忘れられない人
思わず深い溜息が出る。
こんなこと誰かに話すの初めてだ。
お酒は沢山飲んだはずなのに急に酔いが醒めてきた。
「初めて人に話すんだけどね……」
自分から話を振っておいて変に緊張する。
「うん、うん♡」
山ちゃんはすっかり乗り気だ。
「やっぱりあれ? 女子校の運動部はモテるってやつ?」
「ううん、その子は吹奏楽部だった……。
……凛ちゃんていうんだけどね、
確かに運動部でかっこいい人は結構いたし人気はあったんだけど、
凛ちゃんはそんな感じじゃないんだよね……」
だめだ、酔いが完全に醒めた。
「凛ちゃんか……。
どういう系?」
「うーん……、
細くて、背が高くて、明るくて……
運動部の子と仲良くて、うちの学年で目立つグループだった。
私とは全然違って……」
「グループってあったわよね〜」
「まぁ高校生だし、グループってあったけどみんなサバサバしてて、誰とでも話してたけど」
「同じクラスだったんだ?」
「高校生の時ね。
席も割りかと近くて結構よく話していたよ。
まぁ何話したかなんて全然覚えていないけど……」
いつの間にか熱燗が空になっていた。
でも今日はこれ以上飲むのはやめておこう。
きっと飲んだところで酔えないんだから。
「それじゃあ美少女とか?」
「う〜ん、美少女でもないんだよなぁ……
綺麗な顔立ちで、結構中性的な感じ。
細身だけど健康的な感じで……
なんていうか……カリスマ性?
目立つグループにいても、凛ちゃんは他の子とオーラが違うの。
あ! あとバイオリンが相当うまかった」
「お嬢様ね〜!」
山ちゃんは両手をパチパチと叩いた。
「まぁお嬢様学校だったからさ……。
私全然詳しくないんだけど、有名なコンクールで優勝したとかで、中学の時に全校生徒の前で弾いてもん。
中学の頃は知らなかったから、こんな子がいるんだ〜程度だったんだけどね」
「そんなにすごいなら音大行ったでしょ?」
「それが違ったの!
てっきりみんな凛ちゃんは音大行くと思っていたからあの時はびっくりした〜。
うちの学校、指定校推薦で音大あったのに。
まぁ凛ちゃんなら推薦でどこの音大でも行けただろうけど。
でも一般入試でK大だよ?
はぁ……
かっこいいよね……。
バイオリンも天才的だったけど、
勉強も出来たし、スポーツも得意だった。
何でも飄々とこなしちゃうの」
山ちゃんの誘導尋問はいつもながら上手い。
もう昔話が止まらない。
はぁ……。
きっと酔ってるんだろうな、私……。
「なるほどね〜。確かに惹かれるかも。
実際モテてたんじゃない?」
「そうかも……。部活の先輩だったら絶対憧れちゃうよね……」
「……実際のところ、女子校ってレズビアンていた?」
「どうなんだろう……。いなかったと思うんだけど……
実際、私だって凛ちゃんに惹かれていたからなぁ。
まぁ表立って付き合ってる人はいなかったよ」
山ちゃんがやっとカルアミルクのグラスを空にした。
料理のお皿はだいぶ前から空になっている。
私の話だけが酒の肴だったのだ。
そろそろお会計かな……。
山ちゃんがスッと立ててあるメニュー表をとる。
「ねぇ、今日は私が奢るからデザート頼みましょうよ。
だから教えて。
一体どんな夢を見たっていうのよ。
仕事で忙しくても一日中頭の中いっぱいだったんでしょう?」