第40話 アリを叩く
西の川辺をアーティファクトを探して探索していたところ、働きアリ2匹を遠目に発見した。
働きアリの大きさは1mほど、体高は地面から40cmぐらい。
アリとしては一番小さい種類らしいのだが、それでも前の世界の虫に比べれば化け物としか言えないでかさだ。
コレ相手にハンマーを使った接近戦をどれぐらいできるか確かめてみたいのだが。
さて、ミケちゃんたちは大丈夫だろうか?
「ミケちゃん、アレに接近戦を仕掛けてみようと思うんだけど。
ミケちゃんは大丈夫そう?」
「多分大丈夫にゃ。コレもあるし。」
そう言ってミケちゃんは硬鞭を抜く。
「ポチ君はどう?」
「ちょっと怖いけど、僕は弓だし大丈夫だよう。」
ポチ君が胸の前で弓を掲げているが、その掴む手に余計な力が掛かっているように感じた。
緊張してるのかな?
「大丈夫。いざとなったら俺がコレで一気にやっつけるから。」
そう言って腰のハンドガンを叩いて示す。
ポチ君がそれを見て、うん、うんと頷いている。
これで少しは力みが取れればいいけど。
「さて、じゃあ仕掛けるか。」
川辺の草原を緩やかな風が流れている。
それに逆らうように、ピュッ!という矢が弓に擦れる音と共に矢が飛んでいく。
矢の向かう先には川岸で水を飲んでいる働きアリが2匹。
片方の胴体にタンッ!という音を立て、矢が突き刺さる!
それに合わせて俺とミケちゃんがアリに駆け寄って行く。
俺が土手側でミケちゃんが川辺側に寄って進む。
アリは俺たちを見て少し迷ったようだが、それぞれに対応することに決めたようだ。
1匹ずつ向かってくる、狙い通りだ。
矢を受けたのはミケちゃんの方に向かったようだ。
よたつきながら走ろうとしていた。
ポチ君にはミケちゃんのサポートをしてくれるよう頼んでいる。
こっちの1匹は俺の獲物だ!
アリが俺に向かって一直線に、その細い足を小刻みに動かしながら駆けて来る。
あんまし速くは無いな。
アメーバよりかは速いがせいぜい時速14kmぐらいか。
自転車を軽く回してる程度だな。
これなら間合いを外しさえしなければ・・。
ハンマーを上段に構える。
両の持ち手は間隔を開けて右手を支点にし、てこの原理で引きながら振り下ろす構えだ。
ギィィ!と鳴きながらアリが3m手前まで近づく・・2.5・・2.2・・2.0m、ここだ!
アリが2m手前まで近づいたところで一歩踏み込み、さらにその姿勢で一瞬留まり40cm引きつけた所で思いっ切り振り下ろす!
その威力は自分が思ってた以上でアリの頭を粉々にし、ドォン!!という地響きと共に地面を穿つ!
おぉぉ・・、手が痺れる・・
おっとっと、こんなことをしている場合ではない。
ミケちゃんは?と川辺に目を向ければ、ミケちゃんが硬鞭を振って応えた。
ミケちゃんの後ろにあるアリの頭は勝ち割られている。
「おにいさん、すごい音だったにゃ。」
ミケちゃんがこちらに笑いながら駆け寄ってきた。
「ああ、ちょっと気張りすぎたかも? 二人ともケガは無い?」
「僕もミケちゃんも大丈夫だよう。」
ポチ君がしっぽを振りながら答える、大丈夫そうだね。
「さ、甘いのを切り取るにゃ!」
ミケちゃんの音頭で解体作業に入る。
解体しながら考える。
事前に銃で倒したアリでハンマーや硬鞭が通じるのは試していた。
ポチ君の短弓が浅くしか刺さらないのが懸念だったが、思っていた以上にアリの動きが鈍い。
これなら逃げるのはたやすいし、俺とミケちゃんなら相手取るのは簡単そうだな。
それにうれしい誤算も付いてきている。
今回、ハンマーを振ったときにずいぶん軽く感じた。
初めて振ったときに比べて半分くらいの重さに感じるほど、振りが軽く速い。
ステータスで筋力が上がっているのは知っていたが実感するのがこれが初めてだ。
まだまだミケちゃんの動きには着いていけないが、これならミュータント相手でもそれなりにやれそうだ。
2つ取れたアリの蜜の内、1つをその場で仲良く舐め尽くし、残りはおみやげに持って帰ることにした。
そこからさらに3kmほど西に移動する途上で3つのアーティファクトを発見した。
見つけたのはスパークトルマリン1個にオブシディアン・タールを2個。
これで今回の探索で見つけたのは全て下位のアーティファクトだが総数10個。
内訳はクリスタルエッグ2個、スパークトルマリン3個、オブシディアン・タール5個だ。
大満足の成果である。
日は傾き始めている、昼の3時くらいか。
キリもいいし、今日はここで終わりにするとするか。
「二人とも、今日はここまでにしようか?」
「ん、帰るにゃ? それじゃ行くにゃ。帰りもアリに会えればいいにゃー。」
ミケちゃんが硬鞭を振り回している。
もうミケちゃんにとってアリはおやつにしか見えてないようだな。
「あ、ポチ君コレ。」
帰りの支度をしていたポチ君にスパークトルマリンを渡す。
これで3人ともスパークトルマリンを装備できる。
「わぁ! コレもらってもいいの?」
鮮やかなネオンブルーのトルマリンを眺めながらポチ君が言う。
「もちろんだよ、これには体の疲れを取る効果があるから装備してね。」
ポチ君が大事そうにポケットに仕舞うのを見届けて、帰りは軽く走って帰ることを告げる。
日は傾き始めている、町から19kmぐらい移動したからな。
ぐずぐずしていたら夜になってしまう。
ジョギングをしながら帰ったところ、2時間で戻ってこれた。
日は落ち始め夕方だ。
西門をくぐり、北門の市場へと行く。
いつものうさぎのおばさんの屋台だ。
「こんばんわー。」
「こんばんわにゃー。」
「ネザーさん、こんばんわー」
「あいよ! いらっしゃい。そこ座りな。」
いつものカウンターへと座る。
「ネザー姐さん、今日はネズミがいっぱいあるにゃ!」
そう言ってミケちゃんがハゲネズミを取り出したので俺やポチ君も取り出す。
「お、今日はたくさんあるねー。助かるよ。」
ハゲネズミは1匹100シリングで買い取ってもらえたので全部で600シリングの稼ぎだ。
ポチ君が装備の代金のことがあるので辞退し、俺とミケちゃんで半分こにした。
「これもあるにゃー。」
そう言ってミケちゃんはアリの蜜の入ったお尻を取り出した。
「ああ、蜜玉だね。あんたらアリとやり合ったのかい?」
「やったにゃ。簡単だったにゃ。」
ミケちゃんはしっぽを振りながらニコニコと話す。
「まぁ、ハンターなら簡単な相手なんだろうけど噛まれないよう気をつけるんだよ。」
ネザーさんはミケちゃんとポチ君の頭を撫でながら言う。
「これも100シリングで買うけど、いいのかい?」
「んー、おにいさん。上げてもいいかにゃ?」
ミケちゃんが上目遣いでこちらに向いてくる。
「もちろん、いいよ。ネザーさんにはいつもお世話になっているし。」
「そういうことにゃ。ポチもいいにゃね?」
「もちろんだよう。」
「あらあら、いいのかい? あの子猫たちがずいぶん立派になったねぇ。」
ネザーさんがミケちゃんの頭を撫でる、ミケちゃんはえへへと笑っていた。
その後、食事を取り、夜食用のお弁当も買った。
礼を言って屋台を出る。
食後の訓練と情報を求めてギルドへと寄って行く。
この時間おかまさんはガレージの買い取りカウンターの方にいた。
食後の食い休みも兼ねて列に並ぶ。
列に並ぶミケちゃんとポチ君を周りのハンターたちが一瞥する。
男のハンターはなんか変なのがいるなぁ、という感じだが。
数少ない女性のハンターたちはミケちゃんたちをチラチラ眺めている。
宿の大部屋でもミケちゃんは女性たちに人気だったらしいからな。
そんな周囲の観察をしてる内に自分たちの番が回ってきた。
「こんばんわ。」
「あら、いらっしゃい。今日は買い取り?」
「すいません、今日は何もなくて。アリについてちょっと聞きたいことがあって。」
「アリね。この辺で出るのだと働きアリと兵隊アリになるわ。どんなことが聞きたいの?」
「お金になる部位とか、気を付ける事についておねがいします。」
「お金になるのは2種ともお尻の蜜玉ね。働きアリの方が50シリング、兵隊アリの方が150シリングで買い取るわ。
それと兵隊アリの顎は傷が無いなら一組50シリングで買い取るわよ。」
やはりギルドでは食料の買取は安いな。
これもネザーさんの方に持っていったほうがいいか。
「気を付ける事については噛みつきね。
特に兵隊アリは簡単に肉を引き裂くから気をつけなさい。」
「ええ、そうですね。今日働きアリを狩ったんですけど顎が硬くて噛まれたらやばそうでした。」
「あら! もう働きアリを狩れるようになったの。ネコちゃんたちは大丈夫だった?」
おかまさんは心配げにミケちゃんたちに視線を向ける。
「大丈夫にゃ! アレぐらいあちきたちには軽いにゃ。」
ミケちゃんが元気良く返す、ポチ君も隣で笑っていた。
「あら、頼もしいわねぇ。それなら、そろそろ荒野に出るための初心者講習受けてみない?」
「講習ですか?」
「ええ、講習の対象がアリ2種を討伐することなのよぅ。
と言っても受講者が倒すのは働きアリだけで、兵隊アリはガイドのハンターが倒すところを見るだけよ。」
「いくら掛かるんですか?」
「1人1000シリングよ。」
3人で3000か、今ちょっと厳しいなぁ・・
だが、兵隊アリの倒し方を見れるのは参考になる、必要だろう。
「お金が貯まったら受けたいと思います。」
「待ってるわぁ。」
おかまさんに礼を言い、裏の駐車場へと向かう。
荷物を隅に置いて、今日の訓練開始だ。
今日はミケちゃんもやるようだ。
隅で素振りをしている。
腕立て300回、スクワット300回、懸垂を100回に400mダッシュ15本のいつものメニューをこなす。
今日はさらに駐車場の隅に置いてあった大きな破けたタイヤを持って、腰の力で左右に振り回す運動も加えた。
これで全身を隈なく鍛えられるかな?
ポチ君も俺と同じメニューをこなそうとしていた。
今日は数を半分ずつにしたので、最後までバテずにこなしていた。
宿に戻り、シャワーを浴びる。
順番はミケちゃんが先頭だ。
「ミケちゃん、今日は頼むよ。」
ミケちゃんは昨日1人でお湯の出る10分を使い切ってしまっている。
「大丈夫にゃー。早めに出ればいいにゃ?」
そう言ってミケちゃんは8分ほど使ってしまったようだ。
シャワーの横のメーターが8を指している。
ポチ君に順番を譲り、俺は水で洗うことにした。
汗も流してすっきりしたところで、ネザーさんの所で買って来た夜食をみんなで食べる。
ミケちゃんとポチ君は食べてすぐ眠くなってしまったようだ。
俺も眠くなったがまだやることが残っている。
SHOPアプリを起動する。
今日手に入れたアーティファクトの数は10。
今までに持っていたのも加えて、全部で20個になった。
余ってるのもあるので、それを売って装備を整えるのだ。
特にSHOPアプリを眺めていて、コレ欲しいと思ってたのがある。
良い機会だ、買うか。