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花ときどき雨  作者: 三日月 夕
22/26

夕日


私、もう何も言えないじゃない…。



凛ちゃんの横顔を黙って見つめていると、凛ちゃんは紅く染まった空を見つめ、ふっと笑って歌い出した。



『♪きっといつの日か 笑い話になるのかな

あの頃は青くさかったなんてね』


私も凛ちゃんに合わせて歌う。


『♪水平線に消えていく太陽みたいに

僕らの青春もサラバなのだね 』



私達が高校一年生で同じクラスだった時、合唱コンクールで歌った曲だ。


合唱コンクールは中学生の部、高校生の部をそれぞれ合同で行う。


どちらも三年生が本気で難しい曲を歌って入賞するのが定番だが、私達のクラスは入賞こそしなかったものの人気投票で3位になった。


これはすごい快挙だった。



「私、メゾだった。」


「私、伴奏。」


「あ!そうだったよね!合唱譜なくてさ、凛ちゃんが作ってきてくれたんだよね。」


「そうそう、メー子が凛ちゃんなら出来るよ!って言ってさ。」


「そうだった、そうだった!でも一晩で作ってきた凛ちゃんは本当にかっこよかったよ。」


「ふふふ。みんなさ〜、そうやって煽てればいいと思って。」


「そんなことないよ〜。本気で思ってたって。」



「懐かしいな…。」


「うん、懐かしい……。」



凛ちゃんはまた歌い出した。



『♪真っ暗闇に僕一人ぼっち

ピンク色の風も薄紫の香りも音楽室のピアノの上』


私もまた凛ちゃんに合わせて歌う。


『♪大人になればお酒も ぐいぐい飲めちゃうけれど

もう空は 飛べなくなっちゃうの』




日はだいぶ落ちてきて、東の空に月が淡く輝いている。



「私さ、あの頃は大人になればお酒も飲めるようになるし、空だって自由に飛べるようになるんじゃないかって思ってた。」


凛ちゃんは遠くのみなとみらいを細目で見つめている。


「でもやっぱさ、空を飛べてたのはあの頃だったんだよね。」



「それって……今自由に、…好きなように小説を書けないってこと?」


「あ、ううん。そうじゃなくてさ…。なんか小説を書くだけじゃなくて、生きれば生きるほど自由じゃなくなっていく感じ。」


「うん……。分かるような気がする。」


私もこれまで転職を繰り返す度、どんどん自分の選択肢が狭まっていくのを感じた。



「そもそも私、小説家になりたくてなった訳じゃないし。」


「そうだったんだ……。」


「ねぇ、ななちゃんはなんで編集者になったの?」


「うーん、そうだなぁ…。

小さい頃から本を読むのが好きだったんだけど、2年前にね、普通の事務の仕事してて、会社で人間関係がうまくいってなくて、彼氏には二股されて…散々な時期があったの。

その頃は何も考えたくなくて、本の虫になってた。ひたすら本屋通って。

でね、本を選んでる時に中学生くらいの女の子がいたの。一生懸命本を選んでて。

そしたらその子、私が中学生の時に読んだ本を手にとって…。

なんか嬉しくなっちゃった。

それで思い出したの。

中1の頃、私全然クラスに馴染めなかったんだ。ほら、うち中学受験だから一から友達作らなきゃでしょ?私すごい人見知りで…。その頃、教室でずっと本ばかり読んでた。

本を開けばちっとも寂しくなんかなかったし、一人じゃなかった。

それで、あ、私本に携わる仕事がしたい、って思った。

彼氏と別れてね。」


こんな話、山ちゃんにはもちろん、付き合いの長い友達にすら話したことがない。



「そうだったんだ……。」


「あ、でも中2のクラス替えでめぐちゃんとか仲良い子いっぱいできたし、中1の時も別に虐められてた訳じゃないから。」


「あぁ…うん。」


「中1の時、本がなかったら本当に辛かったと思う。

学校では話す人いないし、家に帰れば両親は喧嘩してるし。

私の居場所なんてどこにもないってずっと思ってた。」


「…うん。」


「でも本を開けば、私は私じゃないし、学校は学校じゃなくなる。ほら、笹山さんも言ってたよね。凛ちゃんの作品には救いがあるって。」


「あー、言ってたね。」


「例えば経済的だったり、病気だったり理由があってワーキングホリデーとか山村留学とか行けない人でも、凛ちゃんの本を開けば行けちゃうの。すごいことだよね。」



「ふふふふ。」


「え⁈なんで⁈」


「やっぱななちゃんすごいや。」



凛ちゃんのこの笑顔、久しぶりに見た気がした。







。.。.+゜*.。.*゜+.。.。。.。.+゜*.。.*゜+.。.。


いつもありがとうございます。


あと4話で一章が終わります。もう少々お付き合い下さい。



今回、話中に出てきた歌はこちらです↓。


©︎チャットモンチー『サラバ青春』

https://m.youtube.com/watch?v=OmZUfQWBEzc#action=share



すごい名曲。


10代の人に、合唱コンクールや卒業式で是非歌ってほしいです。




※著作権法第32条に基づき歌詞の引用を行いました。

※いろいろ面倒なようなので改稿の際にオリジナルに換えるかも


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