表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/169

第82話 街中の排水溝

 日はすっかり落ち、時刻は夜の7時。

 空には星が瞬き始め、夜の帳が落ちる。

 この街には街灯が少なく大通りから離れれば真っ暗だ。

 通り沿いの商店や看板に付いた灯りが柔らかく暗闇を切り取り、道を照らす。

 仕事帰りやこれから何処かへ向かう人たちも暗闇を避け、大通りを選んで通っていく。

 空は真っ暗で薄明かりの道を大勢の人たちが渡る。

 道を通る人たちに向かって呼び込みが声を掛けたり、商品を売る威勢の良い声が伝わってきた。

 人の放つ熱気と騒音が通りを流れる。

 そんな夏祭りのような喧騒の中、しっぽを揺らす2人とはぐれないよう手を繋いで、北門近くのいつもの屋台へと向かう。




「ネザー姐さん、こんばんわにゃー」

「「こんばんわー」」


「ああ、いらっしゃい。そこ座わんな」

 いつものカウンター席へと案内された。

 さっき買ったばかりの槍は屋台の壁へと立てかけさせてもらった。


 ネズミの煮込みや串焼きなどを適当に頼む。

 ミケちゃんは追加でから揚げも頼んでいた。


「そういえばいつも頼んでいるお弁当なんですが、他の味付けとかは無いんですか?」


「今作れるのは串焼きかから揚げぐらいだね。何か食べたい物でもあるのかい?」


「いや、辛いの以外にもないかなぁって」


「赤コショウはどこでも育つから安くてうちでも扱えるんだけどね。

 それ以外の調味料はうちみたいな安い店じゃあんまし扱えないんだよね」


「そうですか」


「ああ、でもおにいさんが単価の良い食材を獲って来てくれたらメニューを増やしてもいいよ」


「本当ですか!」


「トカゲのクリーム煮なんか久しぶりに作ってみたいねぇ。

 昔はアレを獲って来てくれるハンターが居たんだが別の街に行っちゃってね。

 アレなら単価も高いし、稼げるからありがたいねぇ。

 うちは昼間の客は金払いが良いから、そういうのも出したいんだよねぇ」


「トカゲかぁ……」

 前に東の川沿いで遭遇したワニみたいな奴だ。

 牙は鋭く、足が速い。

 めっちゃ早い。


「人食いトカゲはヤバイにゃぁ……」

 ミケちゃんも前回追いかけられたのを思い出したのか、しっぽが垂れてイスの下へと隠れる。

 ポチ君も想像したのか、しっぽが垂れる。


「齧られたら一撃で終わりそうだから接近戦はしたくないなぁ。

 でも……ポチ君のライフルもあるし、やりようはある……かな?」


 ポチ君がビクッとこちらを振り返る。

 そこで僕に振るんですか?とでも言いたそうな目だ。


「ああ、ポチが頑張るにゃ。それならいいにゃ。

 あちきは遠く離れた所から応援するにゃ」


 ポチ君が涙目だ。


「それはそうと明日はどうするにゃ?」


「明日は午前中に巨大アメーバ狩りに午後はシャーロットさんとの商談だね。

 遺跡探索は休みで街中での活動になるね」


「大忙しにゃー」

「だねー」


 それから宿に戻り、部屋でくつろぐ。

 槍は長すぎて宿の中に持ち込めなかったので裏庭に置かせてもらうことにした。

 明日は忙しいし、早めに寝るかと思っていたところミケちゃんとポチ君が荷物の中からエアガンを取り出す。

 ポン造さんに売らなかった電動式のやつだ。


「これで遊ぶにゃー!」

「うん!」

 2人がエアガン片手にこちらへと駆け寄ってくる。


「これ、どうしたら撃てるにゃ?」


 エアガンを借り受け、付属品の充電ケーブルで充電器に繋ぐ。

 充電している間にダーツの的を壁に掛けた。

 充電時間が短いので充電器に繋げたまま撃ってみることにした。

 カシュッ……と軽い音を立てプラスチック弾が残像が見える程度の速さで飛んでいく。


「一番ヘタだった人、明日の朝ごはん奢りにゃ!」


 ミケちゃんから順番に撃っていく。

 ミケちゃんは中心近くに連発して当て、ポチ君はほぼ中心に集めた。

 俺は中心に当たらず、外側に当てるので精々で、明日の奢りが決まった。

 奢りはともかく銃の練習としては結構良いな。

 屋内で出来るので雨の日でも出来る。



 次の日、俺の奢りで朝ごはんを終え、巨大アメーバ狩りの準備をする。

 まずは裏庭でアーティファクトのチェック。

 Cap値はついに5になった。

 それからとあるアーティファクトの暴走がちゃんと使えるかどうか検証してみた。

 ちょっとピリッ!と来たがこれなら十分だな。

 裏庭から槍を持ち出し、まずはギルドだ。

 ギルドでリアカーを借り、街中の排水溝へと向かう。


 排水溝近くにリアカーを置こうとするが……盗まれないよな?


「コレ、大丈夫かな?」

 ギルドで借りたリアカーには側面にハンターギルドのマークと支部名が書いてあるからハンターは盗まないと思うが。


「僕が残ろうか?」


「待つにゃ、大物狩りは3人で動いたほうが良いにゃ。

 ちょっと手伝い呼んでくるにゃ」

 そう言ってミケちゃんがてってけ走り去っていく。


 10分ほど経ってミケちゃんが3人の子供たちを連れてきた。

 前に東のスラムに近い川で会ったヨウ君とその妹たちだ。


「アメーバ少し分けるのと引き換えに見張りやるにゃって」


「そうか、ありがとう」


「いえ、こちらこそおねがいします。」

「「しますー」」

 3人が頭を下げてくる。


 この子たちは教会で世話になってるだけあって礼儀正しい。

 リアカーを彼らに任せ、俺たちは排水溝の中へと入っていった。


 排水溝の中は暗く、湿った空気が足元を泳ぐ。

 頭に付けるライトを身に着け、準備をする。

 槍を地面に置き、昨日手に入れたスパークトルマリンを追加で身に着け、それを暴走させた。

 体にピリッ!とした電気が走る。

 だが、それだけだ。

 以前に暴走させたときは死ぬんじゃないか?と思うぐらいの痛みが走ったが、今日はさらにもう1つスパークトルマリンを着けている。

 スパークトルマリンにはスタミナ回復の他に電撃耐性が付いており、それがアーティファクトの暴走から出る電気を緩和してくれた。

 それから槍を手に取り、穂先で壁を引っ掻いてみた。

 バチッ!と火花が暗闇に花開く。

 ……結構な電流だ。

 俺、良く生きてたな……


「何、今の? もう一回やってにゃ!」

「もう一回、もう一回!」


 2人に火花が散り咲くのを見せる。

 初めて花火を見た子供のように喜んだ。

 2人もスパークトルマリンを着けているから電撃耐性はあるはずだが、危ないのでしばらく近寄らないように諭しておく。

 俺を先頭にして、暗いトンネル内を進む。

 トンネル内の広さに対して灯りは乏しく、俺たちの足音だけが寂しく響いていく。

 時折、聞こえる水音にドキリとする。

 ちょっと進んだところで後ろのポチ君から警告が。


「前から何か来るよ?」


「ん、わかった」

 その場に待ち、前方の通路をライトで照らしていたところ、普通のアメーバがのそり……とこちらへと向かってきた。

 ちょうど良い練習台だ。


「ほれ」

 電気を帯びた槍の穂先で軽く叩いてみる。


 穂先からブルッ……と振動が伝わってきて、音も無くアメーバが感電したようだ。

 そのまま当て続けると一瞬震えた後に萎んでしまった。


「結構良い威力だな」


「なかなかにゃー」

「だねー」


 倒したアメーバをポチ君が拾い上げ、さらに先へと進む。

 暗闇の中、慎重に歩き5分ほど行ったところで分かれ道に出た。

 どちらに進むか?


「ん? こっちからの水が少ないにゃー」


 右側の道からは流れてくる水量が少ない。

 ミケちゃんの指示に従い、右へと進みすぐにミケちゃんから警告が。


「風の流れが止まってるにゃ!」

 ミケちゃんがヒゲをぴくぴくさせながら声を上げる。


 奥へとライトを当てたところ、奥の空間が透明だがキラリとした反射を返した。

 それと同時にトンネル全体を擦りあげるような振動が伝わってくる。

 トンネルの奥から透明な壁が迫って来た!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング よければお願いします。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ