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第21話 ミケさんをちゃん付けで呼ぶことにした。

 バザーから西の川辺へと向かう。

 途中、西のスラムを通り過ぎるが、先日襲ってきた奴らの遺体などはどうなったのか気になった。


「ミケさん、この前襲ってきた奴らの遺体とかどうなったのかな?

 墓とかあるなら手を合わせるぐらいしたほうがいいかな?」


「ん?あいつらなら多分スラムの連中がかたづけたにゃ。

 身包み剥いだ後、肉はスラムの変態肉屋にでも運ばれたんじゃないかにゃ?」

 ミケさんは神妙な顔をして言う。


「え・・、なにそれ怖い。」


「スラムにも食べる所はあるにゃ。

 まともな所もあるけど、出所のわからない肉を扱ってる店があるらしいにゃ。

 スラムでケンカや殺人が起きると次の日には、肉が大盛りになってるそうにゃ。

 怖いにゃー。」

 ミケさんは両肩を抱き、震えながら言う。


「え、冗談でしょ?」


「さぁ?噂ではそう聞くにゃ。

 門へと繋がる通り沿いは安全にゃけど、路地裏の奥には何がいるかわからにゃいにゃ。

 だからスラムの奥には入っちゃダメって教えられるにゃ。」


「・・ミケさん、さっさと通り抜けよう。」


「そんな怖がらなくても大丈夫にゃ。

 本当にヤバイ奴等はこんな昼間から出て来ないにゃよ。」


 そうは言っても、そんなこと聞いた以上、落ち着いてられない。

 俺たちは足早にスラムを通り抜ける。



 川辺でまたミケさんにカエルを獲ってもらい、その間に軽くハンマーを振ってみた。

 やっぱし、ちょっと重いなぁ。

 ハンマーの端を両手で持って、振り回してみるがとにかく遅い。

 加速するまでに時間がかかるのだ。

 なので、ちょっと工夫して、てこの原理を使ってみることにした。


 右手で柄の真ん中を握り、左手は持ち手側の端を掴む。

 右手が支点であり、左手が力点だ、そして槌頭が作用点となる。

 ハンマーを地面に水平になるように掲げ、左手で引きながら、右手を振り下ろす。

 まるで餅つきのように振り下ろしたが、その動作は速い。

 槌頭がスムーズに加速するし、これに腹に力を入れ、背を丸めるように打ち込めば、かなりの打撃力が期待できそうだ。

 ただし、デメリットとして武器のリーチが半分になってしまった。


 そんな練習をしてたところ、ミケさんがカエルを獲ってきたのでいつもの様に草原に罠を置く。

 少し見晴らしの良い原っぱにカエルを置いて、待つこと15分。

 ガサガサという音と共に草の間からハゲネズミが姿を現す。

 ミケさんがずっとうずうずしていたので先手を譲った。


 カエルを食べようと近づくハゲネズミの前に、ミケさんが立ち塞がる。

 いつもなら相手に気づかれないように、迂回しながら背後を取って攻撃するのだが。

 今日は硬鞭こうべんを上段に構えて、正面から相手するようだ。

 ミケさんとハゲネズミの距離は2mほど。

 ハゲネズミがいつでも飛びかかれるように体を少し沈めた瞬間、まばたきするほどの速さで間合いを詰めた、ミケさんの振り下ろしがハゲネズミの頭部に入った。

 パァンッ!という音が鳴ると同時に、パックリとハゲネズミの頭部が割れる。

 その威力にミケさんもびっくりしてるようだ。


「す、すごいにゃ!一撃にゃ!」

 ミケさんは改めて硬鞭を眺めながら言う。


「すごいよ、ミケさん!なんか達人みたいな動きだったよ。」


「お、お、そうかにゃあ。あちき、今のでちょっとわかっちゃったかもしれないにゃ。」


「ん?何を?」


「これは勇者の剣にゃ!あちきは勇者なのかもしれないにゃ・・。」

 ミケさんは硬鞭を掲げながら宣言した。


 何か変なスイッチ入っちゃったかなぁ・・?



 次は俺の番なので、別の原っぱにカエルを仕掛け、獲物が掛かるのを待つ。

 10分ほどしてハゲネズミが寄って来たので、ミケさんと目配せをして俺が前に出る。

 ハゲネズミは俺に気づいて少し固まっていたが、すぐにこちらと戦うことを決意したようでゆっくりとこちらに近づいてくる。

 本当に戦意の高い生き物だな、こいつらは。

 俺も上段で構えながら間合いを詰めようとしたが、すぐに気づく。

 ハンマーで上段からの振り下ろしで、ハゲネズミの飛び掛りを打ち落とすとか無理じゃね?

 慌てて、今度は下段で構える。

 下段の脇構え、左の持ち手が前に、少し離した右の持ち手が後ろになるように構える。

 ハゲネズミとの距離が1mになるところでハゲネズミが飛び掛ってきた!

 それに合わせるように左手を引きながら右手を振り上げる、てこの原理で軽々と振り上げられた槌頭がハゲネズミの頭部を襲う。

 ハンマーで殴られたハゲネズミは一回転しながら吹き飛び、痙攣している。

 そこに、トドメで中段に構えた振り下ろしで頭に一撃!

 まるでスイカ割りのごとく血肉を撒き散らし、ハンマーはハゲネズミの頭部にめり込んだ。

 その光景にちょっと引く。

 ハンマーはハゲネズミ相手ではオーバーキルになるな。


 ハゲネズミを1匹ずつ狩れたので、武器の試しは今日はここまでにする。

 これ以上は地道に訓練して、もっと上手く振れる様にするべきだろう。

 帰りの支度をしてると、ミケさんが鞄に直接ハゲネズミを突っ込んでいたのに気づいたので袋を1枚譲ることにした。

 譲れるのは食料袋に使ってた袋ぐらいなので、残り1個になったパンをミケさんと半分こにし、ソーセージは保存食としてサイドポケットにしまい込む。

 ミケさんの硬鞭も、背負ってる鞄に直接くくり付けたほうが抜きやすいだろうと付け替える。


 まだ、日は少し傾き始めたぐらいだ。

 今日はまだ時間があるので、このまま殺人アメーバの様子も見に行くことにした。

 その前に、うさぎのネザーおばさんの屋台にネズミを卸してからだが。



 北門の屋台へと向かう。

 ハゲネズミを買い取ってもらうついでに、アメーバの出そうなところも聞いてみた。


「あいつらなら排水溝の辺りによく出るって聞くね。

 排水溝は東門の近くにあるよ。」


 この町を北と南に分断するように川がかかっている。

 川の位置は中央よりやや南寄りで、一文字にまっすぐ。

 西が上流で、東が下流のようだ。

 排水溝があるのは下流になる東のようだな。



 東門に行くのは初めてなので、ミケさんに先導してもらいながら行く。


「ミケさん、東門はどんな感じなんですかね?」


「おにいさん、前から気になってたけど、あちきのこと一々さん付けで呼ばなくてもいいにゃよ?」


「そうですか?最初会ったときはてっきり年上かなぁと思って、それからさん付けで呼んでましたけど。」


「誰が年上にゃ!おにいさんの方がよっぽど上にゃ。」

 ミケさんは右手を振り上げながら抗議する。


「すいません、でもそうしたら何て呼べば?」


「みんなはミケとか、ミケちゃんって呼ぶにゃ。」


「じゃあミケちゃんで。」


「わかったにゃ。あちきはこのままおにいさんって呼ぶにゃ。」


 そんなことを話してるうちに東門に着く。

 そこから少し南に行って、川沿いを見れば確かに排水溝があった。

 排水溝は横に4m、縦に2mほどの大きさで、左右に幅1mほどのコンクリートでできた側道があり、真ん中を排水が通ってるようだ。

 西の川辺と違い、こどもの姿はほとんど見ない。

 代わりに、それなりの装備をしたハンターらしき男たちが排水溝を出入りしているようだ。


 それを少し離れたところから観察していたら、「逃げろー!」と大声が聞こえてくる。

 排水溝から慌てて出てくる十数名のハンターたち。

 そのハンターたちを追って、津波のように透明ででかいアメーバの群れが湧き出てくる。

 その数は100を越えていた。

 俺もミケちゃんも呆然と、目の前の必死な鬼ごっこを眺めていた。



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