第26話 アメーバの大湧き出し
前話に弾倉の弾込めのシーンを書き忘れてたので、書き足しました。
目の前の排水溝からアメーバの群れが這い出てくる。
大湧き出しだ。
近くの川には、逃げ遅れた3人の子供たちが悲鳴を上げて、棒立ちになっている。
前に見た大湧き出しは、100体以上の殺人アメーバが湧き出てきた。
アメーバたちは今、排水溝から出てきたところで、正確な数はまだわからない。
一瞬、自分たちも逃げるべきか、と頭の片隅に浮かんだがここで背を向けるわけにはいかない。
「おまえたち!早く逃げろ!」
そう言って俺はハンドガンを構える。
アメーバたちは排水溝の出口で引っかかったのか、団子状に重なっている。
距離は15mといったところか、そこにハンドガンを連射した。
核を正確に狙う余裕は無い、とにかく足止めの為に連射だ。
核に直接当たらなくても、着弾した衝撃で動きが止まる。
とにかく子供たちに近づかせないように撃ち続け、弾倉を1本使い切ったところで、子供たちは俺たちの後ろへと逃げ切れた。
目標を失ったアメーバたちは足音の響く、俺たちのほうへと向かってくる。
素早く弾倉を交換する。
その間、ミケちゃんが硬鞭を構え俺の前に出る。
ミケちゃんも戦う覚悟を決めたらしい。
湧き出てきたアメーバは30体ぐらいか?
思ってたよりも少ない。
これなら残りの弾数でも半分は殺れる。
グロック17は弾数が多い、17発だからな。
半分減らせば、勝機も見えてくるかもしれない。
グロック17のスライドを引き、初弾を薬室に装填、信管を叩き起爆させるストライカーを起こす。
ショックを受け、まだ団子状に固まっているアメーバの核を正確に撃ち抜いていく。
10体撃ち抜いたところで、目前となる5m手前まで近づかれた!
だが、俺に迫ってくるアメーバを、ミケちゃんが叩いて動きを止めてくれる。
ミケちゃんは俺の射線に入らないよう、俺の斜め前に立ってヒット&アウェイでアメーバの足止めをしてくれている。
ミケちゃんに叩かれ、動きの止まったアメーバに次々とトドメを刺していく。
アメーバの数が半分ほどに減ったところで、ハンドガンのスライドがカシュッ!と開き、弾切れだ。
ハンドガンを仕舞い、ここからは接近戦だ。
バックパックからハンマーを抜き、構える。
目の前のアメーバが3体ほどのけ反り、こちらに飛びかかろうとしている。
素早くバックステップで間合いを広げ、ドスン!と目の前に間抜けに落ちたアメーバにハンマーを連打してトドメを刺していく。
ミケちゃんもアメーバの攻撃をかわしながら叩き、アメーバたちを翻弄している。
数が多いためトドメを刺す余裕までは無いみたいだが、その動きは速く熾烈だ。
蝶のように舞い、蜂のように刺すといった感じで、アメーバたちをもぐら叩きの如く叩きまくってる。
ちょっと装備を整えただけでここまで強くなるとは、亜人さんという種は強いんだなぁと思い知らされる。
そんな、ミケちゃんが相手取ってる所に俺も参戦する。
ミケちゃんに叩かれ、動きを止めたアメーバに次々とトドメを刺して行く。
残り5体になったところでアメーバたちは体を震わせ、ヴィヴィッ!と鳴いた後、撤退し始めた。
だが、それを許す俺とミケちゃんではなく、後ろから次々とトドメを刺してやった。
激しい運動に心臓がバクバクと脈動するのを首筋に感じながら、辺りを見渡せば30ほどのアメーバの死骸がある。
やればできるもんだ、と大きく息を吐く。
息を吐いて背を丸めたときに、手が腰に当たり、ハンドガンの残弾が0なのを思い出す。
ここ数日、いざという時にハンドガンを頼りにしている。
残弾0は心細いのでミケちゃんに周りの警戒を頼んで、5発だけでも弾倉に詰める。
弾倉のスプリングは固い、両手掛かりでそれに集中していたところ、ミケちゃんの怒声が聞こえた。
「おまえたち、何をしてるにゃ!」
ミケちゃんの怒声の響く方を向けば、最初に排水溝から逃げてきた3人の男たちがアメーバの死骸を無断で拾っている。
「いやいや、兄ちゃんたちカッコいいねぇ、こんなに持ってくのは大変だろう?
俺たちがもらってやるよ。」
と、歯抜けのみすぼらしい格好をしたおっさんが言う。
「ふざけるな!それは俺たちの獲物だ!」
思わずハンドガンのスライドを引き、いつでも撃てる様にしたが、いくらなんでもアメーバの横取りぐらいで引き金を引くのはマズイと考え、動きが止まる。
「いやいや、ここらじゃ早い者勝ちってのがルールでねぇ。」
「そうでやんす。」
「なんだなぁ。」
男たちは口々に勝手なことをほざく。
本当に撃ってやろうか?と逡巡してた所、さらにミケちゃんの叫び声が響く。
「あー!おまえら何にゃ?!あっち行くにゃ!」
見れば、十数人のスラムの子供たちまでもがワッ!と押し寄せ、アメーバを次々に拾っては逃げて行く!
もう、むちゃくちゃだ。
「だから兄ちゃん、これがここらのルールなんだって。」
歯抜けのおっさんがこちらの気を逆撫でするようなことを言うが、これに構ってる暇は無い。
「ミケちゃん!さっさと拾おう!」
と言うがミケちゃんの反応が無い。
「ミケちゃん?」
「・・お兄さん、あいつらぶん殴ってもいいかにゃ?」
ミケちゃんの目は据わっている、本気だ・・
「ミケちゃん、硬鞭はダメ!素手ならいいよ。」
俺も怒ってたので許可を出した。
「にゃー!!」
ミケちゃんは子供たちの群れへと飛び掛る!
次から次へとネコパンチで泣かしていく、当然おっさんたちも対象だ。
特に「やんす、やんす」と口癖のように言っていた男は、背の低いこともあって殴りやすかったのか。
ミケちゃんにボコボコにされ、半べそをかきながら逃げて行った。
場に残った俺たちの拾えた数はたったの10体。
20体ほどパクられたようだ。
アメーバをバックパックに詰めていると3人の子供たちが寄って来る。
川に居たのを助けた子たちかな?
「これ。」
そう言って差し出してきたのはアメーバの死骸3体だった。
あのどさくさの中、代わりに拾ってくれたみたいだな。
「おお、ありがとう。」
俺の返事に子供たちはハニカムと駆けて行き、遠くでこちらに手を振っていた。
俺もそれに振り返す。
助けた恩を返そうとする者もいれば、気にせず盗む者もいる。
スラムってめちゃくちゃだなぁ、と思った。
明日、月曜日は休みます。