第33話 対巨大アメーバ戦
巨大アメーバ討伐を決意した。
一応、作戦はある。
まぁ、なるようになるだろ。
おかまさんの受付へと依頼書を持っていく。
「すいませーん。」
「はいはい、何かしら?」
「巨大アメーバの討伐を受けたくて。」
「あら・・、大丈夫なの?わかってるとは思うけど、アレには生半可な攻撃は効かないわよ?」
おかまさんは怪訝な表情だ。
「はい、一応手は考えました。」
「そう、無理はしないでね。アレは足が遅いから逃げるのは簡単だろうけど。
接近戦は絶対しちゃダメよ。」
「はい、ありがとうございます。」
「それじゃ受領するけど、依頼の受諾者はあなたとミケちゃんでいいのよね?
パーティ名とかあるなら、そちらで登録するわよ?」
パーティ名か・・
考えてなかったな。
今後、仕事を請ける上であった方が便利なのかもしれない。
「ミケちゃん、どうしよっか?」
「うーん、勇者ミケとおにいさんでどうにゃ?」
ミケちゃんは腕を組んで、マジメな顔で答える。
が、これは間違いなく黒歴史になる。
絶対に阻止しなければ。
「うーん、もうちょっとおとなしい名前で。」
「あら、それならニャンニャンパーティなんてどう?」
こっちもひどい。
「うう・・、それならネコと弾丸で。」
ネコはミケちゃん、弾丸は俺を指す名前だ。
正直、自分を指し示すキーワードが銃くらいしか思いつかなかった。
「えー!つまんないにゃー。」
「そうねー、つまんないわー。」
二人して反対の声を上げる。
この後、10分ほどやいやい言ってたが出てきた名前がどれも酷かったので、強引に俺の意見を通させてもらった。
「あ、そうだ、ついでにスラムにいるジャックさんに依頼を受けたこと伝えてもらえるかしら?
依頼を受けた人がいないか、心配してたようだから。」
「ジャックさんというのは?」
「いつも排水溝の近くにいる3人組のおじさんたちよ。
あの排水溝に行ったことがあるなら、見たことあると思うんだけど。」
あのおっさんたちか。
ジャックっていう名前だったんだな。
「わかりました。伝えます。」
「おねがいね。」
おかまさんに挨拶をし、ギルドを出る。
向かうは東のスラム近くの排水溝なのだが、途中南のバザーに寄る。
パーティ名のことでミケちゃんがむくれていたので、ジュースをおごった。
甘いものを飲んでご満悦のようで、すぐに機嫌は治った。
スラム近くの排水溝を迂回して、アメーバの穴の開いた土手近くの橋へ。
川辺ではまだ子供たちが採取をしている。
それに混じって3人のおっさんたちも採取をしているようだ。
背中に哀愁が漂っている・・
「すいませーん!」
3人の中のヒゲ面のおっさんに声を掛ける。
「ん? おお、兄ちゃんたちか。どうしたんだ?」
「ギルドで言付けを受けたまわったんですけど、あなたがジャックさんですか?」
「おお、俺だ。ギルドってことは巨大アメーバ討伐の件だよな?」
「ええ、俺たちが受けることになりました。」
「え?! あんたら二人でか?冗談だろ?」
「いや、本当ですよ。」
「正気か?アレは見ただろ。」
「ええ、まぁ。そういうことですので、この近くに誘き寄せる予定なので合図したら、ここから避難してもらえますか?」
「お、おう。」
おっさんたちはまだ納得のいかない顔をしていたが、それ以上は聞いてこなかった。
近くの子供たちにも声を掛け、避難する約束を取り付ける。
次に準備だ。
ちょっとした実験を橋の影で見られないようにして行なう。
現在の装備アーティファクトはクリスタルエッグ、スパークトルマリン、オブシディアン・タールの3種。
小石を拾い、オブシディアン・タールの力がこれにも作用するか、確かめる。
手のひらに乗せた小石に向かって、軽くなれと念じる。
手のひらの上から重さが消えた、成功だ。
次に、重さよ戻れと念じる、手のひらに圧力を感じた。
力のオンとオフは自由に出来るようだ。
もっと簡単に念じやすくなるように、オンとオフの単語だけでも作用するか確かめたら出来たので、これで手早く済ませられそうだ。
それと重さを吸い取った小石を横にふわりと飛ばしたところ、少し行ったところでストンと落ちた。
大体2mくらいか。
やはり横に飛ばすのには向いてないな。
だが、作戦の目処は立った。
ミケちゃんに作戦について話す。
「わかったにゃ。あちきはどうすればいいにゃ?」
「とりあえず俺と一緒にこの近くにある大きな石を集めて、橋の上に持っていこう。」
「わかったにゃ。」
俺とミケちゃんのアーティファクトの装備をクリスタルエッグとオブシディアン・タール x2の持ち運び重視の編成に変える。
これで一度に120kgまで運べるぞ。
川辺や川の中にある大きな石、これだけ大きければ岩と言ったところか。
100kgほどの重さの岩でも、アーティファクトを使えば風船のように軽い。
簡単にサクサクと集めてたら、気づけば橋の上に岩の小山が出来ていた。
全部で20個だな、これだけあれば十分だろう。
次は巨大アメーバの誘き出しだ。
作戦は至ってシンプルだ。
巨大アメーバを橋の下まで誘き出し、上から岩を死ぬまで落とし続ける。
橋の高さは5mはあるから威力は相当なものになるはずだ。
マンガにも、質量 x 速度 = 威力、みたいなこと書いてあるしな。
ハンドガンとは比べ物にならない威力にどこまで耐えられるかな?
さて、誘き出しだがこれは危険なので俺がやろうと思ったのだが。
「あちきに任せるにゃ。」
ミケちゃんは腕を組んでやる気満々だ。
「でも危険だから・・」
「あちきの方が足は速いし、おにいさんは橋で岩を投げる用意をしていて欲しいにゃ。」
ミケちゃんの目は力強い、翻意させるのは難しいかな。
「わかった。それじゃ前にアメーバ釣りで使ったネズミの仕掛けを持っていって。
アレを囮にしてね。」
「了解にゃ。」
川辺に集まっている子供たちやおっさんたちに、今から巨大アメーバを誘き寄せると言って避難してもらう。
みんなが避難したのを確認して、ミケちゃんがネズミの仕掛けを抱えて排水溝へと走っていく。
橋の上から眺めていたが、巨大アメーバはすぐに引っかかったようだ。
ミケちゃんがネズミの仕掛けを引きずりながら、小走りにこちらへ向かってくる。
巨大アメーバの足は遅い、2分ほど掛かってようやく橋の下までやって来た。
ミケちゃんが橋の下にネズミの仕掛けを置き去りにする。
それに巨大アメーバが伸し掛かり、捕食しようとした。
掛かった。
俺は風船のように軽い岩を持ち上げ、巨大アメーバの核に当たるように投げ捨て、アーティファクトの力をオフにする。
見る間に加速していく岩が巨大アメーバの中心に落ちる!
バァスゥゥン!!という少々マヌケな音をたてながら、当たった岩が軽く跳ね巨大アメーバの近くに落ちた。
巨大アメーバの様子はどうだ?と観察するが。
表面がさざ波、蠢いているな。
すぐに動き出さないのは効いてる証拠だろう。
続け様にどんどん岩を落としていく。
アーティファクトの力を使えば簡単なものだ。
風船を落としていくように軽々と岩を落とし続ける。
途中、ミケちゃんも橋の上に上がってきて一緒に岩を落とした。
あっという間に岩の小山は無くなり、橋の下に潰れたアメーバとガレキの山を作り出す。
殺ったか?
「おにいさん!あいつまだ動いてるにゃ!」
ガレキの下でアメーバの体が震えている。
これでも殺れないのか?
どうする?
今なら身動き取れないだろうからナイフで少しずつ削るか?
そんなことを考えていたら、巨大アメーバの動きが変なことに気づく。
岩と岩の隙間から巨大アメーバの核がニュルッと出てきた!
そのまま核だけで逃げようとしている。
どうやら体の大部分を捨てて逃げるようだな。
ここがチャンスだ!
ハンマーを抜き、土手を駆け下りる!
上段に構え、巨大アメーバの核に一直線に駆け寄る。
喰らえ、俺の兜割りを!
と思ったら、橋の上から飛び降りたミケちゃんが逆手に持った硬鞭をあっさりと突き刺す。
着地したミケちゃんはアメーバの核の突き刺さった硬鞭を掲げ。
「獲ったにゃー!」
と、宣言した。
離れて見てた子供たちやおっさんたちがそれに沸き立つ!
途端に起こるミケちゃんコール!
橋の近くは大賑わいだ。
俺はマヌケにハンマーを上段に構えたまま、それを眺める。
・・・・、俺の見せ場がぁ。