第29話 アメーバ釣り
朝の食事を終え、アメーバを狩りに東門へと向かう。
東門を抜け、スラム近くの川辺へとやって来た。
川辺では、朝早くから子供たちがカエルや魚を獲っているようだ。
その中にポチ君を見つけた。
「ポチ君、おはよう。」
振り返ったポチ君は手としっぽを振ってくれる。
「あ、ハンターさんですよね、おはようございます。ミケちゃんも。」
「おはようにゃ、カエル獲りかにゃ?」
「うん、メダカも獲れたんだよ。」
そう言って、ポチ君が腰に下げた袋の中を見せてくれた。
中にはまん丸と太った、拳大の小魚が入っている。
「へー、すごいね。魚はどうやって獲るの?」
「おにいさん、まん丸メダカは動きが遅いにゃ。簡単に手で掬えるにゃ。」
「ミケちゃんも獲ってたの?」
「あちきは西で採取してたから獲ってないにゃ。これは東にしか居ないにゃ。」
そういえばミケちゃんは、お母さんが東のスラムに潜伏していた奴隷商人に捕まったんじゃないか、って考えてるんだよな。
だから東には寄り付かない様にしていたのかな・・
「ミケちゃん、狩りの場所変えようか?」
「心配してくれなくても大丈夫にゃ。最近は東にヤバイのが居るとは聞かにゃいし。
それにもっと、もっと強くなって今度はあいつらを狩ってやるにゃ。」
ミケちゃんは笑いながら言うが、そのしっぽは垂れたまま、毛が逆立ってすこし膨らんだように見えた。
ポチ君も心配してるのかミケちゃんに駆け寄る。
「ミケちゃん、あいつらの噂を聞いたらすぐ知らせるよ。それに僕だって手伝うよう。」
「ポチのくせに何言ってるにゃ。気持ちだけ受け取っとくにゃ。」
「あはは、戦う力は無いから、それ以外で頑張るよう。」
と、ミケちゃんとポチ君がじゃれているが多分二人は本気なんだろうな。
戦う力か・・、俺に思い浮かぶのは2つ。
アーティファクトとSHOPアプリ。
この2つを使いこなせるようにならなきゃな。
ポチ君と別れ、排水溝の先にある、橋の近くのアメーバの巣穴までやって来た。
周りには、まだアメーバの姿はない。
昨日の夜に作ったハゲネズミの仕掛けを取り出し、準備する。
「ミケちゃん、今日はここでアメーバ釣りをしようと思います。」
「にゃ?アメーバ釣り?」
ミケちゃんはしっぽと一緒に頭をかしげる。
「昨日見たアメーバの習性から、これで安全に狩りができると思うんだ。」
そう言って、昨日作った頭の無いハゲネズミのぬいぐるみを見せる。
「うわ!きもいにゃ!」
ミケちゃんはしっぽをピンと立てながら、毛を逆立てて一歩引いた。
「う、見た目は悪いけどアメーバは目は見えないみたいだし、これでも釣り餌にはなるはず・・。」
「こんなんで大丈夫なのかにゃ?とりあえず、あちきはどうすればいいにゃ?」
「ミケちゃんは硬鞭を構えてて、出てきたらそれでおねがい。」
「わかったにゃ。」
土手に開いた穴にロープを付けたネズミの仕掛けを放り込む。
ミケちゃんは穴の横で待機している。
ロープをゆっくり手繰り寄せる。
気分はザリガニ釣りだ。
1回目は掛からなかった。
2回目は入れてから1mほど手繰ったところでネズミの仕掛けが跳ねた。
何かに攻撃されてるらしい。
そのまま待っていると逆に引っぱられ始めたので、掛かった!と思い、焦らずゆっくりと手繰り寄せる。
「ミケちゃん、掛かった。準備おねがい。」
「わかったにゃ。」
ミケちゃんは穴の横に立ち、硬鞭を上段に構える。
慎重に手繰っていき、ついにハゲネズミに覆いかぶさったアメーバが穴から出てきた。
「にゃ!」
パンッ!とミケちゃんの空気を切り裂くような振り下ろしが入り、目を回してるところに素早くトドメの突きが入れられる。
萎んだアメーバは自然とネズミの置物から剥がれ、それを持って土手の穴から少し離れて様子を見る。
「仲間を呼ぶ鳴き声も出してなかったし、大丈夫かな?」
「出てきそうな気配はしないにゃ。多分大丈夫にゃ。」
釣りはどうやら上手くいったようだ。
アメーバは自分から襲う時は仲間を呼ばない。
1体ずつ釣り出せば、ハゲネズミ以下の雑魚である。
これで100シリング、2ルーブルなんだから美味しい獲物だ。
「これ、何度でもできるにゃ?」
ミケちゃんがネズミの置物を指差している。
「特に痛んでないからまだまだいけるね。今日は釣れるだけ釣ってみよう。」
「はい!はい!次、あちきの番にゃ!」
元気良く、手としっぽを上げている、次はミケちゃんに任せてみよう。
ミケちゃんが穴にネズミの仕掛けを放り込み、今度は俺がトドメを刺す用意をする。
一回目で当たりを引いたようでぐいぐいと手繰り寄せている。
「これ結構重いにゃ!」
ミケちゃんは穴の縁に足を突っかけ、綱引きをするように全身の力で手繰り寄せている。
そうなんだよな、萎む前のアメーバって多分10kgぐらいあるんだと思う。
それを手繰り寄せるんだから結構しんどい。
穴の奥から、仕掛けに覆いかぶさったアメーバが見えてきた。
「獲ったにゃー!」
それを見て、ミケちゃんは全身の力で引っぱり上げた!
アメーバが宙を舞う。
慌てて駆け寄り、ハンマーで軽く叩いた後、持ち手を返し、裏の尖ったピックで突いてトドメを刺す。
ネズミの仕掛けとアメーバを回収し戻れば、そこにはやりきった顔のミケちゃんが額を手で拭っていた。
「やったにゃ!」
ミケちゃんは晴れ晴れとした顔で言う。
「うん、上手な一本釣りだったよ。」
「そうかにゃ?なかなか面白いにゃ。どんどん釣るにゃ!」
しっぽがくねくねと揺れている、気に入ってくれたようだ。
アメーバ釣りは結構力仕事なので、ミケちゃんにスパークトルマリンを貸し、俺はトドメを刺す役に専念する。
ここのアメーバは今まで狩られていなかったのだろうか?
仕掛けを入れれば、すぐ掛かる。
釣り堀みたいだな。
12体釣り上げたところで一度止めて、ギルドに卸しに行くことにした。
ミケちゃんはたくさん釣れたのがうれしかったのか、ご機嫌だ。
あちきは釣り師としてもやっていけるにゃ、とはしゃいでいる。
帰る途中、スラムの排水溝近くで昨日の3人の男たちに出会った。
また何か仕掛けてくるか?と身構えたら。
「ひぇ!暴力ネコだ!」
「やばいでやんす!」
「逃げるんだなぁ。」
と、言って逃げていった。
「誰が暴力ネコにゃ?!」
ミケちゃんはしっぽを逆立たせて怒っているが。
東のチンピラは西のそれとはちょっと違うのかな?
こちらではカツアゲしてるのは見ない、泥棒はそこら中にいるみたいだが。
子供の数も西より多い気がする。
そんなことを考えながら、東門をくぐりギルドへと向かう。




