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第47話 慈愛教会

 午後になった。

 日はまっすぐ上に昇っている。

 今日も良い天気だ。

 ポチ君の先導でスラムの教会へ、神父さんを訪ねに行く。

 道すがらポチ君に神父さんについて尋ねてみた。


「神父様ですか? 良い人ですよう。僕も教会で寝泊りさせてもらってました。」

 ポチ君が笑顔で答える。


「スラムの子たちはみんな教会にお世話になってるのかな?」


「んー、半分くらいですかね。他にもお世話をしてくれる家の人とかもいるので。」


「宿の世話だけで食事は無いんだよね?」


「ええ、スラムはみんな貧乏ですから。自給自足はスラムのルールですし、病気とかでどうしようもない時は助けてもらえますけど。」


「そうなんだ。」


「あ、ここですよう。」


 そんなことを話してるうちに着いたようだ。

 スラムにしては割とキレイで大きな公民館のような建物だ。

 入り口の上に、丸の中に十字の入った模様の金色のシンボルが飾られている。

 ドアの前には大柄で細身の年老いた男が待ち受けていた。


「あ、神父様。こんにちわー。」

 ポチ君が男に挨拶をする。


「やぁ、ポチ君。ひさしぶりです、元気にしていましたか?」

 男がポチ君に返事を返す、白髪でおでこは頭頂近くまで後退している。

 その顔には細かな傷の跡が残り、引き締められた表情をしているがそのグレーの瞳は優しそうに見える。


「こんにちわ。」

 俺が挨拶すると、そのグレーの瞳がこちらに向けられる。


「おっと、失礼。挨拶が遅れましたね。私がこの教会で神父をやらさせていただいていますアシュフォードです。

 今日はお忙しい中お越しいただき光栄です。ここの子たちがハンターさんにはとてもお世話になっているようでそのお礼を言いたかったのです。

 と、外で立ち話をしてもなんですな。ささ、中へ。」

 アシュフォードさんがドアを開けて、こちらを招いている。


「それじゃ、お邪魔するにゃー」

「お邪魔しまーす。」


 ミケちゃんとポチ君がそそくさと中に入っていく。

 俺もそれに続いて行くが少し緊張する。

 さっきアシュフォードさんは俺を見てるようで見ていなかった。

 人を見るときは普通は相手の顔の真ん中か額辺りに目の焦点を合わすものだが、アシュフォードさんは違った。

 わずかに焦点をぼかして常に俺の全体を視界に入れ、観察してるように見えた。


「こちらへ。」

 建物の奥の応接室に案内される。

 中には簡素なテーブルとイスがあり、勧められて座る。

 座るが、ポチ君がそわそわとしっぽを振らせ落ち着きが無い。

 それを見たアシュフォードさんがポチ君に話しかける。


「ポチ君がここを離れてみんな寂しそうにしていましたよ。どうでしょう、ポチ君は話の間、ここの子たちに挨拶をしてきては?」

 アシュフォードさんがこちらに話を振ってくる。


「ええ、そうですね。ポチ君行って来ていいよ。」


「えへへ、ごめんね。それじゃ行ってくるね。」


「あちきも着いていくにゃ。そっちの方が楽しそうにゃー。」

 ポチ君とミケちゃんは連れ立って部屋を出て行く。


「それでは改めまして慈愛教会のアシュフォードです。

 本日ご足労いただいたこととスラムの子供たちに助けてもらったことに重ねまして御礼を申し上げます。」

 そう言ってアシュフォードさんは頭を下げる。


「いえ、頭を上げてください。俺のやったことなんて大したことでもないし、それにミケちゃんとポチ君に頼まれやったことでもありますから。」


「ご謙遜を、ですがこれ以上言葉を重ねても無粋ですな。それではこれについては謝辞を述べて締めさせてもらいたいと思います。

 ありがとうございます、子供たちだけではなく私たち教会も助かりました。」


「いえいえ。」


「ハンターさん、お名前で呼んでもよろしいか? お名前はヨウ君たちからお伺いしております。」


「あ、はい。どうぞ。」


「サトシさんは子供たちを助けてくれましたが教会に所属している方ではありませんな?」


「ええ、俺は遠くからやってきまして、ここら辺のことは詳しくなく。

 申し訳ないのですが教会についても知らなくて。」


「そうですか。我々、慈愛教会は荒野での自助努力の支援と開拓の幇助ほうじょを目的として活動しております。

 村々やスラムを訪ね、知識や技術の指導に、手が足りなければ貸したりですな。

 そういった人々の支援を目的とした団体です。」


「そうですか、立派なことだと思います。俺の仲間のポチ君もお世話になっていたようで、そのことについては俺からもお礼を言いたいです。

 ありがとうございます。」

 礼を言い、頭を下げる。


「いえいえ、頭を上げてください。子供たちの保護と自立支援は我々の活動目的ですから。

 それに我々としても貴方が教えてくださった、子供でもアメーバを簡単に倒せるやり方。

 アメーバ釣りでしたかな? あのやり方についてお礼と尋ねたいことがあるのです。」


「なんでしょう?」


「あのやり方を他の町にも教えたいのです。その許可を頂きたくて、本来ならこちらから出向かなければいけないのですが。

 私事ではありますがこの場を離れることが出来ず、呼びつけるようなことになってしまい申し訳ありません。」


「いえ、大した手間ではないですし。俺としても困ることは無いのでいいですよ。」


「ありがとうございます。辺境の村々では条件が合わないでしょうが、このチェルシーの町に似た環境の町なら多くの子供たちの助けとなることでしょう。」


「そういうことでしたら、こちらこそよろしくおねがいいたします。」


「ありがとうございます。この時代に弱者を思いやれる方に出会え、今日は良い日ですな。」

 アシュフォードさんはニカリと笑いかけてくる。


「ははは・・、こちらこそ神父さんのような気持ちの良い方と出会え光栄です。」


「そうですか、これはどうも。どうでしょう、教会の理念にご理解いただけるなら我々慈愛教会に所属してみませんか?」


「えーっと、すいませんがハンターとしての仕事がありますので・・。」


「そうですか、いえ、突然この様なことを申し上げて当惑させてしまい、申し訳ない。」


「いえいえ、そういえば気になったのですが子供たちも自給自足がルールとか?」


「ええ、恥ずかしながら全ての子供たちに食事を配れるほど財政に余裕がありませんで。

 そこにサトシさんが教えてくれたアメーバ釣りのお陰で子どもたちにも余裕ができそうです。

 あの子たちが大人になるまでにはそれなりの装備を整えられるようになるでしょう。

 ありがとうございます。」


「いえ、教会は福祉活動をしているのですよね?

 町の方から補助などはこないのでしょうか?」


「我々は都市同盟から睨まれてますからな。

 子供たちはともかく、私などは町への立ち入りも許されませんから。」


「え? 何でですか? こんなに立派なことをしているのに。

 町からしてもスラムが安定するのは望むことでしょうに。」


「ふむ・・、サトシさんは本当に我々のことを知らないようですな。いえ、失礼。

 唐突ですがサトシさんは銃弾の価格に疑問を持ったことはありませんか?」


「・・ええ、高いですよね。」


「そうです、それが問題なのです。銃弾は荒野でミュータントやレイダー(ならずもの)たちから身を守る術であり、辺境に近いほど必要な物です。

 ですが、それを作る都市同盟の中央、キエフやバルトランドは弾薬の出荷数を調整したり、価値の保障をすることで弾薬の値段を高くしているのです。」


「価値の保障?」


「ええ、全ての正規弾薬は定価の4割での買い取りを政府が保証しています。」


「4割ですか・・。」


「ええ、少なく思えるかもしれませんが弾薬は遺跡からも出てきますからな。

 弾薬には通貨としての側面もあり、商人同士では弾薬での支払いなども行なっております。」


「そうなんですか。でも何故、都市同盟は弾薬の価値を高めようと?」


「中央に近い都市には崩壊前に作られた弾薬の製造工場があるのです。

 材料さえ持っていけば自動でいくらでも作れるようなのです。」


「自動で・・、それじゃ弾薬の製造費用は安そうですね。」


「ええ、私は一番安い9mm弾の製造コストは5シリング以下ではないかと考えています。」

 正規の9mm弾は200シリングで売られている。


「そんなにですか。」


「ええ、無限に弾薬を作り出せる機械は中央政府にとって中身の尽きることの無い財布ですからな。

 その資金と弾薬の供給調整によって中央への集権化をしているようなのです。

 それをやられる地方都市と辺境の村々にとっては悪夢のような話です。」


「それは・・、酷いですね。」


「ええ、ここまで話しておそらくお察しでしょうが、ハンドロード弾は知っていますか?」


「はい、ガンショップで見ました。正規ではない手作りの弾丸だと。」


「我々慈愛教会は荒野での自助努力と幇助、その理念の基に活動しています。

 その活動の中には、安い弾薬の供給による辺境地域の安定も含まれます。」


「教会でも弾薬を作れるのですか?」


「ええ、中央政府と違って手作りですが。設備で劣る分質が下がりますが、それを辺境の人々に提供しています。

 そのお陰で中央政府からは睨まれているのですがな、ハハハ。

 いや、失敬。睨まれてるのは中央からであってこの町は違いますが。」


「ん? ここ(チェルシー)も都市同盟の一部ですよね?」


「ええ、そこがややこしいのですが、ここのような地方都市は中央の弾丸規制の煽りを受け、中央から搾取される側ですからな。

 中央の様に目の敵にされるほどではないのですよ。

 安いハンドロード弾が出回って市民たちの自衛力が上がるのは地方都市にとっては利益ですからな。特に辺境に近い都市では。

 壁を越えることは許されませんが、この様にスラムで活動することは黙認されているのです。」


「そうなんですか。」


「ええ、ですので今後弾薬をご所望なら融通いたしますよ。街中のガンショップの半額でお渡しできます。

 もし、教会に所属してくれますなら、さらに安くご融通できます。」

 街中でのハンドロードの9mm弾はたしか100シリングだったかな。


「それは・・。ありがとうございます。助かります。」


「いえいえ、こちらこそ子供たちを助けてもらいましたからな。おあいこですよ。」


 その後、9mm弾を50発分けてもらうことにした、2500シリングだ。

 アメーバを一撃で仕留めれば50シリング、2ルーブルの儲けとなる。

 射撃練習がはかどるな。

 .357マグナム弾は在庫切れのようで置いてなかった。

 今度取り寄せてくれるようだ。

 神父さんにお礼を言って、ミケちゃんたちを迎えに行く。

 ミケちゃんを囲んでなにやら話しているようだ。

 ミケちゃんが硬鞭こうべんを掲げながら何か演説のように話している。

 神父さんと子供たちに別れを惜しまれながら、教会を後にする。

 ずいぶんと話し込んだようだ。

 日はだいぶ傾いていて、もうすぐ夕方だろう。

 ちょっと早いが夕飯にするか。

 いつものうさぎのおばさんの屋台へと向かう。



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