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第69話 出張買い取り

 窓から朝日が入ってくる。

 水槽のような薄い青闇を切り裂き、静かな空間がにわかに騒がしくなる。

 鳥の鳴き声、遠くから聞こえる雑踏の音。

 穏やかな水のような薄闇が徐々に引いていく。

 目が覚め、暖かな水の如きまどろみにもう少し浸っていたいが、今日はいろいろやることがある。

 勇気を出して魚のまどろみを終え、陽を浴びに行く。


 同じベッドのポチ君は丸まって寝ている。

 ミケちゃんはカーテンの向こうだからわからないが、ミケちゃんは結構寝相が悪い。

 布団を蹴り飛ばしているのを想像してクスリとしながら、顔を洗いに行った。



 身支度を整え、今日使う道具の整理などをしていると。


「おはようにゃ……」

 目を擦りながらミケちゃんが起きてきた。


「「ミケちゃん、おはよう」」

 ポチ君と一緒に朝の挨拶をする。


 ポチ君はすでに起きていて、銃弾のチェックをしている。

 道具の整理も終わり、今日のステータスチェックをするか。


 ステータス


 Name  サトシ

 Age   20


 Hp  100

 Sp  100


 Str   198.0 (+6.0) 

 Vit   173.0 (+5.0)  

 Int   108.0 (+3.0) 

 Agi   144.0 (+6.0)

 Cap   4.6  (+0.2)


 預金      16ルーブル   

 所持金  9275シリング  (-260)



 昨日は久しぶりに午後が丸々空いたのでトレーニングもしていた。

 筋力はもう少しで200だな。

 全体的に筋肉が薄い鎧のようについてきた。

 そろそろCap値も5に上がるから新しいアーティファクトが欲しいな。

 そんなことを考えているとポチ君がブラシを片手に寄って来る。


「リーダー、ブラシしてー」

 ポチ君が俺のヒザに座り、ニコニコしていた。


 ポチ君の頭や首元、腕などをいていくが……抜け毛が結構あるな。

 こちらの季節はわからないが、そろそろ夏が近いのかねぇ。


「次、あちきにゃー」

 気が付いたらミケちゃんが隣に座っていた。


 ポチ君の次はミケちゃんを梳いていく。

 ミケちゃんは短毛種なので抜け毛は少ない。

 耳に当てると怒られるので慎重に梳いていく。

 ミケちゃんもブラッシングが好きだ。

 特に、人にしてもらうのが良いらしい。

 ここらへんはまだまだ子供なんだなぁと思った。




 それからうさぎのおばさんの屋台で腹ごしらえをして、ギルドへと行く。


「おはようにゃー!」

 ミケちゃんが受付のおかまさんへと挨拶をしていく。

 俺達も続いていく。


「おはようー、車の準備できてるわよ。もう行く?」


「はい、おねがいします」


 ギルドの駐車場には大きな赤いトラックが止まっていた。

 全長8m、車高は3mぐらいか。

 特に荷台が高く、天井は無く開いている。

 8トントラックと言ったところかな?

 土砂などを運ぶタイプに見える。

 ダンプカーか?


「おお! すごいにゃ! でっかいにゃー」

 ミケちゃんとポチ君がトラックの周りを歩きながら眺めていた。


「すごいでしょ。ギルドの誇る買い取り専門トラックよ。

 装甲も厚いから、レイダーに襲われてもそのまま轢いて行けるのよ」

 おかまさんの自慢げな一言に、ミケちゃんが目を輝かせる。


「はい! はーい、あちき運転したいにゃー」


「あらあら、ごめんなさいねー。コレ、ギルド職員専用なのよう」


「えー」


 ぶー垂れるミケちゃんを横目に、リアカーを荷台に乗せていく。

 買い取りをしてもらった後、おかまさんは帰り、俺達は探索を続けるので別行動になる。

 なので、帰り道用にいつものリアカーも借りた。

 俺達は荷台に、おかまさんの運転で都市遺跡へと出発する。



 初めて乗る、ちゃんとした車にミケちゃんとポチ君も大はしゃぎだ。

 荷台のへりによじ登りながら、速いにゃ!と声を上げている。


「でかい車も中々良いにゃ。おにいさん、バザーが来たら何買うにゃ?」


「んー、どうしよっか?」


「僕は小さいのでも良いよう。足の速いのが良いなぁ」


 ミケちゃんはなんかスゴイの、ポチ君は速いのが希望か。



「あ、アリにゃ! 轢くにゃ!」


「道から外れるから行かないと思うよ」


「むー、あちきが運転してたらガンガン行くのにー。

 命拾いしたにゃ」

 そう言って、アリへ手を振っている。

 アリもトラックの威容にびびったのか、Uターンして離れていく。



 探索したビルの前に着く。

 3人でリアカーを下ろし、ここからが俺達の出番だ。


「それでグールは何処かしら?」


「ちょっと待っててください。ミケちゃん、おねがい」


「わかったにゃ。ちょっと行ってくるにゃ!」


 ビルの側面にはロープが垂らしてあるが、その端は地上5mほどの高さに揺れている。

 ミケちゃんはビルに向かって駆け込むと飛び掛り、壁を2度蹴ってロープへと手を届かせる。

 今、アーティファクト使ってなかったな。

 素であれだけの跳躍が出来るから流石だ。

 そのままスルスルっとロープを登っていき、屋上でロープを結びなおして、ロープを地上まで下ろす。


「……すごいわねー。壁登る子、初めて見たわー」

 おかまさんも感心していた。


「ミケちゃんですからね」


 俺達もミケちゃんに続き、登っていく。



 屋上にはグールの山が出来ている。

 その数82体。

 これをどう地上まで下ろすか、なのだが。


「やっぱし、ここから落とすしかないよな」


 地上のおかまさんにビル前から下がってもらい、グールを落っことす。

 グールは頭を下に落ちて行き……バラバラになった。

 頭が路上へと跳ねて転がっていく。

 まぁ、こうなるよな。

 俺だけ下に降りて、準備をする。

 昨日買ったズタ袋を3枚重ねて、手で広げる。

 準備OKだ。

 ミケちゃんたちに合図する。


 落ちてきたグールをバレーのレシーブの様に受け取るフリをして、オブシディアン・タールを使う。

 重さを抜かれたグールは速度はあっても大した衝撃にはならない。

 流石に跳ねさせると不審の目で見られるだろうから。

 受けるズタ袋に角度をつけて斜めにし、グールを地面へと転がしていく。


「器用ねー。それ、腕痛くならない?」


「ええ、受けるのではなく転がすのがポイントなんですよ。

 なので大丈夫ですよ」

 おかまさんの質問に適当に返す。


 最初の1体はダメにしてしまったが、残りの81体はなんとかきれいな状態だ。

 それをみんなでトラックに積み込み、おかまさんが運転席へと入る。


「それじゃ先に帰って清算しておくから、夕方までには帰ってくるのよー」

 おかまさんが窓から手を振りながら、トラックを発進させる。

 俺達も手を振りながら、それを見送った。




 さて、ここからは探索だ。

 また屋上へと戻り、18階の奥へと向かう。

 そこには、この前開けたエレベーターがある。


「またココ来てどうするにゃ?」

「何にも無いよ?」


「うん、このビルには地下があるんだけど。そこがお宝部屋かもしれないんだ」


「本当かにゃ!」

「わー、すごいね」


「それでこの穴がまっすぐそこまで続いているから、ここから降りて行こう」


 3人で軍手をはめて、オブシディアン・タールを暴走させたら準備OKだ。

 エレベーターを吊り下げている太いワイヤーを片手で掴みながら、落ちていく。

 2人は完全に体重を消せるのでポケットの中の小銭だけ対象外にして、僅かな重みでスルスルと降りていく。

 俺は体重を完全に消せないので両手でワイヤーを掴む。

 それでもスピードを消しきれず、加速していく。


「熱ちっ! 熱ちっ!」


 摩擦熱で手が熱い。

 底まで降りたときには軍手はボロボロになっていた。

 手の平は大丈夫だったが、今度来るときは丈夫な皮手袋を買ってこよう。


 降りた所は多分エレベーターの上だ。

 ライトを照らして入れるところを探す。

 非常口か、点検口かはわからないが天井に扉が付いていたので、そこからエレベーターの中へと滑り込む。

 中のドアは閉まっている。

 ここから先は未探索の場所だ。

 3人で銃を構える。


 ドアをナイフで少しだけこじ開け、先を覗う。

 真っ暗だ。


「リーダー、物音は無いよ」


「あちきも空気が動く感じがしないと思うにゃ」


 2人がそう言うので俺を先頭に中へと進む。

 一歩踏み出すとセンサーに引っ掛かったのか、奥に非常灯のか細い明かりが点く。

 ちょっと迂闊だったか?

 いや、それよりもこのシェルターはまだ生きているのか?

 2人にエレベーターの中から銃を構えてもらい、俺だけ中へと進むことにした。



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