第62話 レイダーの強襲 後編
タァンッ!・・
タァンッ!・・タァンッ!・・
都市遺跡に軽やかな音が鳴り響く。
鳴るたびに赤い花がパッと咲き開く。
眼下には5本の花が寄る辺無く、撃ち捨てられていた。
鳴り初めには阿鼻叫喚、悪党どもの恨みと怨嗟の怒号がこちらまで届いていたものだが。
今は息をするのも憚れるほどの静寂がビル前の広場を支配している。
赤いレーザーポイントが獲物を探して広場をさ迷い漂うが、標的は完全に物陰に体を隠し、撃ち返してすらこない。
「んー・・、困った」
「どうしたにゃ?」
「敵が出て来ない」
膠着状態だ。
相手は撃ち返してこない、かと言って撤退をした訳でもない。
何か不気味だな。
こちらから打って出てみるか。
「ポチ君、ライフルを頼む」
ポチ君にライフルを渡す。
「え、どうするの?」
ポチ君はずっしりと重いライフルを渡されて困惑している。
「あ、ずるいにゃ。あちきも使いたいにゃ」
ミケちゃんが口先を尖らせてぶー垂れる。
「いや、この中だとポチ君が一番射撃が上手いから・・。
ミケちゃんには後で撃たせてあげるから、ね?」
ミケちゃんをなだめる。
「えーっと、リーダー?」
「ああ、すまない。俺が奴等の背後に回って炙りだすから、そこをポチ君に撃って欲しい。
ミケちゃんは奴等がビルの中に入ってこないように牽制を頼む」
「んー、危なくないかにゃ?」
「危険は承知だけど・・、奴等の動きがおかしい気がするから、こちらから打って出てみるよ。
二人は敵を狙い撃つのと、ここの防御を頼む、それと。」
屋上のドアの前に行く。
ドアの手前50cmほどの床にひび割れが入っている。
それをハンマーで叩き広げ、そこにハンマーの片側を差し込み、ドアに引っ掛けた。
外開きのドアだから、引っ掛け棒を掛けておけば開けられないだろう。
「一応、念のためだけどドアを封じておくね。
まぁ、万が一ここに入り込まれても多分、中にグールが居るだろうから、ここまで来れないと思うけど」
「わかったにゃ、気をつけてにゃ」
「危なくなったら、すぐ戻ってきてね」
「ああ、じゃ、行って来る」
バックパックを下ろし、その中からブラッドルビーを念のため取り出し、空きポケットに入れておく。
ビルの裏側から窓伝いに降りる。
裏の路地へと降り立ち、大きく迂回しながら敵の背後を目指して進む。
路地を曲がり、しばらく進んで大きな通りに出たところ。
こちらへと向かってくる男たちと鉢合わせた!
げっ!考えてることは同じだったか!
男たちが慌てて銃を抜こうとしていたので、すぐに元居た路地に後退する。
「ヤバイ! ここで撃ち合うか?」
男たちは先頭に2人、後続に3人見えた。
正面からの撃ち合いではこちらが不利だ。
ダッダッ!とこちらに近づいてくる足音が聞こえる。
身を隠す場所は?と探して、辺りを見渡し、片側のビルがそんなに高くないことに気づく。
4階建てか、ビルの側面にはエアコンの室外機のような物や看板が付けられている。
アーティファクト切り替え、オブシディアン・タール暴走
全力で跳び、室外機へと手を掛ける。
今度はそれを足場に屋上まで着いた。
それと入れ替わるように、路地に男たちが突っ込んできた。
ぎりぎりセーフだったな、入ってきたのは先頭の二人か。
見つからない様、伏せながら眼下を覗く。
片方が銃、もう片方はこん棒を持っていた。
「ちくしょう! 何処行きやがった!?」
俺を探しているようでキョロキョロしているな。
マグナムリボルバーを抜き、レーザーサイトを路地の地面に向ける。
片方の男が赤いレーザーポイントを見つけ、不思議そうに見ている。
ポイントをその男の頭に移し、引き金を引く。
ダンッ!
真上から撃ち下ろされたマグナム弾は、男の頂点から入り顎下へ抜ける。
衝撃で顎は砕け、だらしなく開いた口からは蛇口を捻ったように血があふれ出し、男はゆっくりと崩れ落ちた。
それを見て硬直していた、もう片方へも同じ様に撃ち込む。
路地に二つの赤い水たまりが出来る。
そこへ後続の3人が駆け込んできた、慌てて顔を引っ込める。
「うわ! 酷え!」
「しゃがめ! 撃たれるぞ!?」
「糞! 何処に居やがる? 奥か?」
男たちは中腰になりながら、奥へと銃口を向ける。
どうやら上に注意は向けないようだ。
このまま撃つとして、3人は多いか?
1人ぐらい撃ち返してきそうだ。
ナイフを抜く。
ちょうど自分の真下に来た男に、ナイフの刃を下にして落とす。
すぐにリボルバーを構え、別の男の頭にポイントを合わせる。
男の頭にナイフが突き刺さるのと同時に、引き金を引く。
ダンッ!と銃声が聞こえると同時に二人の男が倒れる。
残った1人はその光景に目を剥き、不意にこちらへ視線を向けた。
目が合う、その額に向けて撃ち込む!
男は額を撃ち砕かれ、仰向けに倒れこんだ。
「まずいな、敵もこちらの裏へと回り込もうとしているのか・・」
一度戻るべきか?
「いや、戻っても篭城戦になるだけ。
このまま、敵にペースを握られたままになる方がヤバそうだな。」
敵が火炎瓶などを持っていた場合、ビルごと燃やされる可能性がある。
「敵を倒しながら進んで、最初の目標通りビルの前に陣取ってる奴等を片付けるか」
二人が心配だ、迅速に行動して戻らないとな。
リボルバーのシリンダーをスイングアウトして、弾を詰め替える。
刺さったナイフを回収しようとしたが、深く刺さってるようで時間が掛かりそうだ。
後で回収することにして、先を急ぐ。
その頃、ミケちゃんとポチ君は。
「にゃーにゃー、ポチー?」
「何? ミケちゃん」
「おにいさんはこのビルにグール居るって言ってたけど・・」
「ああ・・ 多分、居ないよね」
「ポチもそう思うにゃ?」
「うん、気配が全然感じれないから、多分?」
その時、今まで動きの無かったレイダーたちが決死の突撃をしてきた!
入り口に向かって駆け込んできたレイダーの数は5人。
ミケちゃんとポチ君が慌てて撃ち込むが、倒せたのは2人。
「ヤバイにゃ! 入って来ちゃったにゃ!」
「マズイよう・・、1人ハンマー持ってたよう・・」
2人は後ろのドアを振り返って見る。
ハンマーを引っ掛け棒にして閉じてあるが、ハンマーで叩かれればドアごと壊されるかもしれない。
2人が顔を見合わせる。
「・・ちょっと行ってくるにゃ」
ハンドガンを手にミケちゃんがドアへと向かう。
「ミケちゃん!?」
「あちきが中に入ったら、また引っ掛け棒を掛け直すにゃ。
にゃーに、おにいさんが帰ってくるまで時間稼ぎするだけにゃ。
それに、全部倒してしまっても構わんのにゃろう?」
「ミケちゃん・・」
「行ってくるにゃ!」
片手を上げて、ミケちゃんがビルの中へと入っていく。
物陰に隠れるようにビルの中を進んで行くが、やはりグールは居ないようだ。
気配がまったく無い。
「居なくて良い時に居て、要る時に居ないからむかつくにゃ」
ぼやきながらミケちゃんが進む。
2階で敵の気配を見つけた。
敵はグールが居ないか探りながら、おっかなびっくり進んできたようだ。
先頭のハンマーを抱えた男の胸にレーザーポイントを合わせる。
パシュッ!パシュッ!
撃ってすぐに物影に引っ込む。
物陰からそっと様子を覗けば、突然倒れた先頭の男に、後ろの2人が慌ててるようだ。
「ちくしょう! 近くに居るぞ!」
「糞! 撃て、撃て!」
男たちがでたらめに撃つ!
その銃弾がたまたまミケちゃんの隠れてる場所の近くに撃ち込まれ、びっくりしておもわずしっぽをピンッ!と上げてしまう。
「あ! 見ろ! 机の上からしっぽが出てるぞ!」
男が指差し怒鳴る。
「ヤバ! 逃げるにゃ!」
ミケちゃんが物陰から飛び出し、別の物陰へと飛び込む!
男たちが慌てて撃ち込むが、動きの速いミケちゃんに照準が合わず、当たらない。
その事に気づき、ちょっと油断してしまったからか。
ミケちゃんは近くのドアに間違えて入ってしまった。
「さて、次の隠れ場所は・・と? あれ!? ここ行き止まりにゃ!」
ミケちゃんが入ったのはトイレだ、出入り口は一つしかない。
トイレの入り口から、そっと覗き込もうとするが・・
バンッ!
出入り口近くに撃ち込まれる!
ニャッ!と驚いて、尻餅をつく。
「ネコちゃーん、隠れてないで出ておいでー?」
「そうだよー、おじさんたちは優しいから生きたまま生皮を剥がしてあげるよー?」
ゲハハと笑いながら男たちは、トイレに向かって銃口を向ける。
ミケちゃんの篭城戦が始まった。
場面は戻り、主人公へ。
迂回してきた敵を撃ち倒し、路地裏を抜けてきたが。
大通りを進むと敵を鉢合わせになる可能性があるので、ビルとビルの間を飛び越えながら、ビルの上を進む。
いくつかビルを飛び越えたところで眼下に、2人の男が路地の角を曲がってくるのを見つけた。
2人の男は角を曲がったところで立ち止まり、左右を見渡している。
見張りか?
男たちの近くのビルに飛び移り、男たちの背後に向かって、そっと飛び降りる。
タッ!という着地音に気づき男たちが振り返るが、もう遅い!
ダンッ!ダンッ!
マグナムリボルバーを至近距離から連射する!
胸を撃ち抜かれ、衝撃で男たちが転げ舞う。
それを最後まで見届けることなく、先を急ぐかと振り返った時。
バンッ!と横のビルのドアが開き・・、吹っ飛ばされる!
「ぐはぁ!」
横から強烈なタックルを受けた様だ。
「ハーイ! 僕ちゃん、いろいろ殺ってくれたなぁ?
てめぇもあのネコ共も生きたまま生皮を剥いでやるよ!
簡単に死ねると思うなよ!?」
大柄なプロレスラーの様な男が悪鬼の表情でこちらを睨みつけてくる。
見張りの2人は囮か!
すぐに撃ち返したいところだが、タックルを受けたときにマグナムリボルバーを落としてしまったようだ。
とにかく体勢を立て直さなければ、と立ち上がろうとしたところに大柄な男が駆け寄り・・ドロップキック!?
ドォンッ!と5mほど吹っ飛ばされ、反対側のビルの壁に叩きつけられた!
「グァッ!・・ゲハッ!・・グッ!」
腕でガードしたがとんでもない力だ。
立ち上がろうとするが、左腕と胸に息が詰まるような激しい痛みが走る!
左腕と左の肋骨にヒビが入ったかもしれない。
左の肺がショックで止まっていて、息苦しい・・。
「あれー? お前、なんか変な感触だったな? 受け流された?」
オブシディアン・タールの力で衝撃を吸収したのだろう。
だが、それでもあれだけの威力か、グールの数倍あるぞ。
アーティファクトを切り替える。
■クリスタルエッグ x 2 - ブラッドルビー - オブシディアン・タール
ブラッドルビーを使ってケガの回復を促す。
性能的に骨折などは治りにくそうだが、痛みの鎮静効果はあるようだ。
先ほどよりかはマシになってきた。
立ち上がりかけたところで、大柄な男が殴りかかってくる!
「死ね! オラァ!」
必死に転げるようにしてかわし、距離を取る。
片肺で喘いでいたところ。
すかさず大柄な男は駆け寄ってきて、大振りなパンチを繰り返す!
腰を少し落とし、上半身を左右に振りながらそれを避けていく。
避けていくうちに肺の動きも元に戻った、息苦しさが抜けていく。
酸素の回った頭で相手の動きを見れば、ずいぶん大雑把なのが目に付く。
格闘技などを習った事があるようには見えない。
恵まれた体格に任せた喧嘩しかしてこなかったのだろう。
避けていくうちに腕のリーチは大体把握した、ここからは膝の動きに注視する。
間合いを正確に計るためだ。
避けるのから一転、相手へと踏み込む!
それに合わせて大柄な男もこちらへ一歩踏み込む!
互いに膝を向き合い、その距離はちょうど一歩分。
こいつのパンチはそこからさらに半歩分伸びてくる。
相手の膝がグッと固まった瞬間を見計らい、一歩下がる。
俺の顔の前を通り過ぎていく拳を悠々と見送り、反撃だ!
素早く一歩踏み込み、右の掌底をペタンッと相手の顔に当てる。
人差し指を相手の左の目尻に引っ掛け、そのまま横に勢い良く引っかく!
指が相手の両目をなぞる。
「ギャッ!」
大柄な男はおもわず手で顔を覆う。
そのまま、片手を振り回しこちらを牽制してくるが。
アーティファクト切り替え、オブシディアン・タール暴走
体重を軽くし、軽いステップで相手の背後に静かにまわる。
暴走を切って、思い切り膝裏へトゥーキック!
鉄板の入ったつま先が肉を押し潰し、コッと膝の関節に当たった感触を返してくる。
「ガァッ!」
男の片膝が落ちる、残った膝へも同じように蹴り込む!
仰向けに倒れた男の頭の横に、わざと足音を立てながら立つ。
頭を攻撃されると思った男が両手で顔をかばう。
このまま蹴り飛ばしてもいいが、やるならもっと強烈な一撃を!
アーティファクト切り替え、オブシディアン・タール暴走
全力で跳び上がり、頂点に達したところで暴走を切る。
狙うは男の腹。
地上5mから全体重を掛けた踏み付け!
ドロップキックのお返しだ!
大柄な男の突き出た腹に両足がふくらはぎまでめり込む。
足裏からゴキッ!という太い骨が外れた様な感触も返ってきた。
男の口から血の混じった吐しゃ物が吐き出される。
黄色い吐しゃ物は次第に赤くなっていき、ゴポッ!ゴポッ!と壊れた水道栓の様に断続的に吐き出され続ける。
内臓を完全に潰した、致命傷だろう。
だが、油断はしない。
近くのガレキを拾い上げ、男に近寄っていく。
「ゴハァ!・・ウェッ! ・・待て、待ってくれ・・」
「うるせぇ、糞野郎」
ガレキを思い切り振り下ろした!
思わぬ時間を取らされた。
すぐにマグナムリボルバーを拾い上げ、走り出す!
ここまで来ればあと少し。
オブシディアン・タールを暴走させ、軽快に走りこむ。
角を曲がったところで、すぐに物陰に隠れるレイダーたちが見える。
距離は20m、左手が使えないので片手撃ちだがいける!
車の残骸に隠れてる男にポイントを合わせ、撃つ!
男は背中から撃ち抜かれ、残骸へと叩きつけられる。
発砲音で男たちが俺に気づく。
銃口を向けられるより早く、サイドステップ、場所を変え次々と別の標的へと銃口を向ける。
銃口を向けられた男たちが慌てて隠れ場所から出てくる。
タァンッ!・・
別の奴にも銃口を向け、その場から追い出す。
タァンッ!・・
そうやって、どんどん追い出していくが、一人だけ動かずこちらへ銃口を向けてきた。
男の向ける銃口をジッと見る。
音が耳から遠ざかっていく、砂埃の舞い散る様がはっきりとわかる程の集中、何となくわかる。
アレは当たらない。
男がこちらに向けて、撃つ!
だが、それは俺の横1mほどの所を抜けていく。
男の胸に赤い光がピタリと止まる。
ダンッ!
マグナム弾が男の心臓を食い破った。
慎重に辺りを探るが、この辺にはもうレイダーたちは残っていないようだ。
前方のビルの屋上に居るポチ君に向かって手を振る。
だが、ポチ君はしきりに下を指差す?
下には・・入り口か!
しまった!中に入られたか!?
急いで、入り口に向かって駆け込む。
中に入れば、バンッ!バンッ!と銃声が聞こえてくる。
ミケちゃんたちの銃声じゃない、糞!
奥に見える階段へと走る。
焦る気持ちを抑え、静かに階段を上がり、辺りを見回す。
すぐにこちらに背を向ける男たちを見つける、その先には・・
ドアの隙間からハンドガンと、それを握る可愛い白い手がある!
向こうから見える位置にこっそり移動し、手を上げる。
ドアの隙間の暗闇の中で、緑に反射して輝く眼が瞬く。
気づいてくれたようだ。
男たちの片方に銃口を向ける。
片手撃ちだから連射は厳しい。
ダンッ!
一撃入れて、すぐに柱の陰に隠れる。
もう片方の男が慌ててこちらに振り返るが、それは悪手だ。
ミケちゃんが隠れてたところから、疾風のように飛び出す!
音も無く、ミケちゃんが男の隠れてた机の上に降り立つ。
グロック17の銃口を男の後頭部にピタリと付ける。
男の表情に驚愕が走り、振り向こうとするが・・
パシュッ!パシュッ!
「おにいさーん!」
ミケちゃんが俺に駆け寄ってくる。
「怖かったにゃー・・」
俺に抱きつき、ミケちゃんの小さな体から震えが伝わった。
「遅くなってごめんね、大丈夫? ケガは無い?」
「うん、大丈夫にゃー」
屋上のポチ君と合流する。
ポチ君からは敵の動きがまったく無くなったと聞く。
どうやら、これで全てやっつけれたようだ。
3人で無事を喜び、抱き合った。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
ここで一旦、更新を停止します。
エターや打ち切りではなく、新作の中篇を書くために一時休みです。
中篇を書き終えたら、また戻ってきます。
4月の中頃に戻ってくる予定です。
新作は3/27(日)の昼12時に投稿する予定です。
タイトルは「ぼっちだけど核シェルターがダンジョン化したので脱出します」(予定)です。
これも崩壊世界ものです、詳しくは活動報告に書きます。
新作ともども、これからもよろしくおねがいいたします。