表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花ときどき雨  作者: 三日月 夕
11/26

シナモン


朝日が眩しくて、目を細めながら返信を作成した。



04/07 09:38

「優しいお言葉ありがとうございます。

木曜日にお会いできるのを楽しみにしています。」



もうこれ以上の言葉はなかった。


返信ももう来ないだろう。




……と思っていたのに。






04/07 13:58

「私もお会いできるのを楽しみにしています。

過去の作品で何か読んでいただいたものはありますか?」



この時、いや基本的に、恒常的に、私は山のような仕事に追われている。



だから五月先生のこのメールを見た時は思わず、



「このかまってちゃんめ!!!」



と思わずにはいられなかった。



だって私、読書感想文は昔から大の苦手で。




でもこれも大事な仕事のうち。




04/07 15:16

「五月先生の作品は今まで全て拝読させていただいております。

どの作品もユーモアに溢れ、先生の優しい人柄が伝わり、いつも新作を楽しみにしておりました。

今度の作品で、微力ながら先生のお力になれることを光栄に思っております。

よろしくお願いします。」



少し硬くなってしまったが事実だ。


五月先生の作品は売れているだけあって、本当に面白い。


この想いをもっとしっかり伝えたいのに、私の言葉ではただの社交辞令にしか見えない。


我ながら情けない。




もし次のメールで1つ1つの作品の感想を求められたらどうしよう。



私だって丁寧に語りたいけど、なにしろ抱えている仕事には〆切が沢山ついている。




この日は返信はこなかったが、私は何度も何度も受信箱の確認ばかりしていた。



きっと明日の朝、出勤したら来ているだろう。








でもやっぱり翌朝確認してもメールは来ていなかった。



見落としたり、間違えてゴミ箱に入れたりしてないか確認までしてしまった。




夕方、忘れた頃に他の用件でメールをしていたついでに、五月先生からのメールに気がついた。



返信はもう来ないとちょっと思っていた。





04/08 16:20

「自分には十分過ぎるお言葉です。

ありがとうございます。

小川さんは東京の人ですか?」




えーっと、

五月先生はどこに住んでてご出身はどちらだったっけ。確か本名とか引き継いだ書類のどっかにあったな。



お会いする前に確認すればいいから、今は質問にだけ答えておこう。




04/08 17:55

「現在は東京に住んでいますが、出身は横浜です。」






返事はすぐに来た。



やっぱり。


すぐに来るような気がした。




04/08 18:02

「横浜いいですね。ベイブリッジから見える夜景が好きです。」



私も!


ちょっと嬉しい。



04/08 18:05

「私もです。海外旅行から帰ってきた時にあの景色を見ると、帰ってきたなぁ、と思うんです。

でも港の見える丘公園が一番お勧めです。」



04/08 18:08

「素敵ですね。

港の見える丘公園は好きでよく行きますよ。」



04/08 18:12

「本当ですか!

もうすぐバラが見頃で綺麗な季節ですよね。」



私は軽食を取りながら五月先生とメールを何通か交わした。




今日は遅くまで残業になりそうだ。


残業代なんてついてないに等しい。



でも気分は不思議と下がらない。



五月先生とのメールは、何てことない毎日に突然降ってきたスパイスのようだ。




スパイスといっても、ターメリックとかガラムマサラとかじゃなくて……






そう、シナモンのような。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ