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第56話 ビルクライミング

 廃墟の商店の中で仕留めたグール7体を表に出す。

 これをリアカーに乗せて、町まで運ばなければいけないのだが。

 ミケちゃんとポチ君が渋っている。

 行きはずっとリアカーに揺られて来たからな、リアカーに思い入れが出来たらしい。

 不気味なグールの死骸は乗せたくないようだ。

 それにこれを乗せたら、帰りは二人もリアカーから降りなければいけなくなるしな。

 さて、どうするか?

 と、言っても乗せて帰る以外に選択肢は無いんだけどな。


 そこに車が通りがかる。

 先ほど見た、車体の長い霊柩車の様な変な車だ。

 俺たちの前で停まると、サイドガラスが開く。


「それじゃ、私は帰るが君たちも気をつけて」

 わざわざ挨拶しに来てくれたようだ。


「はい、そちらもお気をつけて」


「ああ、それでは。・・と、どうしたんだい?

 そちらのネコ君たちは浮かない顔のようだが」


「いや、実はグールを持って帰ることで悩んでいまして」


「? そのリアカーに積んで帰るのはいけないのかい?」


「あちきたちのマイカーにこんなキモイの乗っけたくないにゃ」

 ミケちゃんはリアカーに片手を乗せて、寄りかかる様にしてカッコつけて言うが、俺は恥ずかしい。

 ちゃんとした車乗ってる人に対して、リアカーをマイカーと言い張れる勇気は俺には無い。

 しかも、コレ借り物だよ?


「そうか。確かにグールは気持ち悪いのもあって、人気無いからね」

 ハンターさんがこちらに生暖かい目を向けてくるのがキツイ。


「うむ、車のにいさんはわかってるにゃ。車は走らせて風を感じるものにゃ」

 ミケちゃんがウィンクをしながら、やっぱしカッコつけて言う。


「もう、やめてぇぇ・・」

 俺はもう顔真っ赤だ、顔を両手で覆う。

 ハンターさんも・・、あ、ちょっと笑ってやがる、糞。


「ふふ、すまない。そうだ、良ければこちらで買い取ろうか?

 その分、ギルドに売るより安くなってしまうが。8掛けでどうだい?」

 8掛けと言うことは、8割だから1体320シリングか。

 まぁ、悪くないな。


「いいんですか?」


「ああ、車なら15分で町まで戻れるからね。

 アルバイトとしては悪くないさ。」


「ちょっと待ってくださいね。」

 二人と相談する。


「あちきは賛成にゃ」

「僕もー」


「それじゃ、すいません。おねがいします」


「ああ、では・・」

 代金の2240シリングを受け取る。

 それと自己紹介もしておく。

 ハンターの名前はウォーカーさんでCランクハンターだそうだ。

 よく、この都市遺跡にグール狩りに来ており、機会が合えばこれからもグールを買い取ってくれるようだ。

 出会えるかに関しては、ポチ君が車とサブマシンガンの音を覚えたそうなので近くに居ればわかるらしい。

 買い取り金を3人で分けたところで、お昼にすることにした。

 日は頂天にまで昇っている。

 廃墟の2階まで戻り、そこでお弁当を広げた。


「さて、この後はどうするか?」

 窓際に腰掛けて、外からグールが入ってこないか見張りながら赤くて辛い串焼きを頬張る。


「また別の建物でグール狩るにゃ?」

 ミケちゃんが辛いのをこちらに追いやりながら言う。


「んー、それでもいいんだけど」

 二人がリアカーにグール積むの嫌がるからなぁ。


「ここ、漁ってもカード2枚しかなかったね」

 ポチ君も辛いのが苦手なので、俺のほうに追いやる。

 俺の手前には辛い串焼きしかない。


「そうなんだよな、すでに荒らされたところだとやはり実入りが良くないんだよなあ」


「じゃあ、どうするにゃ?」

 ミケちゃんは塩味とハーブ味の串焼きを両手に持って、順番に頬張っていた。


「さっき、ウォーカーさんが入ってたビルなんだけど、行ってみない?」

 ここからも窓越しに見える、20階建てのビルだ。


「ん? 大きいビルはグールがいっぱいいて危険だから、避けるんじゃなかったかにゃ?」


「それなんだけど、今度は上からコッソリ行ってみようと思って」

 戦う数を最小限にして、ステルスアタックでグール共を静かに仕留めていくつもりだ。

 大きなビルの最上階ならおそらくまだ荒らされてないだろうから、実入りも十分あるはず。

 最上階を制圧するだけでも十分な収穫を得られる可能性がある。

 二人と打ち合わせをする。



 大きなビルの横に来た。

 入り口から死角になっている所にリアカーを停める。


「それじゃ、打ち合わせ通りに」

 ミケちゃんへ3本のロープを渡す。


「わかったにゃ」

「行ってくるよう」

 二人がオブシディアン・タールを暴走させて、ふわりと浮き出す。

 ミケちゃんとポチ君は手を広げニョキッと爪を出すと、それを壁に引っ掛けるようにしてビルの側面を駆け上がっていく!

 重力を無視した動きで側面を4つ足で駆け上る、10秒とせずに屋上まで辿り着いた。

 屋上から、ミケちゃんが手を振りながらロープを垂らす。

 さっき渡した3本のロープを結んだものだ。

 ここからでは見えないが手すりか何かに結んでくれたのだろう。

 長さは30mぐらいか、ビルの半分にまでしか伸びない。

 後はあそこまで俺が登るだけだ。


 アーティファクト切り替え、オブシディアン・タール暴走


 俺が暴走させても体重の方が、アーティファクトに吸い取られる重さより5kgほど重いので、ミケちゃんたちの様には駆け上がれない。

 なので窓枠に足を掛けて、一つ一つジャンプしながら登っていく。

 この状態での俺のジャンプ力は5mあるから、3mごとにある窓枠へ飛び移るのは楽勝だな。


 ホッ!・・ホッ!・・

 次々と上の窓枠へと飛び移っていく。

 不安定な姿勢でのジャンプだと3mぐらいまでしか飛び上がれないが、十分だ。

 8階までは順調に移動できた。

 後、2つだ、と気を抜いたのが不運を招いたか。

 9階の窓枠に飛び移ったところで、たまたま窓枠に近づいていたグールと目が合った。


「ギィィ?」

 グールが不思議そうにこちらを見ている。


 慌てて、マグナムリボルバー(M686)で頭を撃ち抜く!

 ダンッ!と射撃音が鳴り響く。

 だが、これもまた悪手だった。

 その音に気づいて、他のグールたちも起き上がってくる。


「ヤ、ヤバ!?」

 急いで窓枠に足を掛けて上に飛び移ろうとするが、それよりもグールが駆け込んでくるほうが速い。


「ぐえ!」

 グールに首を掴まれた!

 すぐに頭を撃ち抜き、引き剥がす!

 今のうちに!と10階へ、と見上げるが。

 10階のグールたちも気づいたようでこちらを見下ろしている。

 やばい、失敗かな?これは。

 次々とグールが近づいてきて掴みかかってくるのを、横の窓枠に飛び移りながらかわしていく。

 そんな時。


「おにいさん!」

 ミケちゃんがロープをシュルルーっと滑り降りてきた。

 ミケちゃんがこちらに硬鞭こうべんを差し出してくる。

 硬鞭まで、ここから5mほど。

 手を伸ばして自分の身長分を差し引けば、十分届く。

 今居る、窓枠にもグールが群がってきた。


 ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!

 残りの弾を吐き出し、グール共を引き離す。

 今だっ!

 窓枠をおもいっきり蹴り飛ばす!

 パシッ!と伸ばした手はなんとか硬鞭に届いた。

 そのままミケちゃんに引き上げてもらい、ロープを掴む。


「ありがとう、助かった」


「にゃっにゃっにゃ! 良いってことにゃ。

 じゃ、あちきは先に行くにゃ」

 ミケちゃんは朗らかに笑い、爪を立てて壁を駆け上がっていった。

 俺もそれを追って、ロープを登っていく。

 振り返ればグール共が逃がした獲物を名残り惜しそうに見上げていた。



「ふう、危なかった」

 屋上へと無事辿り着いた。

 屋上は少しガレキが落ちているがそれ以外に無く、殺風景でスッキリしたものだ。


「二人とも大丈夫だった? グールは出てきてない?」


「ここは安全にゃ」

「うん、屋上のドアを見張ってたけど近寄ってくるのはいなかったよう」

 ポチ君はミケちゃんが降りてきた時、ロープを見守っていたようだ。


「そうか、良かった。それじゃ、次は最上階から探検と行こうか」

 二人はニッと笑い、うなづき返す。

 大分たくましくなってきたのかな?

 そんな気がする。

 それと一つ良い知らせもある。

 ロープを登っている時、5回ほどアーティファクト探知機が反応したのだ。

 ここでの探索が楽しみだ。



明日は休みます。

いつも読んでくださってありがとうございます。

続きは火曜になります。

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