第85話 商談
遠目に白い大きな屋敷が見える。
2階建てのようだが横に広く、屋根は3角形で日光を青く照り返す。
入り口からこちらへ黄土色の艶のあるタイルが敷き詰められ続いており、門で止まる。
門の前に黒服の老人とその左右に青い服の若者が立っていた。
「ようこそ、いらっしゃいました」
老人が俺たちに向けて話しかけてくる。
「サトシさん、こちらは執事のポーリアンです。
屋敷の案内はこの者が行ないます」
「説明にあずかりました、皆様のご案内を承っておりますポーリアンと申します。
何かご不便がありましたら、どうぞ私めにご相談ください。
トニー、門を開けてもらえるか。それでは、皆様こちらへ。
レニー、お客様の荷物を」
青服の片割れがこちらへとやって来る。
「お客様、荷物は私めがお預かりいたします」
「いえ、自分で持って行きます」
リアカーの上にミケちゃんたちも乗っかっているので、他人に任せるのは……ちょっと。
「サトシさん、こちらの事情で申し訳ないのですが彼らも仕事でして。
任せてもらえると助かります」
んー、どうするか?と考えていたところ。
「ミケちゃん! ポチ君!」
シャーロットさんがやってきた。
「お、金髪さんにゃ」
ミケちゃんが荷台から降り、片腕を上げながらシャーロットさんに近づいていく。
ポチ君もそれに続いた。
「にゃーっす」
「こんにちわー」
「きゃー! 今日も可愛いわぁ」
3人で何かじゃれている。
2人もリアカーから降りたし、俺の横でじっと待機している青服の人が可哀想だ。
任せるか。
「すいません、それではお願いします」
リアカーを引く棒をくぐり、離れた。
「はい、お任せください」
「それでは皆様こちらです」
ポーリアンさんの先導で屋敷の中へと入っていく。
中へと入り、通されたのは奥の部屋。
大きな長テーブルが部屋の真ん中を占有しており、真っ白なテーブルクロスが掛けられていて、上にはフォークなどの食器が乗せてある。
食堂のようだ。
それぞれ案内され席に座る。
荷物は別室で預かってくれているようだ。
とりあえず席に座ったミケちゃんとポチ君が何だ、何だ?と辺りを見渡す。
「まずはお食事にしましょう」
シャーロットさんのその言葉にミケちゃんたちの目が輝く。
テーブルにちょこんと手を乗っけて待つ。
水と一緒にサラダとパンが運ばれてきた。
サラダは上に焼いた魚の薄切りが乗せてあり、ギザギザの葉っぱに小さな芋、その上にオイルと一緒に白いみじん切りにされたものが振りかけられている。
サラダにしては割とボリュームがある方だ。
だが、ミケちゃんたちには不評だったようで、これだけー?という視線をシャーロットさんに送る。
「これは前菜ですわ。もちろんこの後にメインディッシュとデザートが続きましてよ」
「にゃんだー、それならいただきますにゃー」
ミケちゃんがフォークを手に取ると、ポチ君も辺りをうかがいながらフォークを手に取った。
「ふふ、それでは待たせても悪いですからいただきましょう」
シャーロットさんの挨拶と共に食事に入る。
サラダを食べるのは久しぶりだな。
こっちに来てから肉食ばかりだった。
サラダの上に乗せられている魚は燻製のようで口に入れると焦げ臭さと共に濃縮した木の香り、噛めば塩味の強い魚の風味が口いっぱいに広がる。
葉っぱは爽やかな青臭さにほんのりと苦味、上に掛けられていた白いみじん切りのものはニンニクに似ているがピリッと辛味もある。
燻製香と魚の生臭さが口の中に重く残るのを、葉っぱの爽やかさが流してくれる。
全部まとめて口に入れれば、ニンニクの香りが魚と葉っぱの風味の間に入って結び付けてくれて実に美味い。
掛けられているオイルも甘酸っぱく塩が効いていて、これをパンにスプーンで振りかけて食べるのも美味しかった。
芋も他が薄い食材の中、食べ応えがあって良いな。
ミケちゃんとポチ君もウマウマにゃ、と喜んで食べている。
続いて、エビのようなものの入ったクリームパスタ。
ようなもの、というのはこのエビの身が二又に分かれているからだ。
……もしかして頭2つないかな、コレ。
これも魚介の旨みに負けない程度にクリームと香辛料の風味が効いて、調和が取れており美味しかった。
ミケちゃんが気に入ったのか、皿を舐めだそうとしたので慌てて止める。
シャーロットさんがクスリと笑う。
次のがメインで厚みのあるステーキ。
ただ、女性向けサイズなのか少し小さい、直径は拳程度だ。
ナイフで切り、一切れ口に入れるが……コレ、牛だ。
こちらの世界に来てネズミやカエルは食べたが牛も居たのか。
「これ、おいしいにゃー。何の肉にゃ?」
「これは東の遠い草原で獲れる装甲バッファローのお肉ですわ」
「へー、初めて聞いたにゃ。おにいさん、今度獲りに行くにゃ!」
「そうだねー」
「あらあら、場所は歩いていくにはずいぶん遠いと聞いたことがあるから、車が無いと難しいのではないかしら?」
「むー、車にゃ。おにいさん、なんとしてでも買うにゃ!」
「はは、頑張るよ」
この後、デザートのプリンを食べて食事はお開きとなった。
初めて食べるプリンの味に2人はカッと目を見開いた後、夢中でかき込み。
目を瞑り、その味を思い返しているようだった。
「それでは商談に入りましょうか」
場所を移し、裏手の殺風景な広間に。
板張りの床の上にリアカーが停められている。
持ってきた服を取り出し、確認してもらった。
数は全部で150着、ズボンやスカートも入れての数だ。
「やはり物は良さそうですね」
「当然にゃ。あちきが厳しい目で選んで持って帰って来た物ばかりにゃよ」
ミケちゃんが腕を組んで、自身有り気に言う。
「ええ、そうね。それじゃ後はメアリーに任せるわ。
ミケちゃんたちは私と一緒に部屋で待ってましょう?」
「ええー? ちゃんとお話するにゃ」
「部屋にはさっきのプリンもあるわよ」
その言葉にミケちゃんとポチ君のしっぽが反応する。
ミケちゃんが上目遣いでチラリとこちらを見た。
何故かシャーロットさんもチラリとこちらを見る。
「行って来ていいよ」
「あらー、話がわかりますわね。それじゃモフモフちゃんたち行きましょう」
「行ってくるにゃー」
「行ってくるねー」
2人がシャーロットさんに連れられ、部屋を後にする。
残されたのは俺とメアリーさんに青服の人たちだ。
「それでは商談なのですが、一着1000シリングでどうです?」
早速、メアリーさんが切り込んでくるが……どうしよう。
ポチ君まで連れて行かれたのはマズかった。
バザーだと売られてる服が50~150シリング程度だったから、かなり良い金額なのだろうが。
「んん……、多分良い額なんですよね」
「ええ、個別に査定するならそれぞれ値段が変わりますが、今回数が多いので一括でこの値段でどうでしょう?
この値段はお嬢様と事前に相談して、状態に応じて決めた値段です。
今回は状態は優良と判断いたしました」
「そうですか」
値段をシャーロットさんが決めたというなら、あまり警戒しなくても良さそうかな。
あの人、ケチには見えないし。
「それではその値段で。あとパソコンもあるんですけど、そちらは?」
「パソコン? ああ、機械のことですね。これはデータボックスの様ですが、確認しても?」
こちらではパソコンのことはデータボックスと言うようだ。
「ええ、どうぞ」
メアリーさんがパソコンをいじっていくが、次第に興奮し始めた。
「すごいですね! ここまで完全な状態で動く物を持ってくるとは思いませんでした。
中身のデータが入って無いのが気になりますが……」
「中身についてはわかりません。多分、新品で放置されていたんじゃないですかね?」
嘘だ。
だが、中の情報についてはこちらが調べるまでは知られたくない。
「そうですか。それならここまで完全な状態なのも頷けますね。
それで値段なんですけど……20万シリングかそれに相当するクレジットでどうです?」
思わぬ高値だ。
だが、クレジットでも払ってくれると言うなら俺だけの判断は出来ないかな。
ミケちゃんたちと相談しなくては。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次の投稿は再来週の金曜日(29日)で来週は中篇を書くので、1週間休みます。