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第81話 南門近くの巨大アメーバ

 ギルドを出て、巨大アメーバ出たという南門近くの排水溝へと向かおうとするが、ミケちゃんが唐突に声を上げる。


「おにいさん! アメーバ釣るならねずみの囮が要るにゃ!」


「あ! そうだった!」

 すぐに宿へと戻ってネズミの皮で作った囮をバックパックに入れる。

 それから再度、南門へと向かう。



 南門で開かれているバザーの少し北側に街を横断する川が流れている。

 その川に沿うように排水溝がいくつか併設されているのだが、問題の排水溝は東寄りとのことだが程なく見つかる。

 川沿いのコンクリートで補強された土手の上に十数人のハンターが座り込んでいた。

 ハンターたちは結構年を召した人たちも多く、それが体育座りでぼんやりと下の川を眺めていて。

 何故か哀愁が漂う。

 多分、あそこが問題の排水溝のある場所だろう。

 話しかけてみるか。


「こんにちわー」


「ぅお! おう、こんちわ。」

 後ろから突然声を掛けられてびっくりしてしまったようだ。


「巨大アメーバが出たと聞いたんですが、アレが問題の排水溝ですか?」

 眼下の排水溝を指差す。


「そうだよ。アレの所為でこちとら仕事が上がったりよ」

 少し頭の寂しい中年のハンターが返事を返してきた。


「ほうほう。巨大アメーバは厄介ですもんね」


「そうそう、手持ちの武器じゃまったく効かないし、どうにもならねぇ。

 今は上位ハンターが依頼を受けてくれるのをぼーっと待ってるところだよ。

 騎兵隊か大砲担ぎ辺りが来てくれれば話が早ぇんだが」


「そうですか」

 実は依頼は俺たちが受けてしまったんだが、言っても話をこじらせるだけだし黙っておこう。


「兄ちゃんたちは見物かい?」


「似たようなもんです。倒せそうならやろうかなー、なんて」


「アッハッハ! 止めとけ、止めとけ。命を無駄にするだけだぞ」


「あはは……」

 笑って誤魔化す。


 さて、ミケちゃんとポチ君と相談タイムだ。


「どうするにゃ?」


「とりあえず相手の様子を見てみよう。大きさを見て、必要な岩の運ぶ量も変わるし」


 前回は橋の上にかなりの量の岩の山を作って、ぶつけたが。

 それでも全部落としてようやく動けなくさせられたと言ったところだ。

 前回の奴よりも大きいなら、あの時以上の岩が必要になる。


「わかったにゃ。ならコイツで釣ってくるにゃ」

 ミケちゃんがネズミの囮を取り出す。


「俺がやって来ようか?」


「大丈夫にゃ。あちきはアメーバ釣りの名人にゃよ?」

 ミケちゃんの中ではそうなってるらしい。


「ミケちゃん頑張って」

 ポチ君も応援する中、ミケちゃんが土手を下りていく。



「ふんふふーん♪」

 鼻歌交じりにネズミの囮を小脇に抱えて排水溝へと近寄っていく。

 その姿に周りのハンターたちがざわめく。


「おいおい、あの嬢ちゃん危ねぇぞ!」

「おーい、止めとけー」


 周りがミケちゃんに警告の声を上げるも、なんのその。

 ミケちゃんは澄ました顔で進む。

 排水溝まであと少しという所でピタリと止まり、ネズミの囮を放り投げた。

 囮は排水溝の中へと入っていく。

 囮にはロープがくくりつけてあり、それをくいくいっと引っぱる。


 ……

 …………

 しばらく何も起きない。

 失敗かなと思ったところで排水溝から出てくる水がどんどん少なくなり、ピタリと止まってしまった。

 何かに堰き止められた様に。


「……かかったにゃ」

 ミケちゃんがぼそりと呟く。


 ミケちゃんがロープを手繰り寄せるのに合わせ、穴の奥からずりずり……と何かを引きずるような音が聞こえてくる。

 ネズミの囮が排水溝から出てくるのに合わせ、横幅一杯に透明なゼリーのような物が溢れるように出てきた。

 ミケちゃんが手早く手繰り寄せ、すぐに距離を置く。

 排水溝から巨大アメーバが出てきた。

 その全容は横幅4m程に長さが6m程か、前のと違い少し長いな。

 核もギルドで聞いたとおり青紫の核が2つある。

 大きさは前回のに比べ1.5倍と言ったところか。

 核が2つだと単純に倍になるというわけでも無さそうだ。


 ミケちゃんが再度ネズミの囮を放り投げ、誘導しようとするが。

 排水溝から出てきたところでピタリと動きが止まってしまった。

 囮には興味を示すが動かない。

 やがて、排水溝の中へと戻っていこうとした。

 それを見てミケちゃんがロープを手放し、背の硬鞭こうべんを抜く。

 周りのおっさんハンターたちも「おお!」と声を上げ、沸き出した。


「にゃー!」

 そのまま駆け寄り、叩きつけた!


 べしっ……


 その音の軽さに俺もミケちゃんも目を剥く。

 おっさんたちは一転、醒めた目だ。


「にゃー! にゃー! にゃー!」

 ミケちゃんが連打するが……音は先ほどと変わらず、効いてそうには見えない。


 ミケちゃんは一旦距離を取ると反転。

 こちらへと駆け出してくる。


「おにいさん! ナイフ! ナイフ貸して!」


 ミケちゃんに請われるまま貸し出す。

 ミケちゃんがナイフを頭上に掲げ、にゃーっ!と勢い良く戻って行った。

 土手を走って下り、加速した勢いで飛び掛る!


「ちぇぇぇいーーーっ!!」

 ミケちゃんが渾身の力でナイフを振りかぶる!

 ナイフはあっさりとその刀身を埋めた。

 そのまま切り広げ、アメーバを端から切り分けようとざくざく切っていく。

 おっさんたちも声を上げ、再度沸き立つ。


「にゃっ!?」

 だが、ミケちゃんの動きが突然止まる。


「離すにゃーっ! ……にゃっ!?」

 ミケちゃんがアメーバに足を掛けて、ナイフを引き上げようとし。

 ナイフが抜けるとその勢いのまま後ろへと転げだした。


 その姿にアメーバも動き出そうとするが……、やはり排水溝からは離れないようだ。

 その隙にミケちゃんが脱兎の如く駆け出し、こちらに戻ってきた。


「あいつ、ヤバイにゃー! ナイフがどんどん埋まっていったにゃ」


「え! ナイフを取り込もうとしたってこと?」

 俺の問いにミケちゃんがコクコクと頷く。


 その様子を見ていた周りのハンターたちは、やっぱダメかぁ、そうだよなーあんな小さなネコの子じゃなぁーなんて囃し立て。

 やっぱし上位ハンターが来ないと無理かぁなんて言いながら引き上げていった。

 ミケちゃんがぷくーっと頬を膨らませる。


「くやしいにゃ!」

 ミケちゃんが地団駄を踏む。

 それを見てポチ君がおろおろした。


 俺もなんかくやしいし、何とかしたいが。

 排水溝から離れず、すぐに戻ってしまうようじゃ岩投げ作戦は効きそうに無い。

 別の手を考えないとな。

 何か強力な武器があれば……


 3人で考えるが思いつかないので、店に見に行くことにした。

 バザーの鍛冶屋へと向かう。

 日はもう落ちかけ、夜に近づいていた。


 夜のバザーは昼間と比べ人が少なく、足早に鍛冶屋へと向かう。


「こんにちわー」


「おう、いらっしゃい。何か必要かい?」

 鍛冶屋の店主は作業をしながら返事を返してきた。


「巨大アメーバに効きそうな強力なのってあります?」


「あはは! お客さん、バカ言っちゃいけないよ。

 うちにあるのは手持ちの近接武器か弓矢。あんなのを倒すようなのは無いよ」


「そうですか……。ん? それは?」

 店主の作業している物が気になる。


「これは鉄パイプ槍だよ。お客さんたちが広めてくれたお陰で最近売れ行きが良くてね」

 店主は熱して赤くなった鉄パイプを火箸で回しながらハンマーを打ち付けていく。


 器用なものだ。

 回しながら打ち付けることで先端が捻れる様にすぼまっていく。

 何十回と叩くことで、先端がドリルのように捻れた穂先が出来た。

 刃は付いてないので横方向には切れないが、先端は鋭く頑丈そうで突くには良さそうだ。

 これを見ていて一つ思いつく。


「この穂先で全身鉄製の長い槍は作れますか?」


「どれくらい?」


「長さは3mぐらいで」


「それなら鉄パイプを溶接で付ければ出来るかな。

 代金は3000シリングでいいよ」


「わかりました」

 最近稼いでいるし、これぐらいなら安いもんだ。

 代金を支払う。


「すぐ出来るからちょっと待ってろ」

 そう言って店主は出来たばかりの穂先に長い鉄パイプを溶接で付けていく。

 溶接作業は手早く10分ほどで出来てしまった。


 全身鉄パイプで出来た槍で、中は中空になっている。

 それを見てさらにアイデアが湧いてきた。

 店主は中に差し込む心棒を作ろうとしていたが断り、礼を言い店を後にした。


「おにいさん、その槍で倒すにゃ?」


「ああ、ちょっと試してみたいことがあるんだ」


 店の外に出れば、外はもう真っ暗だ。

 巨大アメーバを倒すのは明日にして、みんなでいつもの屋台へ食事に行った。



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