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第89話 壁の内側

 部屋にカリッ……カリッ……と小気味良い音が響く。


「カリカリ美味いにゃー」

 ミケちゃんが片手にカリカリの入った袋を抱えながら、スナック菓子のようにボリボリと貪る。


「だねー」

 ポチ君も笑顔で貪っている。

 しっぽはずっと揺れっぱなしだ。

 それを横目で見ながらこちらは相談を続ける。


「さて、それじゃ壁を越える侵入ルートを探さないと」

 クーンへと話しかけた。


「そうですね。戦前にあった環状高速道路が崩れてしまったとなると……。

 どう越えていったものか?」


「クーンはその道路のことを知っているのか?」


「私が生まれたのは戦争が起きてからなのでデータとしての知識でしか知りませんが、倉庫地帯でもある中央区をぐるりと囲う様に伸びていたようですね。

 そこから環内の巨大倉庫郡に向けて専用の道路を延ばし、上空から見たらクモの巣の様になっていったようです。

 戦前は自動運転のトラックが途切れることなく荷物を積み込んで各地へと運び、この都市は地域一体の物資を運用するロジスティクス担当の都市だったそうです」


「そうだったのか」

 倉庫地帯となるとかなりの物資、もといお宝も期待できそうだが。

 問題はどうやって持ち出すか、かな?


「それでは私はここで他にも何か無いか情報を探ってみますね」


「頼む、それじゃ壁の偵察に行ってみるか」

 そろそろ動くか、とミケちゃんたちの方を向けば。


「お、動くにゃ?」

「うん? 行くのー?」

 二人が口元に食べかすを付けながらこちらを向く。


「うん、行くよ。ちょっと待って……」

 ハンカチ代わりに使ってるボロ切れで二人の口元を拭い。

 出発の準備をする。


「それじゃ、行ってくるにゃー!」

「うん!」


「はい、行ってらっしゃいませ」


「それじゃ、クーン。また」


「はい」


 いつものようにエレベーターシャフトを登って屋上まで行き、そこから地上まで降りる。

 二人をリアカーに乗せ、向かうは中央を囲う壁だ。

 日はまだ高く、頂点に差し掛かり始めたところだ。

 日が出ている間はグールたちは屋内などの日陰で休んでいるようだからな。

 壁付近までは行ったことがないが、今なら大通りを安全に走っていけるだろう。

 背後から聞こえるカリカリ音を聞きながら、リアカーを引いていく。


 大通りを進み、壁の近くまでやって来た。

 高さは15mほどで中央をぐるりと囲う長大な壁。

 遠目から見た時はガレキの山かと思ったが、近くで見ればガレキが積もってるのは地上の基礎部分で、頂上の方は真っ直ぐなコンクリートの壁が見える。

 なんか上半分が崩れ、下半分が残ったって感じだな。

 元は環状の高架道路ということだが前の世界の横方向がスッカスカな道路ではなく、トンネル状の横も壁で埋めたタイプの道路のようだ。

 だが、これくらいならビルを登る様によじ登って行けそうだ。


「登るならあちきに任せるにゃ!」

 何時の間にかリアカーを降りて、俺の横に居たミケちゃんが胸を叩く。


「うん、おねがい」


「はい、ミケちゃんコレ」

 ミケちゃんのカバンにロープを詰めて用意をする。

 その間ミケちゃんはじっと壁を眺めている。

 やがて頂上の方を見て頷くとおもむろに歩き出す。

 オブシディアン・タールを暴走させると大きくジャンプ!


「よっ! ほっ! にゃっ、と!」

 ノミの様にぴょんぴょん飛びながら、あっという間に頂上まで着いた。

 頂上で何かにロープを結び付ける。

 どうやら太い鉄骨が出ていたようだ。

 結び付けたロープをぐいぐい引っぱると、こちらに向けて手を振る。


「じゃ、次はポチ君で」

 俺は登るのに時間がかかるので、身軽な二人が先行だ。


「うん。じゃ、お先にー」

 ロープを伝ってポチ君も登っていく。

 ポチ君も重さを感じさせない動きでするすると登っていく。

 ポチ君も上に辿り着き、手を振ってきたので俺の番だ。


 オブシディアン・タールを暴走させ、体重を吸わせる。

 それでも5kgほど残るが体の軽さは13分の1になった。

 背の荷物は暴走させていない2つめのオブシディアン・タールに吸わせてあるから、風船のような軽さだ。

 身軽な体でロープをするすると登り伝っていく。

 下部のほうはガレキが散乱して積みあがっており、そこを足場に登っていく。

 中段より上が真っ直ぐな壁に近い部分だ。

 真っ直ぐと言っても大きくヒビが入り、あちらこちらに崩落したような穴が開いている。

 そういった箇所を足場にロープを手繰り寄せて登って行くが。

 途中の崩落した穴の隣を通過しようとしたところで、突然手を掴まれる!


「な!?」

 崩れたガレキ隙間から干物のような手が伸び、ロープを持つ方の手に掴みかかってきた!


「ぎぃぃ……」

 ガレキの隙間から赤い目が覗く。

 グールだ。

 高架道路の中は完全に崩れたわけでもなく、空間が開いているようだ。

 グールが掴んだ手を引き寄せようとしてくる。


「この! 放せ!」

 ロープを掴んでいない片方の手で腕を引き剥がそうとするが、離れない。

 相変わらず力だけは強い。

 掴まれた手は離れず、ぐいぐい引き寄せられていく!

 壁のヒビに片足を掛けて、なんとか踏ん張り堪える。


「げぇぇ!」

 グールが焦れたのか、ガレキの隙間から上半身を出して噛み付こうとしてきた!


「うぉぉ!?」

 すかさずグールの額を掴み、押しのけようとするが姿勢が悪く、うまく力が入らない。

 ガチッ!ガチッ!と鳴らせながらグールの黄ばんだ歯が迫ってくる。


「こらー! 放すにゃー!」

 ミケちゃんが上空から降ってきた!

 ミケちゃんが上段に構えた硬鞭を振り切る!

 俺の横を落ち様にグールの腕を叩き折った。

 が、ミケちゃんはそのまま落ちていった……


「にゃぁぁぁ、ぁぁ……」


「ミケちゃーん!?」

 ミケちゃんは?と見るが、途中から落下する速度が落ちていった。

 アーティファクトを暴走させたのだろう。

 ならば、とグールを見るが。

 片腕を失い、体勢を崩したグールが落ちそうになっている。

 そこに右手でマグナムリボルバー(M686)を引き抜き、照準、引き金を引く。

 隙間の暗がりの中に暴力的な銃声と一瞬の銃火が吸い込まれていき、至近距離からの射撃でグールの頭が撃ち砕かれる!

 頭を失い、ずるりと下に落ちていくグールを目で追いながら、地上を見る。

 地上では無事降りたミケちゃんが手を振っていた。


 その後は出来るだけガレキの隙間を避けるように登っていき、頂上まで無事辿り着く。

 そこから壁の内側を覗くが、半分はガレキの山だ。

 かろうじて残っている、崩れかけた建物がちらほらとあるが、どれが銀行だろう。

 ここからじゃわからないな。


「あ! おにいさん、アレ見るにゃ」

 ミケちゃんの指差す方を見ると、俺たちの真下の道路。

 透明な球体が地面を這っており、それからグールたちが逃げている。

 グールよりも倍以上でかいな。

 巨大アメーバのようだ。

 3体のグールが角を曲がりビルの陰へと入っていくと、それを巨大アメーバが追っていく。

 その先、曲がり角のビルから手が出てきた。

 ビルの角を掴むように出てきた手は……でかいな!?

 それだけでグールぐらい大きさがありそうだぞ?

 手に続き、顔も出てくる。

 これまた巨大な顔が……2つ!?

 全身が出てきた。

 体長はグール5つ分ぐらい、8mぐらいか。

 二つの巨大な頭に4本の腕、うち1本は肘から先が無い。

 まるで阿修羅像のような巨大グールがビルの陰から出てきて、その影をアメーバに落とす。

 アメーバも大きいが、影の中にすっぽりと入ってしまった。

 アメーバが動きを反転!

 逃げ出そうとするが、巨大グールがその体を掴み、引き裂いた!

 中の核を指で摘むと、そのまま指ですり潰す。


「うわぁぁ……」

「えー……アレはないにゃぁ……」

「か、帰ろうよー……」

 俺も唖然とし、二人もドン引きだ。

 怖気づいたポチ君が俺の腕の裾を引っぱる。


 巨大グールは指で潰した核をそのまま口元まで運び、あーん……と口にしようとするが。

 上を向いた巨大グールが俺たちと目が合った。


「にゃぁぁ!!」

「「ひぃぃ!!」」

 悲鳴を上げる俺たちに巨大グールが手を伸ばす!

 だが、届かない。

 安心したのも束の間、今度は近くのガレキを手に取った。

 それをぶん投げてくる!


 放物線を描いて、俺と同じくらいのコンクリート塊が振ってくる!

 狙いは大きく外れ、俺たちから離れた所に着弾するが。

 ドゴォン!!……と地響きを立てながら周囲を巻き添えに砕け散った!


「にゃー!? 逃げるにゃー!」

「ひぇぇ!」

 二人がすぐに後ろを向き、ぴょん!と落下していく。


「ま、待って……」

 体重を完全に消せない俺はロープを滑り落ちる。

 そうしている合間にも第2弾が飛んできて、上からガレキを撒き散らした!

 破片が頭を擦る。

 当たった部分が一瞬熱かったが、そんなことに構っていられない。

 ほとんど自由落下のような速度でロープを滑り落ちていく。

 地上付近で強くロープを握って、ブレーキ!

 皮手袋が熱を帯び、着地の衝撃が足裏に響く。


「おにいさん! こっちにゃ!」

「リーダー! 早く!」

 リアカーを引いて、二人が俺の前にやってきた。

 慌てて荷台に飛び乗る。

 すぐに二人が駆け始め、いつもと逆の立場になる。

 壁から離れていく際中、後ろを向くが。

 壁を飛び越えてきた大きなガレキが、さっき俺が着地したところの近くへと落ちていった。



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