第74話 ビルの探索3
窓から朝日が入ってくる。
昨日は今日の準備に日課のトレーニングをこなし、早めに就寝した。
背伸びをし、体をほぐしながら朝のステータスチェックから始めるか。
ステータス
Name サトシ
Age 20
Hp 100
Sp 100
Str 200.0 (+2.0)
Vit 174.0 (+1.0)
Int 110.0 (+2.0)
Agi 148.0 (+4.0)
Cap 4.8 (+0.2)
預金 16ルーブル
所持金 16425シリング (+7150)
所持金はグールを大量に倒したお陰で潤沢になったが、SHOPアプリで使うルーブルが大分寂しいな。
困窮するたびにアーティファクトを売るのももったいないし、何か稼ぎ場が要るか……
さて、二人を起こすか。
ベッドが一緒のポチ君は俺の横で丸まっている。
「ポチ君、朝だよ」
一瞬、目が開いたがまた閉じてしまう。
肩を揺らし起こそうとするが、毛布に首を引っ込めイヤイヤをするポチ君をなんとか起こし。
寝ぼけながらもネコパンチを放つミケちゃんの目を覚ました。
まだ寝ぼけ眼の二人に顔を洗わせ、ブラッシングを軽くしたら朝の支度終了だ。
「今日も頑張るにゃー!」
目さえ冴えればミケちゃんは朝から元気だ。
「んー、今日は何処行くのー」
ポチ君が背伸びをしながら聞いてくる。
「今日は都市遺跡で最初に入ったビルに向かうよ」
「わかったにゃ。今日もいっぱい漁るにゃ。
あと、カーテンもあればあるだけ貰うにゃ!」
昨日、ミケちゃんが娼館にカーテンを届けたのだがお返しとしてカーテンなどの布地を持っていけば、何か縫ってもらえることになったらしい。
寝袋なんかも作ってくれるとの事で、とりあえず3人分用意するためにもそれなりの布を手に入れることになった。
いつものうさぎのおばさんの屋台で朝食を摂ったら出発だ。
ギルドでいつものリアカーを借り、二人を荷台に乗せ荒野を駆ける。
朝の冷ややかで透き通った空気をリズム良く肺に出し入れしながら、ひび割れたアスファルトを進む。
着いたのは以前に入ったビル。
ここでは初めて遭遇したグールにボコボコにされ、逃げ出すので精一杯だったなぁ……
あの時、殴られた痛みは忘れてないぞ。
グールの対処法もだんだんわかってきたし、今日はやり返しだ。
まずはビルの裏へと回る。
「それじゃミケちゃんおねがい」
「任せるにゃ!」
ロープを背負ったミケちゃんがアーティファクトを暴走させ、ビルの側面を駆け上っていく!
30階建ての大きなビルを10秒ほどで駆け上がり、勢いが余ったかそのまま飛び上がり、クルクル舞いながら屋上に着地。
すぐにロープが降ってきた。
それを伝って俺とポチ君も登っていく。
窓から死角になるよう壁に寄り添い、身を隠しながら上っていくが、少し中を覗いてみればグールがそこらかしこに寝そべってたり、うろついている。
大きなビルだけあってかなりの数が住み着いているようだ。
都市遺跡の入り口付近にありながらこれだけのグールが住み着いていたら、他のハンターたちもスルーしている場所なのだろう。
それだけに収穫も期待できる。
屋上へと着き、装備の点検に入る。
「今日は石けん水とか持ってきてないけどどうするにゃ?」
「今日はエレベーターを使ってあいつらをハメようと考えたんだ。
ポチ君、ロープをおねがい。中で使うから」
「はーい」
銃を抜いて、屋上の出入り口へと静かに入っていく。
ポチ君を先頭に階段を下りる。
まずは最上階の制圧から、これを静かに終えないといけない。
先に30階のフロアを覗き込んだポチ君からハンドサインが返ってきた。
手前の部屋に1体、奥に3体。
ミケちゃんとポチ君が足音を立てずに奥へと向かい、俺は階段手前の部屋のドアノブを握る。
静かに回し、ドアの隙間から覗けば、イスに座りうつらうつらとしているグールが1体。
ゆっくりと銃口を向ける。
今持っているのはいつものマグナムリボルバーではなく、昨日手に入れたサイレンサー付きの9mm口径ハンドガンだ。
こちらの世界の銃で名前がわからないのでネームレスとでも名付けておくか。
いつものと違いレーザーサイトが付いていないので、アイアンサイトで照準を合わせる。
距離5m……これなら外さないか、とうつらうつらしている頭部に向かって引き金を引く。
指を引き絞る瞬間、グールの頭がガクッと大きく揺れた!?
パシュッ……という空気の抜ける音と同時にパリンッ!とガラスの割れる甲高い音が続く。
「ひぇぎぃ!?」
グールが飛び起きる。
すかさず銃を構えなおし、照準を合わせようとするが……また、外したらどうしようと躊躇う気持ちが湧いてきた。
が、迷う余裕なんて無い、グールがこちらを振り向こうとする。
一息に駆け出し、グールの頭部に直接銃口を当て、2度引き金を引く。
無音で水風船が割れるように黒い血が飛び出す。
絶命したのを確かめる間も惜しんで、廊下へと飛び出した!
なるたけ音を立てないように早足で進んだその時、大部屋の方からガシャン!と音が響いた。
中ではミケちゃんの背後から襲いかかろうとするグールが!
「にゃ!?」
慌てて近くの机の下に潜り込んでグールの拳を躱す。
「あああ……?」
グールが涎を垂らしながら机の下を覗こうとした。
パシュッ!パシュッ!パシュッ!
その背に向かって連続で引き金を引き絞る。
着弾のショックでふらついたグールの肩を掴んで引き倒し、その頭にも2発入れた。
「ミケちゃん大丈夫!?」
「助かったにゃ、ありがとうにゃ」
「二人とも大丈夫?」
他の部屋を見ていたポチ君が駆け寄ってきた。
この階のグールはこれで全部のようだ。
「もうー! おにいさん、音立てちゃダメにゃ」
「ご、ごめん。外しちゃった」
「まぁまぁ、初めて使う銃じゃしょうがないよ」
ポチ君がそう言ってくれるがレーザーサイトに頼りすぎていたようだ。
とはいえすぐに銃の腕前が上がるものでもないし、しばらくはこの銃では的の小さな頭部は狙わず、体を狙った方がいいな。
「ポチ君、下の様子はどう?」
「んー……、上に上がってくるような音は聞こえないかな。
静かにしていれば大丈夫だと思う」
それから手分けして静かに最上階の探索をする。
俺は最初に入った部屋の探索だ。
先ほど倒したグールを床に横たえ、部屋を物色する。
壁際にはスロットやおもちゃの拳銃にボーリング玉?
遊具が壁一面に飾ってある。
おもちゃかレジャー施設関係の会社だろうか?
こちらにもボーリングってあるんだな。
玉を転がしてピンを倒すだけだし、誰かが思いつくか。
そういえばミケちゃんが持っていたこん棒もバットみたいだったし、文明レベルが近ければ趣味・嗜好なんかも似るものなのだろうか?
それ以外に見つけたのはまだ動きそうなパソコンに中身の入った酒瓶。
財布は見つからない。
先ほど倒したグールも野良だったのか、素っ裸で何も持っていないしな。
一先ず、金目の物を屋上に移し、次の準備だ。
廊下の奥のエレベータのドアを開け、その手前に書類の詰まっていた棚を横倒しにする。
棚にはロープの片側をぐるりと巻いてある。
もう片方を真っ暗なエレベータの縦穴に落とせば完成だ。
さて、このビルでもグールの大掃除を始めるか。
いつも読んでいただきありがとうございます。
今週の投稿はここまで、次の投稿は金曜日になります。




