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第67話 シャーロットさん再び

 都市遺跡から帰ってきたところに声を掛けられる。


「失礼します。あなたたちが昨日、お嬢様に奴隷商人に間違えられご迷惑を被った方々でしょうか?」


 声を掛けてきたのはメイド服の似合わない女性だ。

 肩までのショートカットに、メイドが頭に付けるヒラヒラのカチューシャの様な物を被っているのだが……。

 その目は鋭く、水底を覗くように気負いも感情もまるで感じない視線に、ぞくり…とする。


「ええ…、それで間違いないと思いますが。あなたは?」


「失礼しました。私はドナウ家でお嬢様の側仕えをしています、メアリーと申します。

 先日はお嬢様が失礼をしました。今日はそのお詫びを申し上げに。さぁ、お嬢様?」


「その……、悪かったわね。」

 メイドの影に隠れながら、シャーロットさんが恥ずかしそうにしている。


「お嬢様?」


「う……、お詫びにそちらのネコちゃんとワンちゃんを家にご招待したいのだけどよろしいかしら?」

 ウェーブのかかった金髪を手で弄びながら、上目遣いにミケちゃんたちに話しかけるが。


「あちきらは今忙しいので遠慮するにゃ。ハンターは暇じゃないにゃ」

 すげなく返される。


 シャーロットさんは下を向いてしまった。

 それをメアリーさんが気遣っている。

 なんとなくわかったぞ、ミケちゃんたちと仲良くしたいってことか。

 シャーロットさんは1級市民だから内壁の住人のはずだ。

 内壁を越えるチャンスかもしれない。

 だが下手をしたらマズイ気もするし、まだ信用できるかもわからないな。

 どうするか?


「あの……二人と仲良くしたいってことですよね?」


「ええ、私もふもふの方々と話すの初めてですの。

 最近、内壁を越えても良いとお父様に許可をもらえて。

 昨日、初めてもふもふが多いとされる北門の市場までやってきましたの」


「ああ、そこで俺たちに会ったんですか」


「ええ、憧れのもふもふにきつい労働を強いているなんて、なんて酷い方かしら!と勘違いしてしまって。

 ごめんなさいね」


「いえ、わかってもらえればいいですよ」


「それでどうかしら? アナタもご招待しますわよ?」


「二人はどうする?」


「んー、忙しいからパスにゃー」

「ミケちゃんが行かないなら、僕もー」


 二人の返答を聞いて、シャーロットさんがその場に崩れてしまった。

 メアリーさんがすぐに駆け寄り、手を貸す。

 今度はメアリーさんが尋ねてくる。


「お三方はハンターの様ですが、ギルドに仕事として通せば請けてもらえますか?」


「いえ、忙しいのは事実なので。来週のバザーまでにお金貯めないといけなくて、今週は遺跡に掛かりっきりの予定だから」


「遺跡へ……ですか。獲物は何でしょう?

 機械部品もしくはクレジットですか」


「コレにゃー」

 ミケちゃんからリアカーからバックパックを下ろし、中身を見せる。


「ほう……衣料品ですか」


 あらあら、なになに?とシャーロットさんも覗き込み、中の服を広げる。


「まぁ! 可愛いわ。状態もかなり良いわね。

 ネコちゃんは腕が良いのねー」


「まぁ、にゃ! あちきにかかればこんなの楽勝にゃー」

 ミケちゃんが機嫌を良くしたか、鼻高々に言う。


 まぁ、可愛い!とシャーロットさんがミケちゃんに抱きつこうとするが、つっかえ棒の様に伸ばした腕に阻まれる。


「それで、この衣料品を売る当てはあるのですか?」

 メアリーさんが尋ねてくる。


「いえ、まだ。バザーで業者を見つけようと考えていますが」


「バザーでは難しいでしょうね。あそこは基本的に外壁の住人を対象とした市です。

 見た所、この衣料品は崩壊前の品。そういった高級品はあそこでは買い叩かれるだけでしょう」


「そうなんですか?」


「知らないのですか? 合成繊維の衣料品は民間にはあまり出回りませんからね。

 特に、崩壊前に作られた物は質が良いですし」


「いえ、あまり物事を知らないもので……。

 民間には出回らないとのことですが、他の場所にはあるのですか?」


「ええ、崩壊前に作られ今も生きている、数少ない工場のほとんどは中央に押さえられてますから。

 ほとんど軍事用にまわされ、民間にまで流れてくるのは僅かですからね」


「なるほど」


「それでどうします? 状態の良いものであれば私どものツテを使い、捌くことができますが?」


 思わぬ商談の機会に考え込む。

 どうするか?

 ミケちゃんたちは……と見れば、まだシャーロットさんと取っ組み合いをしている。

 諦めずに抱きつこうとしているシャーロットさんに、ミケちゃんは飽きてきたのか、シャーロットさんの顔を手で捏ね始めた。

 顔を手で押さえられ、タコの様になっている。

 その姿を見て、思わず笑ってしまう。


「どうしました?」

 シャーロットさんに背を向けている、メアリーさんは気づいていない。


「いえ……」

 今度はポチ君も参戦し始めた。

 4本の腕で顔をこねくり回される。


「ぶふっ!」

 噴出した俺を怪訝な目で見た、メアリーさんが振り返る。

 その先には二人にもみくちゃにされるシャーロットさんが。


「コラー!! 何をやってるか! 貴様らは!」

 怒鳴られ、にゃっ!?とミケちゃんたちはシャーロットさんの後ろに隠れた。


「ちょっと! 大きな声を出さないでくださる。

 もふもふちゃんたちがびっくりしちゃったじゃないの」


「怖いにゃー」

「だねー」

 と、シャーロットさんの背に隠れて、二人がうなづく。


「ですがお嬢様。そちらの二人がお嬢様に無体を」


「あら、もふもふに愛されてただけですわ。うふふ」

 楽しそうに笑った。


 シャーロットさんは気にしていないようだが、メアリーさんは職務上か、厳しい目を向ける。

 それに二人がしっぽを振って、返す。

 メアリーさんの眉が上がる。

 コラコラ、煽るのは止めなさい。


「まぁまぁ、そこらへんで。商談でしたらこちらも歓迎したいので、どうでしょう?」


「商談? 何の話ですの?」


「お嬢様、こちらの方は遺跡から獲って来た衣料品の売買先を探し、困ってるそうで。

 お嬢様ならそのツテをご紹介するのも容易いでしょう。どうでしょうか?」


「あら、それは良いわね。売り先を紹介しなくても私が直接買い上げても良いわ。

 状態の良いものなら損はしないもの」


「それは助かります。二人はどう?」


「んー、売れるなら良いんじゃないかにゃ?」

「僕も良いと思うよー」


「それなら決まりね。今からウチまで来る?」

 ミケちゃんに問いかけるが。


「おにいさん、どうするにゃー?」


「まだ、集め始めたばかりだし。もうちょっと数が貯まってからの方がいいかな?」


「それじゃ、いつにするのかしら?」


「……3日後でどうです?」


「3日後ね、時間はお昼の12時でどうかしら?」


「わかりました」


「それでは、その時間にこの場所で。メアリーを向かわせるわ」


 服を売る約束をして、シャーロットさんたちと別れた。

 別れ際にメアリーさんから、遺跡で機械部品、特に電子機器を見つけたら持って来てくれと頼まれる。

 20階にあったパソコンも売れそうだ。

 中のデータを見て、問題が無さそうなら持っていって見るか。


 途中、バザーに寄り大きなズタ袋を3つ買ってから宿に戻る。

 ズタ袋は丈夫そうなのを選んだので1つ200シリングと高めだったが、3人で割り勘にする。


 荷物を宿で降ろし、リアカーを返しに行って。

 さて、ハッキングしたデータを見てみるか。

 良い情報があればいいが。



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