表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花ときどき雨  作者: 三日月 夕
2/26

福笑い


ビールが美味しいと思うようになったのは最近だ。


「それでね、もう本当にすごかったんだから彼女!

私まるで加害者みたいで居づらいったらなんの!」


もう回り回って本田愛子の今日の話を3回もしている。


あれ?4回目か?


「でもさ、そんだけいい男ってことでしょ?

あんたその五月先生とどうにかなっちゃいなさいよ」


枝豆を頬張りながら他人の不幸を楽しんでいる彼は唯一の飲み仲間だ。



「もうさ〜

完っ全に山ちゃん楽しんでるよね〜


あ〜〜! 明日から会社行きたくなーい!」


「あら! やだ!

こんな楽しい事そうそうないわよ〜♡」


一つ訂正します。


彼ではなく、彼女。


山本義一(42歳)


戸籍は正真正銘の男。


あれ? じゃ彼でいーのか。


あ〜もうなんなんだよ今日は!



「やっぱ事実は小説より奇なりって言うものね〜♡

私が恋愛小説家だったらこのままあんたと五月先生くっつけちゃう♡

そんで〜、本田ちゃんとあんたのドロドロ書くの♡」


「山ちゃん……、それ絶対ないから」



ジョッキのビールを飲み干す。


これ何杯目だっけ?


おかわり何にしよう……。


もう考えるのが疲れた。


机にうなだれる私に山ちゃんが乗り出して聞く。


「だってあんたもうずっと彼氏いないじゃない! 恋だってしてないんでしょ?

あたしだって心配してやってんのよ」


うぅ……。


「ありがとう山ちゃん……」


もう何が何だか泣けてくる。




山ちゃんとはこの居酒屋「福笑い」で出会って2年くらい経つ。


「福笑い」は駅のそばにあり、昔ながらの赤提灯が店前に飾ってある。



仕事帰りに一人で寄っていて、ある日女将さんに話しかけられた。


「お姉さん、一人でいろいろ抱えてないで、全部吐き出しちゃいなさい。

話なら全部あそこのオカマが聞くから」


クルリと振り返った先に一人でカルアミルクを飲む山ちゃんがいた。


後で聞いた話だけど、話好きの山ちゃんにしょっちゅう話をせがまれて女将さんは手を焼いていたらしい。



あぁ、そういえばあの日も私はこんなふうに机にうなだれていたんだっけ。





「それよりあんた私の新作ちゃんと読んだ?どうだった? あんたでも読めた?」


……読めてない。


「読んだよ〜面白かったよ〜」


「あら本当⁈ なーんだ、連絡くれないし忙しそうにしてるし、どうせいつもみたいに読んでくれてないのかと思っちゃったわ!

あ〜、よかったぁ〜。今回のちょっとマニアックだったかなーって不安だったのよ、でもほら編集さんは大丈夫って言うし、でもペラペラペラ


余程不安だったのか途端に饒舌になる山ちゃん。


山ちゃんはオネエだけど立派なミステリー作家だ。

すごく有名でサスペンス劇場にもなったことがある。


でもごめん山ちゃん、私ミステリー苦手なんだ。



それより山ちゃん、私の会社の話は……?


あ、もう3回も同じ話してるか……ははは……。















「ねぇ山ちゃん……、山ちゃんには忘れられない人っている?」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ