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花ときどき雨  作者: 三日月 夕
24/26

打ち合わせ③


月曜日。


職場に来て、なんで自分は凛ちゃん、いや五月先生と新作についての意見交換を具体的にして来なかったのかすごくすごく後悔した。


これじゃあ最初と全く一緒…。


結局私がしたのは思い出話だ。


「は〜ぁ……。」



しかも私の人生相談みたいな話までしちゃったし。



やっぱり同級生同士って無理あるのかな…。


こんなんだったら笹山さんも連れて行けばよかった。


昨日は土曜日を思い出しては一人で浸っていたのに。



でも凛ちゃんから何も相談されなかったし…


なにより自信あり気な笑顔が気になる。


大丈夫かなぁ……。




午後からは担当補助をしている作家さんに随行して取材に出た。



遺伝子組み換えについて小説を書きたいそうで、つくばの研究機関まで来た。


作家さんがどうしてもこの研究機関で話を聞きたいと熱望され、私が何度も頼み込んでやっと取材許可が下りた。


ここ最近は遺伝子に関する資料を集めたりしていて、私も少しは詳しくなったんじゃないかな。



………と思っていたのに、


研究者の話は専門用語が多く、単調な喋り口調で眠くなっててしまった。



片道二時間かけて出向き、二時間話を聞いたらまた二時間かけて帰ってきた。


月曜日だというのに、一週間以上の疲れを感じた。




会社に戻り、一人で給湯室で紅茶を淹れていると電話が鳴った。



……凛ちゃん⁈



「…もしもし。」


「あ、ななちゃん?今大丈夫?」


凛ちゃんから電話をかけてきてくれるなんて予想外だった。


少し辺りを見回して近くで人の気配がないか確認した。


「うん。どうかした?」


「ちょっと聞きたいんだけどさー、ななちゃんて子どもの頃何か飼ってた?」


「え⁈どうしたの⁈急に。」


「あはは、参考にちょっと。」


「参考にならないと思うけど…。ハムスターなら飼ってたよ。」


「ハムスター?あの小さいやつ?」


「うーん、ゴールデンハムスターだからかなり大きい方だったけど。プテラノドンていうの。」


「プテラノドン⁈名前が⁈」


「ふふふ、うん。弟がつけてお兄ちゃんが悪ノリしたの。メスだったから私はもっと可愛い名前にしたかったのに。」


電話の向こうで凛ちゃんが爆笑している。


久しぶりにこの話をした。


高校生くらいまではよくネタにしていて、話す度にみんなから笑われた。


プテラと過ごしたのは小学生の頃、たった一年半だったけど、その何倍もの時間を私の中で生きている。


私はやっぱりプテラが愛しくて可愛くてたまらない。



「もーう、凛ちゃん?」


「ごめん、ごめん。なんか可愛くって。ねぇ、その話小説にしてもいい?」


「え⁈うん、もちろん…。」


まさかそうくるとは…。


嬉しいけど恥ずかしい不思議な気分。


「じゃまたねー!」


「えっ!ちょっと…!」


仕事の話をしようと思ったのに、もう切れてしまっている。



それから三日間、凛ちゃんから連絡が来ることはなかった。




「もし今日も話が進まなかったら、悪いが来週以降の打ち合わせはお前一人でやってもらう。」


プリンスホテルのロビーで凛ちゃんを待っていると、笹山さんは腕を組みながら神妙な面持ちで言った。


「五月先生は今が大事な時期だ。ただ、俺のほうも来週は秋山先生の取材旅行があるし、影山先生の締め切りも迫っている。」


「そうですね……。」


「出張中でも電話はなるべく出れるようにする。お前一人で抱えろと言ってる訳じゃない。だから…」



「お待たせしております。」


凛ちゃんは後ろからふいに現れた。


私達は急いで立ち上がった。


「お疲れ様です。ささ、どうぞこちらへ。」


「失礼します。」


凛ちゃんは笹山さんを確認すると、少しイタズラな笑顔で私を見た。


こらこら。


「それで新作ですがどうしましょうか…。」


笹山さんは話が始まったばかりなのに汗をかいている。


「新しいものを用意してきました。」


凛ちゃんは書類ケースから紙を取り出した。


前回同様、一枚はびっしりと概要が書かれていて、一枚は手書きで登場人物や舞台となる場所、時系列が作図してある。


「どうぞご一読願います。」


凛ちゃんは前回と違い、なぜか私だけを真っ直ぐに見つめている。


私は読む前からその視線に耐えられそうにない。


「では拝読させていただきます。」





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