第7話 宿
十分な収穫を得て、ギルドへと戻る。
戻る途中、西のスラム街で嫌なものを見た。
粗末な服を着て、こん棒を持った大人5人が子供を取り囲み、なにやら脅しているのだ。
カエルを取り上げたところを見ると、カツアゲか・・
可哀想で助けてあげたいが、俺もあんなのには関わりたくないので足早にその場を立ち去った。
ギルドまで戻ってきた。
買取はガレージの方へ来てくれと、おかまさんに言われてたのでギルドの正面玄関の隣にある大きく開いたシャッターの方へと入る。
中には結構な人が集まっている。
日が沈んだので狩りを切り上げてきたハンターたちで、ガレージの中には買取を求める行列が出来ているようだ。
俺もその列の一つに並び、他のハンターたちを観察する。
粗末な服を着たのから、俺のような装備をした厳つい男たち、そして驚いたことに車だ。
ガレージの前に車を横付けにして、シートに包まれた大きな猪のような獲物を降ろし、列に並ぶ男女がいた。
列に並ぶのは男だけのようで、女の方は車を運転して立ち去ってしまう。
現れた二人を見て周りがざわめく。
「見ろよ鉄腕だ。」
「鉄腕って言うと騎兵隊の片割れか。」
「あいつら昼にもクレイジーボアを持ち込んでたぞ。」
「マジかよ?どんだけ稼ぐんだよ。」
あの人は鉄腕と呼ばれてるのか、その噂される本人はシートに包まれた大猪を片手で持ち上げ列へと並んだ。
どんだけだよ!
あんなの片手で持ち上がるものじゃないだろ!
どう見ても200kg以上ありそうな大物だぞ。
鉄腕さんを観察してみるが、緩やかなロンゲの大男で戦闘服をきっちり着込み、手にもグローブを付けている。
だが持ち上げるときに腕の裾から銀色の肌が一瞬見えた。
ロボットなのだろうか?
だが、顔は普通の人間に見える、サイボーグか?
装備といえば、こん棒ばかり見ていたので、車やサイボーグを見たのは驚きだ。
文明が崩壊した世界だと聞いていたが、崩壊前の技術を今でも持ち続けてる連中も居るのか。
車はともかく、サイボーグは前の世界でも無いほどのハイテクだ。
すげぇ!生身の体を捨て、機械の体を得た戦士とかカッコいい!
俺はそんな憧憬の眼差しをもって鉄腕さんを観察する、周りの奴らも恐れや尊敬の眼差しで鉄腕さんに注意を払っているようだ。
そんなことをしていたら俺の買取の番が回ってきた。
「あら、さっきの坊やじゃない、ネズミは狩れた?」
おかまさんだ。
「こんばんは、おかげさまで教えてもらった場所で2匹狩り取れました。
ありがとうございます、買取をおねがいします。」
俺はそそくさとバックパックからハゲネズミを取り出す。
「まぁ、2時間かそこらで2匹狩れるなんてやるじゃない。
肉の状態は・・と、問題ないわね、こっちのネズミのお尻ちゃんがちょっと痛んでるけどこれぐらいなら問題ないわ。
2匹で100シリングになるわね、いいかしら?」
「はい、おねがいします。それと一つお伺いしたいのですがこの辺で安く泊まれる場所を知りませんか?」
「あらあら、そんなに畏まらなくてもいいのよ、宿ならギルド提携の宿が西門の近くにあるわ。
4階建てのアパートでロック・モーテルって看板が出てるわ。
大部屋での雑魚寝が一人50シリングよ。」
ハゲネズミ1匹と宿代が同額か・・、これならなんとかやっていけそうだ。
俺はおかまさんに礼を言い、西門へと向かう。
辺りはすっかり暗くなっていたが、町にはところどころに電球が吊ってあり、意外と明るい。
ロック・モーテルはすぐに見つかった、看板が電球の明かりで照らされていたおかげだ。
ロック・モーテルの外観は、塗装の剥げたコンクリートの四階建てで、裏には駐車場もあるようだ。
入り口は年季の入った木製の大きなドアで、開けるとカラン、カランと鈴の音がする。
ドアを開け、中をうかがう様に覗くと、正面に恰幅のいいハゲたヒゲもじゃの怖いおっさんがこちらを値踏みするように見ていた。
「いらっしゃい、客か?」
「は、はい、一番安い部屋はいくらになりますか?」
「1階の大部屋での雑魚寝が50シリングだ、長期宿泊でも割引は無い。
3階と4階の個室は一泊300シリング、こちらは長期宿泊なら割引する。
2階も雑魚寝部屋だがこっちは女用だ、階段を上がるなよ。」
「それじゃ大部屋で一泊おねがいします。」
「1階の8番ベッドが空いてるからそこを使ってくれ、ベッド横にロッカーがある、これが鍵だ。
貴重品の管理は自己責任になる。」
「はい、ありがとうございます。」
鍵を受け取った俺は大部屋へと向かう、ベッドは汚れも無く清潔でカーテンで仕切りが付いていたが部屋自体が臭かった。
俺以外にも、ハンターとおぼしき奴らが泊まっているが装備は貧弱で薄汚れていた。
大部屋での雑魚寝は低級ハンター向けってことか。
寝るところは確保したし、次は体を清潔にしたい。
風呂とまでは言わないがシャワーぐらいはないだろうか?
受付に聞きに行く。
「すいません、シャワーはありますか?」
「シャワーは上の個室ならあるが大部屋には無いぞ、体を拭きたければ裏の井戸を使え。
ただしバケツ1杯までだ。」
「わかりました、それとタオルの貸し出しなどはありますでしょうか?」
「貸し出しはしていないがまだ使ってない清潔な雑巾なら30シリングで売るぞ。」
んー、これを買ったら残金20シリング。
でも体を拭くものを持ってないし、明日も川に入る予定だから買うしかない。
俺は雑巾を買い、裏の井戸へと向かう。
裏の井戸は金属でできたポンプ式の井戸だった。
先客がいたようで、中学生くらいのオレンジの髪の女の子が水を汲んでいた。
「あら、お客さんですか?」
「こんばんは、水をいただきたいのですがいいですか?」
「ええ、どうぞ。
私はこの宿の娘でウェンディと言います、洗濯ものがありましたら言い付けください。
籠1つ分で30シリングでやってます。」
女の子は営業トークをした後、宿へと戻っていく。
俺も手早く体を拭き、戦闘服も雑巾で軽く拭って中に戻ることにした。
カーテンの仕切りをしき、戦闘服を脱いでロッカーにしまい、俺はTシャツとパンツ一丁でベッドに横になりながら、今日の戦果と自分の身に起きたことを考える。
本当に異世界に来たんだなぁ・・と思いふける。
正直、こちらの世界に来たことへは半分吹っ切れている。
散々泣き喚いたし、前の世界への未練も薄い。
俺はニートで穀潰しだったからなぁ、家族への情はあるが家で肩身が狭かったってのもあった。
それよりも、今はこちらの世界での不安と期待が大きい。
こちらの世界で生き抜くには金もいるし、身を守る武力もいる。
金はハゲネズミ狩りでなんとかなりそうだ。
武力はアーティファクト集めとSHOPアプリで何とかなるか?
後、この世界のことをよく知らないし、情報収集もしなければ、おかまさんにそれとなく聞くか?
でもあの人、勘が鋭そうだしギルドに怪しまられるのはマズイなぁ。
そこらへんも考えないとな。
などと、思いふけっていた俺の耳に近くのベッドの奴らの話し声が聞こえた。
「今日、南の娼婦買ってきたよー。」
ほうほう・・。
夜にもう1話あげたい。