第59話 グール狩り 後編
すいません、遅れました。
カンッ!カンッ!カンッ!
ミケちゃんが硬鞭で壁を叩く音が響く。
その音を聞きつけて、グールが19階のフロアーから顔を出した。
「ギィィ!ギィィ!」
威嚇か、仲間を呼ぶ声か、グールが騒ぎ立てる。
場の雰囲気が変わる、怪鳥のような鳴き声、一瞬の静寂、増え続ける足音。
漂う不穏な気配に呑まれない様、マグナムリボルバーを握り締める。
手に残る分厚い鉄の重さと銃火の咆哮が、この化け物だらけの巣から自分を守るお守りだ。
ギィィ!と激しく鳴きながら、こちらを見つけたグールが駆け込んでくる。
階段の上に陣取る俺たちに一撃くれようと全力で駆け込み、階段に足を踏み降ろす!
ツルッ・・ゴンッ!
床にハンマーを振り下ろしたような鈍い音が響く。
頭を思い切り打ちつけたグールは倒れ、痙攣したまま動かない。
何か気の毒な空気が流れ、俺たちの動きも止まる。
袖が引かれる。
横でミケちゃんが銃口でグールを指しながら、目で訴えてくるのでうなづいた。
パシュッ!
サイレンサー付きのハンドガンの空気の抜けるような音が響く。
グールは頭を撃ち抜かれ、即死だ。
間の抜けた光景に少々面食らったが、そんなことを気にしてる場合ではない。
奥からどんどん足音が近づいてくる。
フロアーの入り口から顔を出し、こちらを確認したグールは揃いも揃ってギィィ!と鳴きながら駆け込んでくる!
次から次へと入り口からグールが吐き出され、階段に向かって駆け込み、そして・・
ツルッ・・ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!
揃って頭を打ちつけた。
次々と繰り返されるマヌケな光景に、いつまでも呆けてるわけにもいかない。
こういった効果を望んで石けん水を撒いたわけだが・・、なんだこれ?と思いながら銃を構える。
ダンッ!
マグナム弾の一撃はグールの頭を簡単に撃ち砕く。
血と骨の破片を撒き散らしながら、グールの頭に大穴を開ける。
パシュッ!パシュッ!
ミケちゃんたちも撃ち始める。
そこからはあっという間にグールの死骸の山が築かれた。
頭を階段に打ちつけて痙攣しているグールは外しようがないし、慎重に四つん這いになって階段を登ろうとするグールも簡単に撃ち倒せる。
グールの高い機動力さえ封じればなんとかなるとは思ってたが、こんなに簡単になるとは。
倒したグールの数は20体ぐらいか?
階段の下半分がグールの死骸で埋まった。
グールを屋上まで引き上げることを考えていると。
「リーダー! 下からまだ来るよ!」
ポチ君が警告してくる。
マグナムリボルバーの弾を詰め替え、構える。
下の階段からグールが列になって登ってくる。
「うわ! すごい数にゃ」
ミケちゃんが階段の手すりに顎を乗せて下を眺める。
「二人とも、引き続きここで待ち構えるよ」
「わかったにゃ」
「うん」
さっき撃ち取ったグールの如く、返り討ちにしてやると意気込むがそうはなかなかいかない。
階段の下半分を死骸で埋められたことで、その上から飛び掛ればなんとか俺たちに攻撃が届くようになってしまった。
「オラァ!」
下から飛び掛ってきたグールを前蹴りで打ち返す!
パシュッ!パシュッ!
すかさず倒れたグールにミケちゃんとポチ君がトドメを指してくれるが。
どんどんグールの死骸で階段が埋まっていく。
さらに10体倒したところでグールの攻撃が直接届くようになってしまった。
「ヤバイ! 二人とも先に上へ!」
「にゃー!」
「わ、わん!」
二人も焦ったのか適当に鳴き声を上げて、階段を駆け上がっていく。
少しの間だが、二人が上がって準備が出来るまで時間を稼がなければいけない。
グールが駆け寄り、こちらを掴もうとしてくる!
一歩下がり、撃ち込む!
1体倒しても次から次へと向かってくる。
ハゲネズミの戦意も異常なほどだったが、こいつらは完全に異常だな。
傷つくことを恐れず、ただ襲い掛かってくる。
その目には憎悪の様な物が見える気すらしてくる。
ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!・・カチッ
先頭の奴等に連続して撃ち込む。
撃たれた奴等を押しのける様にして、後続も突っ込んでくる。
弾を替えてる余裕は無いので、とにかく蹴り込む!
「おにいさん!」
グールをなんとか押しのけてたところ、ミケちゃんたちの準備が出来たようだ。
踵を返し、階段を駆け上る。
グール共も追いかけてくるが、俺の方が早い。
俺が最上階の踊り場に転げ落ちると同時に、ミケちゃんとポチ君が石けん水の入った壺を倒す!
これで、屋上へと繋がる階段も石けん水まみれだ。
追ってきたグールたちは階段を転げ落ち、踊り場にまで戻される。
「おにいさん、グールでいっぱいにゃ撃ってもいいにゃ?」
「ちょっと待って、次にコレを試してみたいから」
そう言って、屋上に置いておいた火炎瓶にライターで火を着ける。
「二人とも、奥の入り口まで下がって」
二人が下がるのを確認してから、踊り場に溜まったグールに向けて火炎瓶を投げた。
奥の壁に当たって割れた瞬間、目の前を赤い閃光が埋め尽くす!
ボッ!と目の前に一瞬巨大な火球が燃え上がった後、火の着いたガソリンがグール共に降りかかる。
踊り場は火の海だ、熱気がこちらにまで押し寄せ全身を炙られてるかのようだ。
ガソリン多すぎたかな?
後ろの二人も唖然としている・・、あ! ミケちゃんの目が輝き始めた。
「すごいにゃ! すごいにゃ! 次、あちきにゃ!」
ミケちゃんが両手に火炎瓶を持って、火を着けてと催促してくる。
「2本同時はダメだよ、それとグールが溜まったらね」
1本だけ火を着ける。
「それなら、すぐにゃ」
ミケちゃんが下を指差す。
見れば、グールが燃えてる同属を踏み越えながら、こちらへと近づいてこようとしていた。
熱くないのか?
とんでもないな、こいつら。
グールは階段を登ろうとして手足を滑らせているが、一部の階段は熱気で乾いた様で滑らなくなってしまったようだ。
グールは次々とやってくる。
「げ、ミケちゃん! 合図をしたら投げて!」
踊り場に10体溜まるごとに焼却することにした。
四つん這いになりながら、階段を登ってくるグールを蹴落とす。
「ミケちゃん!」
「にゃ! 悪しき者共、浄化の炎を喰らうにゃ!」
ミケちゃんが頭上に火炎瓶を掲げ、ていっ!と投げつける!
威力は絶大だ、目の前に炎が舞い上がり、焼かれたグールがバタバタと倒れていく。
今なお燃え続ける死骸で踊り場が埋まり始めた。
その炎をかき分けて、さらにグールがやってくる。
こいつら、本当に狂っているな。
ポチ君にライターを渡しハンマーを抜いて、俺はグールの牽制に専念する。
そこから、さらに2本叩き込んだところで目の前の階段はグールの死骸で半分埋まった。
熱気も酷く、オーブンの中に入ったかのようだ。
炎の中から、火の着いたグールが襲い掛かって来る!
それをハンマーで殴り返しながら。
「二人とも撤退するよ!」
「わかったにゃ、・・暑いにゃ」
「うん、・・暑いよう」
二人もこの熱気はきつかったらしい。
最後の火炎瓶を拾って、屋上のドアを開く。
屋上へと出るが、さて、どうするか?
一旦出直すか?
後ろを振り返るが、階段の方からはまだグールの鳴き声が聞こえてくる。
火炎瓶もまだ1本ある、もうちょい粘るか?
屋上の出入り口のある小屋はコンクリート製で幅4mほど、高さ2.5mほどの構造物だ。
その上に3人で飛び乗る。
中が大火事のせいか、コンクリートはほのかに温かい。
構造物の屋根に上って、身を潜める。
出入り口からはところどころに火の着いたグール共が飛び出してくる。
グール共は左右を見渡して、こちらを探しているようだが小屋の屋根に伏せているので見つからない。
後、どれくらい居るのか?
息を潜めて、待ち続けたところ。
50体ほど出てきたところで出てこなくなった。
ポチ君に聞いても、もう中から動く音は聞こえないとの事だ。
火炎瓶に火を着け、ミケちゃんに渡す。
「先生、おねがいします」
「うむ、あちきに任せるにゃ。・・正義の一撃を喰らうにゃ!」
グールの群れに向かって、火炎瓶を投下する。
屋上に炎の花が咲き、火の着いたグールが手足をバタつかせながら倒れる。
燃やせたのは・・8体ぐらいか。
残りはこちらへと向かってくる!
グールが飛び掛り、屋根に手を掛けるが。
屋根に飛び移ろうとするグールをハンマーで叩き落す!
パシュッ!パシュッ!パシュッ!パシュッ!・・カチッ
ミケちゃんとポチ君が次々とヘッドショットを決めていくが、ポチ君の方が弾切れのようだ。
ミケちゃんのバックパックから予備の弾を取ろうとしている。
「ポチ君! こっちを使え」
俺のマグナムリボルバーを渡す。
弾倉に弾込めをするならリボルバーの方が早い。
オート拳銃は弾倉ごと切り替えられるので便利だが、弾倉自体に弾を込めるのには時間が掛かるのだ。
なぜならオート拳銃の弾倉はバネを使ってるので、バネを押さえながら一つ一つ詰め込まなければいけない。
リボルバーならバネが無いから、上から弾を落とし込むだけだ。
バックパックを下ろし、中に.357マグナム弾が入ってるのを伝え、グールの牽制に専念する。
ミケちゃんも硬鞭を抜き、小屋を登ろうとしてくるグールを叩き落している。
だが、ポチ君が弾込めをしている間、攻撃の手が減ったのが隙を生む。
「にゃー!?」
ミケちゃんの足をグールが捕まえた!
そのまま引きずり降ろそうとする。
「ミケちゃん!?」
慌てて、ハンマーを手放しミケちゃんを掴み、グールを蹴り飛ばす!
・・カコンッ・・
マズイ・・、ハンマーが下に落ちた。
「おにいさん?」
ミケちゃんも不安そうだ。
グール共はまだ30体ほど残っている。
こちらは銃弾はまだまだあるが弾込めに時間が掛かり、ハンマーを落として接近戦はきつくなってきた。
・・なら、やることは一つ。
「ポチ君! 攻撃は頼んだ!」
「リーダー?」
アーティファクト切り替え、オブシディアン・タール暴走
体を軽くして、群がってるグール共の上を飛び越えていく。
降りてきた俺にグール共が振り向く。
そうだ、こっちを見ろ。
そのまま屋上の端に向かって後退したら、グール共が我先にと追いかけてきた。
全部を引き連れることは出来なかったが、ミケちゃんたちのところに残ったのは5体。
この程度なら、二人ならなんとかできるはず。
その間、俺は屋上をとにかく逃げ回る。
何度かグールに囲まれたが、オブシディアン・タール暴走させて包囲を飛び越えた。
二人の方を見れば、ポチ君が最後の1体を撃ち抜いたところだ。
パシュッ!
俺を追いかけていたグールが頭を撃ち抜かれ倒れる。
ミケちゃんからの援護射撃だ。
逃げつつ、グールの群れを二人の近くまで連れて行く。
近い方が当てやすいからね。
二人の射撃音が空に鳴り響いていく。
二人が弾切れになったあたりで屋上の端までグール共を引き離していく。
その間に二人は弾込めだ。
そしてもう一度、二人の下まで引き連れていった。
この作業を2度繰り返したところで、グールは残り1体だ。
「ギィィ!」
グールが鳴きながら飛び掛ってくる!
それに対して、やることは一つ。
アーティファクト切り替え、オブシディアン・タール暴走
交差するようにグールを飛び越えてかわす。
グールがこちらを捉えようと振り返るが・・
ダンッ!
頭部を撃ち抜かれ、血しぶきが舞う。
リボルバーの銃口から煙が上がった。