第39話 アーティファクト探索2 西の川辺偏
窓から朝の日差しが入り、自然と目を覚ます。
静かな朝だ・・、大部屋から個室に移ったことを寝ぼけ頭に思い出す。
部屋の中にはミケちゃんとポチ君のすー、すーっ・・といった寝息だけが泳いでいる。
昨日はポチ君が仲間に入り、装備を整えて、西の川辺を少し散策したんだったな。
部屋に据え付けられた洗面台で顔を洗い、頭を覚ます。
まずは朝のステータスチェックからだ。
ステータス
Name サトシ
Age 20
Hp 100
Sp 100
Str 177.0 (+12.0)
Vit 148.0 (+8.0)
Int 97.0 (+1.0)
Agi 124.0 (+4.0)
Cap 3.4 (+0.2)
預金 84ルーブル (-1620)
所持金 5195シリング (-8815)
ステータスは全体的に上がっている。
Intが久しぶりに上がったのは南東の地域について知ったからかな?
川辺で子供たちにアメーバ釣りを教えたこととかも関係あるかもな。
今日は新しいアーティファクト探知機を使って1日探索に入ろうと考えている。
そろそろミケちゃんたちを起こして、用意をするか。
身支度を整え、宿の受付でロックさんから水を買って宿を出る。
今日は川に何度も入ることになるだろうから、前もって肌着は脱いでいる。
西門の宿から北門の市場へと移動する。
市場は食事を求めた労働者たちが集い朝から賑わっている。
うさぎのおばさんの屋台もそんな風景の1つだ。
「おはようございます。」
「おはようにゃー。」
「ネザーさん、おはようー。」
「はい、おはよう。そこ、座わんな。」
いつものカウンターへみんなで座る。
それぞれ注文をし食事ができるのを待つ。
そこにさらに追加の注文を出す。
「お弁当を3人分お願いできますか、大盛りで。」
「あいよ。適当に包んでおくよ。」
「おにいさん、お弁当持って今日はどこ行くにゃ?」
「今日は西の川辺を1日掛けて探索しようと思っている。」
「あー、昨日の続きにゃ?」
アーティファクト探索だと気づいたミケちゃんは、場所もあって迂闊なことは言わない。
「ネズミ狩り?」
ポチ君はわかってないようだ。
朝の食事を終え、お弁当を持って屋台を出る。
西の川辺へと向かう。
西の川辺は今朝もカエル獲りをしている子供たちで賑わっている。
腰に下げたアーティファクト探知機の画面を見る。
この近くには反応は無い。
さぁ、西に向かうか。
「あ、ポチ君。ハゲネズミの気配見つけたら教えてね。バックパックが満杯にならない程度に狩って行こう。」
「はい! リーダー。」
ポチ君はしっぽをピンと立て、返事を返す。
「今日もあちきの勇者の剣が悪を討つにゃ。
ネズミ狩りはあちきとポチに任して、おにいさんは宝探しに専念してにゃ。」
硬鞭をポンポンと叩きながらミケちゃんが頼もしいことを言ってくれる。
お言葉に甘えようと思うが、俺も荷物持ちぐらいはするつもりだ。
川辺の少し湿り気を帯びた風を浴びながら、ミケちゃんとポチ君の揺れるしっぽを眺めつつ進む。
特にポチ君のしっぽはよく揺れる。
時々こちらに向けてくる笑顔が、散歩楽しいねーっと言っている様だ。
川沿いに西に向かって15分ほど歩いたところで早速、ピコーン・・っと探知機の反応があった。
画面の矢印を見ながら川沿いに進む。
今の画面設定だと30m以内に入らない場合、反応は矢印で表示されるのだが60mは歩いたのになかなか点で出て来ない。
ついには川に対して直角に矢印が向いたので川に近づく。
どうやら対岸近くに反応があるようだ。
検知距離の短い初期装備の探知機では漏れていた反応のようだ。
さっそくバックパックをミケちゃんに任せて、川へと入って行く。
川の中腹は深いので平泳ぎで渡っていく。
ガイガーカウンターのガリガリ音を聞き流しながら目当ての場所へ急ぐ。
いつもの発光と放電現象の後に現れた石をポケットに入れ、すぐに戻る。
「おにいさん、どうだったにゃ?」
「タオルどうぞー。」
ミケちゃんとポチ君がタオルという名の雑巾を片手に寄ってくる。
まぁ、雑巾として掃除などに使ったことはないけどね。
二人の前にポケットから石を取り出す。
「お、クリスタルエッグにゃ。きれいだから当たりにゃ。」
「わぁ、きれいだねー。」
二人からしたら魔法の力付きの宝石といった印象なのだろうな。
それに苦笑しつつバックパックから鉛で出来た保管箱を取り出し、入れる。
クリスタルエッグは何個あっても問題ないし、売値も高い。
幸先は良いだろう。
それから川沿いに15kmほど進んだところで休憩を取ることにした。
道中にさらに6個のアーティファクトを手に入れた。
内訳はクリスタルエッグ1個、スパークトルマリン2個、オブシディアン・タール3個だ。
対岸の岸沿いに見つけることが多かったから、前回来た時に結構取りこぼしていたようだ。
狩りの方もポチ君がちょくちょくハゲネズミの気配を見つけ、ミケちゃんが殴りに行っていた。
成果はハゲネズミ6匹。
俺のバックパックはもういっぱいだし、ミケちゃんとポチ君も1匹ずつ背負っている。
「これだけ獲れれば十分だ。ポチ君、ミケちゃん良くやってくれた。」
「えへへ。」
「ま、あちきたちならコレぐらい軽いにゃ。」
頭を撫でたら二人ともしっぽを揺らして笑っていた。
日は頂上に昇っているので、ここでお昼にした。
うさぎのおばさんの用意してくれたお弁当は串焼きとから揚げにパンが山盛りだ。
120シリングしたんだが、それ以上にサービスしてくれたようだ。
食べ終わる頃にはお腹がパンパンだ。
お腹がいっぱいになったミケちゃんとポチ君が眠くなったようなので軽く仮眠をとるよう勧める。
二人が土手で丸くなっている間、俺が周りの警戒をしておく。
1時間経ってから二人を起こし、再出発だ。
そこから20分ほど歩いたところでポチ君が新たな気配を見つけた。
ポチ君が指す方向を見れば巨大なアリがいた。
「あれ、アリだよねぇ。二人とも知ってる?」
「お尻に甘いのが詰まってるにゃ。獲るにゃ。」
ミケちゃんは右手を挙げ、やる気を示す。
「あの大きさだと多分働きアリだと思う。鋭い顎に気をつければ大丈夫じゃないかな。」
ポチ君はお父さんと二人で旅をしていたこともあって詳しそうだな。
二人とも倒すべきと主張したので狩ることにした。
だが俺は慎重な男だ。
なのでハンドガンでサクッと倒した。
「ふーん・・、頭を撃ち抜けば一撃なんだな。」
働きアリの大きさは1mほど、ハゲネズミの倍以上だ。
甲殻の硬さは厚めのプラスチック程度か?
顎は結構硬い、金属質的な硬さで刃に鋭さは無く、ハサミの刃の様だ。
挟み切る力もハサミの様だと考えれば結構怖いな。
どれくらいの攻撃で甲殻を打ち破れるかの実験もしておくか。
ミケちゃんに硬鞭で叩いてもらおうと横を向いたら、二人でアリのお尻を切り取っているところだった。
「二人とも、それが甘い部分なの?」
「そうにゃ。このお尻に甘いのが詰まってるにゃ。ちょっと待つにゃ。」
そう言ってミケちゃんが切り取った丸いお尻の部分にナイフで穴を開けていく。
「これにゃ。・・ふわぁぁ、甘いにゃー。」
ミケちゃんが穴の中に手を突っ込んで中の蜜を舐めている。
「ミケちゃん、僕も僕もー。」
ポチ君もよだれを垂らさんばかりだ。
俺も舐めてみたが蜜はとろみがあって、甘さは程よい感じで水あめの様だった。
この世界に来てから甘いものはジュースぐらいでしか食べてないから、甘いものは貴重なんだろうな。
二人の食いつきがすごい。
3人で舐めていたらあっという間に無くなってしまった。
アリのお尻は直径30cmぐらいの球型で中身も1.5リットルぐらい詰まってたみたいだが。
「まだ食べ足りないにゃ。もっと獲るにゃ!」
ミケちゃんが中身の無くなった殻をナイフで二つに割り、内側を舐めながら言う。
「さっきお腹一杯食べたばかりなのに?」
「甘いものは別腹にゃ! ポチ、探すにゃ!」
「わかったよう、頑張るよー。」
ポチ君もまだまだ舐め足りない様だな。
そこから、さらに西へ5分ほど歩いたところでポチ君が2匹のアリを見つけた。
今度は接近戦でどこまでできるか試してみるか。
食事に肉が多いですが、この世界のビタミンは熱に強いので調理した肉からもビタミンが取れます。