第86話 商談2
都市遺跡で拾ってきた物の買取は、衣服が全部で15万シリング。
パソコンが20万シリングか、それ相当のクレジットでの支払いとなった。
服はこのまま売れば良いとして、パソコンが問題だな。
どちらの支払いにするか、二人と相談しなければ。
「仲間と相談したいのでちょっと中断していいですか?」
「ええ、どうぞ。お二人はお嬢様の部屋にいらっしゃるはずです。
呼んで来ましょう」
メアリーさんが出て行き、しばらくして3人を連れて戻ってきた。
「おにいさーん! 見て見てにゃー」
おめかししたミケちゃんが走ってきた。
いつもの黒いコートは脱いで若草色のワンピース、頭に金色のリボンを巻いている。
「お、可愛いね」
「にゃー、シャロちゃんに貰ったにゃー」
「ふふ、そうね。ミケちゃん」
ちょっと目を放した間に二人はあだ名で呼ぶ間柄になったようだ。
ポチ君もチェックガラの短パンとベストに着替えていて、何故かげっそりとしている。
とは言え、貰ったのか……。
「すいません、高価な物をいただいた様で……」
「ふふ、良いのよ。お二人はお友達ですもの」
「マブダチにゃー」
ミケちゃんがほくほく顔でしっぽを振っている。
「えっと……、おいくらぐらいでしょうか?」
売り払う服代からさっぴければいいかな?
「あら、お二人にあげた物だからお返しなんていいのよ」
「いえ、そんなわけには」
「こちらとしてもお二人と仲良くなりたくて渡した物ですし、送り返されても困りますわ。
あら、どうしましょう? そうね……それじゃ今度また遊びましょう?
私、ハンターの仕事のお話聞きたいですわぁ」
シャーロットさんが俺の方をチラリと流し見する。
何故か俺の後ろにメアリーさんが佇み、影を落とす。
あ、コレ高くつくパターンだ……
「ん? それぐらい任せるにゃ!」
「ま、まぁ、遊びに来るぐらいなら」
また遊びにくる約束をし、今度は3人で相談だ。
「衣服の分は良いとしてパソコンの方の代金をシリングとクレジット、どっちで貰うか?」
「あちきはクレジットで良いと思うにゃ。車、買う資金にするにゃ」
「僕もそれで」
「そうだね。それじゃクレジットで」
「ご相談はまとまりましたか?」
メアリーさんがこちらを伺ってくる。
「はい、衣服の方がシリングで、パ……データボックスの方をクレジットでの支払いでお願いします」
パソコンは前の世界の略称だからか、上手く変換されずこちらの世界の言葉で言い換える。
「わかりました。すぐにご用意いたします」
メアリーさんが青服の人へと視線を送るとすぐに青服の人が部屋から出て行く。
メアリーさんはそのままシャーロットさんの後ろへと控えた。
「あら? 車でも買うのかしら?」
「そうにゃよー」
「ええ、資金はまだ少ないのですが」
「そういえば今年のバザーは5日後だったわね。
どういうの買うのかしら?」
「でかいのが良いにゃー」
「僕は強いのー」
二人が抽象的に話すが、実際の現物を見てないからどういうのが買えるのかもわからないんだよな。
「あの、バザーでどんな車が売りに出されるか知っていますか?」
「いろんなのがあるわよ。この街に来るのは毎年50台ぐらいだけど。
中型ならトラックやバギー、セダン。他にはバイクとかの軽車両。
後は目玉商品として戦闘車両も毎年1台来るわね」
「おお! 一番でかいのはどれにゃ?」
「んー、トラックかしら?」
「僕、戦闘車両見てみたいなー」
「目玉商品はいつもオークションで初見せになるから、一緒に見に行きましょうねー」
「うん!」
「それで値段とかもわかりますか?」
「えーっと……メアリー?」
シャーロットさんがコトリと頭を傾げた後、後ろへと振り返る。
「去年は一番安い50ccの軽車両型で100万シリングでした」
「でしてよ」
「100万かぁ……」
「お、2つ買えるにゃ」
ミケちゃんがニコニコ、しっぽを揺らす。
「2つも買えるなんてすごいねー」
ポチ君も同じくだ。
二人は知らないみたいだが50ccって原付バイク程度の物だよなぁ。
多分、一人乗り用だと思う。
それで2台は厳しいな。
「中型車だとどれくらいになりますか?」
「メアリー?」
「去年は一番安いバギーで850万だと記憶しています」
「高いにゃ!」
「高いよー……」
びっくりしてミケちゃんはしっぽをピンと上げ、ポチ君はしっぽを垂らしてしまった。
「な、なるほど。ありがとうございます」
できれば車が欲しいが手持ちの現金では難しい。
ただ、デュプリケイターに格納した電子マネーの方が1140万クレジットほどあるから、これを使えれば買えそうだな。
問題はこれをどうロボットの商人たちに渡すか?
相手はロボットだしカード決済は出来そうに思える。
肝心のカードもまだ生きてるしな。
問題はカードの名義だ。
他人名義のカードを使えば、どうやって手に入れたか詮索されるだろうし、最悪なんらかの法に引っ掛かるか敵対行為として見られるか?
デュプリケイターに入ったコレをなんとか自分名義のカードに移すか、……何とか現金に換金する方法を探すか?
いや、バザーまで後5日。
時間が無いなぁ……。
「おにいさん、どうしたにゃ?」
考え込んだ俺を心配してミケちゃんが下から顔を覗き込んでくる。
「ん、大丈夫だよ。ちょっと金策考えてただけ」
「それでしたらデータボックスをもっと持ってきていただけませんか?
持ってきていただいたデータボックスと同じ程度の美品でしたら同じ額で買い取りますよ」
メアリーさんが提案してきた。
予備がもう一台あるし正直、悪くない。
「はい、考えておきます」
「よろしくおねがいいたしますね」
メアリーさんが頭を下げたところで青服の人が現金をお盆に載せて戻ってきた。
クレジットの方は札が2束、シリングの方は1束ともう半分ぐらいのがクリップで留められている。
3人で手分けして数え直し、商談終了だ。
「それじゃ、またにゃー!」
「またねー」
「ええ、また来てね。ギルドを通してうちに連絡できるようにしておくから」
「サトシさん、これを」
メアリーさんが名刺のような紙を渡してきた。
「これをギルドに見せれば当家にすぐ連絡が行きますので。
商談なり、何かありましたらこちらへご連絡を」
「ありがとうございます。あ、俺たちの連絡先も教えた方がいいですね」
いつも泊まってる宿の名前を教え、そろそろお暇することにした。
メアリーさんに内壁のゲートの外まで送ってもらい、一度宿へ。
現金の入ったカバンをミケちゃんとポチ君がぎゅっと抱きしめて緊張している。
さて、金策どうするかなぁ。
シャーロットさんの所で仕事を貰えば、原付バイクぐらいのなら人数分揃えられそうだが……