第42話 アメーバ穴の不法占拠
午前中はミケちゃんたちと射撃の訓練をしていて、お昼になったのでいつものうさぎのおばさんの屋台へと向かう。
北門の市場はいつもの盛況ぶりだ、その中の一つのネザーさんの屋台にやって来た。
挨拶をし、3人で食事を取る。
この後、アメーバ釣りに行きたいのだがネズミの仕掛けが手元に無い。
「あ、ネザーさん。すいません、ハゲネズミの皮1枚もらえませんか?」
「あいよ、捨てるもんだからタダでいいよ。」
ネザーさんは鍋をかき回しながらさらりと答える。
相変わらず、さっぱりした人だ。
「そういえば最近スラムの子供もネズミの皮をもらいに来るんだよね。
おにいさん、何かやったの?」
「アメーバの釣り方とその仕掛け作りを教えたんですよ。」
「へー、そりゃありがとうねぇ。助かるよ。」
そんなことを俺とネザーさんが話していたところ、その話題となったスラムの子供たちが現れポチ君に話しかけていた。
「ポチ君、大変だよ・・」
彼らの表情が暗い。
どうしたのか?
「西のスラムの奴等が出張ってきて、アメーバ穴を独り占めにされちゃったよう・・。」
俺とミケちゃんは顔を合わせる。
ポチ君もあわあわと驚き、慌てている。
「ちょっとその話聞かせてくれる?」
それから子供たちに聞いたのはこういうことだった。
東のスラムの子供たちで管理していたアメーバ穴に西のチンピラが使わせてくれと言ってきたそうだ。
だが、アメーバ穴は東の縄張りなので断ったところ、今度は大勢でやって来て占拠されてしまった。
おっさんたちも子供たちに混じって抵抗したそうだがボコボコにされてしまったそうだ。
俺たちが与えた道具も奪われたらしい。
「また西のチンピラか・・」
「西はそういうの多いんだにゃ。小さい頃からこの町に居る孤児と違って、他所からやってきた大人とかが西に住み着くにゃ。
あいつらは乱暴で嫌いにゃ。」
ミケちゃんが眉をしかめながら言う。
「あの川辺に西の奴等が居ついたら大変だよう・・。
みんなが川で採取できなくなるよう。」
ポチ君は下を向いてしょげている。
これはもうやるしかないな。
「俺たちが渡した道具も奪ったというなら、これは俺たちへの挑戦だな。
二人とも、やっちまおうか?」
「当たり前にゃ! ギタギタにしてやるにゃ!」
「こ、怖いけど頑張るよう。」
二人も賛成してくれたのでやっつけることにした。
だが、やり方は考えないとな。
二度と俺たち、もとい東のスラムに手を出さないように派手にやらなければ。
心配げにこちらを見つめるネザーさんに大丈夫だと言って、東の川辺へと向かう。
向かう途中、ミケちゃんたちと作戦について話し合ったが。
ミケちゃんは俺の作戦は手ぬるいと不満げであった。
俺の考えではあまり人死には出さないつもりだ。
今回は二度と手を出させないことが目的だから。
それに死んだらそれまで、恐怖は長続きしない。
故に彼らには生きていてもらわないといけない。
スラムの子供たちに川辺近くの小屋へと案内される。
中では怪我したおっさんたちが横になっていた。
「おっさんたち・・、大丈夫か?」
「おお・・、にいさんたちか。しくじっちまったぜ。」
顔を腫らして、ボロ切れを包帯代わりにしたジャックさんが返事を返す。
「結構手酷くやられたみたいだな。」
せこいおっさんたちとは言え、知り合いがこんな目に遭わされているのを見るのはさすがに頭にくる。
「情けねえ話だ。あんなガキ共にやられるなんてな。」
「仕方ないんだな。数が多すぎるんだな。」
おっさんたちの中で一番大きい男が答える。
「えーっと・・」
「ああ、こいつはダニー。奥で寝てるチビがエリオだ。」
3人のおっさんたちはヒゲ面のリーダーがジャックさんで、体の大きい「だな。」が口癖のダニーさんに、小柄で比較的若くて「やんす。」が口癖の男がエリオさんだそうだ。
「おっさんたち、子供たち守ってくれてありがとな。」
「へ、ここは俺たちの縄張りだからなついでだよ、ついで。」
正面から礼を言われて恥ずかしいのか、憎まれ口を叩いている。
「ちょっと見直したにゃ。後はあちきたちに任せるにゃ。」
小屋を出て、川辺へと向かう。
問題のアメーバ穴には20人ほどのチンピラがたむろして、アメーバ釣りをしている。
武装は・・、ほとんどこん棒だな。
1人、鉄の槍を持ってる奴がいるがあれは子供たちから奪ったやつだな。
さて、やるか。
作戦はシンプルだ。
圧倒的な力を見せて、相手の手足を叩き折る。
それだけだ。
川辺には、前に巨大アメーバを倒したときの岩が積んである。
それをアーティファクトの力を使って、3人で一つずつ持ち上げる。
チンピラ共もそれを見ていて、話しかけてくる。
「何だ手前ら! 今日からここは俺たちの縄張りだ! 消えねえなら痛い目を見ることになるぞ!」
槍を持った男が威勢を上げるが、その視線は俺たちの少し上を見て、少し腰が引けている。
まぁ、岩を頭の上に掲げた奴等が近づいてきたらそうなるだろうね。
男の挑発にこちらも返すことした。
「ここは元々俺たちが開拓した釣り場だ! なので返させてもらうぞ!」
俺を先頭に男たちへと駆け込む!
目の前には、こん棒を構えたチンピラが20人横に広がり、こちらを囲む陣形をとっているがまともに相手をする気はない。
アーティファクト切り替え、オブシディアン・タール暴走
瞬時に体から重さが抜けていく。
男たちの手前で全力でジャンプをする。
でかいトランポリンで思いっきり飛び上がったようにぐんぐん地面から離れていく!
高さ5m、ビルでいえば3階といったところか。
こちらを見上げる男たちのマヌケ顔が小さい。
その中で槍を持った男の手前に向かって岩をおもっきし投げつける。
俺から離れて重力が戻った岩は遅いフォークボールのように曲線を描き、ドンッ!と男の手前に落ちて、跳ねる!
男は左足を岩に撥ねられ、表情を歪ませながらきりもみ回転に弾き飛ばされる。
スタッと着陸して、あらためて男を見れば左足が炙られたスルメの用に逆方向に反っていた。
「ぎゃあああああ!!!!!」
男の悲鳴が土手に木霊する。
周りの男たちも青ざめた表情で立ち尽くす。
さらに、そこに立て続けにミケちゃんとポチ君の岩がバウンドしながら飛んでいく。
それを腕で防ごうとまともに受けた奴等がボーリングのピンのように弾かれ飛んでいった。
土手は阿鼻叫喚の嵐だ。
俺はハンマーを構え、奴等を足止めし。
その内にミケちゃんとポチ君が後ろから次々と岩を投げ込んでいく予定だったのだが・・。
チンピラ共は必死の形相で泣き叫びながら西へと逃げていく。
うーん、これは・・
そこに、さらにミケちゃんとポチ君が2投目を投げ込んだところで二人を止めた。
「二人とも! そこまででいいや。」
「何でにゃ! 今がチャンスにゃ!」
ミケちゃんが毛を逆立てながらしっぽをピンと上げている。
「いや・・、目標は達した。相手の恐怖は相当なものだ。
後はこいつらのアジトを潰すだけで十分だ。それ以上やると収集がつかなくなる恐れがある。」
生きるためなら相手を殺すことを躊躇わないが、不必要に暴力を撒き散らすのもまた違うだろう。
「うう・・!」
ミケちゃんはまだ悩んでいる。
「・・僕もこれで終わりならそれの方がいいよう。」
ポチ君は賛成してくれるようだ。
「わかったにゃ! 今日はこれで勘弁してやるにゃ。」
ミケちゃんはまだ不満顔だが納得はしてくれたようだ。
それから怪我した男等を集めたが7人もいた。
逃げてるところに追撃した岩が4人も轢いたようだ。
逃げるときは密集していたからな、あいつら。
槍を持ったリーダー格の男を岩で脅しながら、2度とここらへんに手を出さないよう誓わせ、アジトの場所も聞きだす。
アジトの場所はミケちゃんが知ってる場所だったので3人で岩を抱えながら向かう。
残されたチンピラ共はおっさんたちが丁重に西へと送り返してくれるようだ。
西のスラムへとやって来た。
「あのボロ小屋にゃ。」
ミケちゃんの指差す方に廃材で作ったような小屋がある。
中の様子を覗ったところ、中には8人の男たちがうなだれ、震えていた。
他のは別の場所に逃げたか?
さっき土手で見た覚えのある奴がいたから間違いなさそうだな。
俺を先頭に飛び上がって岩を放り投げていく。
俺は壁を狙った、警告だ。
この隙にさっさと逃げてくれよ。
ミケちゃんとポチ君の岩は屋根を貫き、直接中を攻撃するコースだ。
あ、死んだかなと思ったが、すぐに中から8人逃げ出していたので運良く当たらなかったようだ。
岩が柱に当たったのか、小屋は簡単に倒壊した。
帰り道、川沿いに土手の上を歩いて帰るがミケちゃんがまだちょっとむくれている。
本当にあいつらのことが嫌いだったのだろう。
ミケちゃんは東の川辺で採取をしていたからな、あいつらのことも知っていたのかもしれない。
甘いもの食べさせたら機嫌直してくれるかな? なんて考えていたら。
「逃げろー!!」
遠くから、前にも聞いたような叫びが聞こえてきた。
「あ、大湧き出しにゃ。」
ミケちゃんが200mほど先の排水溝を見つめて言う。
土手の下を5人の男たちがこちらに向かって逃げてくる。
その後を追うのはアメーバの群れ。
数は・・50体ぐらいか。
それを見て、良いことを思いついたのでSHOPアプリで9mm弾を50発買い込む。
「二人とも、朝にやった射撃練習の続きをしようか。
今日は大盤振る舞いの撃ち放題だよ!」
お、ミケちゃんのしっぽが少し上がったぞ。
これで機嫌は取れるかな?