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第76話 ビルの探索5

 エレベーターシャフトの底にパッっと赤い花が咲き、もうもうと煙が立ち上る。

 水分が少なく、ミイラのような外見のグールは良く燃えるのだろう。

 30体以上この縦穴に落としているしな。

 燃料は十分ということか、……煙がすごい。


「けふっ! けふっ! 鼻が痛いにゃー」


「うー……! 僕もー」


 二人が鼻を押さえるのを見て、一度屋上まで撤退することにした。

 煙が収まるまでここで昼休憩だ。

 鼻を濡らしたボロ布で拭った後、お昼ごはんにする。

 いつものうさぎのおばさんの屋台で買った串焼きとパンを並べ、青空の下頬張った。

 昼食を終え、ミケちゃんとポチ君は丸くなったお腹を空に向けて昼寝をしている。

 俺は何気なしに屋上の手すり越しに景色を見ているが、眼下に走る影を見つけた。

 どうやらハンターたちがグールの大群に追われて、通りを必死に駆けているようだ。


「何見てるにゃー?」

ミケちゃんが起きてきた。


「アレだよ」

 通りを指差す。


「ああ、大変だにゃー。あちきたちも初日はあんな感じだったにゃ」


「そうだね」


 この違いを考える。

 1階から進むと知らず知らずの内にグールの潜む場所に出てしまい、奇襲を受ける。

 基本的にビルはグールの巣なのだから、グールたちが有利なのは当然だ。

 俺たちは逆に屋上から入り、油断しているグールたちの隙を狙って奇襲を掛けてるからここまで楽に相手取っているのだろう。

 石けん水や火炎瓶等を用意すれば、階段などで上の位置に立つだけで有利になるしな。

 入り口から入る人たちは常にグールたちとのガチンコを迫られるから、人数差で負けた途端に敗走するハメになる。

 これも全てアーティファクトの常識外な力のお陰だ。

 コレのことは知られないように気を付けないとな。

 これからは人前では極力使わないようにするか。

 そうなると……抑止力として戦力の充実が要るか?

 ショットガンの一つはお守り代わりに背中に下げてもいいかもしれない。

 それにしても……俺たちはアーティファクトの力でここまで楽しているが。

 もし他の人たちもアーティファクトを持ったら?

 多数のハンター達がアーティファクトを使って遺跡探索をしたら、ものすごい勢いで探索が進むのだろうな。

 アーティファクト自体は探せばまだまだ手に入る。

 もし、それをエサに人を集め、組織したとしたら?

 と、考えたところでバカバカしくなり、頭を振る。

 自分から面倒ごとを抱えるのはごめんだ。




 時間も過ぎ、中の様子を探ると煙は消え、まだ焦げ臭いにおいは少し残っているが何とか入れそうだ。

 28階まで掃討したから次は27階からか。


「午後も頑張るにゃー!」

 そう言ってポチ君の肩を叩く。


「ん?」


「今度はポチがエサの役をやるにゃ」


「えぇ!?」


「大丈夫、簡単にゃ」


「あー、嫌なら別にいいんだよ。俺、やるし」


「うぅ……、頑張るよー」


「その意気にゃ! あちきは次はコレで思いっ切りやってやるにゃ!」

 そう言って硬鞭こうべんを抜き、頭上に掲げる。


 ……最近、使ってなかったもんなぁ。

 俺が接近戦してるの見て、血が騒いできたか。

 また最上階からロープを垂らし、28階から乗り込む。

 ポチ君が緊張しながら下りていくのを俺とミケちゃんで見守る。


「ポチ、ファイトにゃ」


「う、うん」


 ポチ君が27階のエレベータードアに取り付き、ナイフでこじ開ける。

 手を差し入れて一気に引き開け、目が合う。

 目の前には床に手を付いてポチ君を見つめるグールが!


「うわぁぁ!」

 焦ってロープを放してしまった!?


「あ……」

 ポチ君がエレベーターシャフトの深い闇へと沈んでいく。


「ポチー!?」

「ちょっ!?」


 焦って、追いかけようと穴に飛び込もうとしたところで、ビンッ!とロープが張り上げる。

 ロープの先にはポチ君が。

 落ちてる途中で上手く掴みなおせたようだ。

 ほっと一安心する間も無く、今度はグールが落ちていく。

 ポチ君目掛けて!


「うわわ!?」

 すぐにロープを掴み、右に揺らした。


 それに合わせて振り子のようにポチ君が揺られていく。

 なんとか衝突を避けたが、物音を聞きつけたグールたちが続々と集まってきて……

 次々と足を踏み外し、落ちていった。


「えぇぇ!?」

 グールたちがポチ君目掛けて不恰好に落ちていく。


「ちょ!?」

 俺もそれに当たらないようにロープを引く。


「右、左、……もっかい左にゃー!」


 ミケちゃんの実況を横目になんとか避け続ける。

 ロープを大きく振って、ポチ君を壁際の鉄骨に避難させた。


「コレ、心臓に悪いにゃ。下降りてさっさと片付けるにゃ」


「そうだね……」


 階段を下りる。

 エレベーターのある通路には12体のグールがエレベーターの前でたむろっていた。

 そこに向けて1つ残ったボーリング玉を転がす!

 ゴー……という転がる音に釣られてグールがこちらを向くが、遅い。

 先頭のグールの足首を砕き、跳ね上がったボーリング玉が別のグールの膝を折る!

 足を傷ついたグールが倒れそうになり、手を伸ばす。

 それに引っ掛けられさらに2体のグールが倒れた。

 立っているのは8体。

 ここは勢いで押し通す!

 手が触れられるほどの距離にまで一息に駆け込み。


「うぉぉ!」


 ハンマーを抜いて気合一閃。

 前に出した足で強烈なブレーキ、反動が腰を抜けていく。

 それに呼応して腰、肩を大きく回し、奥歯を強く噛み合わせながら全力で振り切る!

 打ち抜く瞬間、意識は真っ白となり、相手を見すらしない。

 ただ間合いに入ったものを強引に打ち抜くだけの捨て身の一撃。

 奇襲だからこそ出来る一手だ。


 その場で一回転。

 視界がまた前に戻ってきた時には2体のグールが宙を舞い、寄りかかるようにしてグールたちを押し倒した。

 それを避けた2体のグールが俺へと手を伸ばす。


「しゃーっ!」

 空間を断ち切るように描かれる黒い十文字。


 黒い疾風が横を通り過ぎたと思った、次の瞬間には俺を捕まえようとした2本の腕がへし折られる。

 それでも挫けないグールがさらに手を伸ばすが……

 上段に構えたミケちゃんの手がぶれたと思った瞬間に鳴る、枯れ木の折れたような音が2つ。

 硬鞭が音を置き去りにするように素早く動き、また上段へと戻る。

 ネコパンチだ。

 ネコパンチの速度で剣を振ったら?

 軽さを感じるが、その速度でミケちゃんが剣を振るっている。


「……」

 ミケちゃんが上段の構えのまま一歩踏み込む。


 気圧された様にグールたちが後ずさる。

 俺も負けていられない。

 俺も上段に構え、ミケちゃんの横に進む。

 組みし易しと見たか、グールが俺に向かってきた。


 ……何故だ?


 相打ち覚悟でグールの頭へとハンマーを振り下ろす!

 胸を打たれたが、胸にはプレートが入っている。

 ダメージは無い。

 振り切った俺に向かって次々とグールが寄ってくるが。

 愚かにもミケちゃんの間合いへと足を踏み入れる。

 

 「ニャッ! ニャッ! ニャーッ!」

 ピュッ!と空気が裂かれる様な音が立つ度にグールたちの手足があらぬ方向へと曲がる。

 

ヤケになったグールが2体まとめてミケちゃんに飛び掛かるが、それは俺が許さない。

 素早く胴回しで蹴り上げ、邪魔をする。


 「ニャーッ!」

 動きの止まったグールに襲い掛かる2つのパンッ!と濡れたタオルをはたいたかの様な音。

 頭を断ち割れ、前のめりに崩れる。


 残りのグールたちが後ずさる。

 グールから感じる怖気、絶望。

 ここが勝負だと、俺とミケちゃんがゆっくり詰め寄る。

 グールの悲鳴が通路に響く……



 俺とミケちゃんがグールに相対して十数秒でグールたちはその手足を砕かれ、動けなくなり。

 ポチ君を出迎え、3人でそいつらを穴に叩き落した。



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