
「そうだね。これ私たちで2階に上げられないもの」
「後ね。多美ちゃん、午後に叔母さんのところに行こう。ちゃんと報告しておかないと」
「それ、絶対やだ。行かない」
多美子は拗ねて怒っている。あれほど嫌で逃げ出してきたのだ。絶対に行きたくなんかない。たぶん、捜索願いも出していないだろう。どこかで仲間と遊んでいるぐらいにしか考えていないのだ。全く心配なんかしていないだろう。
「一応、挨拶はしておかないと。心配しているよ。きっと」
「絶対、心配なんかしていない」
「私は君のお母さんの弟だ。私がちゃんと面倒をみて、学校も行かせるって説得するから」
「絶対だからね。絶対、私を叔母さんに渡したりしないでよ。そんなことしたらまた家出してどっかで死ぬ」
「約束するよ。だから、行こう」
「絶対の約束ならいい。嘘ついたら針千本」
和夫と多美子は指切りをした。叔母とは多美子の父の妹に当たる。和夫は多美子から電話番号を聞いて電話をした。
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