第91話 ロックさんとお喋り
いつもの様にリアカーを引いて、都市遺跡から帰ってくる。
荷台にはミケちゃんとポチ君の二人に戦利品のスロット4台にソファー、カーテンなどの布地だ。
北門から街に入り、そのまま宿へ。
宿の前に着くと。
「それじゃおにいさん、あちきらはソファーの埃落としてくるにゃ」
「行ってくるねー」
そう言って、二人はソファーを頭上に掲げながら、裏庭へと運んでいく。
「それじゃ俺はこっちだな」
スロットを抱え、中へ。
「すいませーん」
「あ、何だ? お、スロット持ってきたか。いくつだ?」
「4つ持ってきました。中に運びますね」
「おう、俺も手伝うぜ」
二人で中へと荷物を運ぶ。
「値段はこの前と同じ1台3000でいいか?
この前みたいにシャワーの時間を増やすことはできねぇけど」
「それなんですが……、その前にちょっと情報が欲しくて」
ロックさんはあの巨人の徘徊する遺跡中央で探索したことのある元ハンターだ。
中央部で探索するヒントをもらえるかもしれない。
「なんだ?」
「遺跡中心部の探索はどうやってやるんでしょうか?」
「ハハ、背伸びは良くねぇぞ? あそこに入れるようになってから考えな」
「実は今日、壁を登ってきたんです」
「何……」
「そこで巨大なグールを見かけ、岩を投げられました」
両手を広げ、投げられた岩の大きさをあらわす。
「ちょっと待ちな。中で話をしよう」
そう言って、カウンターの奥を指差す。
カウンターの奥は事務室のような場所だった。
アゴで指されたイスに座る。
「で、グールはどんなだった?」
ロックさんがタバコに火を着けながら聞いてきた。
「大きさは14mぐらい、頭が2つに腕が4本。
とんでもない力で巨大アメーバを引き裂いていました」
「ふむ、本当に見てきたようだな」
「あ、それと腕は1本、肘から先が無くなっていました」
「それは大砲担ぎにやられた奴だな」
「大砲担ぎ?」
はて?
前にも何処かで聞いたことがあるような気がする。
「戦車道とか言って大砲担いでるアホだ。
アホが伝染るから近寄らん方が良いぞ」
「戦車道ですか?」
「ああ、人は戦車を越えられるとか言って戦車から引き抜いた大砲担いだり、ミサイルランチャー背負ったり。
戦車の履帯や装甲を体に巻きつけてるアホの集まりだ。
へたくそなエンジン音が聞こえてきたら、足早にそこを去った方がいいぞ」
「はぁ……」
「頭のおかしな奴らだが、それでも奴らランクAの集まりだったりするからな。
巨大グール、ギガントなんかも狩ったりするんだけどな」
「あの巨大グールをですか?」
「ああ、戦車の大砲があればやれないことはないらしい。
ただ、あの巨体を持ち帰れないし、リスクばっかで儲けが無いってことで今じゃ誰もやらないけどな」
「なんか聞いていると巨大グール、ギガントでしたか?
複数居る様に聞こえるんですが」
「ああ、前に俺はギルドの調査依頼で中央部を探ったことがあるが。
その時でギガントは18体確認している。
何であそこにだけ居て、巨大化してるのかまではわかんなかったけどな」
「いぃ!?」
「まぁ、そんなわけだから中央の探索は止めたらどうだ?」
18体……数が多すぎる。
アレ1体だけに注意して、迂回しながら向かえばなんとかなるか、と考えてたが。
心が揺らぐ。
ミケちゃんやポチ君の安全を考えれば、止めるか?
ロックさんがじっとこちらを見てくる。
この人はあそこで探索をしていたんだよな。
なら、何か他の道があるはず。
まだ決断するには早い。
「……いや、あそこで探したい物があるので」
「そうか」
「探索の仕方を教えてもらえませんか? おねがいします」
立ち上がり、頭を下げる。
部屋に沈黙が満ち、タバコの紫煙がゆらりと立ち昇る。
…
……
「ふぅ……、壁を登ったと言ったか?」
タバコを灰皿に擦りつけた。
「はい」
「ハハ、みんな最初はそうするんだ。そして壁を越えたところでこれはヤベェと気づく。
そして中に入ろうとはしない。
だが、ときたま諦めず、中を探索しようとしてる奴らもいる。
俺たちがあそこで稼げたのもそういう奴と知り合えたからだ」
「探索の先人と言った人たちですか?」
「ああ、あそこにはあの中を移動する抜け道があってな。
そこを縄張りとするガイドと呼ばれるハンターがいる。
彼らを道案内として雇えれば、あの中でお宝探しが出来る」




