第65話 悪党のワルツ
距離などの単位は、こちらの世界の単位に合わせることにしました。
都市遺跡の路地裏、その先にある小さな広場に12人の男達が武器を構え、こちらを待ち受けていた。
いつでも腰の銃を抜けるようにして、一歩前に出る。
「何だお前らは!」
「忘れたとは言わせねえぞ! 昨日は兄貴達をよくも殺ってくれたな!」
昨日のレイダー達の残党のようだ。
中でも大柄でハンマーを抱えた男が言い返してくる。
顔つきも昨日のリーダー格に似ているような気がするな。
後ろ手でミケちゃんとポチ君にハンドサインを送る。
サインは、待てと散開。
軽く手を上げながら俺が前に出た。
レイダー達が武器を向けてくる。
「そうか…。なぁ? 昨日のでかい男が最後に何て言ってたか、知りたくないか?」
それを聞き、新しいリーダー格が手を横に出し、制止する。
「何だ? 話次第ではちょっとぐらい手心を加えてやるかも知れんぞ?
まぁ、結局は殺しちまうと思うけどなぁ?」
大柄な男がハンマーを手で弄びながら、尋ねてきた。
距離は…5m、ここらへんか。
右の袖口から見つからないようにスプレーを取り出し、手の中に隠す。
「さて…、何だったか、なぁ!」
一気に、大柄な男に向けて駆け込む!
男もその動きに反応して、ハンマーを上段に構えた。
息を止め、構えた腕に力が入り、男は待ち構える。
だが、その間合いには入らない!
急停止してスプレーを噴射!
ハンマーの間合いより、ゆうに一歩分は遠い。
目の前に迫る黒い霧に男がハンマーを構えなおすが、それで防げるわけが無い。
「がぁぁ!?」
大柄な男が顔を真っ黒に染め上げ、闇雲にハンマーを振り回す。
そのままハンマーの間合いに入らないように気を付けながら、ナイフを抜いて斜め前に駆ける!
目の前にはこちらに銃口を向けようとしている別の男が。
銃口と眼が合うより一瞬早く、左手で振り払い、そのまま肩口から体当たり!
当たった衝撃を使って方向転換、男は腹にナイフを生やして尻餅をつく。
ハンマーを振り回している男の背後へと駆け抜け、半回転。
左の袖口からワイヤーを引き抜き、男の首めがけ振るう!
シュル…パシンッ!と男の太い首にワイヤーが巻きつき、体を背後へ倒して……体重を掛けて、一気に引き絞った!
ズブリ……とワイヤーが肉を引き裂き、ドクッ…ドクッ…と血が零れる。
首を押さえて声にならない悲鳴を上げながら、大柄な男がうずくまった。
一瞬の凶行に場が静まる…。
リーダー格の男は首を裂かれ、横に居た男もナイフで刺され呻いている。
残されたレイダー達が俺を見る。
驚愕、恐れ……、反転して憎悪の視線を向けてくる。
そうだ、こっちを見ろ。
アーティファクト切り替え、オブシディアン・タール暴走
レイダー達が銃を向けてくるが、遅い!
左右にステップを踏みながら、後ろの路地裏に向かって後退する。
体重を軽くし、弾かれたように動く俺にレイダー達の銃口が合わない。
クソッ!死ね!と罵りながら、放つ弾丸をかわしながら路地裏へと入り。
ジャンプ、途中で壁を蹴り、三角跳びの要領で斜め上の看板へと手を伸ばす。
届いた、そのまま腕の力で体を引き上げ、クルッと看板の上で一回転。
ペタリと看板の裏に貼り付いた。
左手で姿勢を保持、右手で腰のマグナムリボルバーを抜く。
ロックを外す、路地裏の地面に赤いレーザー光が落ちる。
路地裏の地面を赤い点が泳ぎ、こちらを追ってきた男の胸に止まる。
えっ?えっ?と男が不思議がる、引き金を引く。
ダンッ!と暴力的な音を路地に響かせながら、男の心臓を食い破った!
マグナム弾が着弾する衝撃で、男は転ぶように背から落ちる。
またもや、場が静まる。
呼吸を止めたような静けさ。
男たちは地面を泳ぐ赤い光から目を離せない。
赤い揺らぎが場を支配する。
男達が俺に視線を向けている間に、ミケちゃんとポチ君は包囲を抜け、左右のビルの屋上へと。
残された男達が撃ってくるが、看板に阻まれ俺には当たらない。
手前へと近寄ってきた男に向け、光を泳がせる…。
慌てて男が逃げた。
指揮棒の如く、リボルバーを振るう。
赤いレーザー光が男たちの手足、顔を横切るたびに手足をバタつかせながら逃げていく。
そうだ、踊れ。
こちらに銃口を向けていた男の目を赤い軌跡が抜ける。
男はその場で尻餅をつき、腰を抜かしたのか、ほうほうの態で逃げようとする。
パシュッ!パシュッ!と気の抜けたような銃声が微かに響く。
別の男の足を赤い軌跡が抜ければ、足を高く上下しながら、慌ててその場を離れた。
パシュッ!パシュッ!
こちらへと駆け込んでこようとしていた男の前に赤い光を止める、慌てて後ずさる。
パシュッ!パシュッ!
こん棒を持って、手持ち無沙汰な男を追い回す。
男は赤い光から必死に逃げた、が。
音も無く殺られた仲間の遺体に足を引っ掛け、転び、ようやく気づく。
周りは死体だらけ。
もう自分を含めて2人しか残っていない、と。
戦意を砕かれ、声にならない悲鳴を上げながら逃げようとする、男の背に赤いレーザー光を止め、引き金を引く。
背から心臓を食い破られ、前のめりに落ちた。
最後の1人は向こうの路地に向かって駆け出したが、もう遅い。
ポチ君がハンドガンを置き、背のライフルを抜く。
構え、ロックを外し、……引き金を引く。
タァンッ!……
路地裏に赤い花の咲く、軽やかな音が鳴り響いた。
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