第34話 お仕事斡旋
橋の下は大きく賑わっている。
ここ最近スラムの住民たちを悩ましていた巨大アメーバが討ち取られたからだ。
しかも、それを成し遂げたのが小さなネコの女の子であれば周りの反響もかくあるべきかな。
スラムの子供たちは賞賛の目で、おっさんたちはポカンとしている。
俺はいまいち活躍の場が無かった気がするが、素直にミケちゃんを賞賛しにいく。
「やったね! ミケちゃん。」
「おにいさん! やったにゃ! 倒せたにゃ!」
ミケちゃんは興奮を隠せないのか、しっぽを体に纏わり付かせるようにくねくね動かしている。
「よくあそこから跳んだね、足痛くない?」
橋の上から跳んでたからなぁ。
「あれぐらいなら大丈夫にゃ。」
自信満々に言うミケちゃんが可愛くて、頭を撫でる。
そしたらもっと褒めてくれてもいいにゃ、とばかりにミケちゃんが頭を押し付けてくる。
この甘え上手、さすがミケちゃんだとばかりに3分ほど撫でていたところ。
あ、もういいですという風に手を払われる、さすがミケちゃんだ。
分離した巨大アメーバの核はミケちゃんが硬鞭で刺し貫いた。
ガレキの下には残された巨大アメーバの体が残っている。
死んだ巨大アメーバが萎びたのだろう、辺りは巨大アメーバから出た水分で水浸しになっている。
ミケちゃんと一緒にガレキを撤去していくが、残された巨大アメーバの残骸は数百kgになるだろう。
俺とミケちゃんがアーティファクトの力を使って運ぶとしても、一度に運べるのは240kg程度。
それだと半分ぐらいか、残された半分は持っていかれるだろうな。
さっきからハイエナたちが手ぐすね引いて待ってるからな。
かといって、交代で運び出すのも安全上やりたくない。
別行動には不安がある、運び出す機会は一度と考えたほうがいいだろう。
さて、どうするか。
「ミケちゃん、ここは俺に任せてもらっていいかな?」
「どうするにゃ?」
「ハイエナ・・、いや彼らにも賃金を与えて運ばせようと思う。」
「良いと思うにゃ。タダで持ってかれるのイヤにゃけど、仕事なら仕方ないにゃ。
スラムではまともな仕事はなかなか無いしにゃ。」
ミケちゃんは硬鞭を仕舞った、同意してもらえたようだな。
俺はハイエナをしようとしているスラムの子供たちやおっさんたちに話しかける。
「これから巨大アメーバを切り分けてギルドに運ぶ!
仕事が欲しいヤツはいるか?」
スラムの子供たちは互いに顔を見合わせた後、素直にこちらにやって来る。
ガレキを全部かたずけるまで待っていてくれと、土手に座って待機させる。
子供たちの中にポチ君は見当たらなかった。
お弁当を食べた後、お腹一杯になったから帰っちゃったんだろうな。
おっさんたちはなんか話し合ってるな。
「いくらぐらい貰えるんだ?」
ヒゲ面のおっさんが代表して聞いてくる、たしかジャックさんだったな。
「子供たちには持てる量の半分、おっさんたちはどうするかな?」
スラムの子供たちには数少ない稼げる機会だ、すこしぐらい奮発してあげてもいいのだがおっさんたちは、なぁ?
「俺たちも半分じゃダメか?」
「んー、おっさんたちはもともとアメーバ狩りで稼いでるだろうしなぁ・・」
遠慮してくれてもいいのよ。
「ま、待ってくれ、俺たちもあんまし稼げて無いんだ。そうだ、俺たちはリアカーを持っている。
75グレン(1グレン=4kg、300kg)ぐらいなら運べるぞ。これを手で運ぶのは大変だろ、どうだ?」
リアカーを持っているのか。
まぁ、運べる量は悪くない。
問題は値段だな。
「では、そのリアカーいっぱいに運ぶので1000シリングでどうだ?」
普通のアメーバ10体分だ。
「それだと安すぎる、普通のアメーバなら60体は運べるからもっとくれ、3000でどうだ?」
「運ぶだけで1000シリングなら十分だろう。」
「でも、運びきれなければ残していくんだろ? 残すのは捨てるのと一緒だぜ。」
俺は無言で近くの岩を持ち上げる。
もちろんアーティファクトの力を使ってだ。
「ま、待ってくれ! あんたと敵対する気はねぇ、だから交渉してるんじゃないか。
同じハンター同士だろ、少しぐらい融通してくれてもいいじゃねぇか?」
このおっさんたちもハンターだったのか。
まぁ、アメーバの買い取りをしているのはギルドぐらいだろうしな。
正直、スラムの住人だとばっかし思ってたけど。
おっさんたちは視線を俺の横に向けて冷や汗を掻いている。
横を見ればミケちゃんも岩を持ち上げていた。
ミケちゃんは前回こいつらをボコボコにしたからな、そりゃ怖いだろう。
「1500だな。」
「・・もうちょっと何とかなんねぇかな?」
おっさんは手でゴマをすりながら聞いてくる。
「1500、これで最後だ。コレを断るなら頭の上に岩が振ってくる覚悟をした方がいいぞ。」
俺の横のちっちゃな勇者がシャーッ!と威嚇をし始めたぞ。
おっさんたちは3人で話し合った結果、これで了承した。
ガレキを全て川辺に積み上げ、巨大アメーバを解体していく。
スラムの子供たちは30人いたので5kgぐらいの塊を30個切り分け。
残りを4つに切り分け、リアカーに2つ、俺とミケちゃんが1つずつ持っていく。
東の川辺から、西のギルドへと向かう。
途中、おっさんたちと話すがおっさんたちもEランクのハンターだそうだ。
「俺たちはあそこの生まれでずっとアメーバ狩りをあそこでしてきたのさ。」
「他の狩りとかはしないのか?」
「スラムの孤児からハンターになるやつは多い。俺たちもそうだしな。
だけど遠くに狩りをしに行ったり、町を出て行くやつ等は誰も帰ってこねぇ。
だから俺たちはあそこでずっとアメーバ狩りをしていくつもりだ。」
ある意味、このおっさんたちはスラムの子供たちの将来の姿というか、なれの果てというか。
物悲しいものを感じる。
スラムの子供たちが笑いながら、おっちらえっちらとアメーバを運んでいるが、この子達も何も無ければおっさんたちの様になるしかないのだろうか?
ちょっと考えさせられる。
ギルドに着いた。
おかまさんへと挨拶しに行く。
「こんにちわー。」
「あら、すごい人数ね。巨大アメーバはやれたの?」
「ええ、この通り。みんなで運んできました。」
「まぁ・・、正直びっくりしたわ。買い取りは奥でやるから、あそこの重量計まで運んでくれない?」
おかまさんに付いて行き、重量計に次々とアメーバを乗せる。
「それにしてもどうやったのかしら?アレはタフさだけなら相当なものだと思ったけれど。」
おかまさんは頬に手を当て、こちらを覗きこんでくる
「橋の上から石を投げ続けたんですよ。」
「石をぶつけたくらいで倒せるとは思わないけれど、まぁ、いいわ。
アメーバの核は討伐証明になるからこっちに出してちょうだい。」
「これにゃ。あちきがトドメを刺したにゃ。」
ミケちゃんが胸を張ってドヤ顔で言う。
「まぁ! 本当に? なんてすごいネコちゃんなのかしら!」
おかまさんはギュッと抱きしめた後、ミケちゃんの頭を撫で回す。
ミケちゃんはされるがままになっていたが、しっぽがふらふらと揺れていたので嫌ではないのだろう。
巨大アメーバの重量は核を除いた全部で525kg、105体分だ。
討伐賞金3000シリングと合わせて、13500シリングになった。
そのうち子供たちに50シリングずつ払い、おっさんたちには1500シリング払う。
残りは10500シリングになった。
子供たちはお金を受け取るとありがとうと言って、帰っていく。
ハイエナさえしなければ素直な子達だ。
「よっしゃあ!今日は娼館に行くぜ!」
「行くでやんす!」
「だな、だなぁ!」
そう言っておっさんたちも帰っていった。
ミケちゃんの手前、俺は行きずらい為ちょっとうらやましい。
買い取り金をミケちゃんと半分こにする。
「うわ!うわ! こんな大金見たこと無いにゃ・・、うわぁ。」
ミケちゃんは急いでお金を鞄に仕舞いこみ、中を覗きこんではニヤニヤしていた。
「思ってたよりも腕の立つハンターだったのね。」
おかまさんが俺の横に立つ。
え?! なんで腕を絡ませてくるんですか?
「たまたま相性が良かっただけですけどね。」
なんとかを腕を離そうとするがおかまさんもなかなか離さない。
腕の引っ張り合いになったところ、腕を捻られて関節を極められる!
「ぎゃぁー!痛い、痛い!」
「あらやだ!ごめんなさい、ついムキになっちゃって。」
おかまさんはすぐに放してくれた。
「いえ・・。それじゃミケちゃんそろそろ帰ろうか。」
「んー? わかったにゃ。」
お金を見つめていたせいか、ミケちゃんの顔がだらしないですぞ
さて、一働きをしてお腹も減ってきたし、ネザーさんに巨大アメーバを倒したことも報告しておきたいから。
北門のうさぎのおばさんの屋台に向かうことにした。