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花ときどき雨  作者: 三日月 夕
5/26

summer

「もう忘れちゃったよ」


「嘘おっしゃい!」


右手でスマホの時刻を確認する。


10時30分か……


今から帰ればシャワー浴びてアメトーークに間に合う。



「ほら、プリンにする?シャーベット?」


山ちゃんはデザート表を見せてくる。



「う〜ん……」



凛ちゃんのことをふと思い出したり、夢に見たりすることはあっても、こうして口に出すと自分の想いが生々しく感じる。


でも気持ちの整理にもなるし、誰かに聞いてもらいたい気持ちもある。


そして聞いてもらうならゲイのオカマ以上に最適な人間はいない。


山ちゃんには全部お見通しなのだろう。



「小説にしないでよね……?」



「もちろん!」



「……じゃあこれ!スペシャルパフェ!」



福笑いのスペシャルパフェは団体客向けで、かなりでかい。

そして花火がついて運ばれてくる。


今までに何回か運ばれているのを目にしたことはあるが、自分で頼もうと思ったことは一度もない。



「あらやだ!そんなに食べられるの?!残したら怒るからね!」


ちなみに一杯3千円もする。



「はーい」


私も山ちゃんも甘党だ。いくらお腹一杯とはいえ、きっと食べられる。……きっと。


「夢は毎回違うし、いろんな人が出てきて現実の今と混ざったりするんだけど、今日は違ったんだ。


高校二年生の五月、本当にあった場面……」




写真部に入っていた私は、土曜日に部活仲間と学校で待ち合わせをしていた。

校内や学校周辺の写真を撮るための集まりだったけど、正直なところ、ただみんなでダベりたいだけだった。


いつもなら真っ直ぐ部室に行くのだが、ノートだか何かを取りに一人で教室に寄った。


誰もいないと思ってドアを開けたら、そこには凛ちゃんがいた。



「あれ!凛ちゃん!何してるの?」


「びっくりした〜!今、部活の休憩中。ななちゃんは?部活?」


「うん。これから校内写真撮ったらみんなで公園行くんだ〜」


「いいね〜、楽しそう。今日天気いいから」


「もう部活っていうかピクニックだけどね」


私と凛ちゃんは教室から同じ空を見ていた。



「スペシャルパフェお待たせ致しました〜!」


「わ〜〜〜!!!」

「きゃ〜〜!!!」



花火が!!


パフェが!!


すごい!!!!


私達はすかさず写メを撮りまくった。


自撮りもして、満足したところで花火が消えた。


こんなにはしゃいだのはいつぶりだろう。




「ん〜!!美味し〜い!!

で?なんか話でもしたの?」


パフェを突っつく手が止まらない。


このペースで食べても、底に到達するのはかなり先だ。


「うん……」




凛ちゃんの手にはバイオリンが握られていた。


私は、凛ちゃんがバイオリンを持っているのを見るのは初めてだった。


正確には初めてじゃないんだけど、仲良くなってからは初めてだ。



「自主練してたの?凛ちゃんのバイオリン聴いてみたい!なんでもいいからお願い!」



「え〜〜!無理無理、困ったなぁ……」


凛ちゃんは照れながら笑う。


弾いてくれないか〜、としょんぼりした私を見て、


「え〜……何にしよう……」



窓の外を見ながら適当な曲を考えてくれる。


ワクワク。


青い空が広がり、どこからか生徒達の笑い声が聞こえた。



スッとバイオリンを構える。


凛ちゃんの細い指がしなやかに動く。


どこかで聴いたことのある懐かしいメロディー。



開いていた窓から風が入り、カーテンが大きく揺れた。






この時、私は深く深く落ちたんだ。






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