第17話 荒野の法
スラムの通りは静まり返っている。
当然だ、今5人のチンピラが射殺されたのだから。
さて、どうするか?
囲まれた状態で手加減を出来る状況ではなかったので素早く射殺したが正当防衛にしてもやはり過剰か?
この町の司法がわからないから判断できないな。
誰かに相談しないとマズイかな。
最悪、町から逃げることになるか。
とにかくこの場からは立ち去ったほうがいい。
あのチンピラたちにまだ仲間が居る可能性もある。
俺は呆然と座り込んでいるミケさんを立たせようと手を差し伸べるがミケさんは俺が近づくと怯えてしまった。
それはそうだよな、目の前で5人も殺したんだ。
いつもの狩りとは違う。
怖いよな。
「・・ミケさん、娼館まで送るからとにかく立って。
すぐにここを出よう。」
「わ、わかったにゃ。」
もうミケさんと仲良く出来ないのかな、そんなことの方が初めての殺しよりも気になった。
俺はおかしいのだろうか?
ミケさんを送り、宿に戻る。
帰り道に考えていたが人を殺すことで自分が受ける影響と言うのは孤立することなんだろうと思う。
あのスラムでの視線を思い出す。
あのチンピラ共も周りからよく見られていなかったが俺はそれ以上に拒否感を感じさせる目で見られていた。
地域社会や集団から異端視され拒絶されればこの町には居られないだろう。
やはりこの町を出るしかないか。
宿の受付で一応今日の宿代を渡したところ、受付のおっさんが訝しい顔をしてこちらを見ている。
「お前、その血はどうしたんだ?」
指摘されるまで気づかなかったが返り血を受けたのか戦闘服は血で汚れていた。
「・・スラムでチンピラたちに襲われ、その返り血だと思います。」
「そうか、染み付く前に落とした方がいいぞ。」
「はい、そうしようと思います。」
なんかあっさり返されたな。
だが確かにこの格好はまずい。
町を出る身支度を整える前に洗っておくか。
裏庭の井戸へ行き、脱いだ戦闘服を洗う。
滑水性が高いので水で拭うだけである程度は簡単に落ちる。
粗方落としたところで声を掛けられる。
「おい、石鹸いるか?」
受付のおっさんだ。
「あ、ありがとうございます。」
「1個50シリングな。」
「・・はい。」
血は油分を含んでいるので水だけではきれいにするのは難しいので買った。
「お前、人殺すのは初めてか?」
「・・はい。」
「あんま気にしないほうがいいぞ。
スラムの連中が人襲うのはよくあることだしな、ハンター襲うのはひさしぶりに聞いたが。」
「正当防衛や過剰防衛などの法律は無いのでしょうか?
殺した以上罪に問われるのでは?」
「町中なら、壁の内側ならそういうのは衛兵たちが仕切ってるな。
壁の中じゃ発砲するのも罪だしな。
だがスラムは壁の外だ、荒野と一緒の扱いだよ。
自衛する権利は誰でも等しく持ってるし、荒野では生き残った奴が法だ。」
「自衛する権利・・」
「知らんのか?
それが無くてどうやってレイダーや奴隷商人にミュータント共から身を守れる?
荒野じゃ自分の身を守るのは法じゃない、いつだって銃弾だろ。」
・・・・。
「ま、気にしないことだ、ハンターなら必ず当たる壁みたいなもんだからな。」
「ありがとうございます、おじさん。」
「ロックだ、ロックさんと呼べ。」
片手を上げて去って行くロックさんに頭を下げる。
自衛する権利。
考えるべきことが増えた。
とりあえず今すぐこの町を出て行かなくても済みそうだ。
今日は狩りに行く気分でないので宿で過ごすことにする。
二日分の洗濯物を宿の娘のウェンディさんに頼み、ベッドに横になる。
さっき殺した奴らのことを考えるが他に方法があっただろうか?
考えるが他には無いと結論が出る。
ナイフで手加減しながら5人を倒すなんて無理だし、銃を使えば手加減自体難しい。
手足を狙うのは難しいし、数で負けてるのにそんなことをすればまず負けるだろう。
もし負けたら?
装備と荷物は全て奪われ、最悪トドメも刺されるだろう。
俺がしたように。
俺だけでなく、ミケさんもだ。
もし又同じことが起きた場合、俺はやはり銃を抜くだろうな。
そんなことを一日考えながら過ごした。
次の日、屋台に食事に行き、ロックさんから水を買い、いつもの身支度を整える。
今日こそは仕事しないとな。
手持ちは今2165シリング、宿代と食費で1日150シリングも掛かる。
そろそろEランク昇格のために殺人アメーバにも手を出したいし、まずはハゲネズミで慣らすか。
いつもの西の川辺へと向かう。
川辺ではミケさんが大きな石に座って待っていた。
「あ、おにいさんにゃ。」
「ミケさん、おはようございます。」
普通に挨拶してきたが大丈夫なのだろうか?
「昨日はごめんにゃ。正直ビビッてたにゃ。」
「いや、わかりますよ。目の前で暴力が行なわれれば誰だって怖いですよ。」
「そう言ってもらえると助かるにゃ。」
「いえいえ。」
どうやらミケさんと仲直りできたようだ。
この町での数少ない友達だ、また一緒に狩りなどできればうれしい。
「それでにゃ、あちきも考えたんにゃ。」
「何をです?」
「あちきも強くなりたいからハンターになりたいにゃ。
どうすればいいか教えてくれないかにゃ。」
ミケさんもハンターになるようだ。