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第75話 ビルの探索4

 ドアを開け、エレベーターシャフトの中を覗く。

 カゴは下まで下がっているようで、それを吊るすワイヤーだけが垂れており。

 外壁には剥きだしの鉄骨が何本も走っていた。

 底の見えない暗闇が真下へと続いている。

 そこに横倒しにした棚にくくりつけたロープを垂らす。

 エレベーターシャフト内には昇り降りに使えそうなワイヤーもあるが、埃と油に塗れていていざという時に手が滑りそうなので今回はロープを用意した。

 これからここを下りていく。


「それじゃ行ってくる」


「頑張ってにゃー」

「僕らも様子を見て行くねー」


 手を振る二人に頷き、エレベーターシャフトを降りていく。

 まずは1つ下の29階からだ。

 29階のエレベーターの外ドアにナイフを差し込み、こじ開け。

 出来た隙間に指を入れて一気に引き開ける。

 金属の擦れる音を立てながら、開けた先にはグールが。

 こちらを覗くその目が、まるっとした驚きの目から吊り上がった好戦的な目へと変わった。


「ギィィ!」

 叫びを上げ、グールが飛び掛かってくる!


 すかさず壁を蹴って、ロープを大きく揺らし避けた。

 グールがこちらを掴もうと手を伸ばすが、足場となる地面が無いため手は円を描いて落ち、空振りした足が宙を叩く。

 え?と言った表情で下を向いて絶句したようだ。


「ギィィィィッッ……--……--」


 グールの悲鳴が眼下の闇へと消えていった。



 その悲鳴を聞いたか、別のグールたちが続々と湧いてきた。

 エレベーターの入り口から手を振れば、嬉々として目の色を変えながら駆け寄ってくる。

 俺を捕まえようと先を急ぐようにエレベーターシャフトの中に入ってきては、足を踏み外し落ちていく。

 俺は入り口とは反対側の壁の鉄骨に足を掛け、待つだけだ。

 時々、飛び掛かってくるのもいるが、そういうのはロープを左右に揺らしながら避ける。

 グールが次々と間抜けな顔をしながら落ちていくのは喜劇のようだ。

 エレベーターシャフトにグールの嘆きが木霊する。


 10体以上落ちたところでグールも気づき、慎重になったようだ。

 ギィィ!ギィィ!と鳴きながら入り口で手を振り上げたり、なんとかこちらに手が届かないか、と頑張って手を伸ばしていた。

 残りは5体といったところか。

 残りは銃で殺ってもいいかな、と思い上を向いたところ、二人が居ない。

 二人の意図が読めたので俺はグールに手を振って、笑顔でファンサービスをしてあげた。

 ますますグールが憤り、入り口を手で激しく叩いている。

 中にはこちらに飛びかかろうとしている者まで。


 パシュッ!


 一旦離れ、助走をつけようとしたグールの頭が横に流れる。

 その頭から黒い血が水鉄砲のように細く流れ、倒れた。

 続けて空気の抜けるような音が立て続けに流れ、グールたちが次々と横倒しに倒れていく。


「やっほー。おにいさん、大丈夫かにゃ?」

 ミケちゃんが入り口から顔を出す。


「うん。……よっ、と!」

 ロープを大きく振って飛び込み、二人のもとへと合流する。



「やっぱあいつらバカだわ」


「バカだにゃー」

「バカだねー」


 以前に戦ったときから思っていたのだが、グールの性質として一度カッとなると損害を無視してしゃにむに突っ込んでくるところがある。

 特に俺を見つめるときの憎悪に塗れたような視線は、正常な人間に対しての妬みなのか、それともただ好物なだけということだろうか?

 お陰でエレベーターシャフトに落とそう作戦が上手くいっているが。


「はーい、次はあちきがやるにゃ」


「大丈夫? 結構危ないよ」


「大丈夫にゃ。それに今日はグールは持って帰らないにゃ?」


「うん、荷物になるし大量に、となると無理だしね。

 今日は安全確保とルーブル稼ぎだけね」


「じゃ、銃使うのもったいないにゃ。あちきが寄せつけるから、おにいさんが後ろからどんどん蹴落としていくにゃ」


「僕はー?」


「ポチ君はいざっていう時の為に銃を構えてくれる?」


「うん!」



 28階へとミケちゃんがロープを下りていく。

 それを俺とポチ君がハラハラしながら上から眺めた。

 ミケちゃんが外ドアに取り付き、俺の肉厚なナイフを使ってこじ開ける。

 ミケちゃんのナイフは安物なので薄く、曲がってしまいそうなので俺のを貸したのだ。

 ドアを開けるとさっそくグールが飛び出してきた!


「にゃっにゃっにゃー!」

 笑いながらあっさりと躱す。


 次々とグールが湧いてくるが、ほとんどがマヌケに足を踏み外し落ちていく

 飛び掛かってくるのは機敏にロープを振り、かわし。

 ぶつかりそうなのは硬鞭こうべんで叩き落した。

 10体落ちたところでグールたちも冷静になったようで、入り口で喚いている。

 そろそろ俺の出番かな?

 ミケちゃんに合図した後、ポチ君と一緒に静かに階段を下りていく。

 28階の廊下をそっと覗けば……グールが8体エレベーターの前で騒いでいた。

 思ってたより、ちょっと多いかな?

 あの数だと掴み合いになったら負けそうだ。

 ポチ君がハンドガンを掲げながら、目で訴えてくる。

 どうするか?

 銃を使えば簡単に殺れるだろうが、今回はあまり赤字を出したくない。

 ルーブルを銃弾に換算すれば黒字になるが、今回の目的は残高が枯渇しかけたルーブルの補充が主目的でもある。

 何か使えそうな物がなかったか考える。

 現状は硬いタイル貼りの廊下の奥に突っ立つグールたち。

 ん?

 ちょっと思いついたのでポチ君に待っててもらい、最上階へ。

 いそいそと目当ての物を持ってきて、準備完了。

 ポチ君にも1つ持ってもらい、それを両手で持って廊下を駆ける!


 ボーリングの玉に指を通し、勢い良く助走をつけて放り投げた!

 ギィ?と鳴きながらこちらに振り返るグールの足首を勢い良く回転したボーリング玉が砕く!

 ぶつかったボーリング玉が跳ねて、さらに別のグールを押し倒していく。

 ポチ君から玉を受け取り、2投目!

 ぶつかるグールに、避けようとするグールで押し合いになり大半のグールがその場にこけた。

 立っているのは2体のみ。

 いける!

 アドレナリンを全開にして駆け込み、ドロップキック!

 1体を廊下の突き当りにまで蹴飛ばし、両手をついて着地。


「ギィィ!!」

 グールが手を振り上げ、殴りかかってくる。


 前転してかわし立ち上がり、その際に後ろに倒れこもうとした反動を使って体をバネのようにしならせ、グールへと飛び掛かる!

 初手は力を抜いた左ジャブ。

 体重移動の重みだけでグールの頭をぐいっと押し込み、動きを止める。

 その左を引き抜くように、右!左!のワンツーストレート!

 パ、パンッ!と素早くグールの頭部を揺らし、崩れ落ちた。

 俺が得意とする変則のトリプルラッシュだ。

 ワンツーはそれぞれ右半身と左半身で使う筋肉が違うので連続でスムーズに出せるのだが。

 これがトリプルとなると筋肉の硬直が起きるので3発目の出が遅くなる。

 それをなんとかするために1発目の力を抜くことで続く2発をスムーズに出せるのだ。

 変則のトリプルというよりワンツーかもしれないが。


 倒れこんだグールたちを次々と穴に放り込んでいく。

 抵抗したり、立ち上がろうとするグールもいたが、それをポチ君がハンマーで叩く!

 今回、ハンマーは使わないだろうと思ってボーリング玉と一緒にポチ君に預けておいたのだ。

 グールたちは俺とポチ君に挟まれ。

 俺へと向かおうとすれば後ろからハンマーが振り落とされ。

 ポチ君に向かえば俺が後ろから首根っこを掴んで穴に突き落とす。

 落ちていくグールの悲鳴が哀れだが……まぁ、あいつら人食いだし仕方ないか。

 ひと通り落としたところでミケちゃんを出迎えようとするが、様子が変だ。

 下を向いている。


「下から何か登ってくるにゃ!」


 慌ててエレベーターシャフトを覗けば、ロープをよじ登ってくるグールを見つけた!


「これでも喰らえ!」

 ボーリング玉を放り投げる。


 玉を頭に受け、グールがすべり落ちていく。


 ぎぃぃ……っ……----


 グールの悲鳴がやはり哀れだ。


「……にゃっ、と」


 ロープを揺らして飛んでくるミケちゃんを受け止め。

 ロープを一旦回収する。


「まだ死んでないのもいるかもしれないから、ちゃんとトドメ刺した方がいいね」

 バックパックから火炎瓶を取り出し、火を着ける。


「はい」

 ミケちゃんへと差し出し。


「うむ、ジャッジメントにゃ!」


 エレベーターシャフトの深い底の下でパッと赤い花が咲いた。



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