返信
予想外の追伸にドギマギする。
…いや、返信は月曜日朝一でいーや。
うん、今日はもう帰ろう。
「お先失礼しまーす。」
逃げるように会社を後にした。
電車では爆睡して、
最寄駅の改札を降りたら月が雲間からはっきり見えた。
右半分だから上弦の月。
「うーん!」
思い切り伸びをした。
なんだか今日はいい一日だった気分だ。
朝から散々で、仕事もいつも以上にこなしたが、最後にたった一通のメールを開いただけで気分がこうも変わるなんて。
「人を救うのは最後には人なのよ。」
おばあちゃんの口癖だ。
大袈裟かもしれないけど、五月先生が私に少しでも興味を示してくれてるということが、なんだか可愛いようなくすぐったいような気分。
いや、警戒しているのかもしれないけど。
新しい出会いが私をまた新しい世界に一歩連れて行ってくれる。
人気の無い夜道を、iPodから流れる音楽に合わせて小さな声で歌いながら帰った。
鞄を回しながら陽気に歌なんか歌ってる私は、はたから見たら酔っ払いだ。
私を月灯りが照らす。
私はまだまだ頑張れる。
月曜日、朝一で五月先生にメールを返した。
電話してもいいのだが、きっと出ない気がする。
そしてなによりP.S.を返したかった。
なんて返すか、週末はこの事で頭がいっぱいだった。
Q 小川さんは女の人ですか?
A1 私は女です。
(シンプルだけど笑いのないクールな印象だ)
A2 ヒント:香は“かおり”と読みます。さてどっちでしょう?
(これはイラっとさせてしまうかも。)
A3 しいていえば私の染色体はXXです。
(少し砕けてみたが完全にすべっている。)
一晩考えたが、職場でもしばらく悩んでしまった。
結局、本文では打ち合わせは金曜日の午後を提案し、追伸は
P.S.そうです、私は女の人です。
とした。
なるべくシンプルに、かつ冷たい印象にならないよう散々考えた末、変なおじさんみたいになってしまった。
いやいや、メールだから読み方で意識しなければ変なおじさんにならない……はず。
そもそもP.S.自体がおじさんっぽいのだが、編集長は五月先生のこと若いって言っていたし…。
お会いする前にあれこれ詮索したくなく、前任の本田さんにも人柄等は何も聞いていない。
午後は急遽先輩から頼まれて取材に出ていた。
会社に戻ると6時を過ぎていてお腹もなっている。
急いでメールの受信箱を確認。
五月先生からは3時過ぎに返信がきていた。
カチッとクリックする。
ドキドキ
小川様
ご連絡ありがとうございます。
申し訳ございませんが今週の金曜日は予定がありますので、来週の木曜日はいかがでしょうか。