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花ときどき雨  作者: 三日月 夕
16/26

現実


会社に戻ると一気に夢気分が抜けた。


私が戻るなり、担当上司の笹山さんの怒号が飛んだからだ。



「新作のプロット預かってこなかった?

お前何考えてるんだ!」


「…はい、すみません……。」


「すみませんじゃねぇだろ?

五月先生だぞ!

余計なダメ出しでもしたんじゃねーのか?!」


「全然そういうんではなく…」


「そういうってどういうだよ!

ふざけんなよ!」


「……すみません。」


私は頭を下げてひたすら謝るしかなかった。


こんな展開予想外だった。


次の新作会議までまだ余裕はあるはず。


でも五月先生に対しての期待度は大きかったから。



狭い社内、周りの視線が痛かった。



思い出せば、今日は新作についての具体的な話すらしてこなかった。


私がした話といえば、高校の思い出話だ。



これがバレたら……。


うっ…………。




頭の中で北の国からが流れ出す。




それから笹山さんの怒号は1時間続き、どうしても急用という社員が割り込んでくれて幕が引いた。



笹山さんは社内の隅々、いや天井裏のネズミでさえ聞こえるくらいの溜息をついた。



「とりあえず来週また打ち合わせするんなら俺も行くから。それまでに何かあったらすぐ言え。それからこれも。お前の仕事な。」


大量の仕事を押し付け、笹山さんは遠くのデスクへ消えて行った。





はぁ……。


来週の打ち合わせを考えると胃が痛い。






五月暁 【サツキアキラ】はネット小説が話題になり、前任の本田さんがスカウトしてデビューした。


そのネット小説は私は読んではいないが、異世界に転生する話だとか。



デビュー作「ワーキングホリデー」は、その名の通り、海外を舞台にワーキングホリデーの若者4人を軸にした話で笑いあり、涙ありで若者の間で人気となった。



次作は、山村留学の小学生が主人公で、山村の人々を巻き込んだドタバタストーリー。



そしてその次は中年男性が主人公で、自殺しようとした森で殺人事件を目撃してしまい、逃げて彷徨っているうちに殺人犯と遭遇し、お互い気付かずに意気投合して帰路を目指す

というサスペンスのようなギャグのようなヒューマンストーリー。



次々と幅広い層のファンが増え、実写化の要望だって多い。



とくに前作の、水族館を舞台にしたオムニバスラブストーリーは「泣ける!!」と若い女性から圧倒的な支持があった。




テンポ良く読めて、クスリと笑える箇所があり、終盤ではしんみりする。


そして読み終わったら


「あーもう読み終わっちゃった!」

と名残惜しくなる。


そんな作家だ。



今の社内の作家の中で、一番新作を楽しみにしていた。


きっと私なんかとは遠い世界を生きてきた人だと思っていた。



まさか凛ちゃんだなんて。



遠い日、同じ時間、同じ教室で、同じ授業を聞いて、同じことで笑っていた。







9時頃に山ちゃんからの着信履歴があった。



残業で出れなかったけど、きっと福笑いのお誘いだと思う。



最近は忙しい日が続いて、山ちゃんとは全然会えていない。


こうして今まで多くの友達が疎遠になっていった。


でも山ちゃんは、お互い時間が出来たらまたいつものように自然と飲める。


歳も性別も職業も超えて笑いあえる。



山ちゃんに話したいことがいっぱいだよ。


でも話さないほうがいいのかな……。





早く進む現実に、私だって追いついていけない。







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