第51話 探索前日
うさぎのおばさんの屋台で荒野で助けたタヌキのおじさん、ポン造さんと出会った。
今日はカウンターに座らず、ポン造さんと同じテーブルに相席させてもらうことにする。
いろいろ聞きたいことがあるのだ、車の事など。
「相席よろしいですか?」
「おお、どうぞどうぞ。1人で寂しかったところや」
ポン造さんは気さくに受け入れてくれた。
ミケちゃんたちは、と見ればいつものカウンターに座ってこちらを見ている。
「えっと、ミケちゃんたちはそのままで。あ、アリの蜜玉の交渉任せていい?」
ミケちゃんたちに俺のバックパックを渡しながら聞く。
「任せるにゃ。ネザー姐さん、蜜玉買ってにゃー」
「はい、はい。見せてごらん」
ミケちゃんとポチ君はネザーさんに見ててもらえれば大丈夫そうだな。
「それじゃ、失礼します」
ポン造さんの前に座る。
「おお、かわいこちゃんたちと離れさせてしまってすまんな」
「いえ、こちらの都合ですからお気になさらずに。ちょっと戦車バザーのこととかで尋ねたいことあるんですよ。
あ、何か頼みますか? おごりますよ」
「そうか、助けてもらっておいてすまんなぁ。ネズミとカエルの串焼き一本ずつ頼むわ」
さすが商人、礼を言いつつも遠慮はしない。
俺も注文して出来上がるのを待つ。
「で、何が聞きたいんや?」
「まず戦車バザーについて。何も知らないんですよ」
「兄さんも最近この町に来たんか? 戦車バザーはそのままやな。
ロボットの商人が戦車を始めとする乗り物にそれ用の武装なんかを売りに来るんや。
2週間ぐらいか、南のバザーの一角が売り場になるな。
さっき南で聞いてきたんやけど、来週には到着するらしいで」
ロボットの商人たちが町へ寄ってくるのか。
それ自体に興味があるな。
「戦車とかっていくらぐらいするんですかね?」
「戦車は高いで。安いのでも1億クレジットはするって聞いたことあるな。
安いのだとバイクや。これなら100万クレジットから売ってる。
車だと安いバギーで300万からって聞くなあ。
武装したり改造頼むんなら、そこからさらに100万ぐらい要ると思うで」
「・・戦車の値段すごいですね。」
「そら、戦車は陸の王様やからな。大砲積めば鋼鉄サイや四つ手グリズリーでも倒せるし、兵隊アリや人食いトカゲ程度なら大砲を使うまでも無い。
轢き潰すだけやしなあ」
「なるほど。ところでクレジットってどれくらいの価値なんですか?
俺は手に入れたことが無くて、シリングに直すとどれくらいになりますか?」
「せやなぁ、時期によって変動するんやけど1シリング=10クレジットぐらいかなあ。
戦車バザーの際中は値上がりして3倍くらいになるけどな」
そう言ってポン造さんは懐から紙幣を取り出す。
「これやで」
何度も折りたたまれたのかボロボロに擦り切れた紙に、色あせた藍色のインクで100の文字と女性がブドウの入った籠を抱えた絵が描かれている。
「これが100クレジット紙幣やね。一番高いのが10000クレジット紙幣や」
「これが・・、これって都市遺跡で見つかるんですよね。
他にも手に入れる方法とかってありますか?」
「わいは知り合いからスクラップと一緒に買い取ってるだけやから詳しいことは知らんけど。
遺跡のビルの中とかに落ちてたりするらしいわ。
ただ、落ちてる額もせいぜい10000クレジット程度で、車買えるほど集めるのは大変みたいやな。」
落ちてるというのは財布の中に入って、という意味か?
それなら、それぐらいだろうな。
「もっとたくさん集める方法とかって無いんですか?」
「わはは! そんな方法あるならわいが聞きたいわ。
でかい金庫の奥でクレジットの山を見つけたなんて話もあるけどな。
最近は聞かんなあ」
「そうですか・・」
車があればアーティファクト探索もかなり捗りそうなんだが。
問題は値段だよなぁ・・。
「まぁ、地道に拾い集めればいつか買えると思うで。
わてもいくらか持ってるし必要なら売るで」
「ええ、必要になった時はおねがいします」
その後、連絡先の交換などをし、互いに食事を終えてにこやかに別れる。
ミケちゃんたちも食事を終えたので合流する。
蜜玉は働きアリのが1つ100シリングで10個売れ、1つはネザーさんにプレゼントしたそうだ。
兵隊アリの大きい蜜玉は1つ700シリングで2つ売れ、働きアリの蜜玉を3個、おやつ用に残したようだ。
売り上げを3人で分けて、次はどうするか話し合う。
「時間も余ったしどうしようか? アメーバ狩りでも行く?」
「そうだにゃ、あちきはそれで構わないにゃ。おにいさんの方のお話はどうだったんにゃ?」
「あ、僕も聞きたいー。車買うの?」
「んー、ちょっと難しいかも・・」
道すがらポン造さんから聞いたことを二人に伝えながら、東のスラムの排水溝へと向かう。
スラムの排水溝へとやって来た。
狩りの準備として銃のチェックをする。
「そういえばポチ君、ハンドロード弾はどうだった?」
午前中、アリ相手に二人にはいつもの正規弾ではなく、ハンドロード弾を使ってもらった。
「んー、悪くは無かったですよ。ただ、少しずれるかな、って思いました」
「ずれるってどれくらい?」
「いつもの弾だとレーザーの当たった所の、ちょうど指一本分ぐらい上に着弾するんですけど。
ハンドロード弾だとそこからさらに指一本分ずれて当たるかなって思いました」
「あ! あちきもそう思ったにゃ」
「ちょっと命中性が落ちるか。まぁ、それぐらいなら問題ないかな」
「だにゃ。安い割にはなかなかだにゃ」
「そうだねー」
「それじゃ弾も問題無さそうだし、奥からアメーバを誘き寄せてこようか」
それから排水溝の奥でアメーバの群れに石を投げ、入り口まで誘き寄せた。
昨日と同じで排水路から近づいてこようとするのは俺が撃ち、ミケちゃんとポチ君が側道から寄ってくるのを次々と撃ち倒す。
今日の戦果はアメーバ46体だった。
みんなで背負い、ギルドへと向かう。
ギルドの前にはオフロードバギーが横付けにされていて、人と荷物を降ろしたらすぐに走り去って行った。
前に見た騎兵隊と言うパーティの人たちか。
走り去る車を羨ましげに眺めるが、横のミケちゃんとポチ君も一緒のようだ。
俺たちも遅れて入る。
「「こんにちわー」」
「こんにちわにゃー」
「あら、いらっしゃい。買い取り?」
「はい、アメーバをおねがいします」
アメーバを台車に降ろしながら尋ねる。
「この近くの都市遺跡ってどこらへんにありますか?」
「ふぅ・・、言っても聞かないのね。まぁ、若いってそういうことかもね」
おかまさんが少しあきれたように言う。
「すいません、一度見てみるだけでもって思って・・」
「まぁ、いいわ。ここから近い所だと北東の旧シューストカ都市址になるわ。
歩いて3時間ってところね」
「往復で6時間ですか、日帰りだといっぱいいっぱいになりそうですね」
「そうよ。いい? 大事なことを言うからよく聞くのよ」
「はい」
「必ず日帰りで帰ってきなさい。夜の荒野は危険よ。
遺跡址に住むグール共は夜になると活発になるわ。
視界の利かない中でグールの群れに囲まれれば、腕の良いハンターでも殺られるわ。
だから絶対に探索は昼の間だけにしなさい」
「すいません、わかりました。
グールっていうのはどんなミュータントですか?」
「グールは放射能で変異した大昔の人間よ。
知性を失った化け物だから気にせず撃てばいいわ。
死骸は買い取るから持ってきてね。」
「人ですか・・」
「元、ね。まぁ、見ればわかるけど完全に化け物よ。
人を襲って食べるような奴等だから躊躇しちゃダメよう」
「ありがとうございます、気をつけます。
それと、買い取るんですか? グールを?」
「ええ、そうよ。死骸は地獄穴に放り込んでガソリンになるわ。
死ねば皆ガソリン、荒野のルールよ。おほほ」
「そ、そうですか」
「それとグールの買い取り価格は1グレン(4kg)40シリングで、重さ的にはアメーバの半額になるわ。
アレ1体の重さが10グレンくらいだから、1体400シリングくらいね。
重いから運ぶならリアカー貸すわよ?」
聞けば、グールはアメーバよりもガソリンを精製する効率が悪いらしい。
「あ、助かります、ありがとうございます。
リアカーの貸し出しとかやってるんですね」
「ええ、1日200シリングで貸してるわ」
1日200シリング、前におっさんたちに借りたときは1500シリングじゃなかったか?
かなりボッタくられてたな。
「なるほど、ちょっと待ってくださいね」
横の二人へ視線を移す。
「二人とも、俺は遺跡に行ってみたいんだ。二人はどうだろう?」
「あちきも行ってみたいにゃ。おにいさんが行くならあちきは付いて行くにゃ」
ミケちゃんはまっすぐとこちらを見ながら言う。
「僕もリーダーとミケちゃんに付いて行くよ」
ポチ君もニコニコしながら言った。
「二人ともありがとう。それじゃ、えっと・・エリザベートさん?
明日借りてもいいですか?」
「あら、マリナちゃんから聞いたの? エリザでいいわ。
明日ね、用意しておくから朝来なさい。」
「わかりました、ありがとうございます」
礼を言って、駐車場へと向かう。
今日の仕事はもう終わりにして、そのまま訓練することにした。
いつも通りの訓練をこなし、うさぎのおばさんの屋台で夕食を摂る。
明日は遺跡を探検だ。
俺もミケちゃんもポチ君も新たな探索に思いを馳せ、寝床に就く。