第4話 ギルド
スラムを抜け、町へと入り雑然とした大通りを歩く。
この世界には、亜人や機械(ロボットか?)などもいるとガイダンスには書いてあったが、周りにいるのは皆普通の人族のように見える。
誰もがこん棒やナイフ、拳銃といった武器を腰に引っさげているが。
大道り沿いには飲食店などが多いようだ。
軒先に吊るしたでかいネズミやトカゲを捌いてる肉屋や、半壊した住宅の跡地で屋台をやってる人たち。
通りを行く人たちに声を掛ける水売りや、混じりっけ無しの合成酒と書かれた看板の酒場も見える。
酒場には、なにやら目つきの悪い男たちが昼間から呑んでいる。
その男たちも武装をしていて、服装も俺に似た格好をしているから、兵隊か傭兵といったところなのだろうか?
ハンターギルドなどと言うものもあるそうだし、もしかしたらハンターなのかもしれない。
危険な雰囲気を持つ奴らだ、目を合わせないようにしよう。
さらに進むと壁が見える、あれが衛兵に言われた突き当たりだろう。
どうやら、この町は二重の壁に覆われた町のようだ。
2つ目の壁の向こうに、高層ビルや大きな工場が煙を上げているのが見える。
2つ目の壁を内壁と称するなら、あの先が町にとって重要な区域なのだろう。
身分証も持たない俺では、おそらく内壁の先までは進めないだろうが。
まぁ、まずは仕事を探しにハンターギルドへと向かう。
突き当たりを右だったな。
右に曲がり、すぐにライフルとナイフが交差する看板が見えてくる。
絵の下にはこの世界の文字で、ハンターギルド チェルシーダウンタウン支店と書かれていた。
この世界の文字はアルファベットに似ている、前もって自分に転写されていた言語知識もあって、思ってたよりも読みやすかった。
カラン、カラン、ラン・・・という音をたてドアを開けると、中は思っていたよりも清潔できれいな部屋だった。
市役所や銀行の窓口に似た内装で、広さは体育館の半分ぐらいか、右側に別の部屋に繋がる大きなドアが開けっ放しになっている。
左側の壁にはなにやらメモ用紙のようなものがたくさん貼られていて、壁だけでは足りないのか、衝立も10枚ほど置かれており、それにもメモ用紙が貼られている。
ギルドの中をキョロキョロ見回していると、誰かがこちらに手招きしているのが目に入った。
受付の端っこで、緑の短髪で紫のアイシャドウをした・・・おかまがこちらに手を振っている・・
もしかして人違いじゃないかと思い、周りを見渡すが、俺の近くに人は無く、他のハンターらしき人たちも熱心に壁のメモ用紙を見つめている。
俺は観念して、おかまさんの受付へ向かった。
「あら、あなた見かけない子ね、ここへは初めて?」
「はい、ハンターギルドへ立ち寄ること自体初めてでして、こちらで仕事がもらえないかと思い訪ねてまいりました。」
「あら!ハンター志望にしては礼儀正しい子ね、装備はそれなりに見えるのに。ハンターの仕事については知っているのかしら?」
「いえ、恥ずかしながらほとんど知りません。」
「そう、それじゃ1から説明するわね。ハンターの仕事は大きく分けて3つ、狩猟と護衛と調査よ。
この内、ハンターに成りたての低ランクハンターに任せられる仕事は狩猟だけになるわ。
護衛と調査はCランク以上で受けられるわ。
ランクは、上から順にAランクからFランクまで、登録したてはFランクになるわ。
Fランクに認められるのは町の近くの低警戒区域での狩りのみで、町から離れた荒野での狩りは、Eランク以上で初心者講習を受けたものに許可が下りるの。
あ、初心者講習はEランク以上でないと受けられないので、Eランクになったらまた説明するわね。
ここまでで質問はあるかしら?」
「初心者講習がFランクで受けれないのは何故なのでしょうか?」
「初心者講習はお金がかかるの、それと講習では戦闘力も求められるのでEランク以上と決められているわ。」
「登録するのにお金はかかるのでしょうか?」
「無料よ、ただし1ヶ月の間仕事をしなかった場合、Fランクのみハンター資格を失効するわ。
ペナルティとして再登録は1年間出来ないわ。」
「なるほど、仕事はFランクの場合どんな感じなのでしょうか?」
「あなたの装備なら簡単よ、この近くの排水溝や川辺の草むらに巣くっているハゲネズミや殺人アメーバをぶっ飛ばすだけよ。」
殺人アメーバって、なんつー物騒な名前だ・・、どんな生き物か聞いておかないとな。
「・・その2つはどんな生き物なんでしょうか?」
「え!?知らないの?あんなのそこら中にいるのに。」
やばい・・
「す、すいません、田舎から出てきたもので、ここらへんの生き物には詳しく無くて・・」
「はぁ・・、あいつらが出て来ない地域なんてあったかしら?
まぁ、いいわ、ハゲネズミは見たまんまの生き物で体長は1.2f(フィート、1f=40cm)ぐらいの哺乳類でハゲてるわ。
1匹だと子供でも狩れる雑魚だけど、群れるとこん棒を持った大人でも殺されるわ。
殺人アメーバは1.5f(60cm)ぐらいの透明な生き物で、真ん中に拳大の核があって、そこが弱点よ。
そこ以外を攻撃しても効かないわ。
こいつは大抵の場合、群れてるから注意ね。
Eランクのハンターでもやられることがよくあるわ。」
ふーむ、群れてるのは厄介だな、狙い目はネズミの方か。
「なるほど・・、わかりました。
丁寧な説明ありがとうございます、あの、登録をしたいのですがよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん歓迎よ。
こちらの用紙に名前を2箇所、書いてくれれば完了よ。
1枚は登録用紙、2枚目は誓約書よ。
誓約書はギルドのルールを守るのと、レイダー(ならず者)にならないって宣誓よ。」
誓約書を読むと、大雑把にケンカしない、カツアゲしない、レイダーや奴隷商人にならないとの事が書かれてあった。
当然、その様なことはするつもりがないので名前を書く。
「これで完了ね、ようこそハンターギルドへ。
あなたの活躍を期待しているわ、このまま狩りに行くなら、入り口を出て左にまっすぐ行って、外壁を越えると川が見えてくるから、その辺りで狩ってちょうだい。
狩った獲物は隣のガレージで買取をするから、そっちに持っていってちょうだいね。
それと、これがFランクのハンター証になるわ。
外壁のゲートをくぐる時は、これを正面に掲げながら通ってちょうだい。
それと、当然だけど内壁は通れないから気を付けてちょうだいね、通ろうとしたら撃たれるわよ。」
もらったFランクのハンター証は紙で出来ていてぺらぺらであった。
だが、ようやくこの世界での身分証が出来たことに感激し、重ね重ねおかまさんに礼を言いながらギルドを出る。
目指すは川辺、ネズミ狩りだ!
俺は拳銃とナイフの位置を手で確かめながら意気揚々と向かって行った。