第60話 掃除と探索
日は3分の2ほど昇り、10時くらいか。
高層ビルの屋上を流れる強い風が焦げ臭さと死臭を流していく。
屋上にはグールの死骸があちこちに散らばっている。
50体ぐらいか、階段でも70体前後倒したはずだ。
その後始末を考え、ため息を吐く。
「おにいさん、次どうするにゃー?」
「ミケちゃんとポチ君は先に弾込めをしていて、終わったら屋上のグールを一箇所に集めてくれる?
俺は中のグールを片付けるから」
屋上の出入り口を指す。
「わかったにゃ」
「はーい」
二人の了解も取ったし、お片づけを頑張りますか。
持ってきた掃除用具のエプロンと軍手を着けて、階段へと向かう。
中は改めて見て、酷い状態だ。
20階の踊り場と天井は黒く焦げ、まだ熱気が篭っている。
火は消えたようだが、折り重なったグールは黒く焦げ付いている。
これを見た人は皆、スプラッタな光景に出くわしたと考えるだろうが、ハンターとしての俺の感想は。
これは・・売れなさそうだ。
下の階段には焦げてないのが積み重なってるから、そちらに期待するか。
まずは石けん水で濡れている階段に土を撒いていく。
土はズタ袋に入れて、持ってきてある。
土を撒いて石けん水を吸収したら、ほうきで掃いてチリトリで掬って、ズタ袋に捨てる。
階段の半分ほどをグールの焦げた死骸が埋めてるので、掃除するために退かそうとグールの腕を掴んだら。
ポキッ!と折れてしまった。
折り口を見れば、骨は焦げてないが肉の部分は完全に炭化している。
どうやら関節の部分からもげたようだ。
「こんなに脆いんじゃ片付けるのも一苦労しそうだな」
さて、どうするか?
手で一つ一つ運ぶのは苦労しそうだから、包むか。
グールの上を飛び越えて、20階の防火シャッターの前に着陸する。
防火シャッターを開け、中の様子を見るが延焼はこちらまで回らなかったようだ、良かった。
窓際に掛かっているカーテンを外す。
20階の踊り場にカーテンを広げ、グールを乗せていく。
オブシディアン・タールの力で重さを吸い取れば、風船のような軽さになる。
これなら折らずにカーテンに乗せられるな。
オブシディアン・タールを2個使えば120kgまで軽減できる。
グールも炭化してずいぶん軽くなったようで、一度に5体運べた。
カーテンに包んだグールを次々と屋上へ運び出す。
焦げたグールを片付け、次は階段の掃除だが。
階段の下半分は熱気で煽られ、乾いていたので掃除せずに済んだ。
次に19階と20階を繋ぐ、下の階段を掃除する。
こちらも同じように土を撒き、掃いてチリトリでズタ袋に捨て。
グールもカーテンで包んで、屋上へと運んでいった。
屋上へと出るが、ミケちゃんとポチ君がグールをピラミッド上に積んでいた。
一山15体で5つあり、余りが3体に俺の運んできた4体を合わせて、全部で82体か。
黒く焦げたのは端の方に適当に積んである。
ミケちゃんがこちらに気づく。
「終わったかにゃ?」
「うん、これで終しまいだよ」
カーテンに包んだグールを余りの場所に運ぶ。
「顔が煤だらけになってるにゃ」
ミケちゃんにボロ切れで拭いてもらった。
「リーダー、次はどうするのー?」
「グールをギルドに売りに行きたいけど・・、数が凄いね。
ポチ君、ウォーカーさんが近くに居るか、わかる?」
「んー、車の音は聞いてないかな?」
「そっかー、グールの運び出しに関してはギルドで相談した方がいいかもね。
ちょっと早いけどお昼にしようか」
焦げ臭い出入り口付近を離れて、屋上の端の方でお弁当を広げる。
今日も俺の前は赤くて辛い串焼きで一杯だ。
ミケちゃんはさっきの戦いを思い起こし、あちきの新必殺技がとか、帰りにも空き瓶を拾ってくにゃと上機嫌に喋っている。
俺もポチ君を笑いながらそれを聞く。
お喋りしながら銃弾の残りについて聞いたら。
弾倉を満タンにした上で、余りの予備の弾は9mmが62発、.357マグナム弾が13発だった。
それぞれの弾倉はグロック17が17発入る弾倉を2つずつ持っており、M686が6発入りの予備の弾倉が5つある。
マグナム弾の方が少ないな、SHOPアプリで50発買うか。
買う際にルーブルの預金を見たところ、1034ルーブル(+620)となっていた。
倒したグールの数が124体なので、グール1体当たり5ルーブルか。
10ルーブルの兵隊アリより少ないんだな。
さて、休憩も取ったところで探索に入るか。
「それじゃ二人とも、19階から探索して行くよ」
「任せるにゃ! お宝ゲットにゃ!」
「いっぱい拾おうねー」
やる気満々の二人と階段を降りていく。
「ポチ君、グールの気配はどう? まだ、居るかな?」
「うーん、物音は聞こえないよー。
でも、かなり下まで行ったら別かもしれない」
この付近の階のグールは根絶できたかもしれない。
19階から探索を始める。
アーティファクト探知機を眺める。
音を切ってあるので反応音は無いが、画面にはアーティファクトの反応が表示されている。
すぐに採りに行きたいが、まずは安全の確認からだ。
3人で手分けして慎重に、19階の部屋を一つ一つ見回る。
グールは潜んでいないようだ。
探知機を手に取り、反応のある方へ向かう。
机がたくさん並べられた大きな広間の中心部に反応があるようだ。
音は出ないがガイガーカウンターも反応している、ミケちゃんたちはここに近づけないようにしないとな。
中心へと近づく、壊れたパソコンの置いてある机の辺りか?
瞬間、目の前にバチッ!と電撃が走ると、光が寄り集まり、石となった。
石の周りを電気が円状に飛び交い、鳥かごの様になって机の上に浮かんでいる。
すぐに取り、ミケちゃんたちの元へ戻る。
手を開けば、手のひらの上で楕円形の丸いルビーが輝いている。
ルビーからは絶えず、汗をかくようにポツポツと血のような液体が湧き出て、ルビーの上を滑り落ちると煙のように蒸散していく。
「わぁ・・、きれいにゃー・・・」
「きれいだけど・・、えっと・・血出てるよう?」
ミケちゃんはうっとりと、ポチ君は困惑していた。
「これはブラッドルビーだと思う。怪我や病気を治す回復の力を持ったアーティファクトだよ」
「わぁ! それは良いね」
「きれいにゃー・・」
ルビーを見て、ミケちゃんの目はトロンとしている…
「とりあえず俺が持っておくけど、二人ともケガをしたら言ってね」
バックパックに仕舞おうとしたら、ミケちゃんが手を差し出してきた。
「黒いのと交換するにゃー」
「いや、これは最初の1個目だからバックパック行きなんだ。ごめんね」
ぶー垂れるミケちゃんに、次に手に入ったのは渡すからとなだめ、この階の探索に戻る。
「この広間は良いの無さそうだね」
広間を見渡すがパソコンやファイルなどが散乱しており、ほとんど壊れている。
机に、この世界の言葉で「俺は自由だ!」と書かれてる辺り、グールに成り立てか成る前に壊して回ったのでは?と考えてしまう。
広間の中心部は一応俺が探ったのだが、ガイガーカウンターの反応はかなり小さくなっていた。
アーティファクトを取ったら放射能が減った?
川では、川自体に放射能汚染があったため確認できなかったが、そういうことなのだろうか?
壊れたパソコンも中の部品を漁れば金になりそうだが、とりあえず後回しにする。
手分けして探していたところ、ミケちゃんから声を掛けられる。
「お宝ありそうな所見つけたにゃ!」
ミケちゃんの先導で向かう。
ミケちゃんが開いたドアの中へ、俺とポチ君も入っていく。
中はロッカーが壁一面に並んでおり、更衣室のようだ。
近くのロッカーを開ければ、鞄があり、服が吊るされている。
「ミケちゃん、良くやった! ・・ボーナスステージだ」
ニヤリと笑って告げる。
ミケちゃんとポチ君もニッ!と笑う。
壁一面のお宝のドアを手分けして開けていく。
さて、鞄の中身は何かな?と開けば、手鏡に・・化粧品?
奥に布の様な物が・・、と手に持ち広げてみれば、三角形の布切れ。
パンティーだった。
ベシッ! 後頭部に打撃を受ける!
「なにやってるにゃ! 変態にゃか!?
ハッ! ボーナスステージってそういう意味にゃ!?」
ミケちゃんが恐れおののいた表情でこちらを見てきた!
「ち、ちがう。そんなつもりは全然無い・・。
あ、ポチ君は信じてくれるよね!?」
横に居たポチ君を見るが、すでに姿は無く。
開いたドアの影にきつね色のしっぽが消えていくのを見た。
ミケちゃんに女子更衣室を追い出され、ポチ君と一緒に男子更衣室を漁る。
20あるロッカーの中からは状態の良い衣服や財布が手に入った。
他にも本や干からびた食べ物なんかもあったが、これらは売れなさそうだったので取らない。
お、エロ本もあった。
写真が色褪せているがこれは売れそうだ、他意は無いぞ?
バックパックに入れる。
服は天然素材で出来た物は虫食いの穴があったが、合成繊維の物はきれいな状態だ。
ポチ君と手分けして状態の良い物をバックパックに詰めていく。
「二人ともー、これも詰めてにゃー!」
ミケちゃんが両手いっぱいに女性物の服を抱えて現れた。
「お! ミケちゃん、大量だね」
「そうにゃー、見て見てー! きれいな服がいっぱいにゃー!」
ミケちゃんがピンクのワンピースを自分に合わせるように掲げ、嬉しそうにしている。
「ちょっと大きいけどミケちゃんに似合いそうだね」
「ありがとうにゃー。帰ったら丈を合わせるにゃー」
「僕はどうー?」
ポチ君もスーツを広げ、見せてくる。
「ポチ君にスーツはまだ早いかな?」
「えー? じゃあ、こっちのシャツは?」
ポチ君が俺のバックパックからシャツを取り出そうとしている。
「あ、ちょうど良いにゃ。娼館の姐さんたちにもおみやげいっぱい持って帰りたいから、そっちにも入れさせてにゃ?」
しまった!ミケちゃんが俺のバックパックを覗く。
「む! これは何にゃー!?」
エロ本を取り出され、ミケちゃんに怒られる。
エロ本は捨てられた。
バックパックがいっぱいになったので、今回の探索はここで切ることにした。
屋上まで戻る。
俺が先にロープで降りて、二人がロープを引き上げてから降りてきた。
お宝をいっぱい背負って、儲かったと笑いあう。
さて、後は帰るだけだが、とリアカーを探すが・・あれ?
置いておいた場所に見当たらない。
おかしいな?と思ってると、ポチ君が険しい顔をして言う。
「リーダー! 囲まれてるよ!?」
レビュー貰いました。




