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第49話 帰り道でタヌキに会った

 マリナさんの指差すほうから二回りほど大きいアリが1匹やって来る。


「アレが兵隊アリです。後は私が戦うのを見学したら講習終了なので見ててくださいね。」

 マリナさんがハルバードを構える、俺たちはその後ろで一応念のために銃を抜いておく。


 兵隊アリの大きさは2mほどか、頭の大きさは60cmほどあってとにかくでかい。

 顎は30cmほどのハサミの形をした牙が突き出ており、甲殻も黒光りしていて硬そうだ。

 牛ほどの大きさのあるアリが地面を這い、駆け込んでくる様はなかなかの迫力だ。

 おもわず焦って撃ちたくなる。


 兵隊アリが5m手前まで近づいたところでマリナさんが駆け寄り、先に仕掛けた!

 先制は鋭い突き、だが当たる直前にアリが頭を振ったために上手く突き刺さらず、丸みのある甲殻の上を滑っていく。

 それでもマリナさんもタダで攻撃に失敗したわけではなく、槍の横に付いてる斧の部分でアリの触覚を引っ掛けへし折る。


「ギィィッ!!」


 アリが触覚の片方を無くしうめく。

 その隙にマリナさんはアリの左側へと回っていく。

 それに気づいたアリが目を見張る速度で上半身を横へ振り、噛み付こうとするが。

 おそらく、それを事前に察知していたマリナさんは十分距離をとっており、空振らせた。

 逆に体をくの字に曲げたアリは動きにくそうだ。

 細く長い6本の足を小刻みに動かして体勢を整えようとしている。

 だが、それをマリナさんがおとなしく見ているわけがない。


「ハァッ!!」


 マリナさんがハルバードを頭上で一回転させた後、体ごと旋回しながらフルスイング!

 アリの片側の足は3本とも斧に切り落とされた。

 こうなったら、もうアリには打つ手が無い。

 残された片側の足を動かしても体がその場で回るだけだ。

 残りの足も斧の部分で切り落とした後、振り下ろしで頭をカチ割った。


「はい、これで終了です。後は後ろの大きい蜜玉と顎の牙一対に胸の甲殻を剥ぎ取ってお終いです。

 これはみなさんでやってみましょう。」


 マリナさん指導の下、アリの剥ぎ取りをする。

 牙の付け根に沿ってナイフを入れて時などに顔が寄り添う形になってドキドキする。

 花のような良い匂いがした。

 横に居るミケちゃんからは無言でしっぽで叩かれた。

 顎も大きいが蜜玉も大きい、アリの蜜が10リットルも入ってるそうだ。


「胸の甲殻も売れるのかにゃ? ギルドでは言われなかったけどにゃ?」


「ああ、それ。ギルドでは買わないんですよ。あんまし売れない上にかさ張るから。

 甲殻は鍛冶屋さんの所に持って行きます。安くて丈夫だから人気なんですよ。

 私も今は修理中だけど甲殻を付けた革鎧を愛用していますし。」


「ん? 人気なら売れないんですか?」


「これ、使う人は自分で素材を取ってくるから買う人がいないんですよ。」


「なるほど。」


 素材は町まで俺たちが持っていくことにした。

 マリナさんは遠慮していたがアーティファクトの力で重さを感じないし。

 働きアリの蜜玉だけでも7個あるからな。

 ホントは10個取れたんだけど3個はすぐに食べた。

 ミケちゃんとマリナさんで1個ずつ、俺とポチ君で半分こにしてだ。

 女の子は本当に甘いものが好きだな、胸焼けしないんだろうか?



 マリナさんにアリと戦う時の注意点などを教えてもらいながら、町へと帰る途中。

 目の前を駆け抜ける黒い点の集団とそれに追われる茶色の点を見つける。

 俺だと遠くてわからないがミケちゃんが目を細めて見ていると。


「にゃ! タヌキがアリの集団に追われてるにゃ!」

 ミケちゃんが焦った様子で振り返る。


「それは大変です! 私が助けに行ってくるので皆さんはここで待っててください!」

 マリナさんがハルバードを担ぎなおし、毅然と言ってくるが。


「大丈夫です、俺たちも銃を持ってますから参加します。ミケちゃん、ポチ君、撃ち放題だ。」


「わかったにゃ!」

「うん!」

 二人とも腰のハンドガン(グロック17)を抜き、目は戦意に満たされている。

 ミケちゃんは撃ち放題がうれしいのか、しっぽを振っているな。


「すいません。では急ぎましょう!」


 タヌキの方へと皆で駆け込んでいく。

 追われてるタヌキもこちらに気づいて、こっちへと走ってきた。


「ひぇ~っ! ・・ぜいぜい。お、お助けを~っ!」

 背中一杯に大きな荷物を背負ったタヌキが、息を切らせながら必死の形相で逃げてくる。

 いつから走りこんでいたのかわからないが、足はもつれそうになっている。


 あ、こけた。


 マズい!

 先頭の働きアリが背中の荷物へと噛み付いている。

 その後ろには、20匹ほどのアリの群れが一直線に並んでいる。

 ほとんどが働きアリだが兵隊アリも3匹混じっている。

 このままではあっという間に群がられてお終いだろう。


 噛り付いているアリに向かって銃を撃とうか迷ったが、タヌキもパニックを起こしたのか、伏せたまま暴れていて撃てない。

 これだと近づいて直接追い払うしかない。


「ミケちゃん、頼む!」


「わかったにゃ!」

 ミケちゃんが硬鞭こうべんを抜いて、全速力で駆け寄る。


 俺は後続のアリに向かってマグナムリボルバー(M686)を撃ちこみ、足止めだ。

 すぐに全弾撃ち切り、ミケちゃんと合流するために駆け寄る。

 ミケちゃんは噛り付いてたアリを一撃で仕留め、後続に向かって牽制をしている。


「にゃー! あっち行くにゃ!」

 硬鞭を振り回しながら、アリどもを近づかせないようにしている。


 俺もハンマーを抜いてそこに合流し、1匹ずつ片付けていく。

 マリナさんは後ろの兵隊アリを倒しに行ったようだ。

 ポチ君が後ろからハンドガンで次々と倒していく。


「にゃー!! あちきも撃ちたいにゃ!」

 それを見て、硬鞭を振り回しながらミケちゃんがぼやく。


 先の方でマリナさんが兵隊アリ2匹相手に大立ち回りをしているが、連携したアリの動きに苦戦しているようだ。


「ポチ君! マリナさんを援護してくれ。こっちは俺とミケちゃんでなんとかする。」


「! わかりました!」

 ポチ君は少し逡巡したが、マリナさんの方に駆け寄っていく。


「おにいさん! でかいのが来たにゃ!」


 ミケちゃんの叫びに応じて目の前を振り返ってみれば、アリの行列から迂回するように離れてこちらに近づいてくる兵隊アリがいる。

 おもわずマグナムリボルバーに手を掛けるが、弾はさっき撃ち尽くしてしまった。

 リロードする暇は無い。

 ミケちゃんも働きアリの牽制で手一杯だ。

 俺がハンマーでなんとかするしかないか。


 ギィィッ!と鳴きながら、駆け寄ってくる巨大なアリと自分の武器を見比べるが。

 ハンマーは長さ1m、ハンマーとしては長いが正直リーチが足りない。

 マリナさんの持っているハルバードのような長柄武器でないと、正面から当たるのは無理だ。

 一撃で殺れなければアリのタックルを喰らい、そのまま伸し掛かられてお終いだろう。

 思い出せ、さっきのマリナさんが戦った光景を。

 マリナさんはどう戦っていた? アリの弱点は? 


 兵隊アリがその細長い足を小刻みに動かしながら近づいてくる。

 それを見て、ピン!と来た。

 逆に俺のほうから兵隊アリに駆け寄る。


 アーティファクト切り替え、オブシディアン・タール暴走


 体を軽くし、アリの手前で飛び上がる。

 高さは2mほどだが、アリは止まってこちらを見上げるだけで何もできない。

 体の重さに対して足が細すぎるのだ。

 故にアリは飛び上がれない。

 アリの後ろに着地して、クルッと振り返る。

 アリもこちらには気づいてるみたいだが、こちらに向き直るのに一々体ごと旋回しなければいけない。

 これもまたアリの弱点だ。

 人は2本足故に、簡単に振り返ることが出来る。

 だが6本足のアリは、足一本の挙動範囲が狭くセカセカと動かさなければいけない、その動きが遅すぎる。

 もちろん、アリが向き直る間を待っているつもりは無い。

 ハンマーの槌頭の反対側のピックで、アリの足を引っ掛けるようにして叩き折っていく!

 アリのお尻を踏みつけ、8の字を横にした形でハンマーを振り回す!

 6本の足を全て叩き折り、これでお終いだ。

 トドメは後でいい、それよりもミケちゃんの手助けをしないと!


「ミケちゃん! 牽制を代わるよ、銃でトドメを!」


「わかったにゃ。」

 その後は嬉々としてハンドガンを撃ち込むミケちゃんによって、こちらを囲い込んでいたアリの集団はやっつけた。

 マリナさんとポチ君の方も片付いたようだ。

 巨大な兵隊アリに弾痕の痕がいくつもついている。

 弾は貫通しているみたいだが、体が大きすぎて致命傷にはならないみたいだな。

 急所の頭を撃ち抜かない限り、止められないか。

 俺が足をもぎ取った兵隊アリもハンマーでトドメを刺した。

 一撃で頭をカチ割ったが、硬い。

 上手く当てないとハンマーが滑りそうだ。


「おい、あんた大丈夫か?」

 大きな荷物の下で死んだ振りをしているタヌキに話しかける。


「・・もう大丈夫でっか?」


「ああ、アリは全部片付けたよ。」


「ひゃぁぁ・・、助かりましたわー。死ぬかと思った。

 あんさんたちはわての命の恩人ですな。かたじけない。恩に着ますわー。」


「ケガは無いか?」


「へい、この通り。

・・と、あー!? わての荷物が!」

 切り裂かれたでかいバックパックを見てタヌキのおじさんが声を上げている。


「皆さーん! リーダーさんもミケちゃんも大丈夫そうですね。そちらのおじさんも・・、大丈夫そうですね。

 私はDランクハンターのマリナと申します。都市の救援法に基づき救助料を請求しますね。」


「ひぇぇ、手加減してーなぁ・・。」


 マリナさんに聞いたところ荒野で救助した場合、一定の謝礼を請求できるそうだ。

 対象は何から救援したかにより、今回の場合は兵隊アリ3匹に働きアリ17匹が対象だ。

 兵隊アリが1匹500シリングに、働きアリが1匹100シリングが相場らしい。

 合計して3200シリングになるそうだ。


「アカン・・、このままじゃバザーが始まる前に破産しそうや・・。

 せっかくチェルシーまで来たのに・・。」


「おじさんトレーダーにゃ? 何を売ってるにゃ?」


「おお、わいはスクラップとクレジットを持ってきたんや。

 もうじきロボットの商人がチェルシーに立ち寄るって聞いてな。」


「ロボットの商人が?!」


「せやで、知らんのか? 来週あたりに戦車バザー開くんやろ。」



海外にはジャンプできるアリもいるそうですが、このお話のアリは大きすぎて無理です。

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