表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/169

第22話 2つの排水溝

 排水溝からあふれ出る、膨大な数の殺人アメーバたちがハンターたちを追いかける。

 逃げる十数人のハンターたちはひたすら西へと、必死で駆けていく。

 速さは、ハンターたちの方が倍くらい速いな。

 追いかけっこは300mほど走ったところで、アメーバたちが諦めて終わった。

 ここからハンターたちが反撃に出るのかもと期待したが、戻ってくる様子は無い。

 まぁ、あの津波のような群れに挑むのは無謀か。


「すごい数だったにゃー。」


「本当だね、ちょっとアメーバ狩り舐めてたかも。」


「どうするにゃ?」


「とりあえず、もうちょっと観察してみよう。

 安全な狩り方があるかもしれないし。」


「わかったにゃ。他の排水溝は東のスラムの近くにもあったはずだから、行ってみるかにゃ?」


「うん、行ってみよう。」


 土手を下りて、そのまま川沿いに東へと向かう。

 川は少しドブ臭い、上流側の西とは排水溝がある分、水質に差があるようだ。

 カエルや魚の影を見かけるから、そこまで悪くはなさそうだが。


 外壁へと近づく。

 川の上にも橋を利用して外壁が建っているのだが、橋の下は検問があるだけでほとんど素通しだった。

 外壁近くになると、ハンター以外にも子供たちの姿も増え、カエルや魚を獲っているのを見かける。

 検問所に衛兵が立っているので、通っていいか尋ねる。


「すいません、通っても大丈夫ですか?」

 ハンター証を見せながら尋ねる。


「ああ、いいぞ。アメーバ狩りか?」


「ええ、初めてなんですが挑戦してみようかと。」


「ここらへんはハンター以外にも、ガキ共や住民たちも川に獲りに来てるから、大湧き出しは勘弁してくれよ。」


「大湧き出しというのは?」


「排水溝の奥から大量に連れてくることだ。

 向こうの排水溝ではよくあるが、こっちでは禁止だ。」


 ネトゲで言うトレインみたいなものか。

 トレインというのはモンスターを引き連れて逃げていく過程で、さらに別のモンスターにも狙われることで追ってくる数を増やし、モンスターの大集団を作る行為のことだ。

 不可抗力でしてしまうこともあるだろうが、非常に迷惑な行為である。

 それを現実で、しかも一般人のいる場所に向かってやってしまったとしたら?

 確かに、それは非常にマズイ。


「もちろん、気をつけようと思います。

 何か注意点などはありますでしょうか?」


「あんまし奥に行かないことだ。それと欲張らないことだな。

 単独で動くアメーバも居る時はいるし、居ない時はいないからな。」


「ありがとうございます、注意していきます。」


「おう、じゃあな。」


 衛兵に挨拶をして、スラムの排水溝に向かう。

 スラムの排水溝は検問所から500mほど進んだところにあった。

 大きさも街中の排水溝と同じで幅4m、高さ2mといったところか。

 入り口付近には、さすがに子供たちを見かけない。

 代わりに、槍を持ったハンターらしき大人たちが中に入っていくのを見かける。

 槍は持っているが、服装などはぼろぼろの服を重ね着してるような格好でお世辞にも良いとは言えない。

 街中のハンターたちよりも装備で劣っているようだが大丈夫なのだろうか?


「じゃあ、ミケちゃん、俺たちも入ってみようか?」


「よし!頑張るにゃ。」

 早速、硬鞭こうべんを引き抜き、ミケちゃんもやる気まんまんだ。


 そのまま意気揚々と入ろうとしたが、


「暗い・・。」

 中に明かりは無かった。


「・・おにいさん、明かり持ってるかにゃ?」


 明かりといわれても、スマホの画面ライトぐらいしかない。

 一応、やってみるか。

 スマホを取り出し、前に向けてみたが、正直焼け石に水と言ったところか。

 1m先までは光が薄っすら届くがそれより先は見えない。


「ミケちゃんどう?見える?」


「んー、12フィート(4.8m)先ぐらいまでならなんとか・・、かにゃ。」


 この暗さでも見えるのか、流石ミケちゃん。

 だが、暗い中進むのは危険か。

 特に、俺はまったく見えないので足手まといにしかならないだろう。


「一旦、出直そうか。」


「そうだにゃー。これはちょっと危ないにゃ。」




 俺たちはトボトボと排水溝を出る。

 ミケちゃんもしっぽがダランと下がっていて、申し訳ない。

 そんな、排水溝を出た俺たちに話しかけてくる人がいた。


「あ、ミケちゃんだ。」


「お、ポチにゃ。」


 ミケちゃんに声を掛けてきたのは、ミケちゃんと同じくらいの背丈の犬の亜人だった。

 柴犬に似ていて、白の擦り切れたシャツに青い短パンを履いている。

 手には何かの入った袋をさげていた。


「おにいさん、紹介するにゃ。こいつはポチにゃ。

 あちきの舎弟にゃ。」


「え、舎弟じゃないよう。」

 ポチ君は困ったように眉尻を下げている。


「んー?腹を空かしているところ、カエルを分けて上げたのは誰にゃ?」

 両手を組みながら、薄目でミケちゃんは問う。


「うう・・、ミケちゃんです。」


「じゃ、舎弟だにゃ。で、ポチはここで何してるにゃ?」


「カエル獲りだよ。今日は3匹も獲れたんだよ!」

 ポチ君のしっぽがピンッと上に立っている、誇らしげだ。


「おー、なかなかやるじゃないかにゃ。」


「ミケちゃんはどうしたの?」


「あちきは今、こっちのおにいさんと一緒にハンターをしてるんにゃよ。」

 ミケちゃんは胸を張りながら、ふふんっと得意げだ。

 しっぽもくねくねしてる。


「すごい!ハンターになったの?!」


「そうにゃ、特別にこいつも見せてやるにゃ。」

 そう言って、背の硬鞭を抜く。


「これが勇者の剣にゃ!」

 そう言って掲げる物は、どう見ても鉄製のトゲトゲこん棒にしか見えないがミケちゃんは自信満々だ。

 ポチ君も目をまんまるにして驚いている。


「す、すごいカッコ良い!どこで手に入れたのソレ?」


「ふっふっふっ!ポチもハンターになればわかるにゃ。」


 しっぽをブンブン振り回しながら、二人で硬鞭を眺めているがそんなに良いだろうかアレ?

 ミケちゃんだけでなく、ポチ君も硬鞭に興奮してる辺り、亜人さんの趣味の琴線きんせんに引っかかる形なのか?

 もしかして、あのトゲトゲか?

 それと二人の会話に入れなくて、少しさみしい。


 所在無さげな俺の動作に気づいたのか、ポチ君が声を掛けてくれる。


「あ、こんにちは。」


「こんにちは、新米ハンターのサトシです。」


「僕はポチです。」


「ここらへん、アメーバ出るみたいだけど大丈夫?」


「あ、大丈夫ですよ。見かけたら、すぐ逃げるんで。」


 確かにアメーバは動きが遅かったからなぁ。

 亜人は足が速そうだから、逃げるのは簡単なのかな。


「それに、アメーバ出るのココだけじゃないし。」


「ん?ポチ教えるにゃ。」


「この川を少し下ったところにある穴から、アメーバが出入りしてるのよく見るよ。」

 ポチ君は川の先を指しながら言う。


「よし、ポチそこまで案内するにゃ。したらお駄賃をあげるにゃ。」


「本当?じゃ、着いて来て。」

 しっぽを左右に振るポチ君の先導に付いて行く事にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング よければお願いします。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ