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第83話 街中の巨大アメーバ

 薄闇の中、目の前に透明な壁が迫ってくる。

 その姿はまるで水族館の巨大な水槽のようだ。

 中に浮かぶのは直径30cmほど、双子の様に寄り添う青紫の核。

 その水槽が俺たちを取り込もうと押し寄せてきた。


 それに対し、槍を構えて腰を落とす。

 ミケちゃんとポチ君は後ろで銃に手を添えた。

 迫ってくる透明な壁に対し、穂先を向け待ち構える。

 全長6mの巨体、腕の力だけで刺し貫けるとは思えない。

 相手の動きに合わせて刺し貫く!


 さらに巨大アメーバが迫り、衝突の瞬間。

 槍の穂先がズブリ……とめり込む感触と同時に両足が宙に浮く。

 踏ん張りが一瞬と持たず、押し込まれた!

 すごい力だ。

 そのまま押され、後ろの2人へとぶつかる。


「にゃー!? ビリッと来たにゃー!」

「きゃぃーん!?」


「うわ! ごめんー!」

 2人へと感電させてしまった!

 だが、感電したのは2人だけではないようだ。

 巨大アメーバも動きが止まる。


「だ、大丈夫にゃ! ちょっとピリッと来たけどこれぐらいなら平気にゃ」

 ミケちゃんが全身の毛を逆立てながら俺の背を押す。


「ぼ、僕も平気だよー」

 ポチ君もだ。


 二人の後押しを受けて槍を押し貫く!

 巨大アメーバの体は柔らかいゴムのような硬さがあり、それが槍を挟んで奥まで刺し通すのが大変だが。

 体重を掛けて押し込めば、ズブズブ……と槍がどんどんめり込んでいく。

 ゴムと違い水分が多いので摩擦力が弱く、槍を捻りまわせばヌルッと刺し進んでいった。

 巨大アメーバが痺れた体で奥へと逃げようとする。

 そうはさせない。

 どんどん押し進み、槍を捻りこませた。

 核まであと少しというところで逆に巨大アメーバがこちらへと進んでくる?

 アメーバの体が槍を持つ俺の手に触れ、絡みつく……。

 その瞬間、手が引っぱられた!


「うわ!?」

 まるで水の中に手を入れたら、見知らぬ誰かに腕を引っぱられたような感触に思わず槍を放してしまった。


 巨大アメーバはそのまま体を前方に伸ばし、槍そのものを飲み込もうとしている。

 俺の手が離れた所為で感電も終わり、徐々に動きが戻ってきていた。

 このままではマズイが、素手で触るわけにもいかない。

 その時。


「ポチ! 青い石貸すにゃ!」


「う、うん!」


 ミケちゃんがポチ君からスパークトルマリンを受け取り、暴走させる!

 全身の毛を逆立てさせながら、背の硬鞭を引き抜く。


「にゃぁぁ!!」

 俺の横を掛け抜け、巨大アメーバに一撃!

 アメーバの動きがまた止まる。


「おお! 効いてるにゃ。もっと喰らうにゃ!

 秘剣・雷鳴切りにゃ!」

 ミケちゃんがベシベシッ!と叩く。


 叩かれるたびにアメーバの体が震える。

 槍を覆おうとしていた動きも止まり、槍の石突に当たる部分が俺にその空洞を向けていた。

 ここで決める!

 アーティファクトの暴走を止め、マグナムリボルバー(M686)を抜く。

 銃口を槍の空洞に差し込み。


「これで終わりだ!」

 引き金を引く。

 ダンッ!……とトンネル内に発砲音が響き、鼓膜をビリッと揺らす。

 銃口から吹き上げた火炎が槍の空洞を一瞬真っ赤に染め上げ、マグナム弾が突き進み。

 先端の捻れた穂先を撃ち抜く!

 朝顔のつぼみが花開くように先端が割れ、内側から開いた。

 弾はそのまま透明な壁を突き進み、青紫の核の片割れへと撃ち込まれる!

 青紫の核の表面が裂け、そこから青い体液が噴き出る。

 水に墨汁を垂らしたように、透明なジェルへと混じっていく。

 残った核が慌てて逃げようとする。

 核は透明な部分よりも電気に強かったか、まだ動けるようだ。

 思いの外、速い!

 おたまじゃくしが泳ぐかのように体を左右に揺らしながら、透明な部分を泳いでいく。


「逃がすか!」

 引き金を連続で引く。

 撃ち出された弾丸が透明な壁を突き進み、やがて止まる。

 それでも30cmは壁を貫いていく。

 後続の弾がその穴を通り、どんどん突き進む。

 6発目で逃げようとした核を捉え、撃ち抜いた!

 2つめの核も内側から破裂し、その青い体液を噴き出す。




 巨大アメーバがぶるっ……と震えた後、萎み始め水が噴き出す。

 満杯の風呂に飛び込んだかの様に水が溢れ、足元を濡らしていく。


「やったにゃ! 倒したにゃー!」

 ミケちゃんがベシベシッと硬鞭でアメーバを叩き。

 ポチ君が恐る恐る指で突っつく。


「ふぅ……、終わったか」

 リボルバーを腰に戻し、額の汗を拭ったところ。

 前方のアメーバからメキメキ……と聞こえてきた。


「ん?」

 見てみるとアメーバに刺し込まれた槍が、その体が収縮するのにつれ曲がっていく!


「うわぁぁ! 引き抜いて! 早く!」

 慌てて3人で槍を引き抜こうとするが。


「抜けない……にゃー!」

 槍の先端が開いたことでそれが引っ掛かり、後ろに体重を掛けて引き抜こうとしてもビクともしない。

 槍はそのまま曲がってしまった。


「ああ……3000もしたのに……」

 ミケちゃんとポチ君が俺の腰をぽんぽんと叩く。


「しょうがないにゃー」

「だねー」


 仕方ないと諦める。

 どっちみち先端は割れ、また使うには修理が必要なほど壊れている。

 柄も曲がってしまったから、鉄くずとして鍛冶屋さんに引き取ってもらうか。


 さて、次は後処理だ。

 アメーバの体は水分を大量に失い、半分以下に縮んだ。

 高さ1m、幅は2m……無いぐらいかな?

 まずは討伐の証となる2つの核をナイフで取り出し。

 残った体もナイフで切り分けていく。

 1つ50kg程度に分ければアーティファクトの力で持ち運べる。

 ミケちゃんたちより一回り大きな塊をそれぞれ背負い、外へと運んでいく。


 外へと出ると多数の視線が俺たちを出迎えた。

 コンクリートの土手に座り込む多数の子供たち。

 リアカーの番を任せていたヨウ君が申し訳無さそうに頭を下げる。

 その妹たちは友達とお喋りに夢中だ。


「あ、ミケちゃーん!」

 子供たちがミケちゃんへと手を振った。

 ミケちゃんがそれに振り返す。


「ん、仕事欲しいにゃ?」

 ミケちゃんが座り込んだ子供たちに話しかける。


「うん、巨大アメーバ倒すって聞いたから。運ぶよー」


「しょうがないにゃあ」

 ミケちゃんがチラッとこちらを見てきたので、俺もポチ君も笑顔で頷く。


「あざーっす」

「だなぁ」

「で、やんす」

 西のスラムの3人組のおっさんたちまで来ていた。

 今日もリアカーを引いている。


「前回と同じ条件で運ぶぜ。どうだい?」

 確か、前回は1500シリングだったか?

 ぼったくりだ。


「いえ、結構です。自前のリアカーがあるので」


「そんなこと言うなよぉー。俺たちも最近生活が苦しくて……」


「ダメです」

 おっさんたちを適当にあしらっているところ、俺たちを囲む群れに中年のハンターたちも加わってきた。

 俺たちを見てざわめいている。


「……その背負った塊。まさか、やっつけたのか?」

 頭の寂しいハンターが代表して尋ねてきた。


「そうにゃ! ふふん♪」

 ミケちゃんが胸を張って応える。


「冗談だろ……」

「こんなちびっ子たちがか?」

「爆弾でも使ったのか?」

 中年のハンターたちが驚愕もあり、訝しげもある視線で俺たちを見つめる。


「おいおい、この兄さんたちはスラムの方に出た巨大アメーバも退治したんだぜ。

 街中に出た排水溝に篭るしか能のない、根性無しのアメーバ如き簡単さ。

 ねぇ?」

 3人組のリーダー格のおっさんが揉み手をしながらこちらへ促してくる。

 くっ……、ちょっとぐらい仕事を任すか。


「ギルドから正式に依頼を受けている。正真正銘、俺たちで倒したよ」

 俺の言葉に中年のハンターたちは驚愕し次の瞬間、歓声を上げた。


「ありがとう! これでまた仕事が出来るぜ」

 口々に礼を良い、握手を求めてくる。


「ふふん♪ あちきたちに任せれば簡単にゃ」


「おおぅ! 嬢ちゃんも良くやったな」

 おっさんたちがミケちゃんの頭を撫でていく。

 ミケちゃんもまんざらでも無さそうにそれを迎えた。


 それから30人の子供たちに一人5kgずつ塊を運ばせ。

 3人のおっさんたちには一人200シリングの約束で、リアカーで300kgほど運ばせる。

 それでもまだ300kg近く残っている。

 それを俺たちのリアカーで運ぼうとしたところ、中年のハンターたちが礼だと言い、代わりに運んでくれた。




 ギルドへと着き、アメーバを運び入れる。


「こんにちわー」


「あら、いらっしゃい。依頼は果たせたようね。

 今、量るわ」

 おかまさんに付いて行き、重量計に次々とアメーバを乗せる。

 巨大アメーバの重量は核を除いた全部で700kg、140体分だ。

 討伐賞金3000シリングと合わせて、17500シリングになった。

 そのうち子供たちに50シリングずつ払い、おっさんたちには600シリングを払う。

 リアカーを見てくれたヨウ君たちには200シリング支払い、残りは15200シリングになった。


 子供たちはお金を受け取るとありがとうと言って、帰っていく。

 おっさんたちもまたよろしくー、と言ってリアカーを引いて帰っていく。


「にいさんたち、ありがとよ。助かったぜ。

 何か困ったことがあったら訪ねてきてくれ。

 俺たちに出来ることなら協力するぜ」

 中年のハンターを代表して、頭の寂しいハンターが言う。


「ええ、その時はよろしくおねがいします」


「じゃ、またな」

 ハンターたちも去っていった。


「ふふ、巨大アメーバを2体も倒すなんてマグレじゃなさそうね」


「もちろんにゃ!」


「あら、ごめんなさいね。からかったつもりじゃないのよ。

 3人ともハンター証を貸してもらえる?」

 おかまさんに俺たちのハンター証を渡し、それを奥へと持っていく。


 おかまさんが銀色のハンター証を持って戻ってくる。

 今まで使っていたのは銅製で赤銅色だったが。


「はい、新しいハンター証よ。3人ともランクを2つ上げてCランクになったわ」

 それを聞いて二人のしっぽが上がる。


「え! 本当ですか?」

 今までEランクだったのだが、一気に上がった。


「流石、あちきたちにゃ♪」

 ミケちゃんのしっぽが上機嫌に揺れた。


「巨大アメーバを倒せるハンターを遊ばせておく余裕も無いもの。

 その内、指名依頼を出すかもしれないわ。その時はよろしくね」


「あ、はい」

「しょうがないにゃー♪」

「はーい」


「それで何か仕事を請けてく? それともリアカーを返却するのかしら?」


「いえ、今日はこの後まだ用事があるので」


「それじゃ、また今度よろしくね」

 おかまさんに礼を言い、ギルドを後にする。


 次はシャーロットさんとの商談だ。

 リアカーを引いて、宿へと戻った。



いつも読んでいただきありがとうございます。

次の投稿は金曜日で再来週は中篇を書くので、1週間休みます。

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