第31話 巨大アメーバ
東の川のアーティファクト探索を終えた帰り、以前にアメーバをハイエナしてきたおっさんたちから、スラム近くの排水溝で問題が起きたのを聞いた。
「その排水溝のヤバイのとは?」
「アメーバだよ、それも超でかいやつだ。見てみりゃわかるが、おすすめはしないぜ。」
「アレはヤバイでやんす。」
「んだなぁ。」
ボロボロの服を重ね着したおっさんたちが次々に発言する。
排水溝にでかいアメーバが出たようだが、いまいち要領を得ない。
まぁ、実際に見てみればわかるか。
いざとなったら、銃を抜けばいい。
「その巨大アメーバは排水溝に今も居るの? 何か特徴は? 足は速い?」
「今も居ると思うぜ、石でも投げれば出てくるんじゃないか?とにかくでかいが、足は普通のアメーバと同じ程度で遅かったな。」
「・・そうか。ミケちゃん、一度見るだけ見に行ってみようか?」
「そうだにゃ、どんなやつが出てきたのかわかんにゃいと、ここらへんに来ずらくなるにゃ。」
ミケちゃんも首をかしげながら同意してくれたので、警戒しながら排水溝に近づいてみる。
腰のハンドガンに手を当てながら、いつでも抜けるようにしておく。
排水溝の10m手前まで来たところで、排水溝の入り口に向かって石を投げてみた。
カツーン・・カン、カン・・・・--
薄暗い排水溝に石が跳ねた音が響いていく。
その音に合わせるように奥から、ズル・・ズル・・と何かが這うような音が聞こえる。
音がだんだん近づいてくる・・
音が排水溝の入り口まで来た時、排水溝の入り口いっぱいに透明なジェル体が溢れ出てきた!
巨大アメーバの透明なジェル部分が2mほど出てきて、ようやく青紫色の核が見える。
核の大きさはバスケットボールほど、全体の大きさは横4mに、縦2mぐらいか。
夕日に照らされたその巨体は、赤く燃え盛ったような威容を与える。
50cmほどの普通のアメーバとは比較にならない・・
「にゃー?!!」
その大きさにびっくりして、ミケちゃんのしっぽもピン!と上がって、毛が逆立っている。
「ミケちゃん!後退しよう!」
とっさにハンドガンを構え、核に向けて2発撃ち込む!
銃口から出た硝煙が掻き消えるまでの間、固唾を呑んで相手の様子を見るが・・
弾丸は30cmほどめり込んだ所で止まっていた。
「な?!」
銃が効かない相手は初めてだ、マズイ!
「おにいさん!逃げるにゃ!」
ミケちゃんが俺の腕を引っぱりながら訴える。
「わ、わかった!」
すぐさま踵を返し、俺とミケちゃんは逃げ切った。
巨大アメーバも100mほど追いかけてきたが、その速度は普通のアメーバと同じくらいで簡単に引き離せた。
土手に穴の開いた、橋の近くまで戻ってくる。
おっさんたちもまだ土手に座り込んでいた。
「な!やべぇだろ?」
「ああ、思った以上に大きかった。」
「怖かったにゃー。」
ミケちゃんは時々後ろを振り返っている。
「アレがあそこに居座っている限り、おれたちも仕事が上がったりだし。
スラムのガキ共も川に近づきにくくなって困っててよぅ。」
おっさんは疲れたようにため息を吐く。
「ま、しばらくはあそこには近づかない方がいいぜ、そのうち高ランクのハンターが退治に来るだろうしな。」
おっさんの忠告に右手を挙げ、返事を返し。
排水溝を迂回しながら、町中へと帰ることにした。
東門を越えたところで。
「あ、ネズミ獲ってくるの忘れたにゃ!」
ミケちゃんがうさぎのおばさんからの依頼を思い出した。
「今日はもう遅いし、明日の朝獲りに行こうか?」
日はもう沈みかかっていて、じきに夜が来るだろう。
「そうだにゃ。」
今日は走り回ったおかげでもうくたくただ。
このまま、北門の屋台へと行くことにした。
「こんばんわー。」
「おお、よく来たね。そこに座りな。」
うさぎのおばさんにカウンターを勧められる。
「ネザー姐さん、すまんにゃ。ネズミまだ獲れて無いにゃ。」
ミケちゃんは伏し目がちに言った。
「ああ、まだ大丈夫だよ。時間あったら獲って来ておくれ。」
うさぎのおばさんはミケちゃんの頭を撫でながら、笑って応える。
「明日は頑張るにゃ。」
俺がネズミの煮込みにカエルの串焼きと唐辛子炒めとパンを頼み。
ミケちゃんはネズミの煮込みと串焼きにパンを頼んだ。
ミケちゃんが今日出会ったトカゲや巨大アメーバを、身振り手振りでうさぎのおばさんに説明してるのに相槌を打ちながら、なごやかに食事を終える。
さて、腹も膨れたし、次は筋トレと行くか。
ギルドへと向かい、おかまさんに駐車場の許可を得に行く。
「こんばんわー。」
「あら、いらっしゃい。今日は何を持ってきたの?」
「いや、今日は買い取りは無くて、裏の駐車場を使う許可をもらいたくて。」
「あら、それなら一々許可を取らなくてもいいわよ。車が来たらちゃんとどいてくれればいいんだし。」
おかまさんは口に手を当て、笑いながら許可をくれた。
「そうですか、ありがとうございます。それとスラムに巨大アメーバが出たのは聞きましたか?」
「ええ、さっきジャックさんたちが来て、相談されたわ。明日から討伐依頼を出すつもりだけど・・」
おかまさんは、頬に手を当て、首をかしげる。
「どうしたんですか?」
「巨大アメーバの討伐って賞金が安いから人気無いのよねぇ。Cランク以上のハンターには声を掛けてみるつもりだけど。」
「そうなんですか。」
「ま、あんまし長引くようなら、ギルドから指名依頼にするから気にしなくても大丈夫よ。」
「いえ、ありがとうございます。」
おかまさんに礼を言い、裏の駐車場へと向かう。
辺りは暗くなり、駐車場の明かりが闇を切り分けているのが見える。
さて、訓練するか。
バックパックを下ろし、武器も外していく。
「じゃ、あちきは隅っこで寝てるにゃ。」
そう言ってミケちゃんはバックパックの近くで丸まった。
すぐに、すー・・すー・・と寝息が聞こえてくる。
今日は走り回ったし、かなり疲れてたようだ。
食べたばっかしだし、昨日と同じでゆっくりと筋トレをしていくか。
アーティファクトをオブシディアン・タールからスパークトルマリンに替えて。
腕立て300回にスクワット300回をゆっくりと1回ごとに息を吐きながらこなす。
ここまでで30分ほど、腹もこなれてきた。
スパークトルマリンのおかげで消化力も上がってる気がする。
そこから400mダッシュを休みを取りながら、15周した。
さすがにもうヘロヘロで体に力が入らないが、昨日より5周多く走れたことに成長を感じる。
俺の訓練が終わる頃にミケちゃんが起きてきたので、ミケちゃんのアーティファクト装備数の調査をする。
6個目を付けたところでオブシディアン・タールの力でミケちゃんが浮かび上がった。
驚くことにミケちゃんのCap値は5.0のようだ。
俺、2.8なんですけど・・
ふわふわと浮いてるミケちゃんは楽しそうにしてるが、念のためロープを巻いてて良かった。
「にゃー。浮いてるにゃ!見て見て、飛べるにゃ!」
ミケちゃんは両手をバタつかせながら飛んで行こうとする。
「うわ、ミケちゃん危ないよ。そろそろ、外そう?」
「嫌にゃ。まだ遊ぶにゃ。」
この後、30分ほどロープを握りしめ、ミケちゃんに付き合った。
「もう、おしまいにゃー?」
「うん、人に見られるとまずいから。また今度、人目の無いところで、ね?」
「わかったにゃ、しょうがないにゃー。」
ミケちゃんはしっぽを揺らしながら同意をしてくれた。
この後、またうさぎのおばさんの屋台に食べに行き、宿で休むことにした。
ベッドで横になって今日のことを思い返す。
素早く駆け寄ってくるオオトカゲに。
初めての銃が効かない相手。
これらの対処法も考えないとなー、と思いつつ瞼を閉じる。