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要するに私は夢見師である 前編

「お兄ちゃん……私と一緒に魔物と人間たちを救ってほしいの! ねえ、お願い!」


 人と魔物が争う戦場を背に、強い意志を宿す瞳を向けながら妹は俺の顔をまっすぐに見据えてくる。

 対して俺は、


 ――いやーそんなことを言われても困るなー。


 いくら可愛い妹の頼みとは言え、この世界(・・・・)では俺と妹の立場は全く違うからだ。

 それは俺と妹の外見を見ればわかる。

 俺は軽装とはいえそれなりに鎧を着こんでいる。そして、猫耳フード付きの赤いマントを纏い、腰には精巧な装飾がなされた黄金の剣を鞘の中に収められている。まさに勇者然とした格好だ。

 そして妹はいうと、シルエット的には人の姿をしているが、頭に猫っぽい耳とお尻に尻尾がある。可愛い妹に対してこんなことを言ってしまうのは酷だと思うが、とても人の姿には見えなかった。

 まあ、厳密に言えば俺も人間ではないのだが。

 なぜなら俺と妹は、もともとこの世界の人間ではない。

 理由はよくわからないが、ある日目覚めたら俺は勇者としてこの世界に転生していた。そして妹は猫魔人(ケットウシー)として転生し、なんと魔王という立場らしい。

 本当に一体どうなっているんだ。

 その一言に尽きる。

 だが、まあ、今はそんなことはどうでもいい。

 こうして戦場で、しかも勇者と魔王として再会してしまったが、今はどうにかしてこんな無益な争いを止めなければ。


「ああ、わかった。けど、具体的にどうする?」

「私たち魔物側は、融和を目的に行動している。でも、人間たちは私たちの話なんて聞こうとせずに一方的に戦争をし掛けてきた」

「そう、だったな」


 俺がこの世界に転生した際に、周りの人間から聞かされた話でもそんなことを言っていた気がする。

 魔物などという野蛮な存在の戯言に応じる通りなどもない、とも言っていた。

 それだけ人間側は魔物を野蛮死しているということだ。

 もちろん少数ではあるが、魔物がちゃんとした理性を持ち人間と同等の存在なのだと理解し、融和を求める人々もいる。けど、大多数の人は魔物をそんな風には見ていない。

 となると、今すぐに融和を話しあう会談は無理だ。せめて、この戦争だけでも止めて、話しあうことのできるきっかけを作る猶予を作らないといけない。


「まずは、この戦争を止めないとな」

「うん、だから協力して、お兄ちゃん!」

「ああ!」


 俺は妹の言葉に力強く頷き、眼下に広がる凄惨な戦争を見据える。

 問題は色々とある。けれど、その問題は今すぐにどうにかできるものではない。

 だからこそできることを今は精一杯やろう。


 ――妹と二人で。


 俺は隣に並び立つ、妹の姿を見つめながらそう誓うのであった。




♪♪♪




 ……何だろう、この夢は。

 両方の親指と人差し指でLを作り、写真を撮るようなポーズをしながらクラスの人気者、岡本君の夢を見ていた(・・・・・・)私の第一感想はこれだった。

 今さらりと『夢を見ていた』といったが、これは事実だ。

 私――桐生まつりは夢見師(ゆめみし)という、特殊な能力を持つ一族の人間だ。

 夢見師というのは、その名の通り夢を見ることができる力を持つ者のことである。けれど、まだまだ未熟な私は、人の夢が薄ぼんやりとしか見えない。なので、修行の一環としてたまにクラスメイトの夢を見させてもらっている――のだが、どうにも今回は変な夢を見てしまったみたい。

 今回はかなりはっきりと夢を見ることができ、とても嬉しいんだけど、どうにも喜ぶことができない。

 あまりに壮大な夢というか、何というか……うん、ものすごく違和感を感じる。

 大抵、夢というのは深層心理が反映されていることが多い。

 例えば、サッカーが好きな人だと試合で活躍する夢だったり、ケーキが好きな人だったらケーキを大食いする夢だったりだ。

 もちろん岡本君のように、ファンタジーな夢を見ることだってある。けれど、それを差し置いてもどうにも夢の規模が大きすぎる気がする。

 それに気になることがもう一つある。

 いつもあり余った元気を周りに人に分けているような岡本君の表情が妙に優れていない。痩せこけているという表現まではいかないけど、やつれ切った表情をしている。

 うー……ん、これは――。


「まーつり! 何やってんの?」

「わっ! な、なんだ……伊織か。別になんでもないよ。ただ単に今度撮ろうと思う写真のイメージを膨らませていた的な」


 忘れてた。

 私が夢を見ている姿は、周りの人から見れば奇行にすぎない。いくら写真を撮っている風を装っていても長時間続けていては怪しまれても可笑しくないんだ。


「ふーん、まあ、いいけどさ。イメージを膨らませているってことは、今度は岡本君を撮るんだ。へー」


 伊織は口の端を持ち上げ、大変性格のいい(・・・・・)笑みを浮かべる。


 ――……あっちゃー。


 上手い誤魔化し方だと思っていたのに、余計なツッコミを入れられちゃったよ。

 私は頭を抱えながら、ため息を吐く。


「そんなんじゃないって。イメージを膨らませているときにたまたま岡本君の元気のない姿が見えたから心配になっただけだよ」

「おやおや、ほんとだねー。いつもは元気という元気が体からあふれているのに、なーんか今日は元気がいつもの百分の一程度しかないねー」

「だよね」

「そのせいか、何時も周りにいる皆も話し掛けずらいみたいだし。うーん、ほんとにどうしたんだろう」


 やはり私だけじゃなくて、周りの人にも岡本君の様子は可笑しく映っているようだ。

 ふむ、まだ確証がないから探りを入れてみようか。

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