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花ときどき雨  作者: 三日月 夕
14/26

青空の下

カシャーン…!



遠くで店員さんが金属のトレーを落とした音がした。


「失礼致しました!」


店員さんの声が響く。



静かなロビーに流れるクラッシックの音楽。



凛ちゃんが目の前にいる、


これだけで頭がいっぱいなのに、私は凛ちゃんと仕事の話も進めなきゃいけないなんて。



私は髪を耳にかけた。


「……辞めるって?えっと…やっぱり私が担当じゃやり辛いよね。そしたら一度持ち帰って上司と相談」


「いやいや!そうじゃなくて!」


「え?」


顔を上げると、凛ちゃんは真剣な表情をしていた。


目が合う。


たったそれだけで鼓動が早くなる。



「場所を変えようか。」



凛ちゃんがスッと席を立った。








私達はホテルの前からタクシーに乗った。



「どっか公園まで。」


凛ちゃんが運転手に言った。


これは笑うところ?


私は不安で笑う気になれなかった。



「はい、公園ね〜。この辺だとあそこがいいかなぁ。」


運転手はブツブツ言いながら発車させた。



「はぁ〜…。懐かしいなぁ、もうずっと…誰とも連絡取っていなかったから。」


凛ちゃんはいつもの笑顔に戻っている。


その笑顔に、私の心はフワッと軽くなった。


「凛ちゃん変わらないなぁ。」


「え?そう⁈ななちゃんは綺麗になったよね。」


「え!なに言ってるの!」


本気で照れる。


嬉しさが隠しきれないで、私絶対今変な笑い方してる。


急いで窓の外を向いた。


「凛ちゃんは20歳の時にあった同窓会にも来なかったよね。そういえばメー子結婚したって。」


「え!そうなんだ!ななちゃんは式行ったの?」


「ううん、誰かがfacebookに写真あげてて、それで見ただけ。今年だったかな?」


「そうなんだ〜。もううちらそんな歳だもんな〜。」



「あ!凛ちゃんは?結婚は?」


慌てて凛ちゃんの方を向いた。



「ふふ、してないよ。そんな相手いないし。」


よかった…。



あれ?なにホッとしているんだろ、私。


どっちにしろ私は凛ちゃんと結婚できるわけじゃないのに。


「そっか…。私も。ふふふ」



凛ちゃんとこうして笑いあえるなら、やっぱり私は五月先生の担当をやりたい。




タクシーが到着したのは、思いの外大きな公園だった。


桜はもう散ってしまったが、青々とした樹々が気持ちいい。


「うーん!」


凛ちゃんが伸びをした。


「えりちゃんもめぐちゃんも結婚したし、近藤さんなんて年下のバイト君と出来婚だよ。あ、相原さんも結婚してもう子供二人いるって。子供いる人達でママさん会やってるらしいよ。そういえば古文の野口先生去年亡くなったって!」


私は歩きながら同級生の話をひたすらした。



こんな穏やかな時間は久しぶりだ。


凛ちゃんと二人、春の昼下がりに公園を歩く。



夢ならまだ覚めないで。





「ななちゃん何でも知ってるね〜。」


「凛ちゃんは知らなさ過ぎなんだよ。谷口さんの結婚式だって行ってないよね?」


「あー…、呼ばれたんだけど……、あの時いろいろあって。」


「……そっか。」



考えてみたら、小説家として生きるなんていろいろ苦労だってあったんだろうな。


みんなと連絡取らないのだって、小説家としてやっていくために苦渋の決断だったのかも。


懐かしいからって、私は無神経だった?



「…………。」


「ななちゃん?」


「ううん、ごめん…。」


「うん?………それでさ、あの……、小説の話なんだけど。」



凛ちゃんは大きな木の下に座り込んだ。






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