第36話 アメーバ釣りの指導
ミケちゃんの支度が整ったので宿を出て、ギルドへと向かう。
日は頂上より少し落ちてきた。
道すがら宿のことで話し合う。
「ミケちゃん、宿のことなんだけど。」
「なんだにゃ?」
「大金が手に入ったし、金庫を借りたいんだけど金庫があるの個室だけらしくてさ。」
「あー、確かににゃ。お金、鞄に入れっぱなしは怖いにゃ。」
「それで個室なんだけど二人部屋で月6000シリングだって言われた。」
「一人3000シリングにゃ。うーん、どうするかにゃー、って!」
バッ!とミケちゃんは胸の辺りを手で覆う。
「やっぱしおにいさん、あちきのこと狙ってるにゃ?! ひゃー、えっちぃにゃ!」
キッ!とミケちゃんが睨みつけてくるが。
「いや、そういうのいいから。」
「にゃんだとー!」
ペシペシっとネコパンチで叩かれた。
「ま、ふざけるのはこれぐらいにしとくにゃ。とりあえず部屋を見てからでいいかにゃ?」
「そうだね。」
叩かれた腕が結構痛いんだが、割かし本気で叩いてない?ミケちゃん。
ギルドへと着いた、おかまさんへ挨拶しに行く。
「こんにちわー。」
「あら、いらっしゃい。今日は何かしら?」
「巨大アメーバのことで聞きたいことがあって。アレの出現する場所とかってありますか?」
「あら、味を占めちゃったのかしら。危険だからEランクのハンターにはあまりおすすめしたくないんだけど、あなたたちは倒せるものねぇ。
ギルドとしても不人気のアレを倒せる人は貴重だから教えちゃうわぁ。
排水溝の奥にいるらしいわ、出現頻度は年に2、3回ほどだから会おうと思って会えるものでも無いわよ。」
「そうですか、排水溝の奥ですか・・。」
奥はマズイ、必殺岩落としが出来なさそうだから。
入り口まで引っぱってくるにしても、中で二つのアメーバの群れに挟み撃ちになったりしたら詰みそうだ。
うわ、排水溝怖いな。
止めとくか。
「わかりました。あんまし欲張るのは止めておこうと思います。ところで、この間のは大きさ的にはどれくらいだったんです?」
「そうね、1つ核としてはかなり大きい方よ。今までに記録された大きさベスト3はどれも250グレン(1000kg)越えだけど、どれも複数核だから。」
「複数核?」
「ええ、アメーバ同士が合体してどんどん大きくなることがたまにあるの。今までで一番大きいのが7つ核で500グレン(2000kg)よ。」
「そんなに大きくなるんですか。」
「ええ、だから余計アレを倒せるハンターって貴重なのよね。次に出た時も期待してるわ。」
「ええ、その時はよろしくおねがいします。外での迎撃専門みたいなものですけど。」
「おねがいね。」
おかまさんに駐車場の使用も含めて挨拶をして、裏の駐車場へと行く。
今日はミケちゃんも訓練をするようだ。
バックパックを駐車場の隅に置いて、硬鞭で素振りをしている。
俺も腕立て300回、スクワット300回とこなしていく。
さらに背筋を鍛えるために近くの木で懸垂を100回休み、休み入れながらこなした。
腕立てと懸垂で体幹の筋肉もかなり鍛えられてきた。
姿勢が良くなってきたし、一本足で立ってみても微動だにしない。
バランス感覚も良くなってるようだ。
ただ表と裏の筋肉を鍛えてるとそれを繋ぐ左右の筋肉、腰の筋肉が引っぱられて傷めてしまうから、腰の筋肉も鍛えないとな。
今度メニュー考えてみるか。
そこから400mダッシュ15本こなして、今日の訓練は終了にした。
お腹が減って倒れそうだ。
ミケちゃんは、と見るとバックパックの近くで丸くなっていた。
「ミケちゃん起きて。帰るよ。」
「んにゃ・・? 終わりかにゃ? じゃ、帰るにゃ、ふわぁぁ・・」
大きくあくびをしながらミケちゃんが立ち上がる。
宿に戻り、汗を流してからうさぎのおばさんの屋台に行き、夕食をとった。
宿に戻って、ネズミの仕掛けももう1つ作ってやることは終わった。
明日はスラムの子供たちに説明しないとな、ポチ君に話を通してみるか。
次の朝、身支度を整えてから恒例のステータスチェックだ。
ステータス
Name サトシ
Age 20
Hp 100
Sp 100
Str 165.0 (+14.0)
Vit 140.0 (+10.0)
Int 96.0
Agi 125.0 (+5.0)
Cap 3.2 (+0.2)
預金 1704ルーブル
所持金 14010シリング
筋力、体力を中心にしっかり上がっている。
筋力など前の世界の6割り増しになってる。
肩や上腕が盛り上がってきたし、太股も外側の筋肉が分厚くなっている。
その割りには全体的にスリムになってきているから脂肪が燃えてるのかねぇ。
受付でロックさんから水を買い、ミケちゃんと合流した後、うさぎのおばさんの屋台で朝食を済ます。
さて、東の川辺へと向かうか。
東の川辺へとやってきた。
今朝も薄墨の晴れた空の下、涼やかな川辺にはたくさんの子供たちが採取をしている。
この世界の季節のことがまだわからないが、気温的には今は初夏のように感じる。
今はいいが、冬になったら川辺での採取は大変だろうな。
川岸の葦のような背の高い水生植物の藪のなかに特徴的なきつね色のしっぽを見つける。
「おーい、ポチにゃー!」
ミケちゃんの呼び声に藪の中からひょっこりとポチ君が顔をあらわした。
「あ、ミケちゃんとハンターさん。おはよー!」
ポチ君が魚のようなものを腰の袋に仕舞いながらこちらに駆け寄ってくる。
「ポチ君、おはよう。今日はメダカ?」
「うん、この時間だと水草の近くでよく寝てるんだ、こいつら。」
そういって腰の袋の中を見せてくれた。
中にはまん丸と太ったメダカが4匹入っていた。
「いっぱい獲れたんだね。」
「うん。今日は調子良いんだ。」
ポチ君はしっぽを振りながら快活に応える。
「ところでポチ君に聞きたいことがあるんだけど、アメーバ釣りに興味無い?」
「アメーバ釣り? 何それ?」
「アメーバが簡単に獲れるやり方にゃ。ポチでも出来るにゃ。やってみるかにゃ?」
「え! 本当? それが出来るならうれしいなぁ、やりたい!」
ポチ君のしっぽが大きく揺れる、興味は引けたみたいだな。
「じゃ、やってみようか。」
ポチくんを連れて、土手に開いたアメーバ穴へとやって来た。
「見てるにゃ、この気持ち悪い仕掛けを中に入れるにゃ。」
そう言ってミケちゃんはネズミの仕掛けを中に投げ入れる。
気持ち悪いのは本当なので何も言わない。
俺は短槍の用意をする。
「こうやって、ゆっくり引き上げるにゃ。ゆーっくり・・・・お、掛かったにゃ。」
ミケちゃんがぐいぐいとロープを引き上げる、アメーバと仕掛けが見えて来たところで一気に引っぱり上げる!
ミケちゃんに一本釣りされたアメーバが穴から飛び出てくる、それに短槍を押し当て、貫いた。
「こんな感じにゃ。」
ミケちゃんがドヤ顔で言う。
「え?! こんなに簡単なの?」
あっさりと終わったことにポチ君もびっくりしたようだ。
「うん、簡単でしょ。次はポチ君が短槍を使ってみない?」
それからポチ君が短槍でしとめるパターンと、釣り上げるパターンとサクサクッとこなしてみた。
途中、ミケちゃん先生による叱咤激励もあったが。
「ポチもそのへっぴり腰を直せば立派なアメーバ釣り師となれるにゃ。」
腕組みしたミケちゃんが言う。
「う、うん。ありがとう! コレまたやらしてくれるの?」
ポチ君はアメーバを2体しとめてご満悦のようだ、しっぽの振りがすごい。
「いや、その道具を上げるからポチ君頑張ってみない?
出来ればそのやり方を他の子たちにも教えてあげて欲しいんだ。」
「え! くれるの?」
「スラムの子たちの生活は厳しいにゃ。だから、あちきたちがアメーバ狩りの仕方を教えてやるにゃ。」
ミケちゃん先生のありがたいお言葉だ。
「わ、わ、本当に。アメーバ獲れるならすごい助かるよう。」
ポチ君は手の中の短槍をじっと眺める、そのしっぽはピンっと上に立ち、今までに無い落ち着きを感じさせる。
「あ、あの。これ教えてくれたらミケちゃんたちはどうするの? ここではもう狩りをしないの?」
「あちきたちは別の狩りをしに行くにゃ。ここにはたまに釣りをしに来るかもにゃ。」
「そうなんだ・・。これ返す、あの・・お願いがあるんだ。」
ポチ君が短槍を返してきたので俺とミケちゃんは顔を見合わせる。
「僕もハンターになりたいんだ。僕も一緒に連れてって欲しいんだ。」
ポチ君は真剣な眼差しでこちらの目を覗き込んでくる。
そのしっぽは垂れ下がり、股に挟まり震えている。
ハンターになるという怖さを知って、言ってるのだ。
ミケちゃんの時と同じだ、その泣きそうな目に覚悟を感じた。
ミケちゃんが俺の腕を掴んで、目で訴えてくる。
ミケちゃんも俺と同じ気持ちのようだ。
「わかった。これから一緒に頑張ろう。ようこそハンターの世界へ。」
ポチ君の手を取る。
ミケちゃんも手を合わせてきた。
「あちきが先輩としてビシビシ鍛えてやるにゃ。泣き言は許さないにゃよ?」
「ひぇ! お手柔らかにだよう・・。」
手を合わせながら、3人で笑った。
「さて、とするとどうするか? スラムの子たちにアメーバの狩り方を教えに来たつもりだったんだけど。」
「それなら僕の友達を紹介するよ、ちょっと待ってて。」
そう言ってポチ君が連れてきたのは、前にアメーバの群れから助けた3人の子供たちだった。
「この子はヨウ君、隣が妹のメイちゃんにシユちゃんだよ。」
3人にアメーバ釣りをしてみるか聞いてみたところ快諾してもらえたので、やり方を教える。
ミケちゃん先生の厳しい指導の下、ヨウ君が短槍を持ち、2人の妹ちゃんたちが仕掛けを引っぱることで何とかアメーバを狩り取れる様になった。
そんなことをしていると周りから視線を感じる。
スラムの子供たちが集まって、アメーバ釣りを観賞していた。
「ヨウ君、出来ればその道具を他の子たちにも貸してあげて、みんなも助けてあげて欲しいんだ。できるかな?」
「うん。みんなで使えばいいんでしょ。本当にもらってもいいの?」
「うむ、頑張るにゃ。」
それからスラムの子たちに順番にアメーバ釣りを教えていく。
講師は当然、ミケちゃん先生だ。
20体ほど釣ったところで出てこなくなったがアメーバはすぐに増えるらしいから大丈夫だろう。
アメーバ釣りの体験に列を作って順番に並んでいるのだが、その列におっさんたちまで並んでいた。
「あー、おっさんたちは向こうの排水溝で頑張ってね。」
「そんなこと言うなよー、俺たちも結構大変なんだって、手助けしてくれよー。」
「おねがいでやんす。」
「頼むんだなぁ。」
「いや、ここ穴1つしかないからマジで向こうの排水溝で頑張って欲しいんだよ。
ほら、このネズミの仕掛けあげるから。」
もう1つのネズミの仕掛けを取り出す。
「これを囮に使えば誘き出しやすくなるだろうし、いざって時はそのまま囮として置いて逃げればいいから。」
おっさんたちは真剣にネズミの仕掛けを見ている。
「たしかに気持ち悪いけど有効そうだな、兄ちゃんありがとな!」
「囮はあっしの役目だから助かるでやんす。」
「だなぁ。」
ネズミの仕掛けは相変わらず見た目が不評だ。
気持ちはわかるんだが何かへこむ。
それからネズミの仕掛けの作り方や短槍を売ってる鍛冶屋の紹介などをし。
最後に俺から新しいルールの説明をする。
「いいか、アメーバ釣りは1人1体ずつ、順番にやること。
人の獲物を取り上げない、破ったヤツはこうだ。」
そう言って岩を持ち上げるパフォーマンスをする。
スラムの子達もおっさんたちも顔を青ざめさせる。
昨日の巨大アメーバ狩りを見てるからな。
全員がコクコクとうなずき、了承したのでこれで解散させる。
また今度、問題が起きてないか見に来よう。
これでハイエナが減ったらいいなぁ、なんて思った。