第19話 バザーの鍛冶屋
バザーでミケさんの装備を整えることにしたが、まずは武器から見てみるか。
こん棒じゃ、殺人アメーバには厳しいそうだからな。
バザーはそこらかしこに露天がひしめいており、人通りが多く、常に喧騒が絶えない。
そんな中、露天を横目に観察しながら、ミケさんと一緒に歩く。
ミケさんもしっぽを振りながら楽しそうだ。
バザーの奥の方、外壁に近い辺りに、煙の立っている所を見つけたので寄ってみる。
崩れた建物に、屋根代わりにテントを張っている様な店があった。
奥に小さな炉があり、そこから煙が出てるようだ。
店内の壁にこん棒や斧、槍などが掛けられている。
店主に挨拶して見せてもらうことにしよう。
「こんにちは。」
「いらっしゃい、何を探してるんだい?」
声を返したのは、バンダナをした若々しい男の店主だ。
「俺とこの子に合いそうな武器を探していて、見せてもらっていいですか?」
「どうぞ、手に取るときは声を掛けてくれ。」
壁に掛けてある槍や斧を見るが、俺にはちょうど良いかもしれないがミケさんには少し重いかもしれない。
ミケさんも真剣に武器を眺めている。
店主に声を掛け、斧を持たせてもらったみたいだが、斧を上げ下げしては渋い顔をしている。
「ははは、その嬢ちゃんには重たいみたいだな。
こっちのこん棒はどうだい?」
「こん棒は持ってるにゃ。
もっと強いのが欲しいにゃ。」
「それなら、この鉄の警棒はどうだ?
重さはこん棒より少し重いが硬い分、威力があるぞ。
先も尖ってるから刺すこともできる。」
店主が薦めてきたのは打撃部が50cmほど、持ち手の部分が20cmほどで太さ1.5cmほどの鉄製の警棒だ。
先端は鋭く尖っていて、持ち手の部分に赤い皮が巻いてある。
何となく、バールから釘抜きの部分を切り取ったものに近いなと思った。
ミケさんは手にとってみて気に入ったのか、しっぽの先がくねくね動いている。
俺も持たせてもらったが、重さは1.3kgぐらいか。
確かにこれなら斧より軽いし、振りやすそうだ。
だが、まだ少し弱いかなとも思った。
ちょっと思いついたことがあるので店主に訊いてみる。
「これって改造とかできますか?」
「どんな風にだい?」
「4箇所ぐらいに突起を付けてデコボコにして欲しいんですけど。」
「突起ねぇ・・。出来るが、買い取ってからになるぞ。」
「いくらになりますか?」
「本体1000シリングなんだが、改造と革の鞘も含めて1500でどうだ?」
ミケさんを見てみるとしっぽが元気良く揺れている。
これはOKだな。
「それでおねがいします。」
その場で改造を行なうようなので、ミケさんと一緒に見学させてもらった。
店主はボルトを締めたりするのに使う、ナットを用意するとそれを炉の中に入れていく。
ナットを熱している間に警棒の打撃部に4箇所、やすりで溝を彫っていた。
その溝に合うように、真っ赤に熱せられたナットをはめ込み。
それをハンマーで叩き合わせる!
カン、カン、カン、と鉄を叩く音が店内に響く。
甲高い音が鳴り響いた後には、ナットは平たい六角形からトゲのある菱形へと変わる。
瞬く間に形を変えていき、店主のハンマー捌きに淀みは無い。
腕の良い鍛冶屋なのだろう。
最後にレンガ造りの水槽に入れて、焼き入れを済ませれば完成だ。
出来上がった警棒は4箇所に1.5cmほどの太いトゲがあり、先端も鋭く尖った凶悪な形状をしている。
俺が考えたのは硬鞭もしくは鉄鞭と呼ばれる、古代中国で使われていた打撃武器だ。
鞭とついているがしなりはせず、こん棒の様に使う。
これなら振り回しやすいし、トゲの部分を当てればかなりの打撃も期待できるだろう。
鉄製のこん棒だから丈夫で安上がりなのもお財布にうれしい一品だ。
ミケさんはまだ熱のこもっている硬鞭を慎重に手に取り、じっくりと眺めている。
「なんかめずらしい形だな。」
「俺の知ってる武器で硬鞭と言います。
ミュータントを叩くにはちょうど良いと思って。」
「攻撃的な形をしてるから、他のハンターたちにも売れるかもしれん。
使い心地をそのうち聞かせに来てくれ、代わりにメンテをするから。」
「はい、その時はよろしくおねがいします。」
俺たちが話をしているうちに、ミケさんは店内の空きスペースで軽く素振りをしている。
しっぽがピンッと立って左右に振れていることから、ずいぶん気に入ったようだ。
「さて、俺の武器だけどどうしようかな?」
「そのこん棒は使わないのかい?」
「こっちの木で出来たヤツはミケさんので、殺人アメーバを相手したいからもっと強力なヤツが欲しいんですよね。」
「あ、こん棒余っちゃったにゃ。」
ミケさんの持ってきたこん棒は、娼館の女将さんがくれた物で、使わないからと言って捨てるわけにも行かない。
さて、どうするか?
「なんだったら、そっちのこん棒も改造しようか?」
と、店主からの提案があった。
「どんな風に出来ますか?」
「先端に斧の刃を付けるか、ハンマーの頭を付けるかってとこだな。」
「なるほど、どちらも良いですね。っと、ミケさんどうしよう?」
「うん、出来ればおにいさんに使ってもらいたいにゃ。
あちきはコレ買ってもらったしにゃ。」
「ありがとう、それじゃハンマーにしてもらえますか。」
「あいよ、警棒買ってもらったし1000シリングでいいよ。」
代金を渡し、また作業を見学させてもらうか考える。
「木材の加工に時間掛かるから、その間メシでも食ってくれば?」
日は自分たちの頭上に昇っており、スマホで確認しても12時をまわっていた。
「じゃ、ミケさんご飯食べに行こうか?」
「お!ごはんにゃ、もちろん行くにゃ!」
ミケさんは硬鞭を肩掛けに背負い、身支度を整える。
剣を背負ってるみたいでカッコいい。
「それじゃ北の屋台に行こうか。」
「ネザーおばさんの屋台にゃ?」
「うさぎの?」
「そうにゃ。あの人も娼館の卒業者であちきの先輩にゃ。」
やっぱ、この町Lv高いなって思う。