第70話 日記
シェルターがあるとされる地下1階。
中は暗く、奥の非常灯がか細い明かりを灯す。
視界が利かないので物音に注意しながら、奥へとゆっくり歩いていく。
不安な中、右手に持ったマグナムリボルバーがお守りだ。
焦って引き金を引くことのないよう、人差し指を気持ち離しておく。
非常灯の下まで来た。
ここまでグール等は出て来ていない。
軽く息を吐き、周りに目を向ける。
目に付くのは手で上げ下げするタイプのハンドルスイッチ、これ以外には無い。
とりあえず入れてみるか。
スイッチを入れると何処からかエンジン音のような振動が伝わってくる。
ッ、パッ……!パッ……!と、非常灯から天井の照明に切り替わる。
明るくなった、これで探索が捗るなと思ったところ……
「にゃー!!」
ミケちゃんの悲鳴が響く。
慌てて振り返ったところ、エレベーターの入り口の横に寄りかかる人影。
銃口を向ける、反応は無い。
よく見れば白骨遺体の様だ。
服から骨の手足が飛び出て、頭蓋骨が服の上に乗っかっている。
「びっくりしたにゃ。グールじゃないにゃ?」
「ああ、……ただの骨みたいだね。ちょっと調べてみる」
遺体を調べたところカードキーと手帳、財布が見つかった。
他には9mm口径のハンドガン、サイレンサーが付いている。
他にはめぼしい物はない。
頭蓋骨のこめかみの辺りに穴が開いている。
ハンドガンが落ちてたのは右手の辺り。
自分で撃ったという事か?
二人に辺りを警戒してもらいながら手帳を読む。
「
海歴2235年 5月7日、人生最悪の日だ。
誰にとっても最悪に違いない。
遠くから地鳴りのような音が何度も響き、ニュースはさっきから核ミサイル、戦争としか言わない。
エディプス連邦の乞食共産主義者達がついにキレたのだ。
確かにカナン合衆国を含め、始海同盟は排出ガス利権や基準カロリー調整条約でチクチクと虐めていたが、いきなり核をぶっ放すか?
ネットニュースのコメンテーターが勢い良く、正義は自分達に有りなどとほざいているが、核戦争が始まった時点で正義もクソもないだろう。
あ、配信が切れた。
とりあえず避難だ。
会社の地下に核シェルターがある。
同僚達は皆、自分の家に戻ろうとしているがまだ核シェルターの方が安全だろう。
ただ問題はこの安物のシェルターがどこまで持つか、どうかだが。
社長の趣味で作ったようなものだからなぁ……
俺が一番乗りでシェルターに入る。
」
「
海歴2235年 5月8日、人類の希望絶たれる。
さっきのニュースで人類が詰んだことがわかった。
建設途中の軌道エレベーターがミサイルの直撃で吹っ飛んだらしい。
この星に人類500億は多すぎる。
新天地を求めての宇宙進出計画もこれでパァ!だ。
てっきりエディプスの狙いは軌道エレベーターで、これを奪って先にこの星から逃げ出すつもりかと思ってたら。
これ、ガチの潰しあいじゃねぇか……
終わったな。
地下のシェルターには俺以外にも社長を含め、重役達も避難してきている。
元より備蓄が少なかったため、食料が不安だ。
」
「
海歴2235年 5月12日、みんな出て行った。
食料は昨日の時点で無くなった。
社長達は食料や家族との通信を求めて、外へと行った。
俺はもうやる気が出ないという体でここに残る。
みんなが出て行ったところで天井の点検口を開ける。
ここに食料を隠しておいたのだ。
これで俺だけならしばらく持つ。
いざとなれば、社長達は手を付けなかったがペット用のフードもある。
地上が安全になるまで引きこもるぞ!
」
「
海歴2235年 5月19日、なんか変だ。
上の階がずいぶん騒がしい。
様子を見に行ったところ、ところどころ焼け爛れたようなケガをした人たちが徘徊している。
ケンカをしている奴らもいるし、中には正気を失ったのか。
死体を食べているのもいる……
ヤバイ
」
「
海歴2235年 5月26日
階段にバリケードを作り、1週間。
上はまだゴタゴタしている。
あれからニュースの配信も無く、電波も入らない。
外には出れず、ただココに篭っている。
一人だ。
」
「
海歴2235年 5月29日
手慰みに掃除ロボットを改造してみた。
通信の入らないPDAからパーツを抜き、性能を拡張。
簡単な受け答えのプログラムを組む。
これは受け答えを覚えることでどんどん複雑な会話が出来る予定だ。
とは言っても人口無能だけどな。
人工知能ではない、無能。
自分で考えるというルーチンまでは組み込んでいない。
ロボットにはクーンと名付けた。
」
「
海歴2235年 6月12日
相変わらず状況は良くない。
助けも来ない。
みんな、上の化け物みたいになってしまったのだろうか?
食料もそろそろ尽きそうだ。
疲れた
」
「
海歴2235年 6月15日
さようなら
」
日記はここで終わっている。
絶望に苛まれた果てでの自殺か……
エレベーターの横で亡くなったのは、誰かに見つけて欲しかったのだろう。
手を合わせる。
ミケちゃんとポチ君も俺の横で同じようにしている。
遺骨と服を集め、ズタ袋へと入れる。
最上階居たスーツを着込んだグールと同じように土手に埋めてあげよう。
毎朝、スラムの子供達がカエル獲りをしている場所だ。
これで寂しくないだろう。
サイレンサー付きハンドガンにカードキー、財布はありがたくいただくことにする。
財布にはキャッシュカードと電子マネーカード、それと小銭が入っていた。
今、居る部屋には頑丈そうな金属製の扉が付いている。
でかい円形ハンドルを捻って開けるような扉だ。
試しにハンドルを握ってみたところ、動かない。
扉の横にカードリーダーが付いていたので、さっき手に入れたカードキーを通す。
緑のランプが灯る。
さぁ、次はシェルター内部の探索だ。
日記を見る限りではあまりめぼしい物は無さそうだが。