山下公園
電車に乗り込んで、冷静になった。
私、完全に地元着だ…。
白い綿のロングスカートに灰色のパーカー、そして黒のコンバース。
週末お決まりの服装で、だいぶくたびれている。
しかも化粧だってしていない。
日焼け止めを塗って眉毛を描いただけだ。
もう30ちかい顔でスッピンはさすがにキツイ…。
時間があったら安いコンシーラーとか買いたいけど…
そんな時間ないし…。
なにしろ元町に着くのに1時間近くかかる。
せっかく凛ちゃんに会えるのに…。
でも凛ちゃんは会いたいなんて一言も言ってない…。
そもそも1時間も待っていてくれてるかな…。
気持ちばかり焦って、元町に着くまで何度も何度もスマホの時計を確認した。
山下公園に着いたのは18時を少し過ぎていて、空は綺麗な夕焼けだった。
さすがに休日ということもあって人は少なくない。
凛ちゃんどこかな…。
あ!
凛ちゃんは手すりにもたれ、海を見ていた。
ジーパンに黒いTシャツ、その上にチェックのシャツを羽織っている。
本当にモデルさんみたい…。
「凛ちゃん…!遅くなってごめん!私…」
「あぁ、ななちゃん…。」
凛ちゃんの笑顔はどこか寂しげだった。
突然、電話が鳴った。
え!今?!
…私?!
スマホの画面には山ちゃんの文字。
あ……忘れてた……。
「出なよ。電話。」
「ごめん……。」
促されなかったら間違いなく終話ボタンを押していた。
「もしもし。」
(あ!かおり?わたし今日暇だったからもう福笑いるのよ〜。あんたも来れそうだったら)
「ごめん!実は今横浜にいて…。」
(えっ?!横浜?!なによ、デート?!!)
「違う違う、…友達。」
(怪しい…!あんた、私との約束忘れてどういうことよ!)
「本当ごめん!今度奢らせて?あ、私明日暇だよ。」
(明日〜?……あー、明日は無理だわ。じゃ来週末にしましょ。)
「うん、分かった!ごめんね、じゃあ、はーい。」
ふぅ。
「ごめんね、もう大丈夫。」
「約束あったんだ?ごめんね。…男?」
「うーん…、どうだろう…。」
男だけど男じゃない。
こんな時に約束入れてて電話きちゃうし、山ちゃんて本当になんてキャラだ。
「ふーん。」
「私、すっかり忘れてて。あ、私こそ呼び出された訳でもないのに勝手に来ちゃったし待たせちゃって……。」
「ううん、来てくれて嬉しいよ。」
凛ちゃんが私の服装をまじまじと見た。
「そっか、今日休みだったか…。」
「完全に地元着のまま来ちゃって。電車とかすごい恥ずかしかった。」
「なんで?可愛いよ。」
凛ちゃんはサラリとこういうことを言う。
「もー!」
満更でもないから照れ隠し。
凛ちゃんの肩を数回叩いた。
「えー!なんでなんで?本当なのに。」
本当に可愛いと思って言ってくれてるから、尚更罪が重い。
私も凛ちゃんの隣の手すりにもたれた。
何を話せばいいのか……。
海からの風は少し冷たい。
「あ!そうだ!私、凛ちゃんに聞きたいことあったんだ!」
「ん?何?」
「こういうこと聞いちゃいけないのかもしれないんだけど…、前任の本田さんと何かあったのかなって思ってて。」
「別に何もないよ。」
「そうなの?でも凛ちゃんから担当変えるように話があったって聞いて…。」
「あぁ、そうだね。あの人私語が多くて…。」
「……………。」
凛ちゃんの横顔が冷たい。
線引きだ。
これは私にも必要以上に関わるなっていうこと?