第61話 レイダーの強襲 前編
お宝を抱えてビルを脱出してきたが、荷物を運ぶためのリアカーが見当たらない?
はて?と近くを見渡してると、ポチ君が警告の声を上げる!
「リーダー! 囲まれてるよ!?」
ハッ!として周りを見渡せば、路地裏からぞろぞろとこん棒や槍を抱えた、身なりの悪い男たちが出てくる。
前方の路地から出てきた大柄な男は見覚えのあるリアカーを引いている!?
「こんにちわー! お探しのものはコレで・す・かぁ!」
縦にも横にも大きい、プロレスラーの様な男はリアカーを蹴っ飛ばした。
「ああ! あちきのマイカーに何するにゃ!」
借り物です。
「ハイハーイ! 皆さんに! お話が! ありまーす!」
男は手を振りながら、大声で大仰に話す。
この、前方に注目を集めるようなやり方、覚えがある。
すぐに後ろを振り返れば、建物の陰からこちらに銃口を向けている男たちが見えた。
「後ろだ!」
ミケちゃんとポチ君の手を取り、すぐに伏せる。
男たちが慌てて撃つが狙いは逸れて、弾丸は俺たちの頭上を抜けていく。
どうやら前方の男たちの近くに着弾したようだ。
「うわ!? 危ねぇな!! 何処狙ってやがる!」
「す、すいません」
前に居た奴等の方が偉そうだな、後ろの奴等から萎縮した空気を感じる。
不意に起きた混乱、ここを逃すべきではない。
囲まれた状態ではまともに戦えない、ここは三十六計逃げるに如かず。
ミケちゃんとポチ君も横目で俺を覗いて来る、その目は鋭く強い。
言葉は必要ないな。
すぐに立ち上がり、前方の男たちに向かって駆け寄っていく!
後ろから狙い撃たれない様にジグザグに走る、後ろの二人も真似しているようだ。
後ろの男たちは同士討ちを避けて、撃てない。
「お、お! こっち来るのかーい、僕ちゃんたち、さぁ!!」
大柄な男が丸太のように太いこん棒を、野球のスイングのように構え。
その近くの男たちもそれぞれ武器を構えて、俺たちを待ち受ける。
構え待つ男たちの手前で体をグッと沈める。
アーティファクト切り替え、オブシディアン・タール暴走
重力を無視した大ジャンプで男たちの上を飛び上がる!
男たちは唖然とした表情で俺たちを見上げていた。
「糞! やっぱ、こいつら普通じゃねぇ!」
「男の方も亜人か? サルか?」
「追え! 追え! 殺せぇ!」
口々に勝手なことを言いながら、追いかけてくる。
路地裏を抜け開けた場所に出た、前方に5階建ての小さなビルがある。
「二人とも! あのビルの屋上へ!」
前のビルを指差す。
「わかったにゃ!」
「うん!」
二人がビルへと駆け寄っていく。
俺はその時間稼ぎだ。
マグナムリボルバーを抜くと、追ってきた奴等に連射する!
大雑把に狙いを付け、水平に右から左へと撃ち続ける。
路地裏にダンッ!ダンッ!とマグナムの射撃音が響き渡り、音の波が男たちを揺さぶった!
ひぃ!?と驚いた男たちは銃弾を避けようと、その場でうずくまったり、壁に張り付いたりして立ち止まる。
すぐに弾切れになるが目標は達成だ、ミケちゃんとポチ君は無事屋上に飛び移った。
次は俺の番だ、リボルバーを仕舞いビルへと全力で駆けて飛び上がる。
ぎりぎり3階の窓枠に手が掛かった。
あと3つ、上に上がろうと窓枠に足を掛ける。
バンッ!バンッ!と追ってきた男たちが撃ってくるが、50mほど離れている。
そんな距離で当たるか、と無視して上がろうとしたら、向こうもそう思ったのかこちらへと駆けて来た!
げ!と思って、慌てて上がろうとしたところ。
パシュッ!パシュッ!とミケちゃんたちの援護が入る。
掛け寄って来た男たちの内、2人が倒れた。
泡を食った様に慌てふためき、残りは物陰へと飛びのく。
その隙に俺も屋上へと辿り着いた。
「サンキュ! 助かったぁ」
「お互い様にゃ」
「うん」
再会の挨拶を交わし、そのまま屋上から銃撃戦へと移る。
互いに30mほど離れた所から、物陰に隠れながらの撃ち合いはどちらも無駄に弾を消費した。
ビル前の開けた広場には、壊れた車の残骸や鉄製のコンテナの様なゴミ箱が散らばっており、そこからレイダーたちが撃ち返してくる。
ハンドガンにこの距離での精密射撃は難しいな。
距離が開けばそれだけ銃弾の弾道もぶれる、30mだと半径20cmの円の中に入るかといったところか。
ミケちゃんとポチ君は俺より上手いのでもっと小さな円みたいだが。
敵、レイダーたちもハンドガンしか無いようだ、ならここは火力で押し切る!
SHOPアプリを起動する。
ライフルの項目は、と。
■ライフル
・セミオートライフル 2000 *ウィンチェスター M1ガーランド
・アサルトライフル 4000 *H&K G3
■弾薬
・ライフル用弾薬 5 *7.62x51mm NATO弾
預金 934ルーブル
預金が厳しいな、余りのオブシディアン・タールを売るか。
これで余りは0だ。
アサルトライフルは買えないのでセミオートライフルを買う。
目の前に赤茶けた木製部品を多用したライフルが現れる。
ハンドガンに比べ全体的に分厚く、銃身部は上から見て指2本の厚みがある。
長さは110cmほどで重さは4kg以上あり重い。
ズシッとした重さにハンドガンには無い、無骨さを感じる。
まさに戦場の銃という風情だ。
次に改造だ。
・セミオートライフル
■サイレンサー [静穏性向上] 費用200ルーブル
■マズルブレーキ [反動軽減] 費用100ルーブル
■レーザーサイト [着弾点視認] 費用200ルーブル
■スコープ追加 [光学倍率4倍] 費用300ルーブル
■追加弾倉 [装弾数8のクリップ] 費用20ルーブル
マズルブレーキは銃口の先に付ける発射ガスの制御をするアクセサリだ。
発射ガスがスムーズに銃口から抜けることで反動を小さくし、ガスの抜ける方向を制御することで銃口の撃ち上がりも抑える。
たしかサイレンサーも同じ様な効果があったはずだから、これはサイレンサーでいいな。
大は小を兼ねると言うし。
マズルブレーキ以外を選択、追加弾倉のみ2つ選ぶ。
ライフルが光る、輝き終えた後には20cmほどのサイレンサーに、スコープと一体型になったレーザーサイトが付いていて。
弾倉の代わりになるクリップが2つ現れた。
クリップは元々付いてるのと合わせて3つだな。
費用は740ルーブル、残り194ルーブルでライフル弾を買えるだけ買う。
7.62x51mm NATO弾を38発買った、残金は残り4ルーブル。
M1ガーランドはアメリカの銃だから、アメリカの規格の銃弾を使うのだが。
口径の同じNATO弾、西側諸国の世界規格の弾も使えるようだな。
この世界の弾の規格はわからないが、今はこれで十分。
さっそくクリップに弾を挟み込んでいく。
挟む方向は弾の尻の方をクリップに差し込むように挟む。
コの字型のクリップに2列4段になるようにライフル弾を挟めた。
今度はライフルのコッキングレバーを引き、薬室を開け。
そこにクリップごと上から差し込む。
奥まで差し込めばカチッと鳴って、バネ仕掛けにスルッとレバーが戻り、薬室が閉じる。
これで準備は出来た、ロックを外す。
ミケちゃんとポチ君も横目でちらちら見てくる中。
ストックの部分を肩に付ける、少し柔らかい?
ストックの端にゴムのような物が貼り付けてあるようだ。
ありがたい、火力の強い銃は肩付けで撃つと反動で押してきて痛いんだよな。
膝撃ちの姿勢でスコープ越しに敵を見る。
壊れた車の残骸に隠れた男の頭に焦点を合わせた。
スコープの小さなレンズには、男の顔がレンズ一杯に映り。
額に赤いレーザーポイントが灯っている。
レンズ越しに男と目が合う。
息を止め、静かに、引き金を引く。
タァンッ!という軽やかな音と共にライフル弾が撃ちこまれる!
肩を小さな木槌で軽く叩かれるような反動に眉を顰めるが。
レンズ越しの光景はまったく軽くない。
まさに撃ち砕いたという形だ。
マグナム弾でも貫通した後、後部の血肉と骨を砕き、撒き散らすパワーがあるが、それを越えている。
着弾すると同時に男の顔を叩き割り、抜ける際に残した弾丸の運動エネルギーが割った血肉と骨を吹き飛ばした!
男の眉間から上が、文字通り割られ吹き飛んでいく。
スイカを地面に落としたように。
ひぇぇ・・、グロ過ぎて思わず素に戻っちゃったよう。
だが、引いたのは俺だけではないようだ。
レイダーたちの間に絶望が広がっていく。
それをレンズ越しに見て、自分の凶暴な部分がムクムクと起き上がってきた。
ここがチャンスだ!
猛禽の眼差しで次の獲物を探す。